前回までのあらすじ
2010年秋。”NG”を名乗る犯罪者が−エスパーに私的に制裁を加えるある種の愉快犯−が出現。”NG”がノーマルとエスパーの溝を深めかねないと判断したB.A.B.E.Lは同時期に進められていた影チル計画を利用し逮捕を狙う。
幾つかの要因により投入される予定のなかった<ザ・チルドレン>(特に葵)が作戦の主役に。
狙われる可能性が一番高いとされる日。
B.A.B.E.Lに一人の少女−時輪コヨミが現れる。ESPにある種の耐性を持つその少女はオトリ役を務める葵と皆本の二人(厳密には二人が扮する人物)と行動を共にするために来たと告げる。
「おい、本当に良いんだろうな?」
振り返った賢木はのぞき込む皆本とチルドレンに確認を求める。
いくらB.A.B.E.L医務スタッフとして権限を有しているとはいえ、多くの個人情報が記載されているエスパー検診のデータベースにアクセスするのは気が引ける。
「かまわない、責任は僕が取る」と皆本。
若干(以上に)反則は承知しているが、命に係わる作戦中、正規の手順を踏む時間はない。
「しょうがないなぁ やり直しの合コン、どっちかを譲れよ!」
賢木は返事のしようのない報酬を求めると自分のセキュリティコードを打ち込み併せて掌紋照会に応じるためスキャナーに手をかざす。数秒後、女性的に合成された音声がアクセスが承認された事を告げる。
データーベースから情報を”洗い出す”の操作をしつつ賢木は
「時輪コヨミだっけ、奈津子嬢の親戚なら心配はねぇだろ。それとも何か引っかかる事でも?」
「ああ幾つかな」皆本はホールでのやり取りを思い出しつつ答える。
一つに『水元光』を知る事。『上野蒼』はとある劇団の子役として登録されているから調べれば分かるが、『水元光』は作戦のために急遽、用意したもの。連絡等の関係で劇団には伝えたが、それは昨日。限られた人数しか知る者はいない。
そもそも劇団からの助っ人というのが不自然。
形としては劇団に所属しているが、あくまでも『影チル』計画の一環として(薫の母親の仲介で)”名前”を借りただけ。劇団もそこ(名義借り)は承知しているはずだから、わざわざ人手を寄越す理由はない。加えてテレパシーやサイコメトリー(クレヤボヤンスも)を受けつけないというのも。
これだけ揃えば怪しむなという方が無理だ。
そうした説明する内にモニターの表示が変わる。
「よし、出たぜ。時輪コヨミの検診データーだ」
TAKE3(その3)
10月 17日 11:20AM TAKE3
少女を残しB.A.B.E.Lの中へ入った皆本はその足で医務課に向かう。
午前中いっぱい検査と訓練となっている”上野蒼”の予定に沿ってこの時間は作戦的には空白。何もなければ(すでに何度もしている)打ち合わせにでも当てるところだが現れた少女、コヨミの事が気にかかり調べる事に。
皆本がそうなら自分たちもとチルドレンもついてくる。
訪問を告げると診療室からそそくさと出てくる女性看護士。その女性と入れ替わる形で入ると露骨にイヤそうな顔で迎える親友。
その”抗議”を無視し、エスパー検査のデーターベースからコヨミの情報を引き出す事を頼む。
「よし! 出たぜ。時輪コヨミの検診データーだ」
と賢木、呼び出されたデーターに目を走らせる。
「これまで三度、早い話が定期検診だが、エスパー検診を受けている。で、結果は全て陰性、エスパーの兆候はまったくないただのノーマルだ」
「けど、検査に引っかからへんエスパーもいるんやろ?」賢木の答えに疑わしげな葵。
以前、そうしたエスパーに紫穂が殺されそうになった事がある。
「まあな。元々、絶対ってわけじゃなし、検査にかからないのに何かのきっかけで超能力中枢が活動、エスパーになっちまう事もある。ただ、その辺りまで対象を広げると、ここであれこれ言ったところで何かが分かるって話じゃねぇ」
