「ただいまー」
「おキヌさん、おかえりなさい。暑かったでしょう」
「うん、汗びっしょりになっちゃった。シャワー浴びたい……」
おキヌは買い物袋をテーブルにのせ、熱中症防止にかぶったつばの大きい帽子を側に置いた。
たまった熱気をはき出すように、はぁと一息つくと、体中からますます汗が吹き出す。
誰もいないのをいいことに、手旗で汗ばんだ胸元を仰いでも追いつくわけもなく、やれやれどうにかならないものかとおキヌは溜息をつく。
首筋を落ちる幾筋かの汗を気だるそうにぬぐいながら、街の様子を眺めた。
陽炎の向こうにそびえ立つビル群と、その足下を早足に歩き去る人達は変わりなく
窓から差し込む陽差しのきつさも、影に逃げ込んでも変わらない蒸し暑さもそのままなのだろうが、事務所の中は程よく冷房が効いていた。
人工幽霊一号が帰る頃合いを見計らってくれたのだろう、と謝辞を述べる。
「事務所の中は涼しくていいね」
「ありがとうございます。エネルギー節約ということで二十八度ほどにしてありますが、暑くないですか?」
「ううん、このくらいがちょうどいいわ。本当の事を言うとね、美神さんと横島さんがいるときは冷房が効きすぎてて、ちょっと困ってるの」
このところ続く酷暑に反比例する事務所の冷房に、おキヌはいささか参っていた。
新宿副都心と臨海地区の再開発で風の流れが変わったせいで、特に事務所のある池袋辺りは街全体が熱を抱え込んでしまうようになり、このひと月、街中の体感温度は四十度を超えていた。
特に免許などもなく、熱を抱き込むアスファルトの歩道を行き来するしかないおキヌには、今年の夏はことさらきつかった。
そのような状況だったので、美神が人工幽霊一号に事務所では冷房を強めるよう調整させていた。
おキヌもクーラーをかけることには反対しないのだが、男である横島はまだしも、美神のクーラー好きは冷え性なおキヌの理解の範疇を超えていた。
が、事務所の主である美神には強く言えず、足掛けなどで我慢していたのだ。
「美神さんも女の子なのに、腰とか冷えないのかしら」
おキヌがいささか特殊な『江戸時代生まれの現代暮らし』だからかもしれないが、体調不良や月経不順になる事がとても多かった。
だが、美神には一切そのような気配がなく、いくら体を鍛えているとはいえ、なぜこうクーラーが苦手な自分と差があるのだろうと思わずにはいられなかった。
胸のあたりの皮下脂肪が厚いからかしら、いやいや自分だとて無さ過ぎることは無いはずだ。お腹のあたりはあまり変わらないのだし、とたわいもない事を考えていると人工幽霊一号がつぶやいた。
「オーナーは生物学的には人間の女性に間違いないですが、美神令子という唯一種である気がいたします」
「ぷっ」
普段聞く事のない人工幽霊一号の毒舌に、思わず吹き出した。
「やだ、もう。一体どうしたの?」
「いえ、大したことではないのですが。おキヌさんとちょっとした秘密の共有をしてみようかと思ったのです」
「ちょっとした秘密……ね」
じゃあずっと内緒ね、美神さんにばれたら大変だから。
そう返しながら、人工幽霊一号も随分人間らしくなったものだ、と驚いた。
人の霊力を活動の原体とする人工幽霊一号は、オーナーである美神や横島、出入りする人の影響を受けて変わっていく、その様は人が成長していく過程となんら変わりない。
彼の『成長』に、彼を作り息子として扱った渋鯖男爵の気持ちに一瞬触れられた気もしたが、この前まで幽霊だった自分が思う事でもないかと自重した笑いをこぼした。
何の悪気もなく初対面の横島を岩で押しつぶそうとした頃から見れば、おキヌとてずいぶん変わっているのだ。
「でも、そうよね。美神さんは美神さんって言う以外、例えようがない気がする」
