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幻、過ぎ去りし日

 最初に
 当作は当掲示板に投稿されたUG様の『残像に口紅を』を起点として構成されています。従って、もしUG様作品をお読みでなければ、先にそれを読む事をお勧めします。




差し込む朝日が影で揺れるのを感じた皆本は目を覚ました。
まだぼんやりとした視界に何も身につけていない女性の背中、華奢に見えてしなやかな強さを感じさせる体の線をしばし見惚れる。

 その間に淡く赤みを帯びた髪を持つその女性は男の目覚めに気づき振り返る。
 感情を悟らせないための微笑を添え
「さよなら、コーイチ」と言葉が紡がれた。



幻、過ぎ去りし日

ふう〜 目的とする部屋の扉を前に『あと少し』と皆本は軽く息を吐く。
それなりに運動やスポーツを嗜み体力はある方だが、足下のおぼつかなくなった女性に肩を貸して小1キロ(m)も歩けば息も上がる。

ちらりと腕時計の時間を確かめると日付はしっかりと変わっている。

 全課程の修了しそれぞれが自分の未来に旅立つ前夜、心易い仲間だけを集めてのささやかな宴が、エネルギッシュな親友のせいで酔いつぶれる者が続出する饗宴に。
それがコメリカでの最後の仕事と親友が酔いつぶれた者のエスコート役を差配する中で自分は肩を貸した女性を任される。

預かった鍵で中に入ると明かりを点ける。部屋は明日(厳密には今日)ここの主がいなくなる事を示すように備え付けの家具以外何も残っていない。

その家具の一つであるソファーに女性を横たえる。隣接する寝室に、という選択肢もあるがさすがにそれは拙い。

足音を押さえ部屋を出ようとした時

「待ってコーイチ」と声がする。

振り返ると酔い潰れたはずの女性−キャロライン−が体を起こしこちらを見ている。
 上気した肌こそ体内に廻ったアルコールの存在を示しているが、その意志が籠もった瞳はここに至る酔態が嘘であった事を物語っている。

 そんな変容に驚くでもなく皆本は(これも残されていた)椅子を動かし対面する形に座る。

「バレてた?」

「まあ、如何にもな状況ですからね。脚本は賢木ですか?」

「そう、当人は『アイツなら絶対に引っかかる!』って自信たっぷりだったけど。こんなあからさまなストーリーで人を騙せるって思っているあたり自称プレイボーイも大したことはないわね」
キャロラインは当人を前にするように腐す。

「良いんじゃないですか。超度6のサイコメトリーが使えてなおかつ人を騙すのが上手となれば冗談じゃ済みませんよ」

「まあ 最低・最悪のオンナたらし登場って感じか。もっとも、彼の場合、どう転んだってそんな悪人にはなれないでしょうけど」
 そう話を締めると少し挑発的な口調で
「それで、騙されたわけでもないのにエスコートを断らなかったのは? 酔った女性を部屋に送ったりしてあらぬ誤解を受けるわよ」

「かまいません。そんな低俗な誤解をするヤツなんか何と言おうと無視すれば良いんですから」

『事実が一番強い!』、”らしい”主張にキャロラインは
「でも、コーイチはお国ではスーパーエリートなんでしょ? そんなエリートが留学先の女性と関係したって噂になるだけでも‥‥ セップクだっけ?! 何かすごく痛そうな自殺で罪を償わなきゃいけないとか?」

「いったい、いつの時代のどんな立場の人間の話をしているんですか!!」
コメリカ人特有の歪んだ異文化理解に思わず声のトーンが上がる皆本。すぐにからかわれた事に気づき話を本筋に戻すべく表情を改める。
「あなたがこんな芝居を打ったのはたぶん僕と二人だけで話したい事があるからだと思うんですが、僕も二人だけの形で話しておきたい事があるんです」

「なるほど、話したい事があるのは私だけじゃないんだ」

「実を言えば、その話、何も言わないままに済ませた方が良いんじゃないかとも考えたんですが、どうにも落ち着かなくて、それでこうして便乗させてもらったってワケです」

「そこは似た者同士ってコトね。私も(話すか話さないかは)ずいぶんと迷ったんだけど、シュージからお膳立てはするから言いたい事を言っておけって! まっ、シュージからすれば私なんかよりもあなたをスッキリとさせたくて茶番を仕組んだんでしょうけど」