「‥‥だな」と皆本は賢木の主張を認める。
現状、潜在的なエスパーを発見するには脳幹部を量子スキャンするか脊髄細胞を採取、DNAレベルでの解析を行うかのどちらかしかなく、どちらも手軽にできるものではない。
「まあ、エスパーだとしても自分に向けられたESPをブロックするとかのパッシブタイプだろうよ。通常の検査では検出されにくい形質だし無意識に発動するタイプなら当人だって気づかない事がある」
友の推測が正しいかなと思いつつ皆本はコヨミの事を少しうらやましいかなと思う。そうした耐性があればむやみにプライバシーが透視される(覗かれる?)事も‥‥
そこまで考えたところで紫穂の軽くかざされた手に気づき冷たいモノが背中に走る。
賢木はそんな二人を取りなす形で
「とにかく、他への直接的な影響力を持たない超能力についての調査はかなりいい加減だからな。その娘(こ)が見逃されていても不思議はないさ」
「そう聞くとB.A.B.E.Lも現金やなぁ 役立ちそうなエスパーは鵜の目鷹の目で探すクセに、こんな風に、直接、役にたたんエスパーは放ったらかしや」
葵の率直な感想に顔を見合わせる皆本と賢木。
B.A.B.E.Lというか社会にそうした傾向があるコトは否定できない。チルドレンの横暴が通るのも(某局長のド外れた愛情はあるにせよ)身も蓋もない言い方をすれば彼女たちの能力が役に立つからに他ならない。
「とにかく、奈津子嬢の親類なら、そこから精密検査を受けるように勧めるのが筋だろうな。受ける受けないは本人次第だが」
本題と逸れた提案を聞きつつ皆本はエスパーの線で少女の正体に迫るのは無理と判断する。そこに携帯が、呼び出し音から秘書官の柏木からと分かる。
ここに来る前に連絡を取り、時輪コヨミについて幾つか調べてもらう事にしたのだが、もう結果が出たのだろう。さすがB.A.B.E.Lきっての才媛と言うところか。
「はい、分かりました。お手数をおかけしました」
見えているわけではないがお礼のお辞儀をして皆本は携帯を切る。説明を待つ一同に向き直り
「劇団に問い合わせたところ上野蒼の仕事に誰かを寄越した事はないそうだ。また『時輪コヨミ』という少女にも心当たりはないらしい。あと、奈津子さんを通じて親類にコヨミさんの所在を確かめてもらったんだが、朝から出かけ所在は分からないという事だ」
「思いっきりクロやんか、それは! 奈津子はんには悪いけど、コヨミはんって”普通の人々”の一人でウチらを罠にはめに来たんとちゃうか?」
「僕もその可能性を考えたんだが、ここまであからさまに怪しいとそんな安直な結論で良いのかなって気がする。だいたい”普通の人々”ならもっと怪しくない人間を寄越すのはいくらでもできるはずだ」
「たしかにメチャ底の浅い話やもんな。まるで見破ってくれって言うとるようや」
「だとすると”裏”に何かあるって事かしら?」
いっぱしの思案顔で問う紫穂に賢木が若干の挑発を込め
「今更、遅いぜ。状況的に十分に怪しかったわけだろ、メトっときゃ良かったのに」
「透視(よ)んだわよ! でも具体的な情報は得られなかったわ」
とホールでの失態を思い出し紫穂は目一杯の不機嫌さを見せる。
「おやおや、珍しい話を聞いたな! お嬢ちゃんが情報を透視(よ)み損ねるなんて、超度7が泣くぜ」
「何よ! 透視(よ)み損ねたんじゃなくて、透視(よ)まなかったの!! 芋虫か何かを触る様な”手触り”がしたので止めたのよ!」
その時の感触を思い出したのか小さく身震いをすると紫穂は
「皆本さん、もう一度、私にチャンスをちょうだい。能力全開で深々度探査をすれば何か解ると思うんだけど」
「本気か?! 超度7でそいつをカマせば相手のニューロンシナプスを全部焼き切ってしまいかねん、下手すりゃ殺人罪だぜ!」
