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【夏企画?】月から還って4【プチリレー】

 誰の方法にするか選べと迫られたのならば、間違いなくメドーサだ。
 魔鈴のモテモテ大作戦も悪くはない、悪くはないが目の前の果実の魅力に敵う物ではない。
 ……もう一個には言及するまでもない。
 けれど。

「方法をそいつに選ばせるってのは無しにしておくれよ?労使の関係でごり押しされたら、さすがにどうにもならないからね」

 その選択を閉ざしたのもメドーサだった。

「じゃあ、どうするんですか?」

 ついさっきまでの殺気立った雰囲気を押さえて笑みを浮かべる魔鈴。

「実力行使、でも構いませんよ?」

 魔女。魔女がおるっ。

「こいつを順番にシバイて霊能力を取り戻したら勝ち、でいいんじゃない?」

 放電するほどの霊力を神通棍に込めて告げるのは美神さん。
 すごく幸せそうな笑みを浮かべていた。
 こっちは鬼か。

「そうだねぇ、それじゃこういうのでどうだい?」

 妖しいという言葉の似合う笑みでメドーサが告げたのは、意外な方法だった。



「全選手入場!!」

 あの日から一週間。
 事態は得体の知れない領域にたどり着いていた。
 叫んでいるのは、ピート。
 ……無駄に熱血しているのは本気でなぜなのか。

「ガメツサだけではないっ!! 全てのトップだからこそNo.1を名乗るのだっ!!
 美神除霊事務所 所長っ美神令子っ!!」

「伝承が今、甦るっ!! 失われた魔法を引っさげ現代に現れた魔女っ!!
 魔法料理魔鈴より、店長登場だぁッ!! 魔鈴めぐみっ!!」

「そのおっぱいは男達の間で語り草ッ!! 魔性を背負いし神話の住人ッ!!
 メドーサの登場だぁ!!!」

 メドーサが提案したのは”ミスコン”だった。
 だったはずだ。
 しかし、それは意外な波及効果を呼んだ。

『別に横島なんかどうでもいいケド、アタシヌキでミスコンとかありえないワケ』

『よ、横島さんに自信を与えるなら、私だって出来ますっ』

 会場の手配や審査員の選定作業の中、参加者が膨れ上がって行ったのだ。

「真の呪術を知らしめたい!! 小笠原GSオフィスより、エミさんだぁ!!」

「めい土の土産に巫女装束とはよく言ったもの!!
 萌えの元祖とも呼ばれる達人の奥義が今 実戦でバクハツする!!
 氷室キヌだ―――!!!」

「お隣さんとは、即ち一つ屋根の下ということッ!! 
 お風呂にだって一緒に通っているッ!! 花戸小鳩だぁッ!!」

「12神将を従えてッ最も危険な女が訪れたッ!!
 涙の破壊神ッ!! 六道冥子がやってきたぁ!!!」

「ロボ萌えは彼女に始まるッ M-666マリアッッ!!」

「妖怪なのはハンデではない、メリットだッ!! クラスメイトという定位置も得てッ!!
 机妖怪愛子ッ!!! 今、入場ッ!!」

「特に理由は無い、管理人が美しいのは当たり前っ!!
 武神!! 小竜姫だァ――――!!!」

「バーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い!!
 百の目で全てを見通す神、ヒャクメだー!!」

「ケモっコ萌えの若き王女が帰ってきたッ
 どこへ行っていたンだッ 俺達は君を待っていたッッッ
 犬塚シロの登場だ――――――――ッ」

 会場は六道家地下闘技場。
 ……これ、ミスコン……だよな?

