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長い夜(狐)

炬燵に足を突っ込んで、壁に掛けてある時計を見る
もうすぐ日付が変わりそうな深夜。

もってきたカップきつねうどんを食べ終わり
反対側にどてらを着こんで同じように炬燵にあたっている男に声をかけようと見つめて
しゅんしゅんとストーブの上の薬缶の中のお湯が音を立てているのを聞きながら
 
 「ヨコシマ」

 「何だ?タマモ」

横島のアパートの中炬燵の上に常備してある蜜柑を手に取り、剥きながら声をかける

 「私の事・・・どう思ってる?」
 
 「あん?どう思うっつったって・・・ロリっ狐(こ)?」

 「そういう意味の質問じゃないんだけど。っていうかロリ言うな」

げしげしと炬燵の中でヨコシマの足を蹴る
首を傾げながら蜜柑を口に含み、考えてる横島を見つつ
質問の仕方が悪かったのかなと思い直す。

お湯が沸いた事だし、あつ〜いお茶でも飲もうと台所へ。
急須の中身を入れ替え、炬燵に戻って二つの湯のみにお茶を注いでヨコシマの前に置く

 「炬燵にもぐってぐで〜っとしてる姿にゃ野生が感じられんなぁとか」

 「炬燵の魔力を知った今、野生なんて捨てたわ!」
 
 「無い胸を張って言われてもな、せめてもうちょっと・・・いてぇって」

とりあえずもう一度強めに足を蹴って黙らせる
 
 「じゃあ、おキヌちゃんはどう思う?」

 「ん〜、料理上手で優しくていつも俺の事を助けてくれるいい娘かな。
  シメサバ丸を研いでる時とか黒いオーラが見えた時は怖いけど」

ふむふむ、そう思っているのか。
やはり彼女がライバルとしては要注意人物か。

 「ていうか、おキヌちゃんが黒くなってる時の原因はほぼアンタだと思うんだけど」

 「俺もそうなのかな〜とは思うんだが・・・・・・何が悪いのかさっぱり判らん」

 「おキヌちゃんの暗黒面が出てる時は私も本気で怖いからやめて欲しいんだけど・・・・・・
  まぁいいわ。今はそれで好都合だしね」

最後のほうはヨコシマに聞こえないくらいの小声で。
ずず〜っとお茶を啜る音が二人分、暫く続いてからもう一度

 「美神は?」

 「守銭奴」

答えを言うまでの所用時間0,02秒。
白けた空気が漂う

 「でもたまに・・・ほんとにたま〜にだけど優しいんだ。あれで可愛いとこもあるしな」

これが噂に名高いツンデレ効果だろうか、油断は出来ないわね。
湯飲みを差し出してきたからお茶を注ぐ。

 「そっか。じゃ、シロの事は?」

 「毎朝の散歩が無ければなぁと思うが、犬だから仕方ないかと最近諦めとる」

 「馬鹿犬だしね。最近じゃ馬鹿のほうを否定して犬を否定するの忘れてる時あるし」

 「でもあれだけストレートに好意をぶつけられると悪い気はしないな
  あいつのは飼い主に対する愛情とか、家族愛みたいなもんだと思うが。
  顔舐め回すのと猛烈なタックルは勘弁して欲しいけどな」

その時の事を思い浮かべているらしく小さく笑っている。
散歩も愛情表現も過激な事に間違いは無いのだろうけど
本人は満更でもないのであろう事がその笑い声と優しく細められた目を見てわかる。
空になった自分の湯呑みにお茶を注ぎながら

 「隣の小鳩は?」

 「あの子もなぁ・・・何を考えてるのか判らない時があるんだよ、この頃。
  日曜の昼飯の時なんか上はTシャツ下は短パンでな、その上にエプロン付けてたんだが」
 
 「それくらい普通じゃないの?」

 「うむ、冬である事と小鳩ちゃんちには暖房器具が小さいストーブしか無いって事を
  考慮しなければ普通なんだが。
  Tシャツの袖を肩のところまで捲り上げてたんだよ、最初に見た時はわからんかったけどな」

 「それで?」

 「昼飯を一緒に食べようって約束をしてたから小鳩ちゃんの部屋に行ったら
  その格好だったんだが正面から見ると
 「裸の上にエプロンだけを付けてる」
  ようにしか見えなかったんだよ。鼻血噴出しそうになったわ」

