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極楽転生大作戦!! 第一話(多分)

『私は、十分満足しているから……ありがとう』
 既に肉体を持たず、思考に直接語りかけて来るその言葉は、自分の四肢を引き千切られる思いよりも、余程に横島の心をえぐりつけた。
 やれるの、やれないだの、最初は、欲望のおもむくままに彼女との出逢いを喜んでいるだけだった。そんなものは恋とは呼べなかったのかも知れない。けれども、今、この時に、頼り無く震える胸に溢れているのは、誰もが煩悩少年と揶揄する彼が初めて知った、愛の一つの有(あ)り様(よう)に他ならなかった。
「ルシオラ――――――ッ!!」
 魔族として造られた命だとしても、そこに居たのは確かに一人の女性であり、敵味方の関係にも係わらず、命と引き換えに夜を共にしても良いとさえ言ってくれた、愛しい人だった。

 神、魔、人を滅しようと、その為には宇宙の理(ことわり)をも覆そうとした、上級魔族アシュタロス。対して、その企てを阻止すべく奔走したのは、ゴーストスイーパーと呼ばれる、物の怪の類を退治する事を生業(なりわい)とする霊能者達であった。
 そんな中でも、美神令子除霊事務所の見習いゴーストスイーパーである横島忠夫は、圧倒的な力量の差によって、捕虜となる事を余儀無くされ、暫(しば)しの間、アシュタロス配下の魔物達と行動を共にした。人間を下等な生物として認識している魔族は、彼を愛玩動物として扱ったが、それ故に敵陣内での行動が割と自由で、アシュタロス勢側に寝返った振りをする事が出来た。
 捕虜として生きる日々に、身を守る事とスパイとしての役割の両立を果たしていた横島は、ひょんな事から魔族の少女ルシオラと恋に落ちた。だが、その後アシュタロス陣営との壮絶な争いの中で、裏切り者として粛清されようとしていた彼女を庇い、瀕死の重傷を負った。
 ルシオラは、庇ってくれた横島の体内に、自らの霊体(れいたい)のほとんどを捧げて救ったが、彼女は自身の霊基構造を保つ事が出来なくなり、存在そのものが魂もろとも失われようとしていた。

「俺、何もしてやらなかった……それなのに、俺の為なら命も惜しくないって……っ」
 『あの時こうしていれば』、『自分に力が有れば』、その頬には絶え間無く後悔の滴(しずく)が伝う。
「横島クン……」
 美神令子は、嗚咽(おえつ)に身をすくめる横島をそっと抱き寄せ、呟く様に名を呼ぶが、それ以上何を言える筈も無かった。彼の身に添えた腕が、滴(したた)り落ちる後悔に濡れて冷たいが、今は気にならない。直ぐそばで二人を見守る同僚のキヌも、ただ、横島の姿に貰い泣く以外、出来る事は無かった。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 横島の、慟哭(どうこく)が、東京の地下を這う暗く広大な下水トンネルに虚しく響き渡った。
 こうして、横島の体内に残留した思念から語り掛けてくれていたルシオラの声も返事をしなくなり、アシュタロスの手下として造りだされた蛍の化身は、源氏蛍(ルシオラ)の名の通り、横島のまぶたに美しい蛍光を残して、その儚い一生を終えた。

 時は流れ28年後、2025年。

「ねぇ、ねぇ、とうとう、寅美(とらみ)ちゃんにもカレシ出来たって! 昨日の帰り、東高校の校門で待ち伏せて、三年生に告白したって!!」
 昼休みの教室、机を向かい合わせに並べて弁当を口に運ぶ蛍(ほたる)と茜(あかね)の所に、言いながら雪乃(ゆきの)が駆け寄って来て、女子三人のグループが出来た。
「雪乃、ホントッ!? 一つ年上で、しかも他校の男子でしょ? 寅美のヤツ、随分と大胆に出たわね」
 その知らせを聞いた茜は、自分の事かと思わせる程に嬉しそう顔を見せ、その様子に、蛍も心が温まる思いだった。