「横島さんも同じようなものですが、GSは皆、個性が強いのかもしれませんね。霊能との因果関係は不明ですが」
弓、魔理、エミ、冥子、西条、タイガーにピート。確かにおキヌの周りには、強すぎるほどの個性を持った人が集まっている。
皆それぞれに、オンリーワンと言える存在だ。
「ん? あら、じゃあ私も似たようなものだって言うの?」
「はい。おキヌさんもとても良い個性をお持ちかと」
「素直に受け取っていいのかしら、それ」
おキヌはなんとも面はゆい。
弓や魔理の様な級友からは、よく天然であると言われる。
だがそのような自覚はなく、また自覚がないからこそ天然と言われるのだが、美神やエミからは『おキヌちゃんだしね』と微笑まれておしまいという事も多い。
そのせいか、最近少しばかり自分が人からどのように見られているのか気になってきていた。
だから、褒められたような、皮肉を言われたような、人工幽霊一号のとらえどころのない物言いには、そのように応えるしか無かった。
「っていけない。お野菜とお肉、冷蔵庫に入れないと」
「そうでした。申し訳ありません、おキヌさん」
「ううんいいのよ、でもちょっと時間ちょうだいね」
つい話し込んでしまい、テーブルの上に乗せっぱなしになっていた買い物袋から、食材などをより分ける。皆出払っていて、事務所には明日までおキヌ一人なので多少控えめではあるが、それでも一般的な家庭よりはずいぶん多い。
暑さのせいで帰る間に痛んでいないかチェックしながら、特に美神に頼み込んで買って貰った大型の冷蔵庫の中にてきぱき納めていく。
今日などはあまりの暑さに商店街の人通りがよくなく、おキヌを見つけた店主達から余って捨てるよりはマシだから、あれも持って行けこれも持って行け、とサービスの品も多く持たされたのだが、幽霊時代からの付き合いや朗らかな人柄で、また現実結構なお得意様であるおキヌには、こういった事もままあった。
そのおかげで予算以上に皆に良い食事を振る舞えるし、たまには横島に持って行く分も確保出来ていた。美神は分かっているようであったが、そこは暗黙の了解で、おキヌも目こぼししてもらっていた。
「しゅうりょうー」
「お疲れ様でした。おキヌさん、よろしければ汗も流されたらどうですか? また体が冷えてしまいます」
「ありがとう」
「いえ、大したことではありません」
「ふふ。謙遜しちゃって」
人工幽霊一号の気遣いに、本当に変わったなあ、と改めて驚きながらおキヌは応える。
普段は横島がいるので、この時間にシャワーは浴びづらく、汗で不快な時にも我慢していたのを人工幽霊一号は知っていたのかもしれない。
同居人(と言っていいかどうかはわからないが)の成長を、おキヌは本当に嬉しく思う。
出来ればなにか振る舞ってあげたいところだけれど、人工幽霊一号には何をする事も出来ないから、今度念入りに掃除でもしてあげよう。
そう思い、買い物袋と一緒に置いたままだった気に入りの帽子を手にとり、おキヌは階段を上がっていった。
☆☆☆☆☆
「ふう、さっぱりしたー」
「お疲れ様です。シャワーの後ですので、ちょっとですが温度を下げておきました」
「ありがとう」
シャワーを終えたおキヌは居間のソファーに深く腰掛け、とっておきのアイスティーで喉を潤す。
一人の気楽さで、普段は出来ないラフな格好で和みながら、誰もいない午後を楽しんでいた。
丈の短いTシャツとショートパンツだけしか着ず、髪をアップにまとめた姿は来客がある普段はもちろん、横島にもあまり見せられるものでない。
弓や魔理なら『スポーティーでいいじゃない』と言うかもしれないが、露出が多いだけで気後れしてしまう。
美神に言わせれば『女の魅力は魔力なんだから、主張してなんぼ』なのだが、おキヌはいつまで経っても真似出来そうになかった。