「かもしれませんね」と苦笑い。
 不器用な弟を持った兄のように振る舞う友が自分がエスコートした女性の傍らで『してやったり』とほくそ笑んでいる様を心に浮かべる。

「じゃぁ お互いに言いたい事を言ってスッキリしましょうか」
 キャロラインはそう纏めると立ち上がり
「さてと、『お互い』にって事だと時間は掛かるでしょうし何か飲む? 私は軽く飲むけど」

「じゃあ、僕も口は潤したいのでいただきます。ただ、クニでは未成年の飲酒は認められていませんのでアルコールの類は遠慮します」

「一万キロ彼方に遠慮する必要ないのに。ホント、堅いわね。手元にはミネラルウォーターくらいしかないけど、いい?」

返事も待たずキッチンの方に行くと自分用に缶ビール、皆本には瓶のミネラルウォーターを持ってくる。




それぞれの飲み物を前に沈黙が生じる。

先に話すよう促されている事に気づいた皆本は前置きを抜きに
「賢木から聞いたんですがNCSAのアストロノーツ候補生に採用されたとか‥‥ 子どもの時からの夢だったそうですね」

「そうよ」と予想の質問だったのか考える風もなくキャロラインは肯定する。
「両親って、もう少しテレパスの私が遅く生まれていれば『ディアナ』って名前にしたのにって嘆くほどの宇宙モノのファンでね。その影響で私もずっと宇宙にあこがれていたの。だからNCSAに採用されるって聞いた時には凄くうれしかったわ。でも、あなたは私がその道を選んだ事が気に入らないみたいね」

「いえ、別に」と答えるがたぶん不満が顔に出ていると思う。
ここまでの経緯が経緯だけに政府機関に身を預ける選択は素直に祝福できない‥‥ 
 というか初めて聞いた時には怒りすら感じというのが本心。もちろんそれは身勝手なものだという事は十二分に承知しているが。

「キャリーの事を心配してなんでしょうけど、私にそうしろって提案したのは彼女よ」

「キャリーが?!」

「ええ、記憶にメッセージが残ってあったの。どのみちこのままで終わるはずはなし、だったら相手の懐に飛び込んだ方が良いって」

「‥‥ そういうことですか」
 皆本は『言われてみれば』と”恋人”の聡明さに感心する。

確かに超能力実験の成果である彼女を政府が簡単に諦めるとは思えず、裏から盗聴などで監視をする可能性は十分にある。
 なら、こちらから懐に飛び込むのも『あり』かもしれない。彼女がNCSAの一員であれば検査は公然とできるわけで、政府も興味が満たされればそれ以上の干渉はしてこないと考えられる。

付け加えれば、”姉”の希望を叶える事で巻き込んでしまった詫びにしたいという思いもあったに違いない。

それはそれで良いとして、気がかりはその検査により‥‥

「確かにそこは”乗った”私も心配だったんだけど、日頃の行いが良いせいか、予想以上に上手くいったわ」
 キャロラインはその不安を透視(よ)んだかのように答える。

「どういうことですか、それは?」

「数日前、入所前に検査だってNCSAのIDを持った高超度テレパスが調べに来たの」
キャロラインは自称の医療スタッフというよりは厳格な職業軍人を思わせる風貌の老テレパスを思い出しつつその時の事を説明する。

 それによると、最初こそ、テレパスは眉間に深い皺を寄せ、心の最深部をも見通すような表情を見せたが、すぐに不器用ながらも人なつっこい笑みを浮かべ副人格が完全に統合・消滅していると告げたとの事。

「と言う事は‥‥」

「もう私はどこにでもいる普通のエスパー。今頃はキャリーのファイルは保管庫に回され関係者も私の事を忘れ始めている頃よ」

「しかし、そのテレパスはなぜそんな報告を? 国家への裏切りじゃないですか」

「さあ」キャロラインは軽く首は傾げるが考えるでもなく
「テレパシーであの娘(こ)の想いに接し共感したのか、それとも役目以上の大切なモノを心に秘めているからか‥‥ 何にせよそれはそのテレパスの問題。私としてはそうしたエスパーに出会えた幸運を喜ぶだけで十分よ」

