12926

美神の血はワインよりも濃く


これはとある少女の成長記録である









『美神の血はワインよりも濃く』 〜素直なひのめ〜










兎にも角にも素直な子に育って欲しい
そう周りに強く願われたのは、彼女が産まれる前、母である美智恵のお腹の中にいる時からのことであった
あまりにも意地っ張りで、我が強く、素直じゃない姉の所為である

絶対に似てくれるな、ほんと、マジ、頼みますから!

これはその姉の丁稚を勤める少年の声

素直に、そして穏やかな少女になって欲しい

これはその姉の、そして美智恵の師匠を勤めた男性の声だ
他にも似たような声は沢山あるが、どれもこれもが『姉に似ないで欲しい』とのことだった
・・・一部では『出来れば母親にも』との声もあったとか

それらに対しての、姉である美神令子の声

「あんたら私をなんだと思ってるんだ!!」

そう発言した後、丁稚の少年がボロボロになったとか・・・

まあ本筋には関係が無いので丁稚少年、横島はほっとくとして
何が言いたいかというと

『素直で優しい少女になって欲しい』

そう願われて美神ひのめは産まれ、そして教育されて育ったということだ













○月△日 美神ひのめ 3歳

その日、美神除霊事務所には所長である美神令子と、先ほど紹介された丁稚少年、横島忠夫
それに居候権美神令子のアシスタントを勤め、更には家事全般を務める氷室キヌに、
自称横島忠夫の弟子を名乗るも、完全に愛犬と化している人狼の犬塚シロと、とても大妖の転生体とは思えないぐらいグータラしている九尾の狐、タマモが寛いでいた

どうやらその日は特に仕事の予定もなく、緊急の依頼に対してそれぞれ英気を養っていたようだ

「・・・こっちでござる!」
「残念でした〜そっちはババよ!」
「またシロの負けか、お前は顔に出すぎるんだよ」

(まあこれも英気の養い方の一つか)と苦笑を漏らし、実は自分もババ抜きに参加したいな〜なんて思ったりしている美神令子に、頭上から声が響いてくる

この事務所、建物その物に取り付く幽霊バトラー人工幽霊一号である

『美神美智恵様と、ひのめ様がお越しです』

その声に今までババ抜きしていたシロとタマモの顔が『げっ』ってな感じに引きつり、編み物をしていたおキヌちゃんの手が止まる
そして美神令子の額にはうっすらと青い血管が浮かび上がってきた

ただ一人平然としてるのは横島忠夫のみだ

部屋は美智恵とひのめが入ってくる僅かな時間、微妙な静寂と空気に包まれた

バタン!

力いっぱい開けたのだろう、勢いよく開かれたドアとそこから駆けてくる小さな女の子。
美神ひのめ嬢のご登場である

「おにいちゃーん!」
「おーいらっしゃいひのめちゃん!」

歳のわりにはしっかりとした口調で、横島に駆け寄る美神ひのめ
もう周りにいるシロだタマモだおキヌだ我が姉だなんて見えていないという感じだった

ひのめはそのまま横島の元に両手を広げて駆け寄ると、その胸元目掛けてダイブする
当然それを優しく受け止め、そのままひのめを抱っこする横島

「ん〜おにーちゃん、大好きーー!」
「あははは、ありがとーひのめちゃん」

抱っこされご機嫌なのか、横島の頬にちゅっちゅする我らがひのめ嬢
最近ひのめが事務所に預けられたり、遊びにきたりすると必ず見られる光景だった

そして、それが面白くないのが約4名

「・・・あ〜ら仲良しね〜横島くんにひのめ?」
「ほんと、まるで実の兄妹のようですね〜」
「ついこないだまで拙者らが一番・・・」
「やっぱ女より男のほうがいいのね」

幼児相手に妬くなと言いなかれ
実の姉であるプライドや、それまで一番めんどう見てきたとう自負や、共にお世話してきたのにとう事実が、恋愛感情と混ざり合い化学反応を起こしているのだ
更には、

「あ、お姉ちゃん達いたんでしゅか?」
「「「「・・・・・」」」」

このひのめの態度が勘に触るのだ
ちなみにひのめの名誉のために言っておくと、彼女は別に皮肉交じりで言ったわけではない
本当にガチで、横島しか気づかなかったのだ

「おにーちゃんしか見えてなかったです」
「あ、あははは・・・」

なんと答えたらいいか戸惑う横島の腕の中、姉達を目の端に入れる程度に眺めると、再度横島の頬に『ちゅう』の嵐を再開させた

まるでそっちを気にしている暇などない、時間は一分一秒でも惜しい。そんな時間あるなら横島とイチャつきたいと言わんばかりの態度である

「あらあら〜、ひのめったら横島クン大好きなのね〜」

そんな様子に苦笑を隠そうともせず、遅ればせながら部屋に入ってきたのは母、美智恵
ひのめは横島から目を離そうともせずに、いやその瞳は横島の瞳だけをただただ真剣に見つめてはいるが、あくまで母の声に答えた