いつだったか髪をまとめた姿を横島に『おおお、おキヌちゃんのうなじが新鮮だあぁぁぁ』などと茶化されていらい、この髪型にしても人前では恥ずかしくて出来ない。
それだけに普段賑やかな事務所にあって、このような一人の時間は、密やかな息抜きを兼ねた楽しみでもあった。
「でももし、もしも、こんな大胆な格好を見られたらどう思われるかな。横島さんはどうするかな。美神さんにするみたいに飛びかかってきたりするのかな、きゃー私ってば私ってば」
と、じたばた妄想を膨らませる。
いくら妄想したところで何が起きる訳でもないのだが、自分は案外こういった『ごしっぷ』好きだと自覚している。
それは、普段熱心に視聴しているのがワイドショーというところにも現れている。
美神などからは、耳年増になるから止めなさいと注意されるのだが、面白いのだから仕方ない。
知ることは決して悪い事じゃないわ、ただでさえ現代の知識に疎いんだからと一人言い訳をし、その間にもテレビからは、猛暑を伝えるニュースが続く。
プールが混雑、野菜が高騰、熱中症で十人搬送、ビールの売り上げが伸び……など、どこも異常な暑さの影響で大変なようであった。
除霊業界も本来なら夏のかき入れ時で活況であるのが自然なのだが、今年に限っては幽霊達も暑さでばてたのか依頼の件数が例年よりは少なかった。
ただ昨日今日は久しぶりに複数の大型案件(美神が喜ぶような金額という意味)が舞い込み、六道の学校行事で都合の合わなかったおキヌを除き、皆それぞれ出張っていたのだ。
「みんな戻ってくるのは、確か今日の夜更けか明日の朝方の予定だったよね」
優良クライアントからの急ぎの依頼で、仕方なく一人残ったのだが、このような猛暑の中で走り回っているだろう皆を思うと、涼しい事務所で休んでいる自分を省みて少々心が痛む。
その逆の事もあるのだから気にしないで良いと美神は言うのだが、いったん考えてしまうとソファーの座りが悪いのもまた確かだった。
「うー……ううん、気にしても何も出来ないんだし。いっそ横になっちゃえ」
ぽすんとソファーに身を投げ出す。
横長のソファーはおキヌが横たわるには十分で、シャワーを浴びたばかりの火照りに程よい涼しさが心地いい。
「そういえば、昔……江戸時代にも、こういう事あったなあ」
朧な記憶の中で、わずかにでもしっかり覚えているあの夏。女華姫と知り合ってから、何度目かの夏の日。
今日と同じように、留守番を申しつけられた事があった。
☆☆☆☆☆
「あの日は……私が一番年長だから、下の子達の面倒をみさせられたんだっけ」
いつもやってる事が変わってないなあ、と思わないでもないが、おキヌの脳裏に浮かぶのは生まれ育った、懐かしいお寺の風景だった。
玉砂利の敷き詰められた境内は、いつも自分が綺麗に整えていた。
「そうだそうだ。住職様達は早くにお出かけして、あの子達に、普段のお勤めをさせるのが大変だったんだ……」
懐かしく思い起こす。
孤児となり引き取られ、厳しく躾けられながらも暖かく育ててくれた寺の皆。
本殿の向こうに見える背の高いご神木、参道の側の楚々とした手水舎、孤児が住職と暮らす庫裏、背後にどっしり立つ大鳥居。神社を囲むように佇む大きな森。
どれもこれも、かつて確かにあった場所。今なおおキヌの記憶にとどまる遠い風景だった。
「あれから、もう三百年も経ってるんだよね……」
おキヌは西暦の時代を生きている。刻が止まっている間に過ぎ去った時間はもう取り戻す事は出来ない。
自分があそこに戻ることは出来ないんだと −美神や横島は側にいてくれるけれど− どこか寂しさを覚えたおキヌは、記憶の中で境内を歩き始める。