 蛍は、この友人達が好きだった。リーダー風を吹かすが実際皆を引っ張って行く、頼れる西条茜、常に明るいムードメーカーの伊達雪乃、この場にこそ居ないが、少し口下手だけれど、その長身と腕っぷしでどんな時でも守ってくれる寅美。両親の勧めで進学した六道女学院の心霊科で同窓になって、話していく内に互いの両親が仕事関係の仲間だったと言う、実に親の都合で出会えた様な友人達であった。最初はこんな風に気心の知れた関係になるとは思わなかったが、それぞれ親達の破天荒ぶりに共感出来る事も多く、二年生の今となっては、かけがえの無い親友達である。
「だから、今日のお弁当は一人で中庭行って、カレと電話しながら食べるって」
「何で、一人で中庭行くのよっ」
「そりゃ、電話の内容冷やかされたりしたくないからじゃね? 特に、茜とかっ」
「うわぁっ、友達よりも男を取ったなぁ。ったく、わたしはそんなことしないっての。ま、今回ばかりは許してやるわ。でも、帰りはフォーティーワンで、全員にアイス二段重ねで奢らせようねっ」
「いやぁ、どっかで待ち合わせして、カレと帰るんじゃない?」
 茜と雪乃は、にやにやと蛍の顔を覗き込んだ。
「じゃぁ、残るは蛍だけかぁ」
 気が合うとは言え、このノリだけは頂けない。恋人のいない最後の一人として吊るし上げられそうな気配に、蛍は眉をひそめた。
 この四人組の中では、蛍は決して出しゃばるタイプではなかった。ただ、その控えめな性格と、光の下でだけほんのりと赤く輝いて見える前下がりボブの艶やかな黒髪、母親譲りの端麗な容姿で、学年を問わず言い寄る他高の男子は多く、はたから見れば、このグループの中で蛍にだけ恋人が居ない事は、大層意外なのである。
「わっ、私は別に興味無いからっ」
 色恋沙汰となるといつも引き合いに出され、こればかりは毎度疎ましい。普段は大人しい蛍も語勢が強くなる。
「まぁ、原因は分かり切ってるんだけどね……」
「私は良いの! パパが居るんだからっ。放って置いてよ」
 茶化す友人を睨み付けて言った。
「あぁ、始まりましたよ、それ。それ言えるのは、せいぜい小学生までだわぁ。『私、パパのお嫁さんになるぅ』ってやつ。高校生になってもじゃイタイわぁ」
 茜が両手をひらひらさせながら頭(かぶり)を振った。
 蛍は、両親を心から愛していた。特段切っ掛けが有った様な自覚は無いのだが、自分を生んでくれた事に自然と感謝の気持ちを感じている。特に、父親に対しての感情は、超えてはならない一線を越えてしまいそうな危うささえ感じさせ、友人連中も難儀していた。『父親が居るから恋人は要らない』。通常、年頃の娘(むすめ)なら、男親に異性を感じて嫌悪感を抱くのも普通で、不思議と彼女にはそれが無い。
 理想の男性は父親。となれば、父を超える魅力を持った異性が現れなければ、恋人が出来ない事は必然なのかも知れない。
「まっ、実際、蛍のお父さんって格好良いし、気持ちがまるっきり解らないって訳じゃないけれどさ……。今や日本屈指のゴーストスイーパーだもんねぇ…………はぁ」
 溜め息交じりに言う雪乃の言葉には、『羨ましい』と言うニュアンスが、はっきりと表れている。
「この前、テレビでゴーストスイーパーの特集してた時も凄かったよ。蛍パパが紹介されてた」
「えっ、そうだったの?もうっ、パパもママもそう言うの全然教えてくれないんだから……」
「そりゃ残念。ウチのお父さんも仕事上のパートナーとしてインタビュー受けてたから、放送日聞いてたのよね。収録前は『何故この私がっ』なんてぶつくさ言ってたけど、カメラの前じゃ蛍パパをべた褒めでさ」
 茜は、自分の父親と蛍の父親とを、頭の中で対比させながら言っている様だった。
 蛍は、がっくりと肩を落とし、身体全体から『残念』の念が発せられている。だが、そんな様子はお構い無しに、話は続けられた。
「でさ、腕は立つし、他の有力スイーパーはもちろん、ICPOのオカルトGメン、果ては神族や魔族にも太い人脈が有って、弱冠十七歳当時には、あの核ジャックした強力な魔族、アシュタロス一味を撃退、その後も幾度かの超常的危機から世界を救った凄い人なんだってさ。業界で蛍パパを知らない人はいないって言ってたよ」