「大好きです」
「え、あ、ちょっと!?」
「「「「!?」」」」

まるで宣戦布告のような態度にも取れる、はっきりとした物言いだ

「あらあら〜」
「誰よりも好きです、ママよりもパパもよりもお姉ちゃん達よりも」
「「「!?!?」」」」

それはひのめの本音だった
美神ひのめ、ただいま3歳と数ヶ月、小さな胸の中は横島で埋め尽くされていた


『ひのめ3歳、宣戦布告する?』

「ちょっとショックだったけど・・・ほんっと素直に育っててママ嬉しいわ〜」
「素直すぎでしょ!!」

ちなみに、この後丁稚少年、横島は美神令子他多数に暴行される予定でしたが

『お兄ちゃん叩いたら、一生口聞かない』
『お兄ちゃん叩いたら、嫌いになる』

等のひのめちゃんの発言により、堂々とした暴行を行えずに(こっそりひっそりは有)、そのうっぷんは悪霊などの除霊対象にぶつけられるとことなったそうな

『ひのめ3歳、横島のガーディアンになる』

「お兄ちゃんはひのめが守る!」
「あ、ありがとう、ひのめちゃん・・・(後が怖えーーーー!!)」














○月×日 ひのめ11歳 (小学5年生)

小学校時代、参観日の日に『家族について』の作文を読まされるのはアニメや漫画のデフォだろう
正直な話、リアルではそんなベタな作文など読みはしないのだが、この小学校ではそんなベタな真似をしくさった

だがしかし、そんなほのぼのとした空気を作るだろう作文のお題を使い、まさかここまでの重苦しくもどろどろのピンク色空間を作る事が出来るなんて一体誰が予想しただろうか?

タイトルは『私の旦那様』

そのタイトルが読み上げられた瞬間、何故か参観日に呼ばれてノコノコと現れてしまった横島は、もの凄い悪寒が背筋を駆け巡ったそうだ

「え、ちょ、は?ひの・・・美神さん?」

愛子先生も困惑気味だ
ついついひのめの保護者として学校に訪れていた、横島と美神令子と美智恵に目をやる

(どういうこと?)
(あ、あはははは・・・すまん、愛子)
(あの馬鹿妹!!)
(流石私の娘だけあるわね〜)
((感心してる場合か!))

横島が呼ばれた理由はこれだろう
大勢の大衆の前で旦那様宣言&奥様宣言、これは勇気がいるが=愛の強さだ
更に言うならこの年齢、恥ずかしいなんてもんじゃないだろう・・・普通なら

だが、ひのめは『美神』の血を引く女傑である

若い頃、半裸で走り回る事を気にしなかった母を持ち、
いまだボディコン服を愛用する痛い姉を持つ女傑である

怖いものなんて存在しないのだ

「ちなみに私の旦那様(確定)は、其処にいるバンダナを付けた横島忠夫お兄ちゃんです♪」
「「「!?」」」

いきなりの爆弾発言だって怖くない
保護者及びひのめのクラスメイト(ひのめに気があったと思われる男子)の視線が、ヤリとなって横島に突き刺さる(ちなみにこの時横島は、既に成人し社会人ではあるが、バンダナを外すことはなかった)

「今はお姉ちゃんの事務所で、お姉ちゃんの部下として働いていますが、私が16になったと同時に独立させ、東京を離れ別の土地(候補地:できれば海外)で開業する予定です!」

16と言えば女性が結婚出来る年齢である
つまりこれは、誕生日と同時に横島忠夫を手に入れるという宣言でもあるのだ

(どおりで最近英語塾に通うとか言い出すわけだわ〜)
(そこまで本気か我が妹!?)

更に続くひのめの作文は、どんどんと加速してヒートアップしていき・・・

「そして私と旦那様は、遠く離れた土地で愛を確かめ合いながらも仲睦まじく、お互い助け合いながらも──(以下、長すぎる為に省略)──子供は3人、犬一匹、だけど旦那様はその・・・ちょっと普通の人よりエッチな方なので、三人以上出来ちゃうかもしれませんけど///まあ、それも有りかな〜なんて、それで──(以下省略)──どんなに歳をとっても──(以下略)──×××で、○○○で、朝チュンで──(過激な発言につき省略)──お兄ちゃんは文珠っていうとても珍しい能力の持ち主で──(以下、文珠の説明につき省略)──どんなに歳をとっても『若』って込めれば何歳になっても○○○出来るわけで──(再度、過激な発言につき省略)──それに年齢差は16、旦那様が40になっても私は24なわけで、これは──(以下、時々同じような内容も含まれ、ひのめ自身も暴走し始めたために省略)──そしておじいさんになっても、幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし♪」