もう記憶の中にしかないのだと改めて実感しながらも、一歩一歩確かめ歩く。
「あの時は……たしか、そう……」
留守番をした日は、今日と同じように随分陽差しがきつくて、でも空は透き通るように蒼く低く、森の葉養は一層盛んで、大鳥居向こうにはゆらゆら陽炎が立っていた。
こう暑くては、作業も出来ない。皆、どこかで休んでいるのだろう、参拝客の一人もおらず、辺りはただ蝉たちが一夏の恋を実らせようと懸命に声を上げているだけだった。
気づけば、下の子供達もどこかへ行ってしまって姿が見えない。
「あの子達、目を離すとすぐに遊び始めてたなあ」
おそらくあそこだろう。
いつも自分たちが腰を落ち着けていた木陰に向かうと、やはり皆が思い思いに休んでいた。
この大きな木の下は影が大きく、よく風が吹き抜けて、夏の熱気をやり過ごすには境内で一番の場所だった。
その証拠に、孤児達と一緒に、寺に居着いたノラと呼んでいた猫がだらんと体を投げ出して休んでいた。少しずつ近づいていくと、普段から悪さをして手を焼かせていた子供までもが、腹を丸出しにして寝そべっているのが目に付いた。
周りの皆も気づく様子もなく、一時の涼に身を任せていた。普段頼みにしていた男の子も、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「あの時はまいったなー」
鼻をつまんでやろうと思ったけれど、あまりに気持ちよさそうなのでどうにも出来ず、仕方ないと孤児部屋に置いてある少し大きめの古びた布を取りに行く。あの子達はお腹を壊しやすいのに、普段から気を遣わないでと文句を言いながら回廊を歩いたのだった。
「美神さんや横島さんがあの場にいたら、どう言ったかな」
けり起こすか、そのまま放っておくか。それとも一緒に寝てしまうか。
けり起こされでもしたら、あの子はびっくりしただろうなとくすくす笑う。
「あの時の私も、ちょっとは蹴っ飛ばしてあげたいくらいの気持ちだったけど」
お勤めを放り出して、自分を置いてみんなで勝手に、呑気に寝込んでいたのだ。文句の一つもあって当然だったろう。
「庫裏で何枚か古布を掴んで……そしたら手入れが全然出来て無くて……もう一回怒ってやろうと思って戻ったら、誰も起きる気配が無くてがっくりしたなあ……」
あの時は、皆の呑気な寝顔に心のそこから溜息が出た。
「でも外で寝てても、木陰なら暑さに打たれる事は無かったよね……」
広い森と雑草の茂る土、山の間をぬうように流れる川が、陽差しのきつさを和らげて風に涼しさを与えてくれていた。池袋とこのお寺と、どちらが良い悪いという事ではない。
ただおキヌは、例え朧なものであっても、あの時あの場所に大きな安らぎを覚えるのだった。
風邪を引くわよ、といたずら子に布をかけてやり、側に腰を下ろす。
いつかに感じた、幼い子供の柔らかい髪の感触。自分の右手にかすかに残っているようだと思えるけれど、それはただの記憶だとわかっている。
だけど、その穏やかで暖かい感触に胸を落ち着ける。
そして、いつも聞かせてあげていた、歌を口ずさむ。
「……この子の可愛さ限りなし 山では木の数花の数……この子の可愛さ限りなし。海では波の数貝の数……」
記憶に遙かな夏。
蝉たちの声に紛れた歌声は、あたりに溶けて、通り抜ける風と一緒に消えていった。
☆☆☆☆☆
「ううん……あれ……」
ぼんやりした視界が、厚みを感じさせる高い天井を映し出す。
明治時代に建てられた旧渋鯖男爵亭、住み慣れた現美神事務所。
六道学園霊能科二年、GS見習い。今のおキヌの生活の場だ。
「……もしかして、寝ちゃってた?」
あやふやな時間の狭間から帰還し、頬の違和感に気づく。
涙でもつたったのだろうか。
いやだと目元をぬぐうと、西日が刺さる。