「加えて 負傷者発生に備え超豪華なリザーバーを4名ご用意しました」

「石ノ森系正当美少女 弓かおりッ」

「不良代表!! 一文字魔理ッ」

「出演なら一巻で既に果たしている。乱破よりの刺客 氷雅ッ!!!」

「もう一名は到着が遅れているようです。到着しだいッ皆様にご紹介致しますッッ」

 熱っ苦しいピートの叫びが終わり。
 15人の美女、美少女が闘技場に並ぶ。

「なあ、ピート?」

「何ですか?横島さん」

 やけにさわやかに。やりきったという顔を向けてくるピートはムカついたのでとりあえず殴った。

「つうか、どうなってんだよ。ミスコンじゃねーのか?格闘大会でも始めそうな勢いじゃねーか」

「やだなぁ横島さん、ミスコンで格闘なんかしませんよ、今日は水着審査と特技のアピールです」

 怪訝そうな顔がムカついたのでもう一発殴った。

「何するんですかっ!!」

「お前が調子にのっとるからじゃっ!!」

 二発目は結構効いたらしく、頭を押さえつつもろに不満そうな顔をする。

「メドーサさんの台本通りです、ほら」

 ……つまりおっぱいとか、本人が書いたっつーのか?
 メドーサ、恐るべし。

「解説はわたくし、ピエトロ・ド・ブラドーと」

「唐巣和宏がお送りいたします」

 あ、畜生、神父まで生えやがった。
 闘技場では、選手達が手を振りつつ一周して、一度退場門に向かっている。

「なお、休憩を挟んで第一試合は15分後開催の予定です」

 澱みなくアナウンスを続けるピートの役者魂に呆れつつ。
 俺は控え室へと足を進めた。





「どういうつもりだよ、メドーサ」

「おやおや、早いねぇ。着替えも出来ないじゃないさ」

 一人一人に専用の控え室があるってどういう施設だ?とか。
 何でミスコンがあんな開会式なんじゃとか。
 有り過ぎる突込みどころをスルーして、彼女を訪ねる。
 ……案の定、判っていたかのような笑みで俺を迎えるメドーサ。

「どうもこうもないさ。この稼業の女は対抗心が強いって事じゃないかい?No.1 を決めるって事で集まっちまっただけさ」

 さも可笑しそうに。
 最近見なかった邪悪な笑み。

「んな説明で納得できんわっ!!おキヌちゃんとか小鳩ちゃんが参加する理由になんねーだろっ!!」

「おお、怖い怖い、調伏者に怒鳴られたらあたしはどうにもできないねぇ」

「魔族の罠とかというんじゃないだろうな」

 クックックッ、と続く笑みに図星か、と俺は身構えたが。

「そんなんで小竜姫まで呼ぶわけないだろう。まあ、ヒャクメに協力を頼んだら一緒に参加する事になったのは意外だったがねぇ」

と、今度は純粋に楽しそうな笑い。

「横島。……あたしはね。アンタに嘘はつかない。これはアンタの為だよ」

 水着に着替えるんだから出ていっておくれ、と言葉を続け。
 俺は部屋の外に押し出された。
 結局、何も答を得る事の出来なかった俺は、代償を求めて鍵穴から彼女の様子を探るべく覗き込んだが……通りがかった美神さんに半殺しにされた。





「第一回戦っ!!水着審査っ!!トーナメントは以下の形になっております」








「尚、作者は初め罫線とスペースの間隔を考慮せず、ズレタ表をエディタ上で作ろうとしていたようです」

「結局画像ですか、GTY+は画像も張れるから初めからそうする方が良いんじゃないでしょうか」

 メタい領域のアナウンスで場を繋ぐピートと神父の努力に軽く涙しつつ。
 観客席に戻る。
 そう、観客席。
 いつの間にか、どっかで見たような面子がぞろぞろと観客席を埋めていた。

「さあ、第一回戦!! お隣さんはヒロインの夢を見るっ!!花戸小鳩さんですっ」

「彼女は擬似とはいえ横島君と結婚式を挙げたことが有りますからね。有力な選手です」

 こら、神父。お前はアレに否定的やったろーがっ!!

