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美神と猫と(仮)



1日目



降りしきる雨の中、住処のダンボール箱を覗き込んできた人間に言われた。

「アンタ・・・猫・・・よね?」

失礼な

この体のどこが猫以外に見えると言うのか。

見つめあいながら無言の抗議をしていたら、いきなり抱きかかえられた。

「いつもは雨の日なんて出歩きもしないし、捨て猫に関わるなんて有り得ないんだけど」

ならば何故、今日に限って出歩き関わってくるのか。

「なんか霊感にクるものがあったのよね・・・特にアンタの眼が」


そのまま人間に拉致され

とある建物に監禁され

無理矢理お湯をかけられ

ぐしゃぐしゃモミクチャにされ

大きい布でわしゃわしゃされ

熱風を浴びせられ

ぐつぐつと煮えたぎらせた後火傷しない程度に冷まされた白い液体を与えられ

広い部屋に連行された。

そこでは私をここまで連れてきた赤い髪の毛の人間と

青い髪の人間・黒い髪の人間が何やら大声で言い合いをしていた。

「美神さんが・・・・・・美神さんが壊れたぁあああああ!!!!」

「横島さん、失礼ですよ!例え守銭奴で冷血冷酷非道な美神さんでも
  寒さで震える猫を拾うくらいの優しさが心のどこか片隅にあったって事じゃないですか!」

「あんた等二人とも言いすぎよ!?」

私はどうすればいいんだろう?

とりあえず

猫は猫らしく寝るとしよう。










2日目

ソファーの上で丸まって寝ていると、ご主人と仲間達がやってきた

「アンタ図太い神経してるわね・・・」

猫ですから。

「美神さん、この子の名前を考えませんか?」

「そうッスよアンタとかコイツとかこの子とかじゃ可哀想ッスよ?」

私を連れてきた人間は美神と言うらしい。

私に食べ物をもってきてくれる優しそうな人間はおキヌ

髪の短い賑やかな人間は横島と呼ばれている。

「名前ねぇ・・・モモ?」

「モモちゃんですか」

「何故にモモ?」

「猫の名前ってどんなのがあるかなって調べたんだけどね
  その名前が常に上位キープしてるのよ、ランキングの」

「へぇ・・・」

「そうなんですか〜」

二人がいがいそうな顔をして美神を見つめていた

「何よ?」

「いえ、猫の名前を結構考えてたんだなっとか・・・」

「ええ、トイレの砂とか専用の食器とか昨日の今日で用意してあったりとか・・・」

「「美神さんの新たな一面が見れたな〜って」」

「んなっ・・・・・・!?」

今度は顔を赤くしたご主人がぎゃーぎゃー二人に喚き散らし始めた。

ご主人が私に優しくしている事がおキヌと横島には予想外らしい。

広間は素敵にカオスな空間。

ここはやはり猫らしく。

すたっ

ててててててて

ざっざっざっざっざっ

・・・・・・・・・ぷるぷるっ

ざっざっざっざっざっ

よし、完璧。

ててててててて

たんっ

再びソファーの上に戻り

ごろん

・・・・・・・・・Zzzzzz












3日目



ご主人がぶつぶつつぶやいている。

「う〜ん・・・・・・妖気は感じない・・・魔族らしい気配も無い・・・・・・
  尻尾も二股な訳でもないし・・・使い魔にも見えない。
  なのに何で気になるのかしら?」

ソファーに座って考え込んでいるご主人を見る

目が合った

「ん〜〜〜〜・・・・・・・何か視線に意思を感じるのよねぇ・・・
  抱いてここに来る時も体洗ってる時もずっと大人しくしてたし」

何やら考え込んでるらしい。

「あの事件からこっち、ストレス溜まってるのかなぁ
  書類仕事ばっかりで肩は凝るし
  除霊してるよりも余計に疲れる気がするし。
  この私が猫を拾って面倒まで見ちゃうなんてね」

事情は判らないけど何やらお疲れのようで。

てててててて

「ん?牛乳足りなかった?」

ご主人の座ってるソファーまで早足で近づいて

ソファーに飛び乗り、すぐ横に着地。

見上げ、目を見つめる。

「何?かまって欲しいの?」

みゃっ

違うという意思を込めて鳴いて

ご主人の太股に前足を置く

「・・・・・・・?」

そのまま体重を前足にかけて

ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ

と右と左の肉球で交互に押す

「何がしたいの?」

不思議そうな顔をしてるけど無視。

ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ

「もしかしてこれ・・・マッサージ?
 私がストレス溜まってるとか疲れてるって言ったから?」

みゃっ

今度は「正解」という意味で鳴く。

ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ

「えっと・・・・・・?」

困ったような戸惑っているような、不思議な顔でこちらを見つめているご主人。

マッサージはお気に召さなかったようだ

前の主はこれをやると喜んでくれたのだけど。

仕方なくマッサージを止めて座る

「あ・・・う・・・」

む?残念そうな顔をしてるという事は嫌では無かったようだ。

またお疲れの時はやってみよう。

「う〜・・・ま、いっか」

そう言って書類を取り出し、仕事を再開した。










4日目



今日はご主人もおキヌも横島も居ない。

その代わりに

「にゃんにゃ〜」

ご主人の母上の美知恵とその娘、ひのめが来ていた。

「令子から聞いてはいたけど本当にいい子なのね」

美知恵がこちらを見て何か言っている

が。

こちらはそれどころじゃ無い。

「にゃんにゃぁ〜〜〜」

体中を撫で繰り回され毛がもっさもさになっていた。

あっ尻尾を逆撫でしちゃだめ!

