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Do You Love Me? <CASE 3> ─ Shiho Sannomiya
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煌々とした街の灯りもその光量を減らし、数える程度の街頭と、深夜営業の店舗の灯りが、弱々しく街を照らしている。
薫がバベルへ運ばれてから3時間が経とうとしていた。
深夜まで及んだ逃走劇も、そろそろ終わりを迎えようとしている。
追われる側としては、期日まで身を隠していたいところだが、当の皆本はというと、この時間、なぜか自宅のリビングにいた。
最後の彼女、三宮紫穂は、レベル7のサイコメトラーである。
彼女からは決して逃れることはできない。
それがわかっているので、皆本としては、あえて真っ向勝負を選んだようだ。
リビングのソファーに座り、紫穂を待ち構える皆本。
そこへ、ガチャリ、とドアの開く音がした。
そして、足音がひたひたと皆本に向かって近づいてくる。
目線を床に下ろしていた皆本の視界に、2本の足が見えた。
ゆっくりと視線を上へ、足の持ち主の顔を見上げた。
組んだ腕は、まだまだ小さいながらも、自信ある胸を強調し、
半開きの口から覗く舌先が上唇をなめる動作がなまめかしさを演出、
頬に注す赤みと、トロンとした目が、興奮状態を示していて、明らかにいつもの彼女ではなかった。
「皆本さん・・・・」
「紫穂・・・・」
組んでいた腕が解かれ、皆本の肩へまわされる
「私とひとつにならない? 心も体もひとつにならない? それはとても気持ち良いことなんだから」
「・・・・・・・」
吐息混じりに吐き出される言葉は、妖艶な女性そのもの。もはや中学生とは思えない雰囲気だ。
「紫穂・・・・・」
「皆本さん・・・・あなたが欲しいの・・・・」
皆本は、紫穂の目を見てはっきりと言った。
「もうやめよう、紫穂」
「え?」
今にも襲い掛かりそうだった紫穂の動きが、ピタリと止まった。
「もうやめよう。これで全部終わりだよ。」
「な、何言ってるの?よくわから・・・」
「キミがあんな低レベルの催眠にかかるわけないだろう?」
「!?」
皆本は薫を車に乗せてから、いろいろと考えた。
現状を打破する可能性を。
まず、元凶となった催眠について考えた。
おそらくかかったタイミングは、あの犯人と対峙した時か、警察に運ばれる犯人と目があったか、そのあたりだろう。
そして、その効果。“本人の欲望をむき出しにする”。
解除するには、効果が切れるのを待つか、その欲望をかなえれば良い。
たしかに葵も薫も、ある程度かなえてあげたら、術が解けたようだ。
だが、紫穂はどうだろう?
彼女は高レベルのサイコメトラー。
同じESP系の能力にはかかりにくいはずである。
ましてや、自分より数段レベルの低い催眠にはかかるはずがないのだ。それはつまり、
「キミは正気なんだろう? ただ、葵と薫が催眠にかかってしまったようだから、それに便乗してみただけだ。」
紫穂は大きく目を見開き、そして、大きなため息を吐いた
「・・・・あーあ、つまんないなぁ。やっぱダメだったか。」
「キミの能力を考えたら、そう考えるのが自然だよ。」
「その根拠は?」
「キミの能力を信じているから。」
「・・・・・・・ボソッ(そーいうことは、しれっと言うのね)」
「え?」
突然の皆本の物言いに、頬を赤らめる紫穂。
こういうところが油断ならない男である。
「あと、賢木もグルだろ?」
「あら?よくわかったわね。」
「探知能力も無いのに、葵と薫が僕の位置を特定できるのが不自然だよ。つまり情報を流していたってことだ。」
「んー、先生ももうちょっとうまくやってくれればいいのに・・・」
「どうせ“おもしろそうだから”って理由で協力したんだろ?」
やれやれ、と肩を落とす皆本。こういう悪ふざけが大好きな友人の性格を忘れていた。彼ならば、実害がない程度に面白く演出することも考えられる。それを可能性に入れておくべきだった。
「で?もうお終いなの?」
「ん?ああ、全て解決だろ?」
「・・・・・んーん、解決してないわ」
今度は、紫穂が真剣な眼差しで皆本を見下ろす。
「薫ちゃんと葵ちゃんにあんなことして、私には何もしてくれないの?」
「あんなことって・・・・たいしたことしてないだろうに」
「ほっぺにキスが、たいしたことないの?」
「う゛っ・・・・・」