 「あー・・・その後どうしたの?」

 「小鳩ちゃんのお母さんは入院中だったんだが、何故か貧のヤツまで居なくてなぁ・・・
  これまた何故か小鳩ちゃんが俺に
   「これ今日の自信作なんです!食べてみてください!」
  とか言いながら顔をあかくしてべったり密着してくるんだよ!
  ブラもしてなかったらしくって感触とか重みとかダイレクトに伝わってくるし!
  でも理性を総動員して耐えた。俺は耐えたぞ!」

血の涙を流しながら叫ぶ横島を、ふ〜んと適当に相槌を打ちながら眺める。
それは誘っているというか、バッチコーイというか、望む所なんだという
小鳩の意思表示なんだと理解しているんだろうか。
蜜柑を手にとって

 「アンタ、その時の小鳩を見て何か思う所は無かったの?」

 「そんなもんありまくったわ!俺なんかにあんな無防備な姿晒して接近したら
  襲ってくれと言ってるようなもんやぞ!?我慢する為に俺がどれだけ心の血を流したか!!!」

 「だから」

と、言いながら叫び続けてる横島の顔に自分の顔を近づける。

 「襲って欲しいって、小鳩が望んでるとは思わないの?」

 「そんな事ある訳ないやろ?俺やぞ、馬鹿でスケベで見境なくて!
  だらしない所しか見せてる覚えがないし!
  どう考えても小鳩ちゃんがそんなん望んでるとは思えんわ!」

これは処置無しと言うやつだろうか。
自己分析は正しいのかもしれないが、自己評価が低いにも程があるけどある意味好都合。
綺麗に剥けた蜜柑に満足して口に

 「つうか、お前のほうが問題だタマモ!」

 「ほへ?」

蜜柑をほうばった状態で間抜けな声を上げつつ正面から横島の目を見返す。

 「最近毎朝俺のところに来るのはいい。朝飯ももってきてくれたりするしな。
  が、毎晩毎晩俺の部屋に入り浸るのはどういう事だ?
  俺にロリの趣味が無いとは言え、お前のような美少女が
  夜中、男の部屋に頻繁に来るのはどうかと思うのだよお兄さんは」

 「別にいいじゃない、夜だってカップきつねうどん差し入れたりしてるんだから」

 「まぁな、8割はお前が自分で食ってるがそれはいい。
  問題はだ、お前最近無防備すぎるぞ。
  座る時とか部屋の中を歩きまわる時とか、スカートばっかし履いてくる癖に
  中身隠そうともしてないし。
  俺を抱き枕にして寝てるし!
  俺がロリコンだったらお前襲われてるぞ!?」