「そうですね」皆本もこれ以上は心配する問題でないと思う。

「あなたの方の話はそれで終わり?」

「いえ、あと一つというか、こちらが本題なんですが‥‥」




『せめて最後の一秒まで一緒にいてやれ』

親友の言葉の後、とりあえずの隠れ家としたのはコトの発端になった教授のコテージ。
そこのパソコンからネットを見ると”非人道的な”エスパー実験の犠牲者がペンタゴンに追われているとのニュースが駆けめぐっている。

添えられた映像−追われる側の情報が秘匿される一方で追う側が如何にも無慈悲な権力の走狗といった感じに編集されたソレ−は相手の動きを押さえ込むのに十分だろう。

「よくやるなぁ」と安堵と共に苦笑めいたつぶやき。

短時間にこうした映像を流すには相応な才能と労力がいるはず。
 日頃、培ってきたノーマル、エスパーを問わず築いた豊富な人脈があってのコトだろうが、それ以前に、当人が根っからの”喧嘩屋”というところが大きいのだろう。
けっこう当人はこのトラブルを楽しんでいるに違いない。

恋人に安心するように言おうと振り返ると目の前に当人の顔。

反応する暇もなく抱きしめられると柔らかい唇がこちらの唇をふさぐ。
その行為が意味する事に理性は戦慄するが、 見つめる蒼い瞳がヒュプノの”呪縛”のように心を絡め取る。



目覚めた時には愛した女性はいなくなっていた。

状況としては憤って当然にもかからわず目の前の女性はそこまでに起こったコトを受け入れ、黙って去ってくれた。
仮にそこでEndロールが流れればストーリーとして形になったのだろうが、皮肉屋らしい現実はそれを許さなかった。

同じ日、状況を知ろうと教授の元を訪れた時に同じ理由で訪ねてきたキャロラインとばったりと出くわす羽目に。
互いの間に気まずさが漂うが、そこで護衛と称してついてきた賢木が介入。
 こと自分が対象でない限り超能力を使わずとも男女関係には天才的な感性が働くらしく、状況を察し橋渡し役に務める。

さすがにその場でわだかまりなくとはいかなかったが、ペンタゴンの動きやキャリーの状況といった共通の懸念もあって、何度か情報交換を経る内に普通の女友達程度のやり取りができるようになる。

 ただ、親しくなった分だけ”あの”時の事を好意に乗っかる形で済ませて良いのかという思いは強まる。

とはいえ相手が”なかった”ように振る舞っている以上、切り出すきっかけが掴めず今日に至る。
 相手の心配りに便乗し『今更な』事はすべきでないと主張する”自分”もいるが、それで済ますことができない自分がいる。



「あの時の事について、一言だけでも謝罪したいと‥‥」

「『謝罪』? 謝って済むと思っているの」

‥‥ どちらかといえば穏やかな口調に皆本は唇を噛む。
「もちろん謝って済む話じゃないです。でも他に思いつかなくて。もしキャロラインさんが望む事があれば‥‥」

「オンナ相手の安請け合いは後が怖いわよ」
と茶化すように『何でもします』と続く台詞をキャロラインは制する。
「気にするのも解らないじゃないけど、全ては済んだ話、何も言う必要はないわ。だいたい、あの娘(こ)の振る舞いには私にも責任あるんだし」

「『責任』?! それってどういう意味ですか?」
思いもよらない発言に驚く皆本だが、天才としての分析・推論能力が一つの可能性に行き着く。



 キャリーと出会った直後のレクチャーではキャリーはキャロラインのネットワークを吸収して成長。やがてネットワークを吸収し終えた段階でキャロラインの意識が優位になりキャリーは統合される形で消滅、最終的にはキャリーの記憶と感情を受け継いだ新しいキャロラインが生まれるという話だった。

しかし現実にあってはキャリーは統合を望まず、キャロラインの記憶と意識から”自分”を切り離し”眠り”に入った‥‥



‘もし完全に切り離す前にキャロラインさんの意識が目覚めたとしたら‥‥’

「さすがに天才、そんなところ」
 超能力によるのか女の直感かキャロラインは皆本の推測を肯定する。
「コテージに身を落ち着けたあたり、キャリーと私は一時的に存在の”重なり合い”が起こったみたいね。そしてその時に私はあの娘(こ)の思いを感じ”背中”を押したんだと思う」

「何かそんな心当たりがあるんですか?」

「ないわ。そのあたり、互いに夢の中のやりとりみたいなものだから。でも覚えてなくてもそうだって判るのよ」
キャロラインは静かな物言いだがきっぱりと言い切る。そこで悪戯っぽくウィンクをしてみせると
「あと付け加えればキャリーがオンナとしてあなたを欲したのも私の存在が影響したんだと思う。好意を持った相手とそういうコトを望むのは自然なコトだから」

