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Love Worth Dying For


明日は、『ばれんたいんでー』だそうでござるな、タマモ。

ところで、『ばれんたいんでー』とは、どんな事をするのでござる?

「今更何言ってんの?アンタ。そんな事、今日び幼稚園児だって知ってるわよ。」

むっ。お前とて、まだ生まれたばかりでござろう。

「いい、バレンタインってのはね。好きな男にチョコレートを渡して、愛の告白をする日よ。
何でチョコなのかは知らないし、知りたいとも思わないけど。」

ふ〜む、『ちょこれいと』を渡して想いを伝える日、でござるか。

拙者が『ちょこれいと』を渡したい相手、、、それは当然、横島先生でござる。

拙者の師匠であり、想い人。いつも優しくて、暖かい手で頭を撫でられると、拙者の心の臓は

口から飛び出してしまいそうなほど、鼓動が早くなってしまうのでござる。

先生のためなら、命を捧げても惜しくはないのでござる。

しからば明日は、拙者にとってまさしく、一世一代の大勝負となるであろう。

とはいえ、拙者は肝心の『ちょこれいと』の作り方を知らんのでござる。

誰か、作り方を伝授してくれそうなお方はおらぬものか。

おキヌ殿・・・はダメでござる。一応、恋敵なのでござる。

美神殿・・・も同じでござるな。

タマモ・・・論外でござる。あの女狐めにこんな事は相談できん。

他は、、、ダメだ。思いつかんでござる。

う〜む、、、さすれば、如何すればよかろう。

いかん、考えているうちに日の出になってしまったでござる。

仕方がない。ここはサンポしながら考えるでござる。



                  ※※※※※※※※※※※



たまには、いつもと違う道を歩いてみるのも一興でござるな。

ん?あれは、、、『魔法料理 魔鈴』とな。

魔鈴といえば、先生が以前仰っていた魔女殿の事でござるな。

そうでござる!ここは魔女殿に、作り方をご教授願おう。

「あら、そんな所で何をしているのです?」

おっと。店の前で思索に耽っていたら気づかれてしまったのでござる。

「あなた、ひょっとして、横島さんの所のシロちゃん?」

んなっ!『横島さんの所のシロちゃん』とな。そ、それでは拙者が先生の飼い犬のようではござらんか。

い、いや、それはそれで良いかもしれんが、いやしかし、、、

「どうしたの?私に何か用があるんじゃないの?」

そうでござった。実は折り入って、魔鈴殿にお頼みしたき儀がござる。

「まあ、畏まって何かしら。ここじゃ何だから、中へどうぞ。今日の仕込みも一段落してるから。」

かたじけない。拙者、このご恩は一生忘れないのでござる。

「よいしょ、っと。それで、お願いっていうのは?」

実は、拙者に『ちょこれいと』の作り方を教えて欲しいのでござる!

「まあ、チョコレート。ふふっ、今日はバレンタインですものね。横島さんにあげるの?」

そ、そうでござる。拙者、先生と夫婦《めおと》になるのでござるよ。

「そう、わかったわ。じゃあ、シロちゃんの想いが叶うような、素敵なチョコの作り方を教えてあげる。」

それは頼もしい。早速お願いするでござる。

ふ〜む、『ちょこれいと』を作るのも中々大変でござるな。

わざわざお湯で溶かさねばならんとは、難儀な事でござる。

だんだん、二の腕と肩が痛くなってきたでござるよ。

しかし、これしきの事で参っていては、先生の心を捕まえる事はできんのでござる。負けないのでござる。

「そうそう、その調子よ。後は味を調えて、好きな型に入れて冷やせば完成。そうだ、型はどれにする?」

せ、拙者はこの『はぁと』がたくさん出来る形にするでござるよ。

「そう、じゃあこれに溶かしたチョコを入れて。後は冷蔵庫に入れて待つだけ。待っている間、ラッピングの
方法を教えてあげる。こっちに来て。」

『らっぴんぐ』とな。『ちょこれいと』を作れば、それで終わりという訳ではなかったのでござるな。



                  ※※※※※※※※※※※



先生!横島先生!シロでござる。開けてくだされ。

先生、いないでござるか?

「あら、シロちゃん。どうしたの?」

小鳩殿。先生をお見かけいたしませんでしたか?

「横島さんなら、昨日の夜に大きな荷物を抱えて出かけたけど。なんでも、遠くのほうでお仕事だって。」

し、しまった。そういえばそんな事を昨日仰っていたのでござる。

確か、

(年に一度のバレンタインなのに、何が悲しゅーて山奥の廃旅館で一人過ごさにゃならんのですかぁ〜〜!!)

とか言っていたような。

せっかく『ちょこれいと』ができあがったというのに。。。迂闊でござった。

仕方ない。いったん事務所に戻って、朝ごはんにするでござる。



                  ※※※※※※※※※※※



はっ!い、今何時でござるか?

16時半?すっかり寝過ごしてしまったでござる。

『ちょこれいと』は、、、箱が半分潰れてしまっているでござる。なんたる不覚。

今から作り直している暇はないのでござる。このまま渡すしか。。。

「あらシロちゃん、おはよう。」

おキヌ殿。今日は学校はお休みでござるか?

「何言ってるの?今日は土曜日で学校はお休みよ。」

そうでござったか。それより、先生はまだお戻りになられませんか?

「横島さんなら、さっき戻ってきて、お家に帰るって。かなり疲れてたみたいだったけど。」

さっき、、、今すぐ追いかければ間に合うか!

「ちょっと、シロちゃん?もうすぐ夕食の時間よ?」

すまぬ、おキヌ殿。夕食は後回しでござる。

先生は、、、先生は、、、先生、、、

いたでござ、、る?