「対するは、天下無敵のクラスメイト。学校でなら横島さんの傍らは譲らないッッ!!愛子さんです」

「学校で二人は仲が良いのかね?」

「ええ、授業中のボケと突っ込みは夫婦漫才とすら呼ばれています」

 ピート、てめえ。あとで、殺す。聞いたことないわいっそんな発言。
 でたらめを吹きまくる二人に対する殺意を燃やし始めた時。
 ……場内が静まり返った。

「こっ、これはっ!!」

「ス、スッ、スクールミズキ、しかも旧式ジャとぉっっっっっ!!!!」

 興奮冷めやらぬ叫びはタイガーのものだった。
 ……いたんかお前。
 いやしかし。
 なんつか。これは。

「……絵にしてお見せできないのが残念でなりませんっ。
 なんと一回戦は掟破りの旧スクール水着対決っ!!名札の色あせた感じがどちらも
 本物である事を伝えています」

 ピート。お前それ絶対原稿じゃないよな?
 いいのか、そのキャラで。

「都条例的にやばかったりしないのかね?」

「大丈夫、サ○デーは都条例に反対の立場です」

 唐巣のおっさんが言い出す言葉が理解できた。
 小鳩ちゃんの長い貧困生活に負けず、育ちきったぷりっぷりのチチ・シリ・フトモモが織り成す色気が特盛りというならば、対する愛子の細く真っ白な手足は、上品な和食。
 それが幼さの記号とも言えるスクール水着に包まれて、禁忌感すら漂わせていた。

「破壊力は両者、互角!!致命打とも言える強力な攻撃が交わされたぁ!!」

 あー、うん。ピート。
 お前偉いわ。
 どういう経緯か知れねえが、役割をこなそうとするその姿。漢を見たぞ。
 ……観客席のクラスメイトどもの評価はただ下がりみたいだがな。

「さあ、互角の水着お披露目の後はお互いの特技アピールです。先攻、小鳩さんのアピールは、お弁当作りっ!!なんと家庭的なアピールでしょうかっ!!」





 所要時間15分。
 買い置きの米を除くと使用金額160円。
 彩と栄養も整った見事な弁当を披露した小鳩ちゃんに対して。
 青春と称して授業中眠る俺を起こす一人芝居をしただけの愛子が引き分け、両者KOに終ったという一回戦の結果はどうにも理解できなかった。
 続く戦いがヒャクメ対マリアという、水着対決にはあまりに向いていなそうな二人だった事もあって、俺はもう一度真相究明に向かった。
 観客席にのうのうと座るそいつの元へ。