いきなり最凶の手段に出ようとする少女にあきれる賢木。
「そこは分からないようにやるから。それに、もしバレたって皆本さんに責任を取らせるから大丈夫よ」
「おいおい」危ない発言をかますサイコメトラーに皆本は苦笑いしかない。
一方、紫穂は『軽い冗談じゃない』と手を振ると真面目な顔で
「具体的な情報は透視(よ)めなかったけど、感情は少しだけ。そこには害意とか悪意とかネガティブなのはなかった、そこに間違いはないわ」
「へぇ〜 面白そうな娘だな。ここは一発、俺が乗り出して情報を取ってやろうか?」
「超度6のセンセイに何ができるっていうの?」と紫穂の逆襲。
「サイコメトリーだけが情報を引き出す手段じゃないぜ! 大人には大人のやり方があるってもんだ。この俺様の魅力とテクニックにかかればどんな女性だって進んで知っていることを話してくれるって」
「センセイ、目を開いて寝言を言わないで! あと1時間ほどしかないってところでそんな悠長なことをしているヒマがどこにあるのよ!」
氷点下の冷ややかさで指摘する紫穂。
「だいたいコヨミさんって女子高校生でしょ。未成年相手に手を出せば確実に手が後ろに回るわよ」
「それもそうだな。まぁ、そっちは今日が終わった後の楽しみ‥‥」
「とにかくだ!」やり取りを遮る皆本。
この顔ぶれでまともに話が進むわけはないかと悔やみながら
「コトミさんに何らかの”裏”があるのは間違いない。問題はどんな”裏”があるか。紫穂の情報が正しければ、一応は敵ではないようなんだが‥‥」
「例の変態ロリコンの”線”は? 奴っこさんのヒュプノなら全員に自分の姿を『時輪コヨミ』に見せるくらいお茶の子だろ」
多少以上の悪意を込めて可能性を指摘する賢木。直接ではないとはいえ、撃たれる原因の一端となる相手に気を遣う理由はない。
「一応、映像を初めメカニカルなセンサーをチェックしたがおかしな点はない。それに奴の場合も怪しまれない様にしようと思えば幾らでも策(て)はある」
「それもそうだな」賢木はあっさりと自分の意見の不備を認める。
全員が行き詰まりを感じる中、どちらかといえば短気な薫が
「こうなったら、連れて行きゃいいじゃねぇか! 端っから怪しいってコトで見張れば何かやらかしたって対応できるだろ! ここでグダグダと悩むよりはずっとマシじゃね」
‥‥ こもごもに顔を見合わせる面々。
良くも悪くも”らしい”目の粗い判断に思えたが、状況が明瞭にならない中、かえってそれの方が本質に近づけるのかもしれないという気もする。
「よし! それでいく! 何か企んでいたとしても近くに置いておいた方が対応はしやすいし正体を掴む切っ掛けが見つかるかもしれない」
自分を納得させるように言葉にした皆本は断を下す。
好んで危険を背負う事もないのにとあきれ顔の賢木だが口は挟まない。ただ感心するように
「ロビーでの件、こちらが今のように考え判断させるためにエミエの嘘や怪しい振る舞いをしているって線もあるな。だとするとコヨミって娘さんの背後には遣り手な策士がいるってコトか」
「言えるな」と皆本。ふと思いついた考えに顔をしかめる。
「もう一つ! 策士も策士だがその策をシれっと演じる彼女も彼女、彼女もまた相当な遣り手だってコトだ」
TAKE3 10月 17日 12:00AM
B.A.B.E.L(玄関ホール)から百メートルほど、区画の角にあるコーヒーショップ。場所柄B.A.B.E.Lの職員やB.A.B.E.Lに用がある人がよく利用するそこは時間もあってそこそこに混んでいた。
その隅のテーブル、コヨミはほたるという女性と向き合う形で座っている。
せっかく会えたのだから、時間待ちの間、互いの近況とかの話をしようと(奈津子に)誘われ、そこについてきた形(ちなみに誘った当人は『野暮用』とかで隅の方で何度も携帯を使っている)。