「そうだったんですか」
 と納得しかける皆本だがさりげなく投げつけられた”爆弾”に気づき愕然とする。
「あなたが僕に好意?! あり得ませんよ!!」

「そう? 女の子にはちょっと以上に鈍感だけど、コーイチはかわいいしいやさしい。側にいれば誰だって好意を持つんじゃない?」

「あなたのような方にそう言ってもらえるは喜ぶべき事なんでしょうけど、やっぱり変です。あなたにとって僕は見ず知らずの男でしょう。いくら何でもそんな男に好意を持つなんてありえ‥‥ ”重なり合い”の時に記憶が混じり合い‥‥ でも、僕についての記憶はいっさいないって言ってましたよね」

「ええ。あの娘(こ)ったら”眠り”につく時、あなたに係わる記憶の全てを自分の領域に囲い込んでしまったのよね、まるであなたを独り占めにしようって感じで」

‥‥ 皆本は言葉に鋭い刺が含まれている様な気がしたが気のせいだと思うようにする。

「とにかく、私がキャリーの心に影響を与えたんだったら逆があっても不思議じゃないでしょう」

「説明を聞けばあり得るとは思うんですが、そんな心の有り様は小説や映画を見た後の高揚感みたいなもので本当の気持ちとはいえないでしょう」

「つまり、私は幻に恋したってわけ?」

「あっ! 言い過ぎました」

「そういう素直なところは好きよ」キャロラインは気にしていないと軽く笑う。
「ということで、アレについては”妹”だけじゃなく自分も納得しても事だから。あなたが気にする事じゃないわ」

「解りました」
 上手く言いくるめられた気もするが、これ以上は女性側の好意を無にする愚行だろう。

キャロラインは『それでいい』と小さく顎を引くと
「これであなたの話は終わりって事で良いわね?」

「はい。今度はキャロラインさんの番です」と皆本、居住まいを正し聞く姿勢を示す。

「じゃぁ」とキャロラインは対照的にくつろいだ感じで切り出す。
「単刀直入で本題にはいるけど、コーイチ、今晩、泊まっていってくれない?」

「『泊まって』‥‥ まさか‥‥」
 直接的ではないが率直過ぎる内容に皆本は言葉を失う。

「そういうコト。これが下手なお芝居までして部屋に来てもらった理由よ」
淡々と語るキャロラインだが口元には自嘲が浮かぶ。
「今の私、あなたを憎からず思っているわ。でも、それがキャリーとの”重なり合い”による幻なのか女として当たり前に持った気持ちか判らないくてね。だから、新しい道に進む前に自分の気持ちをはっきりとさせようって」

「それだからといって、その‥‥ あの‥‥」
 皆本は酸欠の魚よろしく口をぱくぱくさせる。
自分の感情の有り様を知りたいというところまでは何とか理解できるが、そこから提案までの飛躍についていけない。

「もちろん、口にしたコトがどれだけメチャクチャかは承知しているわ。でも、残された時間で確かめられそうな方法を他に思いつかなくてね」
 とキャロライン。自分自身が一番良く判っていると付け加える。
「もちろん断ってくれてかまわないわよ。好きでもない女性の戯言に付き合う義理はないしキャリーとの絆を汚すお願いだから」

「‥‥ 分かりました。それが一番というなら喜んで応えさせていただきます」
 皆本は躊躇いつつも前言を翻す。理性と良識が口にした決断が間違っていると主張するが、キャリーとの出会いに始まる一連の出来事に区切りをつけるのにはこれしかないと直感が告げている。

「その覚悟の決めた表情、すっごくステキ。今からでも本気で好きになりそう」
キャロラインは立ち上がると寝室へと皆本をいざなった。




親友が運転するコブラのサイドシートに座り心地よい風に顔をさらす皆本。

 空港に着けばコメリカを後に故国へ。再訪する可能性は幾らでもあるとはいえ過ごした日々が戻ることはない。

ふっ と浮かぶ苦笑。未来ある自分が年寄りめいた感傷に浸っているのが可笑しい。
とはいえそれだけの経験をしたのも確かなといころ。キャリーとの出会いと別れ、そしてもう一つの出会いと‥‥