「あっ、そうそう、私もちょっと前、蛍の家に遊びに行った時、たまたまお父さん帰って来ててね、ペロンってお尻触られちゃったんだけど、ちょっとエッチっぽい感じが余計良いよね。どんなに有名になっても気取らなくって、身近な感じ」
 雪乃も、頬を赤らめながら話題に便乗した。
「そっか……みんなから見ても格好良いんだぁ」
 蛍は、今度はにんまり顔。自分の父親を友達に褒められ気分が良い。大好きな父親の誉れは、自分の事の様に誇らしいのだ。
「あ、でも、ちょっと、パパにお尻触られたの!? まったく、娘の友達に何をやってるのよ、パパはっ!!……って言うか、私、触られた事無いし」
 自分は触られた事が無いのに。度々よその女性にセクハラをしている助平(すけべい)な父であるのは知っているが、嫌がられている様子を見たことが無い。大抵それを怒るのは蛍の母親だけだ。
「そりゃ、自分の娘のお尻触っても、楽しく無いんじゃない? だいたい、その口振りって触られたいってこと!? うわぁ……この、ファザコン娘(むすめ)めっ」
「はは、だからって娘の友達に手出すのもどうよねぇ。あははっ」
 蛍の父親依存は、友人達には個性として受け入れられている節があり、毎度、色恋沙汰の話題となれば、蛍はモテるのに恋人が居ない、父親が理想の男性、ファザコン……大体この流れがワンセットだ。
 そこへ、始業五分前を告げる聞き慣れたチャイムの音が、校内に響き渡った。 
「もうっ、皆がパパの話なんかするから、ご飯食べそびれちゃった」
「どんだけパパに夢中なのよっ」
 友人達に爆笑が起きる。そうこうしている間に教師が教室に入って来て、蛍の弁当箱の中は、タコのウインナーが一つと一口分のご飯が減っただけで、昼休みは終わってしまった。

「あぁん、もう、お腹空いたぁ」
 すっかり日の低くなった下校時刻、空腹で目の回りそうな蛍は、帰りにどこかで遊んで行こうとの誘いを断って、真っ直ぐ家へ帰ろうとしていた。弁当の残りを教室で食べてから一緒に行けば良いと促されたが、一人だけ食べるのも恥ずかしいし、帰れば家事もあるからと、友人達より先に校舎を出て来たのである。父親だけでなく、母親も辣腕を振るうゴーストスイーパーで、両親共に帰宅が遅い。その為、家事の殆どを蛍が受け持っており、友人達の誘いに応じられるのは、両親の休日くらいなものである。
 ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ……。
 丁度、校門を出たところで、携帯電話のバイブレーター音が聞こえた。身内と、本当に仲の良い友人にしか、電話番号もメールアドレスも教えていない蛍は、この時間はゴーストスイーパーを営む両親は忙しい筈で、てっきり先程別れた友人達だと思い込んでいた。
「はいっ、もしもし? 私は今から帰って食事。これ以上私のゴハンを邪魔すると怒るからねっ」
『この時間に食事か?幾ら、毎年正月にあれだけ餅食ってゴロゴロしていても太らない母さんの娘だとしてもな、一日四食は流石に太ると思うぞっ』
 電話の主は父親であった。
 だぁーっ、毎日学校から帰って直ぐに食べてると思われたよぉ。
「パパッ、違うの!いつもは小食なんだけど、今日はお昼がぁ……」
 大好きな父親に食いしん坊だと思われたくなくて、必死の言い訳だ。
『ちょっとっ、あんた! 今は、そう言う話じゃないでしょ!!』
 電話口の向こうで、母親の声も聞こえた。
『あぁ、そうだった! スマンッ。うっかり、蛍の声に和んでしまった』
 愛娘(まなむすめ)との会話で、父親の声はすっかり緩みきっている。
「ママも一緒? 今日は、パパとママ、同じ現場だったのね。じゃっ、きっと、帰り早いわね。二人が揃うと、除霊のお仕事なんてチャッチャッチャーだもんね」
『あぁ、そうだよ。お父さんとお母さんが揃えば、除霊なんてチャッチャッチャーだっ』
「うん。私も早く帰って、美味しい晩御飯作っておくね」
『あぁ、楽しみにしているよ』
「うん。お仕事頑って。じゃぁねっ」
『あぁ、じゃあね』
『こらぁ――――――――――っ!! 「じゃあね」じゃない! 電話切るなぁ――!!』
 びくぅっ!
