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ルシオラ・ダークリー


 はい、もしもし?

 ……なんだ、親父か。

 心配って何が?

 ああ、あれか。やっぱ、そっちでも報道されてんだ。
 もちろん、ちゃんとした方だよな? 未だに人類の敵扱いだったら泣くぞ。

 うーん……成り行きとしか言いようがねえな。とにかく息子がヒーローになったってんだから、もっと喜べよ。確かにスパイなんて役だけど活躍したんだぜ。大体、心配してんならもっと早く電話でも――

 えっ。電話料金は引き落としじゃ……

 しょうがねえだろ。そんなにいうなら端からもっと仕送りを――ん?

 いや、誰か来たみたいだ。

 そう? じゃ、また後で。

 ああ、話しときたいこともあるからさ。もっかい掛けてくれよ。
 それとさっきの話だけど仕送り――って切りやがった。まったく、あの野郎は。





 はいはい、今あけますよっと。
 ――おっ、おキヌちゃんか。

 いや、いいんだよ。ちょっと親父と話してただけだから。おキヌちゃんの方がよっぽど大事だ。

 ほんとにいいんだって。どうせまた掛けてくるし。

 それより、おキヌちゃん。スーパーからここへってことは、わざわざ飯作りに来てくれたの?
 悪いなぁ。

 俺が心配? 親父じゃあるまいし、おキヌちゃんまでなんで――

 ちょっと、俺、有休扱いになってないの! 美神さんから何も聞いてない?

 だよな。
 ああ、びっくりした。美神さんのことだから自分から言い出しといて、やっぱり気が変わったわーなんつって、なかったことにされんのかと思ったぜ。

 いや、別に暇だし事務所に行ってもいいんだけど、まだ仕事は何にもないんだろ。あの美神さんが有休くれるなんて、もう二度と起こらない珍事だろうから目一杯堪能しとこうと思ってさ。
 まあ、貧乏には変わりないんで、大体は家でのんびりごろごろしてるだけなんだけど。

 そうなんだよ。こっちはまだ学校始まってないんだ。そういうとこ、六道女学院はさすがだよな。
 みんな、大丈夫だった?

 そりゃ、良かった。前途有望な若い娘たちに何かあったらもったいないもんな――っと、これは変な意味じゃないぞ。純粋に無事を喜んでるだけだからね。

 俺の学校ねえ……
 ピートは知ってるだろ。小鳩ちゃんとも一度会ってたよね。後は、そう愛子も元気だったぜ。

 他の連中は……どうなんだろ? 正直、あんまり興味が……

 だって、最初の報道の後で学校行ったら、散々俺の机に罵倒が書き込まれてたんだぜ。あんな奴らの心配なんかしてやるもんか。それに、どうせ学校が始まったら、何事もなかったって顔して登校してくるに決まってんだから。

 ――って、ごめんごめん、ずっと玄関先で話しちゃって。
 さ、上がって、上がって。

 どう? それなりに片付いてるだろ。いつまでも部屋の掃除をたまに来てくれるおキヌちゃん任せってわけにはいかんからな。

 うん、わかるよ。意外だろ。
 フフフ、実はこれには訳があるのだよ。この横島忠夫に起こった素晴らしい奇跡を、おキヌちゃんに最初に教えてあげよう。

 いや、かといってそう畏まられると、逆に話しづらいんで普通にしてて、うん。

 実はさ……ルシオラが戻ってきたんだ。
 ――といっても、言葉通りってわけじゃないけどさ。
 なんていうのかな。ルシオラの影みたいなものが俺に付き添ってくれてるんだ。

 最初は俺も気付かなかったけど、だんだんあいつが近くにいるのを感じられるようになったんだよ。
 ついさっきもここにいたんだぜ。

 ん、魔力の痕跡を全然感じないって?
 それじゃ、俺の霊体にルシオラ譲りの部分があるせいなのかもな。あいつがいてくれるんなら、俺には理由はどうでもいいけど。

 いや、俺の中に感じるとかじゃないんだよ。ついに昨日からは、うっすらとだけど姿も見えるようになったんだから。

 そう、それが理由さ。恋人が傍にいるのに、だらしなく散らかしっぱなしっていうのもあれだろ。ちゃんとやってるってとこを見せなきゃいけないからね。
 ナンパだって、もうしないと思うな。

 いやいや。だって前までの俺なら、ヒーローってステータスを手に入れたら、ナンパに活用したと思わない?

 でしょ――そう力いっぱい肯定されるのもあれだけど。
 まあ、ともかく今の俺はそんなことはしない。ルシオラが拗ねちゃうもんな。まだ表情まではわからないけど、そういう雰囲気はなんとなく分かるんだよ。昨日なんか恨みがましい視線を感じ――

 ははは。そう、ナンパをやめようと思ったのは昨日のそれからなんだよね。
 山ほど報道されてたから、顔も売れてるみたいだし、本当に珍しいことに手応えを感じてたんだけどなぁ。

 ちょ、だから結局成功してないってば。おキヌちゃんまで怒ること――怖いって! シメサバ丸持ってそんな顔しないでーーーっ!





 ふぅ、ご馳走様。やっぱ、おキヌちゃんの飯はうまいなぁ。
 これからはカップ麺や弁当じゃなく、きちんと自分でも料理しようと思ってるんだけど、こんなに上手くは絶対作れねえだろうな。

 え? 

 もちろんだよ。これからも飯作りに来てくれるのは大歓迎。――あ、だからって別に無理はしなくてもいいよ。当然だけど。

 ん? さっきの話って何?

 ええっ、ルシオラがおキヌちゃんに嫉妬しないかって?

 まさか。全然気にすることないよ。
 短い間だったけど、俺たちの関係はちゃんとルシオラも知ってるさ。変な誤解はしないって。



 ――あっ、ほら。そこだよ。

 おキヌちゃんはどう思う?
 おぼろげだけど、俺に微笑んでくれてるみたいじゃないか?




 元々は信頼できない語り手もののつもりで書いていたのですが、わざわざそう書かないと伝わらないかなという気がして、ほったらかしてあった話です。
 ただ、そのまま読んでも地味にちょっと嫌な気分にはなりそうだと思ったので、クリスマスしねしね団という企画にはあっているかなと。

 個人的には映画「三十四丁目の奇跡(47年の方)」が大好きで、クリスマスは博愛精神の日だと思っています。

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