1943

超度X W

「くっ……! 葵、頼む!」
「了解!」

 襲いかかる大量の蜂を、葵の瞬間移動テレポートで寸前の所でかわす。

「まだまだだぁっ!!」
「くっ……!!」

 しかし、敵の攻撃の手は緩まない。攻撃をかわされた蜂達は空中でUターンをすると、すぐに皆本達に向かって飛んでいく。

「葵、一匹だけでいい。蜂を壁に埋め込められないか!?」
「さっきからそうやろうと思ってんねん。けど、何かあれ、おかしいで」
「おかしい?」
「そうみたいね」

 紫穂が厳しい表情のまま頷いた。

「ティムの時と同じ、幻覚を用いたESP攻撃だと思ったんだけど……」
「空間認識で見ようとしても、空間が歪んでて上手く見えへん。自分達の移動で精いっぱいや!」

 また、飛んできた蜂を瞬間移動で回避する。

(くそ……このままじゃ葵の体力が持たない)

 何か、何か打開策は無いのか――――薫はガラスをぶち破って、外でもう一人と交戦中だ。攻撃手段が一気に無くなってしまったこの状況を、どう切り抜ければいいのか。皆本は必死に考えを巡らす。

(空間が歪んでる……? 一体何故……)

 ティムの能力は、簡単に言えば物を媒体に自身のイメージを具現化するものだ。そして、他の地域でバベルのエスパーと戦っている怪物達が、このエスパー、“玩具の支配者トイ・マスター”とやらが生み出しているのならば、攻撃に使われている蜂も含めた怪物達もそれと同じようなものだと皆本は考えていた。

(だが、違う――――これは、ティムの能力とは違って、恐らく――――)

 さっき、最初に襲ってきた蜂を薫が念動力サイコキネシスで斬った時、蜂達は粉々にはなったが、その破片は今、どこにもない・・・・・・。決して目立たない大きさではないはずだ。なのに、破片すらないということは。

「あれは、完全な幻覚だっていうのか?」

 そんなはずはない。ただ、斬られた蜂がすぐに復活したところを見ても、何かを媒体にしたとは考えられない。

「皆本さん、何か分かったの?」

 皆本の表情に気づいた紫穂が、訊く。

「まあね。ただ、まだ情報が少ない。そのために、君達にやって欲しい事があるんだ」
「やって欲しい事?」
「何でもやるわ。薫ちゃんだって頑張ってる。早く助けに行きたいもの」
「よし。葵、紫穂を奴の背後まで飛ばせるか?」
「んー……どうやろ。あいつのいる辺りが一番空間の歪みが大きいねん。上手く飛ばせるかどうか…………っ!!」

 葵は、考えを一端中断して瞬間移動する。その直後、蜂の大群が槍を振り回しながら皆本達がいた所を襲撃した。

「ほらほらほら!! もっと僕を楽しませてよ……それで超度レベル7なのかい?」

 “玩具の支配者”が、嘲笑うように腕を振る。まるで指揮者のように振るわれるその腕に合わせて、蜂の大群は宙を舞い、皆本達を追い回す。

「っ……このぉっ!!」

 柱の陰から飛び出した葵が、蜂の攻撃で辺りに散乱していたガラスの破片をテレポートで“玩具の支配者”の頭上へと降らす。

「ふんっ……!!」

 その破片を、“玩具の支配者トイ・マスター”はサイコキネシスで跳ね飛ばした。

「やっぱりあかんか……」
「下がって、葵ちゃん!」

 今度は紫穂が拳銃を構えて柱の裏から飛び出した。

「私の弾丸は――――当たるっ!!」

 放たれた弾丸が、真っ直ぐに対象の頭を狙って飛んでいく。

「なめ……るなぁ!!」

 しかし、その弾丸も簡単に弾き返された。

(……? 変だ)

 その一連の動作に、皆本は不自然さを感じた。その不自然さは、すぐにはっきりと形になる。

(何故、2人の攻撃はサイコキネシスで直接弾いた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)

 蜂はすぐ動かせる位置にいたのに、何故?