 二人は母親の怒号に酷くおののいた。
『もぅっ、電話こっちによこしなさい! あんた達に任せておいたら、助かるもんも助からんわっ』
 ガサゴソと衣擦れの音がしたり、ガタゴト電話機を落とす様な音がしたりと騒々しくなったかと思うと、携帯電話機は母に渡ったらしく、声が近くなった。
『良い? 蛍。落ち着いて聞いて欲しいんだけれど、今、パパとママは魔物に捕まっているの』
 幼い子供に語り掛ける様に、優しく、ゆっくりと言う。それが、声の冷静さとは裏腹に、返って電話の向こうに漂う張り詰めた空気を感じさせる。
「まっ、ママ! それって……」
 元より色白な蛍の表情からはすっかり血の気が引き、顔面蒼白とは正しくこの事だ。
『えぇ、生きるか死ぬかの瀬戸際ってところね。だから、お願いが有るの……』
 小さな子供を諭す様に、優しく、ゆっくりと言った。
「……私に?」
『ええ、そうよ。蛍に私達を助けて欲しいの』
 あぁ、やっぱりそういう事を言い出すか、ママは……蛍の顔から更に血の気が引く。
「ま、まさか……私に何が出来るって言うのよ」
 六女の心霊科に籍を置くとは言え、一介の高校生である。愛する父母を助けたい気持ちは勿論有るのだが、優秀なゴーストスイーパーである二人が捕まっていると言う事でのパニックから、素直に話を聞く事が出来ない。
『あら、パパは丁度今のあなたの歳で、核ジャック犯のアシュタロスと戦ったわよ?』
「パパはゴーストスイーパーの助手経験が有ったんでしょ!? 私はまるっきり……そうよ、経験者、ひのめお姉ちゃんに連絡は?」
 ふと、母の二十歳下の妹で、今年二十八歳になる叔母の事を思い出す。強力なパイロキネシスト(念力発火能力者)である叔母のひのめは、ゴーストスイーパーではないが、霊力由来の特異な能力で戦力として申し分無い事を知っている。
『駄目よ。ひのめは森林火災の救援で海外に出ているの』
 炎を操る能力を持つ叔母は火災の鎮静に最も力を発揮し、特別高度救助隊(ハイパーレスキュー)から応援要請を受ける事がままある。現在も、国際消防救助隊として海外に派遣されたハイパーレスキューに同行しており、日本に呼び戻す事が出来ない。
「えぇっ!? じゃぁ、おキヌちゃんは?」
『おキヌちゃんもネクロマンサーの例会でハイチに行ってる』
「カリブ諸島じゃないっ!? はぁーんっ、遠いよおぉ」
 キヌは、父母が若い頃から共に働いて来たゴーストスイーパーで、蛍が幼い頃には子守りをして貰ったりもした人物だ。
『えぇいっ! ジタバタするなっ!! あんた、私達の娘でしょう!? この、世界最強のゴーストスイーパー、横島令子と忠夫のっ!!』
 どうにか誰かの助けを得ようと頭を回す蛍を、母、令子は一喝した。
『俺の方をオマケみたいにゆーなっ』
『んなこと気にしとる場合か!』
 忠夫の不服も、令子は一蹴した。
「ママ……」
『分かってくれた?』
「じゃぁ、どうしてその世界最強の夫婦(めおと)ゴーストスイーパーが、揃いも揃って捕まっているのよ!?」
 痛い処を突かれて、口ごもる令子。
『あ、いや、それは……そうよ、元はと言えばパパが「あいつらはそんなに知能の高い連中じゃなかった」なんて言うからナメてたのよっ』
『俺は「そうは言っても何があるか分からんから五千万円の破魔札で進路を確保してから慎重に連携して行こう」って言っただろうがっ。それを「そんなチンタラ行くのは性(しょう)に合わないのよ」とか言っておきながら、どれだけ派手に行くかと思ったら、ケチって三百万円の破魔札で正面突破するから』