紫穂は腰を下ろし、皆本に目線を合わせた。
「ねえ、皆本さん。私たちは皆本さんのこと、すごく大事に想ってる。たぶんそれは皆本さんも同じだと思うけど、私たちは・・・ううん、少なくとも私は、皆本さんの思っている以上に、皆本さんのことを想ってる。それはチームとか何とかっていうのを関係なく。」
「・・・・・・」
「さっき言ったことも、あながち嘘でもないのよ。皆本さんと一緒にいたい。それは前からずっと思っていたこと。」
「紫穂・・・・」
「もしかしたら、大人になったときに、この気持ちも変わっているかもしれない。未来はわからないもの。でも私は変わらずに、皆本さんを想っている。その自信があるわ。それが私の今の気持ち。」
いつになく真剣な紫穂。皆本と目を合わせ、自分の気持ちを吐露していた。
彼女は、その能力からくる性格もあって、本心を隠すクセがあった。だが今の告白は、嘘や冗談ではなく、本当の本心のように思えた。
これには、真剣に答えなければいけない。
チームとして、一人の男として。それが満足できない回答だとしても。
「紫穂・・・・僕は・・・・」
“ちゅっ”
「!!」
「・・・・・・・えへへ、しちゃった。」
突然の不意打ちだった。
皆本が顔を見上げ、紫穂の顔を見たその瞬間、彼女の顔がすぐ目の前にあった。
そして、頬・・・といっても、限りなく口の近くに、やわらかい感触が訪れた。
「私だって、これくらいのご褒美はもらってもいいでしょ?」
「・・・・・・・」
突然のことに、しばらく反応できない皆本。
「本当のキスは、また次の機会に。皆本さんからして欲しいわ。」
少し顔を赤らめながら、しれっと宣言をする。このあたりが、なかなか侮れない。
未だ反応できてない皆本を尻目に、紫穂はゆっくりと立ち上がり、リビングの戸を開け、出て行こうとした。
「じゃ、今日はおやすみ。たぶん薫ちゃんも葵ちゃんも、明日には治ってるはずよ」
そう言って、バタン、と戸を閉め、自室へと帰っていった。
紫穂が出て行ってから、30秒ほど経過した後、皆本は、頭をガシガシとかき、
「やられたな・・・・」
盛大なため息を吐いた。
だが、それも悪くないと思っている自分がいるのも確かだった。
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「で?あたしはどーだった?」
「ウチもどーだったん?」
翌日、昼ごろにバベルで薫と葵に会った。
2人とも特に後遺症も無く元気な様子だったが、催眠にかかっている時の記憶がなかった。
これ幸いと、皆本は沈黙を守っているつもりだったが、これもまた、いたずら好きの友人が、情報の一部だけをこっそりと漏らしたのだ。
「皆本は何してくれたの?」
「何やったら、もういちどしてくれてもええんやで?」
「だーーっ!何もしてないの!あれは非常事態の緊急措置だから!あんなことはもうやらないし、できるわけないだろ!! 」
「“あんなこと”って・・・・」
「“できるわけない”やて・・・・」
「あ・・・・・」
言ってから、しまった、と思った皆本。だがもう遅かった。
「みっ、みみみみみ皆本! 何を! どうしたんだ! もっと詳しく、懇切丁寧に!説明してよ!!!」
「実践や!リプレイや!!あのときの感動をもう一度!!」
「やーめーろー!!!おまえらちょっと黙れぇぇぇぇ!!」
頬を赤らめ、興奮し、目を爛々と輝かせた2人に攻撃される皆本。
それは正気の状態でも催眠状態でも、変わらないことのようだ。
むしろ、正気の方が厄介極まりない。
「紫穂!あんたはどうだったんや!?」
事態を静観している紫穂に、葵が問いかけた。
「んー?私も良く覚えてないわ。」
「なんや、じゃあやっぱ皆本はんに答えてもらわんと・・・」
「たしか、キスしたような〜、されたような〜、どうだったかな〜♪」
「「「んな!!!!」」」
皆本、薫、葵が一斉にハモった。
「紫穂! ちょっ・・・・それは」
「みーなーもーとぉぉぉぉ!」
「ぐわ!」
「結局誰が一番いい思いをしたんや!だれが一番好きなんや! さっさと答えぇや!!」
いつものお仕置きに、皆本の体が壁にめり込む。
それを見ながら、
「(ごめんね、皆本さん)」
ペロっと舌をだし、そのまま仲間に加わる紫穂だった。
・・・結局のところ、皆本は、永遠に彼女達には勝てないようになっているようである。
Do You Love Me ? ・・・Fin
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