「「「「昔話!?」」」」

仕事柄&種族柄、体力が余りある4名(横島、令子、美智恵、愛子)の突っ込みが教室内に響いた所で、半分気を失っていた者、悶絶していた者、前屈みになっていた者が我にかえった

気がつけば既に日が落ち始めている時間、本来はクラスメイト全員が発表する筈だった作文は、ひのめ一人の暴走に巻き込まれて終わってしまったのだ

あまりにもストレートかつ強烈なラブストーリー、時にはラブロマンス、時には大スペクタクルで、全米が泣き出しそうな長編作文
己の胸の内にある、願望欲望愛情性欲などなどを、兎に角『素直』にペンに込めた結果が其処にはあった

『ひのめ、11歳で人妻宣言(縛)←誤字にあらず』

「・・・教育間違えたかも」
「「今更かい!」」
















○月×日 ひのめ 16歳

・・・等々来てしまったひのめ、16歳の誕生日
本来なら盛大なる誕生日会が開かれる筈であった今日という日は、ある種歴史に残る一大決戦となっていた

響きわたる銃声に罵声に悲鳴

『メーデー・メーデー!こちらフォックス&ウルフ!目標は第一、第二バリケードを破壊!!』
『毒ガスもレーザーも効いてないようでござる!どうぞ!!』

場所は東京地下にある秘密基地だ
入り口より尤も離れた場所に、簀巻きにされて横たわる横島を狙って、一人の夜叉が歩み行く

「ほんまに人間か私の妹は!?」
「み、美神さんも人の事言えないんじゃ・・・」
「あ、愛の力って偉大ですよね〜」
「「・・・そういう問題かこれ?」」

『なッ!?こちらカオス!マリアが力負けしたぞい!?』

敗残兵に興味はない、ただその想いも意思も思考も行動も全てが、ただひたすら真っ直ぐに、かつ『素直』に一人の男を求めているだけだった

『せ、先生・・・僕は・・・もう・・・』
『し、死なないで下さい西条先輩!!』
『・・・ピートくん、もう、彼は・・・』

向かってくる者に容赦はない

『トラ!素通りされました!!・・・産まれて初めてジャ、影が薄い事を感謝したのは・・・』

影が薄いヤツには興味もない

『俺、これが終わったら結婚するだ・・・』
『あかん、それフラグやで雪之条はん』

フラグを立てようが何しようが、一切合切興味などない

「・・・お兄様」

様々な返り血を浴びるも、自らの血は含まれず

「今、お迎えに上がります」

我らがひのめ嬢は傷一つないお姿で銀行の金庫レベルのドアを炎で溶かす
これが最後のバリケード?
いや違う、簀巻きにされた横島に腰を掛け、悠然憮然と佇むは己が姉

「・・・お姉ちゃん」
「ひのめ、強くなったわね」

同じ『美神』の血を持つ者同士
しかしてその中身は『前世の記憶にプロテクト掛けるぐらいの意地っ張りな女性』と『幼少の頃よりただただ一人の男性を求める素直な女性』と、まったくの正反対

そんな2人が1人の男を巡って

「もう言葉はいらないわ」
「勝ったほうが、お兄ちゃんを手にする」

今、激突する!

「「がああああああああああああああああ!!!!」」(バキと勇次郎風)






























「・・・『素直』にしても『意地っ張り』しても、限度ってもんを知らんのかこの一族は!!」
「そうですよね〜・・・よいしょっと、さあ今のうちに逃げちゃいましょう忠夫さん♪」
「え゛?」

「食らえ爆炎!!」
「吹き飛べ兆単位札乱れ打ち!!」

おキヌが横島を引きずってお持ち帰りされる最中、姉妹の無意味な戦いは丸々一週間続いたそうな・・・













ちゃんちゃん♪












オチも今一だし、内容もなんか納得いかないな〜なんてぼやく私
皆様、お久しぶりでございます、紅白ハニワです・・・OTL

スランプに陥り、更にはドラクエとモンハンと禁書録(今頃かよ)に嵌まって、ずるずると消え行く所でしたが、ふとした瞬間にSSネタを考えてしまっている自分に気づいてしまいました
ある種の中毒なのでしょうか?ww

これからもネタが思いつき次第、何か書き此処に投稿させて頂きとうございますゆえ、どうか皆様よろしく願いします

・・・長編考えてるけど、纏まるかな〜?

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]