夏。夏と言えば、横島にとってナンパの季節である。
海辺の砂浜で、プールサイドで、いろんな場所で女性に声をかけたが、ことごとく撃沈してきた。
いや、一度だけ成功したことがあったが、彼女は夫とケンカ中の人妻で、しかも人魚だった。
その他にも、コンプレックスと戦ったり、海の中に入っては地雷女の乙姫につかまったり、ナンパはできなかったけど六道女学院の生徒の水着生写真を撮りまくったりと、いろいろと思い出が多い。
しかし、今の横島は、パラソルの下の日陰でグッタリと横たわっていた。
肉体的に疲れたとか、そういうことではない。
若い水着ギャルに対して、食指が動かなくなってしまったのである。
(俺も、歳をとったのかな……)
小麦色をした肌の数人の若い女性のグループをちらりと目で追いながら、横島はふっとため息をついた。
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『真夏の嘆息』
Presented by 湖畔のスナフキン
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もともと、一番ナンパに励んでいた高校二年生の頃も、見た目が中学生以下の女の子には手を出さなかった。
しかし、大人になっていくにつれて、次第に女子高生にも声をかけなくなったし、やがて二十歳くらいのイケイケ風のギャルにまでそれが広がっていった。
理由はというと、霊的な修行を積むにつれて、今まで見えなかったものが、いろいろと見えてしまうようになったためである。
霊が見えるとか、そういう話ではない。
霊が見えるのは、GSである横島にとって当たり前のことである。
そうではなく、横島が修行を積むにつれて、女性の霊格のようなものが感じられるようになったのである。
ヒャクメのように何もかも見えるわけではないが、この女性は男と何人寝ているかとか、清楚そうな顔をしていても、陰で男遊びばかりしているとか、そこまでいかなくても、心が見かけよりずっと軽薄だとか。
そういったことが、女性の姿を一目見ただけで、だいたいわかるようになってしまった。
もちろん、世の中の女性は、そういう女性ばかりではない。
見た目も綺麗で、心も澄んだ女性も少なからずいる。例えば、おキヌちゃんのように。
しかし、そんな女性が夏の海辺に遊びにくるなんてことは、早々ない。
というより、横島の経験でもほとんどない。
たまに見かけても、大勢の女友達に囲まれていて、声をかける隙などないことがほとんどだ。
だから、無駄な努力は諦めて、こうやって日陰で寝転がっていたのだが、
「なに、一人でたそがれているのよ、ヨコシマ」
待ち人の声が聞こえた。
横島が目を開けると、ビキニの水着を着た最愛の女性の姿が目に入った。
「ルシオラ」
「遅くなってごめんね。待ちくたびれた?」
「そんなことないって」
憂鬱だった気分も、一変で晴れた。
見た目も綺麗で、心も綺麗で、なおかつ自分を好いてくれる女性。
今まで人知れぬ苦労を重ね、数奇な事件を二度も乗り越えてきたが、そんな彼女と出会い、そして一緒になれたことについて、横島は心から幸福を感じていた。
(以下、おまけ)
「ねえ、ヨコシマ。私が来るまで、女の子をナンパしてたりしなかった?」
「してないよ」
「本当?」
「本当だってば」
「ふーん、そうなんだ」
ルシオラが、俺がいつも額に巻いていたバンダナに手をかけ、それを外した。
「ねえ、心眼二号。ヨコシマが嘘ついてたりしてない?」
『うむ。我の知る限りでは、横島は確かにナンパはしなかった。ただし……』
「ただし?」
ば、バカ! 余計なこと言うんじゃねえ、心眼!
『目の前を胸の大きな女性が通るたびに、視線がその女性を追っていたな。特に胸の辺りを』
「へー。ふーん。そうなんだー」
ま、まずい! 胸の話題になった途端、ルシオラから殺気のこもった視線が、ビシビシと俺に飛んでくる。
「ル、ルシオラ! 俺ちょっとトイレに行ってくるから!」
俺は、ルシオラの手からバンダナを奪い返すと、砂浜の上を走って逃げ出した。
「こら、待ちなさい! まだ話は、半分も終わってないわよ!」
とにかく、ルシオラが落ち着くまで逃げ回らないと!
今捕まったら、間違いなくお仕置きされるか、運がよくても夕方まで説教だ!
『だから、我は忠告したのだ。ホテルのロビーで我が主を待っていろと』
いいじゃないか。ナンパはできなくても、少しは目の保養になったんだし。
だいたい、おまえも何でもかんでも、俺のことをルシオラに話さなくてもいいだろう。
『仕方ない。今の我を作ったのは、ルシオラ嬢なのだからな』
結局、その後俺はルシオラに掴まったのだが、海辺のリゾートホテルにある喫茶店で甘い物をおごることで、何とか勘弁してもらった。
(お・わ・り)
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