『それ言ったら、あんたが文殊の作り置きを事務所に忘れて来るから!!』
 ひっ、酷い……。蛍は、これぞ犬も喰わぬ夫婦喧嘩だと思った。
「ちょっと! パパもママもやめてよっ!! 今は、それどころじゃないんでしょうっ?」
 騒ぐ、なだめる、すっかり役割が逆転している。蛍の声に、流石の令子も我に返り、再び蛍に語りかけた。
『そっ、そうだったわね。こほんっ……ねぇ、蛍。別に、直接魔物と戦って欲しいなんて言っていないのよ。あなたは間接的に協力してくれれば良いの……そう、間接的にね』
 蛍は、深い呼吸を一つして、どうにか、母の話を聞く覚悟の心持ちを作り上げた。
「わっ、分かったわ、ママ。どうしたら良いの?」
『良かった。じゃぁね、これか……』
 ブワッ!
「きゃっ!」
 これまで穏やかな秋の陽気だったのに、突風が蛍を煽った。制服のスカートは激しく翻(ひるがえ)り、捲(めく)れ上がらない様に両手で押さえると、ボトリと学生鞄が路面に落ちた。
『どうしたの!?』
 電話の向こうの母は、只事でない何かを察知したらしい。
「今、何かね、人みたいな魔物見たいな……何だか分からないんだけれど、大きな人影がもの凄い速さで私の横を通り過ぎて行ったのっ!」
 蛍の見た人影は、つむじ風を巻き起こしながら瞬く間に校庭を駆け抜け、玄関に吸い込まれていった。
「きゃぁぁぁ――――――――――っ!!」
 間髪入らぬ内に、校舎からは叫び声が幾つも聞こえ出す。
「ど、どうしようっ? 何か、学校の中で暴れてる……」
『しまった……ヤツだわ。もう、そこまで探しに行ったのね? ったく、あんたらが、いつまでもグダグダしてるからっ!!』
 びくびくぅっ!
 電話の向こうとこちらで、一人ずつ硬直しているのが分かる。
「どう言う事?」
 恐る恐る、母に尋ねてみた。
『あんたのクラス、良い具合に仲間が集まっているでしょう?』
「うん、不思議と去年、今年と、一人も欠けずに一緒のクラスになったわ」
『西条さんの娘の茜、雪之丞の娘の雪乃、タイガーの娘の寅美と……強力な霊能者の娘達の霊力が、魂の引力を増幅させて、そう言う巡り合わせを紡ぎ出すの。勿論、あんたもその引力に引かれる一人よ』
「今、その話って?」
 蛍は、目をしばたたかせた。
『そう、関係有るの。今狙われているのは、あの三人娘の魂。正確には、分割的に封印された魔族の魂』
「えっ? 上手く理解出来ない」
『今、そっちに行ったのは、私達をここに閉じ込めたヤツよ。茜達を拉致してここへ連れて来るつもり』
「ちょっと、話が見えないけれど、茜ちゃん達、まだ校舎の中に居るっ」
『まずいわね……。良い? 今度こそ良く聞いて』
「分かったわ、ママ」
 改めて、受話口の向こうから聞こえる母の声に意識を集中した。
『今、私達は、霊的に稼働する大掛かりな機械に括り付けられているの、霊力のバッテリーとして。ヤツの目的は……』
 蛍は固唾を飲み下し、母の次の言葉を待った。電話機を持つ手にも汗が滲む。
『ヤツの目的は、アシュタロスの復活よ――――っ』
 構想は有るので読みたいと思って下さる方がおられれば、続きを書くと思われ……。未推敲なので、お気付きの点が御座いましたら、是非ご指摘下さいませ。

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