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Next Year

ここは、、、どこなのかしら。

何もない、真っ白な空間。何の音もしない。

なのに後ろでは、誰かが大声を上げているのが聞こえる。

「さあ、乗った乗った。命への切符は、すぐに売り切れちゃうよ!」

その声に引き寄せられるように、周りがざわざわと動き出す。

私は確か、ヨコシマに霊基構造を分けて、それで、、、

「おう、姉ちゃん。新入りかい。」

新入り?あなたは?

「俺が誰かなんてのは、ここじゃどうでもいい話よ。」

そうなの。じゃあ、いいわ。それよりココは?私はどうなったの?

「まあ、いわゆるひとつの、『お星様になった』ってぇやつだな。」

ああ、そうか。私は、ヨコシマに霊基構造を分けて、それで、、、死んだんだわ。

死んだのに、ずいぶん意識がはっきりしてるのね。てっきり、死んだらすぐにどこかに転生するものだと思ってたわ。

「ほれ、後ろのアレ、見てみな。アレに乗ったら、魂が転生の手続き所に運ばれて、
そこで初めて、魂が転生するってぇ寸法よ。
ココは、言ってみりゃ待合室よ。姉ちゃんみたいに、まだ現世に未練がある連中のたまり場だな。
ほれ、向こうのヤツ見てみなよ。アイツは、もう三百年もここにいるんだぜ。」

未練?確かに、あると言えばあるのかも。けど、何百年もここにいるつもりはないわ。

未練を断ち切るには、どうすればいいの?

「そこの輪っかの前に立って、意識を集中してみな。姉ちゃんが気になってるものが見えてくるぜ。」

男が指し示したのは、ただの丸い円。

その前に立って、意識を集中すると、、、

円の中が波打ち、映像が現れた。

妙神山で、猿とゲームに明け暮れるパピリオ。

魔界軍の制服に身を包み、軍務をこなすベスパ。

2人とも無事だったのね。元気そうでよかったわ。

さらに意識を向けると、、、

海の底に沈む、アシュ様の魔体。

夕日を浴びて佇む東京タワー。

そして、、、

赤ちゃんを抱いたヨコシマ、、、赤ちゃん!?

誰の?ヨコシマの、、、はずないわ。まさか、隠し子!?

わ、私と出会う前から、既に別の女と子供を。。。

ヨコシマの隣には、あの時間移動能力者の女がいた。

まさか、そいつが母親なの、、、

と、こっちは美神令子。

どういう事?まさか美神が母親って事は、、、

混乱する私をよそに、ヨコシマが、赤ちゃんに優しく微笑みかけている。

胸が、ずきりと痛む。あの笑顔は、もう私には向いてくれない。。。

――ひのめちゃん、お姉ちゃんみたいに、性悪で強欲な守銭奴になっちゃダメですよ〜

ヨコシマは、赤ちゃんに何か話しかけている。

――誰が性悪で強欲な守銭奴だっ!!私の妹なんだから、私みたいなイイ女になるに決まってるでしょうが。

ヨコシマが美神にしばき倒された。ちょっと、ヨコシマをそんな風に扱わないでよね、年増ババァ。

――横島君も、早く相手を見つけなさいな。子供を作るのに、早いにこしたことはないわ。

――そうっすね。早くアイツに会いたいっすから。

よかった、あの赤ちゃんは、ヨコシマの子供じゃなかったのね。

それに、早く私に会いたいって。

ちょっと気持ちが楽になったけど、まだ、転生はできないわ。ヨコシマが誰と一緒になるのか気になってきちゃった。

転生するのは、それを見届けてから―――



                  ※※※※※※※※※※※



「姉ちゃん、まだやってたのかい。ここに来てから、もう5年だぜ。」

ああ、そうなんだ。もう5年も経ったのね。時間の感覚が無いから、よくわからないわ。

後ろでは、誰かが相変わらず大声を上げている。

「さあ、乗った乗った。命への切符は、すぐに売り切れちゃうよ!」

でも、それも今日で終わりかしら。

ヨコシマは、顔を真っ赤にしながら誰かと向き合ってる。5年経っても、そういうところは

ちっとも変わってないのね。

ヨコシマは、懐から何かを取り出して、蓋を開けた。あら、指輪ね。

前に立っていた女は、それを受け取って、左手の薬指に通した。

ちょ、ちょっとヨコシマ、そんな所で踊りださないでよ。見てるこっちが恥ずかしいじゃない、もう。

でも、ちょっと安心したわ。やっと、ヨコシマが結婚できたんだから。

ふと、後ろ姿の女の顔が見えた。

そう、あなたが選んだのは、その人なのね。いいチョイスじゃない。

これで、もう思い残すことはないわ。それじゃ、そろそろ転生するとしますか。

それじゃあね、ヨコシマ。さよなら。

でも、意外と早く、そっちに行くかもしれないわ。

その時は、、、よろしくね。パパ。



                  ※※※※※※※※※※※




「え、子供?子供ができたんですか?」

横島は、目の前の医者と、隣に座る妻とを交互に見た。

「はい、おめでとうございます。間違いありませんよ。予定日は、来年の夏ごろですね。」

「そうかぁ、来年かぁ。早く、早く産まれて来い。」

横島は、満面の笑みで、妻のお腹に手を当てた。

「今度こそ、絶対に幸せにしてやるからな。」


Next Year 終

今回の内容は、Foo Fightersというバンドの曲からヒントを貰っています。

詞の内容が、「死と生まれ変わり」を歌っているように思いましたので

ルシオラが死んでから転生するまで、という形にしてみました。

ちなみに、横島が誰と結婚したかは、あえて伏せています。

今回はルシオラが主役ですので、ご想像にお任せします、という事で。

それにしても、一人称って難しいですね。

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