「そうか――――!!」

 一瞬の閃き。皆本の脳裏を閃光が駆け抜けた。

「2人とも、やつの攻略法が分かった!!」
「本当!?」

 すぐに葵と紫穂を呼び、作戦を教える。

「頼んだぞ、葵、紫穂!!」
「任せて!」
「ウチらの力、見せたるで!!」

 作戦を聞かされた2人はニヤリと笑みを浮かべた後、もう一度柱の裏から飛び出して“玩具の支配者トイ・マスター”と相対する。

「行くわよっ」
「っ!?」

 紫穂が拳銃を構えたまま、敵の方へと駆け出す。

「この、何を考えてるか知らないが、お前達が何をしようと僕には敵わないんだよ!!」
「本当に、そうかな?」
「な――――」

 “玩具の支配者トイ・マスター”が声のした方を向くと同時に、閃光が鼻先を掠めた。

 皆本が、対超能力者エスパー用の高出力熱線銃ブラスターを構えて立っていた。その銃口からは煙が上がっている。

「――――ッ! このやろぉ!!」

 “玩具の支配者トイ・マスター”の腕が振るわれ、蜂達が皆本めがけて飛んでいく。

「あらあら、私達の事は忘れてるの?」
「!?」

 と、同時に、紫穂が葵のテレポートでその背後へと現れた。

「――やっぱり。皆本さんの言った通りね。念動力サイコキネシス催眠ヒユプノを組み合わせた合成能力。特定の条件下・・・・・・で自身のイメージを具現化する能力よ」

 紫穂が“玩具の支配者トイ・マスター”の頭に手を置き、そう言った。

「特定の条件――このドームみたいなのの中でだけ、その能力が使えるんやな?」
「そうね。多分、空間が歪んでたのはこの能力のせいよ。この空間にはないものを具現化するから、必然的にそうなってしまうのね」
「そして、その能力を発動している最中、君は他の能力を使う事が出来ない」
「なっ――――!?」

 “玩具の支配者トイ・マスター”の顔が、驚愕に染まった。
 皆本は、手早くその両手にESP錠をかける。

「葵。壁に埋め込んで拘束だ。一時的でも構わない」
「りょーかい」

 そのまま、為す術もなく“玩具の支配者トイ・マスター”は東京タワーの鉄筋へと埋め込まれてしまった。

「君は、さっき葵や紫穂の攻撃を、蜂を使ってではなく、自身のサイコキネシスで止めた。不意打ちとはいえ、これは少し不自然だ。では、何故蜂を使わなかったか? それは簡単。蜂は防御には使えないからさ。そして、普通のサイコキネシスと蜂は同時に行使する事は出来ない。これは、君がサイコキネシスを使っている時に僕達を蜂が襲わなかったことから明らかだ」
「く……こんなのっ」
「無駄だよ。今回は兵部を捕まえるために作られた特別強力なやつを持ってきてる。ただの力技で壊せる代物じゃない」

 それでも必死に抜け出そうとあがいているが、一向に抜け出せる様子はない。皆本はそれを確認すると、ザ・ダブルフェイスに連絡を送る。

「こちら、ザ・チルドレン。X一人の身柄拘束に成功。もう一人の身柄の拘束に向かうので、こちらに誰か派遣してください」
『了解しました』
「よし……葵、紫穂! これからすぐに薫の援護に向かうぞ。行けるな!?」

 通話を終え、皆本葵達を呼ぶ。葵達はといえば、壁に埋め込んだ“玩具の支配者トイ・マスター”を容赦なく殴っている。

「……行けるみたいだな」
「無論やな。こんなやつ相手にそうそう疲れたりせぇへんて」
「そういうこと。行きましょう。薫ちゃんのところに」

 そう言って、葵と紫穂は薫の元へ駆けて行った。

「…………」

 皆本が何となく殴られていた彼の事を不憫に思ったのは、言うまでもない。
どうも、お久しぶりです。桜咲火雛です。
高校が忙しくて、なかなか続きを書くことができませんでしたorz
しかも絶チルも最近読んでないし……なので、何か紫穂や葵達の喋り方に違和感があるかもしれませんがそこは暖かい目で流していただけるとありがたいです(^_^;)

今回はXの一人との戦闘を書いてみました。久々にPCからの投稿で、今までは携帯の文字数表示を基準としてたので長さがよく分からなくなりましたが……これで大丈夫でしょうか?

これからまた忙しくなるかもしれませんが、ちょくちょく来てはちまちま書いていきたいと思いますので、もし良ければお付き合いくださいm(_ _)m

さて、コミックスが21巻で止まってるから、早いとこ買いに行かないとなぁ。

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