親友の親類という事で興味があるということだが、まず何らかの超感覚系のエスパーに違いなく、やり取りの中から意識内容に迫れる”隙”を見つけようというところだろう。
‘ふっ!’コヨミの心に自嘲めいた笑みが浮かぶ。
ESPから意識内容が守られるのはありがたいが、その理由こそが今ここに自分がいる理由というのは皮肉な話だ。
とにかく、ここまでは想定通りの展開。
いや、(こうなるように考え振る舞ったとはいえ)出来過ぎの展開。問答無用で追い出されるか不審者として拘束・尋問を受ける可能性も十分にあった事を考えれば、とりあえず運命を司る神様はこちらを応援するつもりらしい。
もっとも本音を言えば、”今回”応援するくらいなら”前回”応援してくれなかったのかとぼやきの一つも叩きつけたいところ。
そうすれば自分が”今”ここにいる事はなかった‥‥
遙か過去−この国が神話の混沌の中にあった頃−予知能力を有しそれを使い時の構造を解き明かした一族がいた。
トキヨミと呼ばれた一族はその知識を持って未来や過去、さらには平行世界にすら手を伸ばしやがて神をもしのぐ力を得たとか。
その一族の支流とされる時輪家、いつの頃からか『破時鬼虫』と呼ばれるモノが代々の一人に寄生し現在に至っている。
破時鬼虫、もしくは『お破時鬼様』とも称されるそれはESPに対するある種のプロテクトになる事から超心理エネルギーに近いエネルギーで構成された非物質的存在‥‥と、もっともらしい説明もできるが、有り体に言って妖怪とか物ノ怪、あるいは神様としてしまうのが一番しっくりとする存在。
始原についてはトキヨミが関わり、時輪が取り憑かれたのもその末であるためともされるが真実は過去の闇に飲まれている。
見た目は『虫』の文字が示す如く約40cmほどの全長を持つ(巨大)イモ虫。常に寄生した者の近辺にいるが認知できるのは破時鬼虫が認めた相手だけ。それ以外の者が存在を知る事はない(ちなみに超感覚系高超度エスパーだと”何か”がいるの程度は判るが、それが限度。ノーマル同様に認知はできない)
行動から見て犬や猫程度の知性はあるようだが、本当にその程度なのかまったく異質な思考様式のためそう見えるのかは判然としない。
特筆すべきは物理法則をねじ曲げる”力”を持つエスパーですら(既知の範囲だが)発現した事がない時間跳躍−時輪では『時をハジ(破時)く』と称する−能力を持つ事。
寄生された者はそれにより満月の前後(滞在時間や持ち込める物等、諸々の制約はあるにせよ)過去に戻り現在に帰ってくる事ができる。そして時輪の家は代々、この”力”を用い起こった事件を(過去に戻り)修正、そこで犠牲になった人々を助けるコトを使命としてきた。
代々に受け継がれた使命、B.A.B.E.の予知出動に似てはいるが、係わる者に”呪い”に等しい心の重荷をもたらす。
その一つは”時”には重さ、慣性があるという事。
ある出来事を過去に戻って修正しても、”時”はそれを拒むように何事かを引き起こし帳尻を合わそうとする。
不用意な修正は別な犠牲者を生み出すだけに終わる事は珍しくなく、この場合、”修正”さえしなければ(誰かが助かったにせよ)死なずに済んだ命だ。
さらに”重い”のは成功・失敗にかかわらず自分たちが命の選択をしているという点。
この国で起こる事件・事故(とそれで死ぬ者)の数と比べると月に一度という数はあまりに少ない。対象を決めるたびに(数で言えば)その何十倍もの人間の命を見殺しにした事になる。
『一件につきチャンスは一度。やれるだけやったら後は忘れる』
『救うのは子供が優先!』
『救える人数が多い方を優先!』
『確実に救える人を優先!』
『こっちの正体を知られないことが絶対条件!!』
以上はそうした経験の積み重ねの中から生み出されたルール。