「ふむ、意外に早かったな」

「まあ、はじめっからヒントはあったしな」

 やけに小さくなってやがるが。
 ……猿神、ハヌマン、或いは斉天大聖。
 立場上、俺の師匠でもある。

「いつからだよ」

「お主が記憶を取り戻してすぐじゃな」

 しゃあしゃあと。
 猿が告げる。

「つまり霊力が無くなったと思って、妙神山に行ったせいか」

「いやいや、霊力が尽きていたのは本当じゃぞ。すぐに戻るという事も小竜に伝えさせたはずじゃがな」

 修行の間。
 猿神が作り出す擬似空間に於いて、人間の霊力は蓄積、圧縮される。
 一時的な霊力の回復というならば、確かにこれ以上有効な場所は無いだろう。

「しっかし、大掛かりだな。前は得体の知れん建物だけだったのに」

「龍神の復活も兼ねておるからな。わしだけでなく玉龍も手伝ってくれとる。メドーサから話は聞いたじゃろう?奴の神格回帰のために人間の協力が必要だったのじゃよ」

 確かに。
 猿神に言われて美神さんの所に来た、とメドーサは言ったのだ。
 前後して、霊力の件で俺達が妙神山を訪れていたのにも関わらず。

「人が悪いな、ゲーム猿」

「何しろ、石猿じゃからのう」

 ふぉふぉっふぉっ、と笑う。

「本当なら、実際にメドーサを美神の所に遣りたかったんじゃがな。危険すぎると許可が降りなんだ。そこで協力者の霊力も借りてお前らの為の空間を作ったというわけじゃ」

「協力者?」

「おう、時間干渉能力を持つ者、魂の扱いに長けた者。空間作成に長けた憑く物神。幻術に長けた者。お主の周りは中々優秀な者が揃っていたからな。協力してもらった」、

 各々思い当たり。
 そして呆れる。
 タイガー……お前、あれで本人か。

「およ?つーことは、メドーサはここが異界空間とは知らないって事か?」

「知らんはずじゃ。もっとも気付いておるかも知れんがな。血族だけあって玉龍と奴の神気の相性は良すぎるからのう」

 だとすると、事務所に勤めていたメドーサの行動は本物という事になる。
 こうやって俺の霊力回復に努めようとしてくれている、というのも。
 試合場に目を移せば、マリア対ヒャクメの対決は、意外にも盛り上がっていた。
 つーか、勝負としてはマリアが圧倒しているのだが、ヒャクメが特技の覗きをアピールして、マリアのギリギリショットを披露しまくっていたのだ。

「……アレもアンタの趣味なんか?」

「ヒャクメは、協力者。本物じゃよ」

 つまり。
 ……本物が今、イメージのマリアに負けたって事か。
 マリアの得意技、ロケットパンチがヒャクメの顔面を捉えていた。

「おっといかん、協力者のイメージを読み取る役が気絶しては世界がぶれる、か」

 観客席の何人かがすうっと薄くなり、消えていった。
 ピートと唐巣神父もだ。

「しっかし見事だったな。除霊とか新キャラとか。まるで本物だったぜ」

「あの魔女か?アレはイレギュラーだった。お前の縁が呼び寄せてしまったようじゃ」

「へ?つまり彼女も本物なんか?」

「いやヒャクメが割り出した近い縁の人物じゃな、現実に居りお前と何らかの縁はあるが、本物ではない」

 つまりヒャクメの妄想ということか。
 タンカで運ばれる神族に合掌。
 美人の登場が早まることに文句は無い。

「メドーサの提案ではじめたコンテストだが開催側がミスコンテストって物がわからなくてな。さすがに無理が出たか」

 ……いや、ある意味このドタバタはらしいけどな。



 トーナメントは最後まで行われる事は無かった。
 ヒャクメが気絶したことで続けるのが困難なほどの欠場者が出てしまったからだ。
 そしてそれで、メドーサも何が起こっているかに気付いたようだった。

「ふふ、面白いね神界は。魔界よりずっとふざけてるよ。アンタと対決なんて面白いトーナメントだと思ってたんだけどねぇ」

「諍いを競技に変えて解決を試みた貴女の方策は、善行と言えるものです。今後も道を誤ることなく、ともに歩みましょうぞ」

 異界空間から戻り、妙神山で二人が手を握り合う。
 ……思うところがあるのか、チリチリと視線が交差するのは中々恐いものがある。
 メドーサは、俺の霊力の回復を功として回復の女神として神界に収まるらしい。
 なんか色々インチキな気もするが、龍神のお偉いさんと猿神が共謀したインチキにけちをつける者は無いようだ。
 そして修行の空間から開放され、俺の霊力は以前より強くなっていた。

「そりゃ、欲望を押さえつけられた中でアタシの胸を揉んだりしたんだから、強くなってもらわなくちゃねぇ」

 などとメドーサが口に出したせいで、妙神山での治療滞在期間は一週間ほど延びた。
 月での後遺症、との伝え方が悪かったのだろう。
 無駄に大量に見舞いが来たせいで、看病してくれるおキヌちゃんとも。たびたび様子見に来る小竜姫さまとも、なんの発展も有りはしなかった。、

「……どこまで知ってらしたんですか?美神さん」

「んー、全部ー」

 俺と美神さんが交わした会話の時、#がどれぐらい飛び交っていたかは、回復した霊力がもう一回根こそぎ持っていかれた、と記すに留めよう。

「アンタこれ買ってから帰ってきなさいよ」

と渡されたメモには、俺への労い、ちょっとぐらいは入っているようだから。
忘れてなかったがゆえに遅くなりました。夏になると多少活性が上がるMOP二号です。
そして、M・O・P内での打ち合わせは半ば破っちゃってごめんー。
全選手入場がやりたかっただけだろというツッコミは否定できない。

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