一応意識はされてるようで一安心。
新しい蜜柑を手にとり、横島に渡す。

 「まぁまぁ、これでも食べて落ち着きなさい。近所迷惑だから」

 「ぐっ・・・誰のせいだと思ってるんだ・・・」

等と言ってぶつぶつ文句を垂れる。
つまり私の行動やらこの体が横島の理性と煩悩を刺激してるのは認めるわけだ。

炬燵の中で横島の足を探り当て、軽く突っつきながら言う。

 「ヨコシマ」

 「・・・・・・まだ何か聞きたいのか?」

 「そうじゃなくて。言いたい事があるの」

 「何だよ、きつねうどんはもうないぞ」

 「私、横島の事好きよ」

 「ふっ。その手は食わんぞタマモ
  俺は騙されるという事を学習しているのだ!」
 
その返事にむっとして目と目の距離が30cm程まで顔を近づけ

 「本気よ?ヨコシマが望むなら全てを許せるくらいに
  今ここで襲われてもいいくらいに」  


















 「ぶぅ〜〜〜〜〜!!」

 「うきゃっ?!目がぁ!目がぁあああ!」

目に蜜柑汁の直撃を受けてのたうち回った。

 「あああ!すまんタマモ!っていうかパンツ丸見えだぞ!?でも俺はロリコンじゃないから興奮なんかしてないからな!?」

 「いいのよ見せてるんだから!あとロリ言うなっていうか水!水〜〜〜!」





5分後




 「うう、まだ目が痛い・・・」

 「すまん、いきなり言われたもんだから・・・・・・」

洗い流して、やっと落ち着いた目をしぱしぱさせながら再び炬燵の中へ。
少々気まずくなった空気の中、薬缶の中に残った最後のお湯を使ってお茶を淹れる。

ずず〜
ぺりぺり
ぷちぷちぷち
ぺりぺりぺりぺり

お茶を飲んだり、蜜柑を剥いたり、房の筋をちまちま取ったりしながら考える。
さっきのはかなりストレートに言ったと思うんだけど・・・
鈍感すぎる馬鹿には効かないんだろうか。
というか、私の告白を今の蜜柑汁ビームで有耶無耶にしようとしてる?
もしそうなら私を甘く見ている、馬鹿にしてると思い知らせるしかあるまい。


 「ヨコシマ」

 「お・・・おう?」

 「私の今の気持ちをアンタに伝える方法を選ばせてあげるわ」

 「なんかイヤな予感しかしないから拒否権か黙秘権というものを行使したいんですがタマモさん」

 「却下」

 「うんそうだと思ったけど一応言ってみただけさ・・・・・・」





ぐーにした手をヨコシマの顔の前に突き出して、人差し指を立て

 「一つ、口で」

 「ああ・・・」








中指を立てる

 「二つ、手で」

 「おう・・・?」









薬指を立てて

 「三つ、足で」

 「は?」








小指を立てる

 「四つ、胸で」

 「待て待て待て」











突き出した手を握りなおし親指を天井に向かって立て
イイ笑顔をして告げる

 「5つ、ナニで」

 「絶対に全部の選択肢何かが間違ってるよな!?」

 「何も間違ってないわ!」

きっぱりはっきり断言
俺はロリコンじゃない・・・と呟き続けるヨコシマを無視して再び炬燵の中の足を探り当て
ヨコシマの足の裏を、私の右足の親指でツツーとなぞりながら言う。

 「さぁどれ?」

 「ぐ・・・・・・ぐぅぅう・・・無難なのは2番目なのか・・・
  いや1番目・・・でも違う意味だったらヤバすぎる・・・」

頭を抱えて唸ってるヨコシマを溜め息を吐いて見つめる
私の事で悩んでるのは気分がいいかもしれないけど埒があかない。

 「言葉でだめなら行動あるのみじゃない。
  選べないって言うんなら・・・・・・
  質問に答えて」

唸ったりぶつぶつ呟いたり考え込んだりした後に
こちらを見つめ返してくる
 
 「わかった、答える」

うん、と頷いて自分の顔をヨコシマの顔に近づけて言う

 「煮え切らなかったり納得できなかったりふざけた答えなら
  問答無用でフルコースを叩き込むから覚悟して」

 「待てや!何のフルコースじゃ!?」 

 「決まってるじゃないの・・・
  ナニよ」

再びサムズアップ+イイ笑顔+目に力を込めて告げる

ちらっと時計を見れば午前1時15分
馬鹿犬が早朝に乱入してくるだろうが、まだまだ夜は長い。

視線をヨコシマに戻して想う

ロリだ貧乳だ黒を履くには10年早いだと言われるが

狐だ妖怪だと言って私を遠ざけた事は無い。

真夜中に部屋のチャイムを鳴らして、ドアの隙間から顔を見せた時

女の子が夜に無用心だとか痴漢に会ったらどうするんだと言われたけど

「来るな」と言われた事は無い。

熱をだした時や怪我した時に心配してくれて看病もしてくれたけど

見返りを求められた事は無い

打算的なことができるとも思えない、思わない

でもだからこそ本心からの言葉と行動だと思えて



今までの事を振り返ってその度に感じた戸惑いや嬉しさと

返答如何ではフルコースを喰らわせる覚悟を込めて

目の前・・・30cmも離れていないヨコシマの目をみながら問いかけた

















 「私の事・・・どう思ってる?」



夜はまだ終わらない



中途半端な終わり方で申し訳ないです(汗
ちなみに選択肢のところ、もう一つバージョンがありまして
精神的・物理的・社会的の三つの選択を考えたんですが諸々の事情で却下。
使うとしたら途中まで書いてある「長い夜(黒巫女)」のほうでかな・・・

ともあれ拙い文を最後まで読んでくださった方々に感謝の念を送ります

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