『かけがえがない』とされる命を選んでいる事実に変わりはないが、時輪の代々はこれを守る事で自分を納得させ、この虚しさやるせなさを通り越しバカバカしい使命を果たしてきた。
自分が先代である祖母から使命を引き継いだ(破時鬼虫が取り憑いた)のは四年前、十三歳の時。以来、多くの命を救ったのも確かだが、同時に救えなかった命、”修正”のせいで失われた命を目の当たりにしてきた。
そして”今”自分はこれから起こる惨事をくい止めるためここにいる。
今日という日の午後。
反エスパー過激団体である”普通の人々”のテロに対応した特務エスパー−入手した情報ではさっきロビーで出会った赤毛の少女がそう− の超能力が暴走。誤って遠足帰りの幼稚園児とその家族を乗せた観光バスを破壊してしまう。
それによる犠牲者は幼児を中心に死者十三名、重軽傷者三十二名。事件全体として、自業自得ではあるが”普通の人々”の死者七名とB.A.B.E.L特務エスパーの死者一名−こちらは上野蒼と名乗る少女−がそこにプラスされる(犠牲といえば、赤毛の少女は自分の行為に絶望、原因となった超能力を除去する手術を受ける事に、それも犠牲といっていいだろう)
時間の”重さ”は犠牲に大きさと連動しているわけではないが、これからの自分に多くの命がかかっている事を考える今からでも逃げ出したく‥‥
もちろんそんな事はできるはずはないしするつもりもない。
というのも、この事件、B.A.B.E.L絡みで情報に乏しく、『確実に救える人を優先!』のルールに抵触するという事で選ばれなかったものをあえて強く望み選んだから。
そこには数もさることながら二人の特務エスパー(共に十歳、一人は命を失い、一人は背負いきれない罪を負った)を救いたいという気持ちが。
自分にとって最初の仕事は小学校に暴れ込んだ男からその男に殺されるはずであった八人の子供を助ける事。結果、一人は助けられず死ぬはずのなかった一人が死んだ。
『初めて』『十三歳』『二人で済んだ犠牲』コトの次第を知る者は良くやったと言ってくれる。しかし、二人の未来が失われた事実に変わりはない。
その代償行為‥‥ と言えば、失われた命への冒涜。
けれど、助けられなかった二人と同い歳の少女二人、助けられるなら助けたい。まして、たまたま強大な”力”を持ち合わせた事により特務エスパーという特異な役割を与えられ、その結果、失われた命と未来。『たまたま』こんなろくでもない使命を負わされた身として他人事にはできない。
「どうしたの?」
ほたるの声でコヨミは我に返る。たぶん思考の深みに入り込んだせいで表情が消えたのだろう。
「別に何も!」と”明るい”女子コーセーを演じる。
「奈津子お姉さんもほたるさんもバリバリ仕事をしている感じなんで凄いなぁって うらやましく思ってたんです」
「そう? この仕事、そんなに大したものじゃないんだけどねぇ こんな風に簡単にさぼれるし」
「そういえば、仕事を押しつけられた人、急な話で災難ですね」
コヨミはあたふたと現れ交代を申し渡された、それぞれ『アホ毛』とも言われる跳ね上がった髪と大きな瓶底メガネが印象的な二人の困り顔を思い出す。
「いいのよ! 一期でも先任は先任。先輩の無理を聞くのも後輩の仕事なんだから。それに若い内は苦労を買ってでもしろ、って言うじゃない」
台詞が三十路のお局様のようだったコトに気づいたのか、ほたるは『クスリ』と笑う。
そこへ戻ってくる奈津子。
「今、連絡が入ったんだけど、上野さんの検査と訓練が終わったって。あと、水元さんから、ここから午後の仕事に行くからいっしょにって」
「本当ですか! 良かった!!」コヨミは心からの喜びで答えた。
”未来”にまだ希望はある。
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