1931

超度X V

「誰もいないみたいやな…………」


葵のテレポートで東京タワーに入った4人は、警戒しつつ、タワー内の様子を伺う。


「紫穂、透視は出来るか?」


「ちょっと待って…………」


紫穂はタワーのエレベーターまで歩み寄ると、そのドアに手を触れた。


しかし


「……ダメ。透視が効かないわ」


「そんな…………」


「でも、これでこの中にその超度Xがいるのは分かったな、皆本」


「あ、ああ…………」


薫には一応頷いたが、皆本は引っかかって仕方がなかった。


(可能性は50:50…………罠とも

「…………エレベーターは閉じ込められる可能性もある。階段で行こう」


皆本を先頭に、一同は階段を登り始めた。














「くっ! こいつ、しぶといわね!」


蕾見不二子は唾を吐き捨てると、目の前に最初と変わらない様子で羽ばたき続けるモズラ(仮名)を睨む。


「管理官! こいつ、ダメージがあまり喰らっていないようです!」


シャドウ・オブ・チルドレンを操るティムが、焦った口調で言う。


「傷自体が修復されてる訳ではないようです。恐らく、痛みを感じてないのかと…………」


先程やって来た小型ヘリに乗りライフルを構えるバレットも撃ち抜いた羽やらを確認して言った。


さらに賢木が続ける。


「それに、まだ分からない事だらけです、管理官。こいつらを倒せたとしても、まだ次が来る可能性だって有りますし…………」


「元を叩かなきゃならないわけね……っだぁっ!!」


気迫と共に放たれた衝撃波が、モズラ(仮名)の同体へと叩き込まれる。


が、ダメージこそ与えているが、一向に弱ったり怯んだりする様子はない。


(正直、私がここを離れたら厳しいわね……ティムの力はいつまでも持つわけではないし、怯まない以上射撃は意味がない…………)


不二子は一定のリズムで衝撃波を飛ばし、モズラ(仮名)を抑えつける。


(他のみんなも大丈夫ならいいんだけど…………)














コツコツコツ……


階段を登る足音が、不気味なまでに静かなタワー内に響き渡る。


少しの異変なども見逃さないため、テレポートやサイコキネシスでの移動は避け、メンバー全員階段で上へ登っていた。


「つ、疲れた……皆本、少し休もう」


最初は先頭を歩いていた薫が、真っ先に足を止めた。


流石に東京タワーを徒歩で登るのは無理がある。皆本は仕方なく歩を止めた。


「分かった。少し休憩しよう」


そのセリフを聞くや否や、3人は階段にどさりと座り込んでしまった。


「さ、流石にきついわね…………」


「せやなー……これだけ歩くとカロリー大分消費してるんとちゃう?」


「確かに……何か普通に歩くより疲れてる気がする…………」


(やっぱり精神的に厳しいか)


座り込む3人を見て、皆本は顔をしかめた。


ただでさえ、階段をひたすら徒歩で登るのは疲れる。が、現在はいつ敵が来るか解らないのだ。そういった緊張やその他のプレッシャーが、3人に精神的にもダメージを与えていたのは明らかだった。


(紫穂の透視が効かなかったのも考えると、ここに敵が潜伏している…………だが、それが僕らを引きつけるためのダミーって可能性も……)


