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雪の舞う朝〜(狐)

てくてくてくてくてくてくてく


晴れた朝、一人で歩く散歩道
雪が舞っていた
降っていた・・・のではなく、舞っていた


てくてくてくてくてくてく


行き交う車が巻き起こす風であったり
屋根の上に積もった真新しい雪が風で飛び交っていたり。

暫く前、4時頃までは吹雪といってもいい程だったけど
今はもう空が見えている。
でもやっぱり冬の風は冷たくて
雪を舞いあがらせる風にさらされている自分の頬と耳が寒さでちょっと痛くて。
気を紛らわせようと周りを観察しながら歩いていく。


てくてくてくてくてく


通いなれてる商店街、道路の端に寄せられた泥が混じった雪
行きつけの豆腐屋の看板の上に少し残って溶けかけている雪
いつもは気にしない覚えてもいない屋根の色を隠している雪
冬の澄んだ空気の中、無遠慮に照らす太陽の光を反射する雪
しゃがんで手にとれば冷たさを自分に教えてくれる雪


てくてくてくてく


馬鹿犬は雪が積もったのを見て
「雪でござる!あと拙者は狼でござる!」
朝も早くに人(?)の迷惑も考えず叫びながら何処かに走って行った。
何処か、とは考えるまでも無いんだけど。

きっとあの馬鹿犬とアイツは
 「今何時だと思ってんだぁ!俺は昨夜仕事だったんだよ!」
とか

 「止まらんかぁ!今日遅刻したらやばいんだよ!」
とか

 「雪でそこまではしゃぐとは犬かお前は!」
とか

 「ふっふっふ、「雪遊びのプロ・ただちゃん」と言われた実力を見せてやるぜ!」

とかとかとか。

最初は嫌々部屋から引きずり出されても
最終的には馬鹿犬に付き合ってはしゃいでいる馬鹿を思い浮かべて・・・


てくてくてく


自分が浮かべている、苦笑にも見える微笑みと

ほんのり熱を帯びた頬と耳

ちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ暖かくなった胸の内

・・・はっ!
いやいや何を考えてる私、そんな気分になる相手じゃないだろう。

今日だって通学・通勤してる人がまばらな早い時間に
散歩と称してアイツのアパートに向かっているのは気紛れだ。
馬鹿犬なら軽々走破する距離とはいえ自分の足で歩いて行くには結構時間がかかる
毎朝毎朝押しかけ飛びつき顔を嘗め回し押し倒す猪突猛進の馬鹿犬じゃないし。。
かといって素直になれずにどつき回しては血の海に沈めるツンデレ所長じゃあるまいし。
会いたいとか恋しいとかいちゃいちゃしたいとか抱いてとか
めちゃくちゃにしてとか奪ってやるとか(黒い)巫女さんでもないわけで。
私の同居人達は揃ってアイツを意識してると丸判りだ。
同居人ではないが最近物心が付いた炎(を出す)の幼児だってアイツの事が好きなんだと判るし。


てくてく・・・


まぁ・・・一人で居るのも気楽でいいけど
馬鹿犬や(黒)巫女やツンデレ所長や炎の幼児が居ると退屈はしない。
アイツが加わると毎日がお祭り騒ぎになるし。

うん、退屈はしない相手だ。
好きか嫌いかと聞かれれば
「嫌いじゃないわよ、好きかどうかは微妙だけどね」
と、クールに答えるだろう。
アイツはどじでスケベで間抜けで女誑しで馬鹿で。
でも優しくてこっちの事を気遣ってくれて、飾らない態度で安心させてくれる。
出会った時から私が冷たく当り燃やしても殴っても態度は変わらず。
種族の垣根なんぞ

「何それ美味しいの?ん、美人のねーちゃんなら大歓迎さっ!
 狐だろうが犬だろうが無機物だろうが・・・
 あ、いやごめん無機物ってのはそういう意味じゃなくて、机とか新幹線の九十九神だよそんな目で 見んなー!!」

等とのたまってくれたりして。
話をしてるだけで楽しませてくれる。
種族の違いなんぞ気にもしない。
からかい99%と、馬鹿犬へのあてつけでちょっとだけ迫ると
「お前は守備範囲外じゃ!!あと5年・・いや4年・・・・」

等と言いつつ

真正面から、本心で

「可愛いけど!!!」って言ってくれる。


てく・・・


およ?

風の冷たさを感じないくらい熱くなった頬に左手を

ぽかぽかあったかくなった胸に右手を添えて

空に舞う雪を、見上げ



















いやいやいや無い無い無い!!!
右手を胸の前で強く握りしめ
ぶんぶんと顔を激しく左右に振りながら
頬に添えてた左手と、ナインテールを一緒に団扇のように振りたくる。

・・・はっ!

だだだっ

10秒も繰り返してから周囲の視線に気がついて慌てて逃げだした。

意識してしまってから触れる粉雪が一瞬で溶ける程に熱くなってしまった頬と

五月蝿いくらいの胸のドキドキを、これは走ってるせいだと自分に言い聞かせる

「馬鹿犬共々からかいまくってこのやり場のない怒りを晴らしてやる・・・」

なんて呟いて商店街を走りながら








自然と唇の端が持ち上がっている事を自覚してる。
初めまして、黒猫と申します
初投稿なうえに必然性もストーリーも無い上に短すぎる話ですがご容赦くださいませ

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