「『さよなら』‥‥か」最後の言葉が思い出される。
その言葉が全て。自分が幻だったというコト。
 男としては悲しむべきかもしれないが未熟な若僧には分相応の結末だろうと思う。

「ん?! 何か言ったか」運転中の賢木が視線でこちらを見る。

「いえ、何にもありません」漏れた言葉を聞きつけたのだろうが説明する気はない。

「そうか」と一言。いったんは何かを言いかけるが思い直すように小さく首を振る。
それから軽薄そうな表情を作ると
「ところで、ここにきても敬語はねぇだろ! もうお前だって子供じゃねェんだし、帰りゃ同じ職場の同期、タメ口で良いぜ」

‥‥ 『子供云々』に皆本はどきまぎする。からかわれた返礼に
「解ったよ、賢木」

「早速か! いいぜ、そんな調子だ」
 賢木はそう楽しげに応えるや気分のままにとアクセルを踏み込む。

急加速によりシートへ押しつけられる皆本、その動きにかこつけわずかに振り返る。
「さよなら」エンジン音に紛れるレベルの声でそう言うと全てにピリオドを打った。









『そしたら、私とキャリーは「自分」のままでいられなかった。半分別人になった私は‥‥』



皆本やチルドレンの見送りを受けてシャトルに向かうリフト。キャロラインはヘルメットを手に感傷的になった自分に苦笑する。

それは、相応の蓋然性を持ちながらも起こらなかった可能性を思う愚に気づいたから‥‥ ではなく、全てを”妹”にかぶせ自分自身を欺く往生際の悪さが可笑しかったから。



 別れの朝、口に出かけたのは逆の言葉。

 どうして心のままを出さなかったのかといえば(まるでそうした状況になれば発動されるようになっていたかのようなタイミングで)一つのイメージが心に浮かび上がったから。



その有り様を示すかのように暖かく柔らかい光に満たされ精神世界の深層。

抱きしめていた少年から身を離す”自分”。

なお涙をこらえきれない様子に永遠に抱きしめたいという衝動に駆られるが、それはできない。これ以上留まれば戻れなくなるばかりか愛する人の心にも重大な障害を残しかねないと心の内の声が告げている。

心を鬼にして離れようとする”自分”にすがろうとする少年に折れそうになる心、このままでは‥‥



『光の翼!』

 そう思った時には少年は”翼”に抱かれていた。
 それが現実の何を示しているのかは解らないし解ろうとも思わない。ただ言えるのは、その”翼”こそが男を包み護るのに相応しいというコト。

 一瞬、嫉妬だろう感情が蠢くが好意を持った男性を護りたいと強く願う者がいる(あるいはこれから出現する)コトに安堵する。自分は救えなかった心の痛みをこの”翼”であれば癒してくれるに違いない。

 自分の”居場所”がないという認識は辛いがこれが運命ならば受け入れようと思うし最終的な決断もついた。
 もっとも心残りがないといえば嘘になる。別れが確定したのであればせめて残された時間、二人だけの思い‥‥



”翼”を、そしてそれに接した”妹”の選択を知った以上、自分も同じ選択肢しかなかった。違うのは向かう先がインナースペース(内宇宙)かアウトスペース(宇宙)という点くらいか。
 いずれにせよ‥‥



シュ! シャトルへ至る通廊の隔壁が開いた音に我に返る。

軽く頭を振り未練を一掃する。
 ”翼”がとうに傍らにある以上、”妹”に、まして自分に出番はない。

『二番目の星に向かって面舵! 夜明けまで直進!』
以前見た映画の台詞を口にすると”未知の世界”へ足を踏み出した。
自分的にはかなり紆余曲折があった作品になります。

一番の根っこは『面影』(と原作者のブログでの発言)で色々と描かれなかった(もとより少年誌的に無理ですが)点が気になったからですが、当初、「午後のひととき」の一編として構想。それがちょうど『ミッション5』の頃で、なら十八禁のシーンを織り込んでと思ったあたりから迷走、最終的にこの形に落ち着きました。

どのキャラも”らしく”ない気がして没も視野に入れたのですが、書き上がってくると投稿したくなるのが書き手の性(さが)‥‥ 
 ということで毎度、突っ込みどころ満載ですが、どうでしょうか?

最後に、UG様。本作についても適切なアドバイスをいただいただけでなく三次創作とする事を快く了承していただきありがとうございました。

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