太陽はずいぶんと低くなっていて、ビルの隙間にのぞく空は鮮やかな橙色に染まっていた。
「こんな時間になっちゃったか」
いつの間に寝てしまったのかわからなかったが、ソファーの上で寝てしまったせいか少し体が固くなってしまったようで、うんと伸びをした。
するりと、水色のタオルケットが絨毯の上に落ちる。
「え? ……これ、わたしの」
タオルケットは、普段使っているものだった。
今朝洗濯をして、スコールのような夕立を警戒し、他の下着などと一緒に部屋干ししていたものに違いなかった。
「ねえ……」
人工幽霊一号、と言いかけて口をつぐんだ。
薄着で横になっていたのを心配してかけてくれたのかと思ったが、幽体である彼がかけたものでないのは明白なのだ。
すると、誰が。
え、え、え。
戸惑いながら人工幽霊一号に問いかけた。
「……誰が、このタオルケットをかけてくれた、の?」
「横島さんが、戻っていらしたんです」
「え」
「予定よりだいぶ早く仕事が終わったとかで、護符の処分に事務所に寄られたようです。そうしましたら、おキヌさんが横になっていらしたので、寝冷えするといけないからなにかかけるものはないか、とおっしゃいまして……横島さんにお願いして取って来てもらいました」
「私の部屋から!?」
どうかしましたか、と平然と問い返す人工幽霊一号に、叫びたい気分だった。
「み、見られた……洗濯物も……こんな格好も……しかも寝てるところ……」
穴があったら入りたい、と頭を抱え俯く。
恥ずかしい、でもああどうしよう。
もう顔を見られないと耳まで真っ赤にしたおキヌの呟きに
「大丈夫ですよ。横島さんは目をつぶられていて私が誘導しましたし、見張ってましたから他のところは触ってません。すぐオーナーのお手伝いに向かわれましたし」
「そういう問題じゃなくって!!」
「では、どういう問題なのです?」
「あーもう! この唐変木!」
二人の気遣いは本当に嬉しいのだが、そもそも冷房の温度を下げてくれれば良かっただけなのではないか。
それに気づかない横島にも、まだまだ人間にはなりきれていない人工幽霊一号にも、恥ずかし紛れの悪態をつく。
唐変木とはどういう意味ですか、と聞いてくる人工幽霊一号に溜息だけを返しながら心地よい冷房に油断した自分を悔やむのであった。
「横島さんの……横島さんのばかあぁぁぁぁぁー!!」
☆☆☆☆☆
それから何日かしてから、横島にささやかな反撃を成功させた(横島曰くささやかではない)おキヌは、ふと考えた事があった。
なぜ夏の寒さ、冷房がこれほど苦手なのだろうかと。
夏は内外の温度差があるからとはいえ、生まれてからも、生き返ってからも冬の寒さは苦にならなかったのだ。
「冬が大丈夫なのは、江戸時代の事を思い出させるからかな……」
女華姫や導師、一緒に育った孤児達。
今よりずっと貧しい時代、厳しい暮らしではあったけれど、胸に宿るのは暖かい記憶。
皆で寄り添って、暖めあった思い出がある。
けれど夏の寒さは、もしかすると、皆のためにと身を投げた地底湖の冷たさを、無意識にでも思い出させるのかもしれない。
御山に入った日照りの夏から始まった、長い長い刻。
「……だから夏に寒いのは嫌なのかなあ」
あの時間を想像してしまうから。
だが今は、いつも騒がしい事務所にあって、ソファーに横になっているからと女性の部屋からタオルケットを持ってくるような朴念仁も側に居る。
相変わらず冷房を効かせながら、カリカリ事務処理に忙しい美神を見て、こっそりおキヌは呟いた。
「でもこういうのは……嫌だけど、嫌じゃない……のかな?」
さむくても、あったかいから、と。
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