あれは先生と、、、魔鈴殿?

魔鈴殿が先生に渡しているのは、、、『ちょこれいと』ではござらんか!

せ、拙者は敵に助力を仰いでいたという事か。なんという事だ、、、

ああっ、先生、そんな物受け取らないでくだされ。顔もちとにやけ過ぎではござらんか?

またしても迂闊であった。先生の帰京の時間に寝過ごしてしまうとは。

しまった、先生と目が合ってしまった。この場はひとまず退散でござる!

「おい、シロ!どうした!」

後ろから先生が呼ぶ声が聞こえたが、今はまずいのでござる。

今先生と向き合ってしまうと、、、拙者、、、



                  ※※※※※※※※※※※



一目散に走ってきたは良いが、ここはどこでござろう?

とりあえず、そこの腰掛に座って一息つくでござる。

、、、せ、先生は、魔鈴殿の事が好き、なのでござろうか。

そうでござろうな。魔鈴殿は拙者と違って器量も良いし、先生をサンポで引きずり回す事もないし。

ひょっとしたら、もう他の女子《おなご》達からも『ちょこれいと』を貰っているのではないか?

いや、きっとそうに違いないのでござる。おキヌ殿も、美神殿も、とっくに。。。

結局、拙者だけが、渡しそびれてしまったのでござるな。

こんな物、、、もう必要無いのでござる。捨ててしまおう、、、

「あ〜、いたいた。こんな所でなにやってんだよ、シロ?」

先生、拙者、、、拙者、、、

「お、おい。どうしたシロ。泣くなよ。」

先生の顔を見たとたん、涙が溢れて堪えられなくなってしまったでござる。

拙者は武士の子。人前で泣くなど、みっともないのは分かっているが、どうしても抑えられないのでござる。

「とりあえず落ち着いて、そこに座ろうぜ。もう泣くなよ。」

拙者がぐしぐしと涙を拭いていたら、先生が頭を撫でてくれた。

いつも優しい先生。だから拙者は先生の事が、、、

「その、手に持ってる物何だ?ひょっとしてチョコか?誰に渡そうとしたんだ?」

そ、それは、、、その、、、

「ひょっとして俺?まさかな。」

そうでござる。先生にお渡ししたいと思って、魔鈴殿に手伝っていただいて作ったのでござる。

でも拙者の不注意でこんな不恰好になってしまって。。。

先生は、他にも沢山貰ったのでござろう?先程、魔鈴殿からも貰っていたようでござるし。

であれば、こんな物はもう必要ないのでござる。忘れてくだされ。

「おいおい。散歩と一緒で思考も先走りすぎだぞ、お前。誰がいつ、沢山チョコ貰ったって?
自慢じゃねーが、今日は魔鈴さん以外、誰からも貰ってないぜ。
魔鈴さんのだって、去年の騒動のお詫びって事らしいからな。
だから、それを俺にくれるって言うんなら喜んで貰うぞ。」

え、誰からも貰ってないのでござるか?そ、そうでござるか。何だ。

そうであれば、せ、先生、これを貰ってほしいのでござる。

今日は、『ちょこれいと』を渡して、想い人に想いを伝える日と聞き及んでおります。

せ、拙者は、先生の事をお慕い申しております。先生と、夫婦《めおと》になりたいのでござる。

俯きながら『ちょこれいと』の箱を先生の前に突き出した。恥ずかしくて、先生の顔を見られんのでござる。

「シロ、、、ありがとう。でもな。」

でも?でも何でござるか?

「俺は人間で、お前は人狼だ。どうやっても、その事実はどうする事もできない。」

そんな事、分かってるでござる。

「俺とお前が一緒になろうとすると、この先考えも及ばないような困難が待ってるかもしれない。
お前と一緒になる事が認められる頃には、ひょっとしたら俺は、ヨボヨボのじーさんになってるかもしれない。
ひょっとしたら、人狼族の長老さんと果たし合いをする事になって、最悪死んじまうかもしれない。
異種族の間で愛し合うって言うのは、そういう事なんだ。
お前には、その覚悟があるか?この先に待ってるかもしれない苦しみを、受け止める覚悟が。」

夕焼けに照らされた先生の顔は、どこか悲しげでござった。

横島先生、どんな事があっても、拙者の気持ちは未来永劫、先生と共にあるのでござる。

拙者は、先生と添い遂げるためなら、命も惜しくないのでござる!

「ありがとう、シロ。こんな俺でよければ、よろしく頼むよ。だけど、これだけは約束してくれ。
何があっても、俺のために死のうだなんて考えないでくれ。俺の事を想ってくれるなら、
必ず、俺と一緒に生きてくれ。それだけだ。」

わかったでござる。拙者、しかと心得申した。

「シロ、、、」

先生は、そう言って拙者を抱きしめて、そして、、、

唇に、ほんの少し暖かい感触が。

こ、これは、せ、せ、接吻というものでござろうか。

拙者は、今度は自分から先生に抱きついた。

そして、また泣いてしまった。

でも、今度は悲しくて泣いたのではござらん。先生と一緒になれた事が嬉しかったのでござる。

先生、頑張ってくだされ。早く拙者を娶《めと》ってほしいのでござる。

拙者、早く先生の事を、『旦那様』と呼びたいのでござるよ。



Love Worth Dying For 終

こんにちは。Black Dogです。

もうすぐバレンタインですね。

私自身にとっては、縁もゆかりもありませんが、縁もゆかりもある人が

うらやましいと思ったことはありません(キリッ





嘘です(泣

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