2000

灯火

「……ったくもう!」


 半ば追い立てるようにヨコシマを怒鳴りつける。
 慌てて足を滑らせてタワーから落ちていく彼を見送り
 ふと覚えたのは、奇妙な安堵。


「ふだんニブいくせに、困るときにはするどいんだから……!」


 悲鳴を上げる体。
 大量に間引いた幽体はもはや意味をなさず
 崩壊していく霊基構造をただ感じるだけで
 立ち上がることも出来ない。
 土に帰る事もない私はこのまま
 ただ消え去っていくだけ。


「……さすがに限界ね。ベスパの渾身の一撃をカバーするには、他にテがなかったの」


 ヨコシマをなんとかごまかせたのは良かった……のだと信じたい。 
 バカなあなたは、知ってしまえば
 きっとぐずるから。
 世界を消滅させてでもここに残るなんて
 言ってしまうだろうから。
 私が守りたいのは、この世界なのに。
 あなたが生まれて、暮らしてきた
 神と魔のせめぎ合いに
 永遠の茶番に囲い込まれた
 でも、確かに
 あなたがいきている世界だから
 きっと
 あなたの言葉を聞いてしまえば
 私はたまらなくなってしまうから
 ウソをついた。
 生まれて初めて
 あなたに、ウソをついた。


「ウソついたこと――――――――あんまり怒らないでね」


 眼下に広がっているはずの街灯りは
 いくら目をこらしても
 もう夜の闇に溶けてしまって
 ただ私に出来るのは
 閉じていくまぶたの裏に
 あの夕日を照らすだけ。


「一緒にここで夕日を見たね、ヨコシマ……」


 赤く染まる空に
 あんなにも安心できたのは、なんでだろう。
 逆転号で、隠れ家で、屋根裏部屋で
 そしてここで。
 いつもあなたを感じて眺めた夕日は
 本当に泣き出したいくらいに綺麗で
 だのに
 あなたは、いつもバカみたいにキスばかり迫ってきて
 殴り返したら本当に泣き出して
 すごくみっともなくて
 でも、それが私は嫌じゃなくて
 バカねと投げた言葉は
 沈む夕日と一緒に消えていった。
 
 
「昼と夜の一瞬のすきま」

 
 あんなに、キスしたいキスしたいって言っていたくせに
 最後のキスで寝ていたあなたは
 落ちかけた夕日のような残照を残すばかりで
 その一瞬のきらめきを
 私はどうしてもこの世界につなぎとめたくて
 一生分の、キスをした。 
 
 
「短い間しか見れないから……きれい」


 もう私には見られない夕日。
 あなたと一緒にいられたのは
 ほんのわずかだったけれど
 これからも、ずっと
 あなたがこれからも見つづける夕日が
 あなたに見続けてほしい夕日が
 私と一緒にいた頃のように
 ううん
 それよりも
 ずっと、ずっと
 ずうっと
 
 きれいだと、いいなあ。





こんにちは、とーりです。
また掌編で申し訳ないのですが、投稿させていただきました。
ルシオラさんのは二作目なのですが、久々に書きたくなりましたのでちょっと。
短いのですが、お楽しみ頂けたら幸いです。

背景写真引用元

http://photozou.jp/photo/list/94387/494095
フォト蔵・星空のハンターさん「東京タワーに突き刺さった夕日」
二次利用のご許可いただきました。ありがとうございます。

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