耳をそんなに強く掴んじゃだめぇ!

ああ!!そこをそんな風にしちゃだめぇええええ!!

「そこまでされて暴れたり引っかいたりしないって凄いわね・・・・・・」

関心してないで止めてぇ!!!






5日目



「モモちゃんどうしたんですか?」

「昨日ひのめにひたすら遊ばれたらしいわ・・・」

「それは災難ッスね」

三者三様の同情やら心配やらの視線

「このぐったりしている猫がモモ殿でござるか」

「なんか憔悴しきってるわね」

それと新顔が二つ

何やら本能というか危機感に訴えてくるものがある

でも気にしない、猫だし。

「アンタら同じ動物だし、この子の言ってる事判るんじゃない?」

「猫とは会話できぬでござるよ・・・・・・」

「私達じゃこの子のほうが警戒して近寄って来ないと思うわよ?」

何か私の事で話合ってるらしい。

「一応、アンタ達の先輩なんだから仲良くね」

そう言ってご主人はおキヌ・横島を連れ立ってどこかに出かけていった。

ぐて〜っとソファーの上で寝ていると誰かが近づいてきた

「モモ殿、拙者犬塚 シロと申す者、宜しくでござる」

「アタシはタマモよ・・・ってこんな子猫に判る訳ないか」

む、挨拶ですか。

ならばこちらも挨拶せねばなりますまい

むくり

「お?」

「あら?」

すたっ

ててててててて

すりすりすりすり

「おお?」

ててててててて

すりすりすりすり

「あら・・・」

猫の挨拶はこれで精一杯。

二人に向かって

みゃ〜

よろしくっと一鳴きしてから

ててて・・・がしっ

ぬ?

「拙者猫にここまでふれんどりぃにされたのは初めてでござる」

「人狼と妖狐に全く物怖じしない猫なんて居たのね」

シロにいきなり抱かれてタマモに見つめられていた。

「妖気も何も感じ無いけど・・・何か普通の猫と違う気がする・・・」

「先生によれば、「あの」美神殿が拾ったという事でござるからな」

「ああ、その時点で普通の猫じゃないわね」

何やらご主人が酷いことを言われている気がする

でも猫だから気にしない。













6日目



うずうずうずうず

うろうろうろうろうろうろうろ

「何してんのモモ」

ご主人が話しかけてきた

みゃ〜〜〜〜

「珍しく落ち着かないみたいだけど、何かあったのかしら」

「発情期じゃないッスか?」

「まだそんな季節じゃないですよ」

「やっぱり拙者達では会話はできぬでござるよ」

「動物としての種族が違うし」

何やらご主人とその仲間達で話し合っている。

しかし

うずうずうず

もう我慢できない!!

てててててててててて

私は壁に向かって前足を振り上げ






バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ

『ギャァアアアアアアアアア!!!』

絶叫が聞こえた

でも気にせず

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ

『オーナー!止めてくださ痛い痛い痛い!!!』

「はっ!モモやめなさい!」

ピタッ

研ぐのをやめてそのままの姿勢で振り返り、首を傾げる

「「「「うっ」」」」

何やらご主人達が呻いている

「くっ、この傾国の美女と言われた私を魅了するとは・・・」

「拙者何やら胸がきゅんっとなってしまったでござるよ・・・」

シロとタマモが何故か悔しそうにしていた、何で。

「モモちゃん爪が研ぎたかったんですね」

「猫だもんな〜」

「なるほどね・・・モモ、壁で爪を研ぐのはやめなさいね
  人口幽霊一号が可哀想だから」

『ありがとうございますオーナー・・・』

「今日、爪研ぎ用の板を買ってくるからそれまで我慢してなさい」

「って美神さん猫にそんな事言っても判る訳無いッスよ?」

「でも横島さん」

「何?おキヌちゃん」

「モモちゃん、爪研ぎをやめて大人しくしてますよ?」

む?

ご主人に我慢しろと言われたのだから当然です。

「「「「・・・・・・」」」」

「前から結構私のいう事聞いてたわよ?モモは」

「確かに大人しかったッスけど・・・」

「流石は美神殿が拾った猫でござるな」

「やっぱり普通の猫じゃないのね」

「仕事の邪魔もしないし粗相もしませんもんね」

「そりゃもう、私が拾ってきた猫なんだからそれくらい当たり前よ!」

「「「「親ばか?」」」」

またご主人とその仲間達でぎゃーぎゃー喚き始めた。

でも私は気にしない

だって猫ですもん。










その後、「あの美神が拾ってきた猫」として
ある意味三界一有名な猫となる
そして神・人・魔の全ての者を巻き込んだ一大事件に発展することに

















なるわけが無い。

だって猫だから。
突発的に思いつき書いてしまったモノです

事務所に普通の猫、でもちょっとだけ普通じゃない猫が居たらどうなるかな〜っと。

一応続きがあるんですが、多分投稿する程にはなりません

ていうか書きながら

「あれ?こんなん誰も読まないんじゃ?」

と、思ってしまいましたorz

ともあれ最後までこのSSを読んでくださった方々に感謝を。

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