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おキヌちゃんのクリスマスプレゼント


「先生、このダンボールは、どうされますか?」

 師走。その呼び名が表しているように、今年の年末もとても忙しい。
伊達&氷室除霊事務所の一室。
私は書類の整理をしている所で、助手の一人にそう声をかけられ、書類をめくる手を止めた。

「えっと……、なんだったかな……、そのダンボール。随分古そうですね。ちょっと置いておいて下さい。後で見てみますから」

 随分とボロボロなダンボール。
 私が、伊達さん、そして妻のかおりさんと共に、事務所を立ち上げる前からの物かも知れない。

「うんと……、この書類が終わったので、先にオカルトGメンに持っていってもらってもいいですか?」

 トントンと書類を揃え、助手の子に手渡す。
 来年から、私はロンドンに向かう。
世界で四人しかいないネクロマンサーとして、この業界でもう10年以上経ち、それなりに実績を積んできた。
 そして、来春からロンドンのヘルシング名誉教授に招かれ、オックスフォード大学で教鞭をとる事になった。
この十年、美神さんの元を巣立ってから、色々あったけど、また大きな転機を迎えることになった。

「んーーーーー」

 助手がドアを開けて出て行ったあと、大きく背筋を伸ばし、ゆっくりと息を吐く。
 ぼんやりと窓の外を見る。

 雪

 白い雪が、ゆっくりと窓の外を舞い落ちている。
12月の寒い風の中を、フワフワと漂いながら、静かに降り積もっていく。
きっと、今夜は白く、ただ真っ白く街を染め上げるのだろう。

「ホワイトクリスマス……か……」

 呟きながら、席を立つ。
 今夜は聖なる夜。
 
 もしかしたら、日本で過ごす最後のクリスマスになるのかもしれない。




    おキヌちゃんのクリスマスプレゼント



 古く、変色したガムテープをゆっくりと剥がしていく。
色があせ、もろくなったダンボール。
 指先が震える。胸の奥がジンジンと痛む。
不思議……。もう、とっくにそんな気持ちは、卒業したと思っていたのに。
 完全にガムテープを剥がし、焦る気持ちをごまかしながら、ダンボールを開く。

「やっぱり……」

 わかってた。
その箱にぎっしりと詰められた物。美神事務所の中での、思い出の品。
 一番上に、最初に貰ったネクロマンサーの笛がある。
除霊で壊れてしまったけど、どうしても捨てられなくって、ここにしまっていた。
 震える指先で触る。憶えている。
霊団に追われ、自分の記憶に導かれて、また二人にめぐり逢えた時の気持ち。
あの時感じた、生きる喜び。出会えた喜び。

「懐かしいなぁ……」

 いろいろなものを取り出していく。
学生時代の制服。皆で撮った写真が入ったフォトブック。六道女学院霊能科の卒業文集。
懐かしい物が、どんどんとダンボールから出てくる。
 社会人になり、充実しながらも忙しい日常に紛れ、忘れていた気持ち。
ダンボールから物を取り出す度、そんな忘れていたナニカを思い出す。
 それは、まるで、昔の私から、現在の私へと贈るクリスマスプレゼント。

「あっ……」

 突然、指が止まる。息を呑む。
咄嗟に、このままダンボールを片付けたい気持ちがあふれる。
 止まったままの指先が震える。心臓が、胸が苦しい。
ため息を一つ……。ゆっくりと手を伸ばす。

 ソレに触る。柔らかい。十年以上の月日が過ぎた今でも、その生地は全く痛まず、あの時のまま。
色もあせず、破れもせず、ほつれも無く、あの日と全く同じ状態でそこにあった。
 震える手でゆっくりと取り出す。

 ふんわりとした白いプリーツスカート。薄いグレーのジャケット。

 あの日、彼から貰った、クリスマスプレゼント……。
そう、あれが私にとって、初めてのクリスマスプレゼント。
 そして大好きだった彼から貰ったプレゼント。

 きっと、今夜……、彼はサンタクロースの格好で、美神さん……いや、令子さんと、娘の元へ帰るのだろう。
もう、何年も会っていないけど、きっと彼なら、そうするだろうと思う。
 家族三人で仲良く、ケーキを食べたり、ご飯を食べたり、令子さんにはアクセサリーのプレゼント。
娘さんには何だろう……、絵本かな、それともお人形だろうか。

 ぽとり……と、涙が落ちる。

 諦めたはずなのに、忘れたはずなのに。

 ぽとり……と、涙が落ちる。

 窓の外は雪。

 きっと今夜は、ホワイトクリスマス……。
身の程知らずにも、参加させて頂きました。
なんというか……、昔の恋人から貰ったクリスマスプレゼントが、ふとした拍子で出てきた時って切ないですよね。
それを少しでも表現できたらと思いました。
それでは、今から出勤です。
ううう、クリスマスは飲食業にとっては地獄でしかないです。

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