ダメだ、と皆本は繰り返す思考を一度中断する。考える度に、深みに嵌って行く。


それを断ち切るかのように、皆本が出発しようと口を開きかけた時――――――


「みっつけたぁぁ――――――『ザ・チルドレン』ッ!!」


「なっ!!?」


突然、辺りの鉄筋がいくつかぶっ飛び、1人の少年が現れた。


「中々来ないから心配しちゃったよぉー!」


「うげ! 何やあいつ!?」


葵が気持ち悪い、と言わんばかりに顔を背ける。


その少年は、いわゆるオタクの模範的な奴だった。


「メガネで太ってて脂汗が凄くて目つきと口調がいやらしい……絵に書いたような人ね」


「いや、あれは単に変態なだけだろ?」


敵の強襲にもかかわらず、こういったセリフが口からこぼれるのは仕方がないのだろうか。


「こらこらこら! ボクを無視するなっ!」


と、両手を前に突き出し――――


「行けっ、スピアビーっ!」


そこから、大量の蜂――――美少女がそれっぽくコスプレした――――を出現させた。


「っ! このぉっ!!」


薫はその蜂の大群に向かって、鋭い刃のサイコキネシスを放つ。


「念動ぅぅぅ――――ぶった斬りっ!!」


真一文字に振り抜かれた右腕は、刀のように研ぎ澄まされた衝撃波を飛ばした。


蜂の大群はその直撃を受け、大半は真っ二つに切り裂かれた後に、塵に変化して風に散った。


「お、お前っ! ボクのスピアビーを斬ったな!? 許さないっ!」


「や、斬らなきゃ私達がやられてたし」


「無駄よ薫ちゃん。精神年齢の低い人に説明は意味がないわ」


「そらそうやなー」


「う、うるさい!」


そう言って、また少年が攻撃の構えに入ると、


「落ち着きなさい、“玩具の支配者トイ・マスター”。“融合博士Dr.フュージョン”に怒られるわよ」


その少年の背後に、髪の長い女性が現れた。年齢は皆本と同じくらいだろうか。


「だって仕方ないだろ、“鉄壁の守護者ガーディアン”! あいつらボクをバカにして――」


「はいはい分かった。あなたは少し落ち着きなさい。せっかくバベルから『ザ・チルドレン』が来てくれたんだから」


(――――せっかく?)


女性の言葉に皆本は違和感を覚えたが、その違和感はすぐに消えた。


「うちのエスパーが失礼したわね、『ザ・チルドレン』、そして主任の皆本光一さん」


女性は、少年を制するとスッと前に出て、そう言った。


「私達はあなた達が超度Xと呼んでいる者よ」


「そうか、お前らが……」


「一体何が目的だ? 君達は一体何なんだ?」


皆本が訪ねると、女性は不敵に笑った。


「そうね…………私達は、“融合博士”の命に従っているだけ。ま、この子のような幼い子は、ただ力を振るう場所を与えられただけだと思っているようだけど。……私の口からは、それくらいしか言えないわね」


「“融合博士”ってのは何者なんだ? 何故君達はそいつに従うんだ!」


皆本の問いに、今度は少年が答えた。


「博士はボクらに力をくれた! ボクらを助けてくれた恩人なんだよ。お前らバベルと違ってね!」


「何やてっ! それはどういう意味で言ってんねん!?」


葵も声を荒上げるが、少年はそっぽを向いた。


「あなた……超度7のサイコキノ、明石薫さんね?」


「そうだけど……あんた達は?」


「私は“鉄壁の守護者”。彼は“玩具の支配者”。これはあなた達のコードネームと同じだと思ってくれればいいわ」


スッ、と静かに、戦闘体勢をとる。


その1つ1つの動作に、言い表しようのない強い力を、薫は感じていた。


「私達は、あなた達を倒す。それが目的。さぁ――――行くわよっ!」


鋭くそれだけ言い放つと、女性……“鉄壁の守護者”は素早く飛び出した。


「薫、気をつけろ! 相手の能力は未知数だ!」


「解ってる!」


薫も飛び出し、互いの間合いが縮まる。


「はぁっ!」


「っだぁ!」


2人同時に、両手からサイコキネシスを放つ。


ガキンッ!


鈍い音を上げ、サイコキネシスが相殺される。


「っな!?」


(相殺された!!? 薫と同等、或いはそれ以上の、サイコキノなのか!?)


皆本の顔は驚愕一色に染まった。超度Xの名はやはり伊達ではないらしい。


「ふふっ…………超度7って言うのはその程度なの?」


「ぐっ……何、をっ!?」


更にサイコキネシスで互いに押し合う。が、どちらが優勢かは一目瞭然だった。


「葵、紫穂! 薫を援護するぞ!」


「了解!」


と、紫穂が取り出した銃を、先程の蜂が槍(みたいなもの)で貫く。


「なっ!?」


「お前らの相手はボクだ!」


驚く皆本達の前に、少年……“玩具の支配者”が立ちふさがる。


(こっちも宙に浮いてる事を考えると、サイコキノか……? でも、何なんだ、あの蜂は……)


考えを巡らせるが、すぐに行き止まりに突き当たる。


「さあ、行くよぉっ!」


ニヤリと笑った“玩具の支配者”の腕の動きに合わせ、無数の蜂が皆本達に襲いかかった。
気づけば物凄く間が空いてしまった…………しかも徐々に秩序を失いつつあるという…………何ていうか、ホントにスミマセン。


こんな作品ですが、読んで頂けたなら幸いです。

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