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Do You Love Me? <CASE1>

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Do You Love Me?   <CASE 1> ─ Aoi Nogami

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「はあっ、はあっ、はあっ!」
 
 皆本光一は、1人、街中を走り抜けていた。
 遅い時間帯にもかかわらず、街はまだ人の賑わいを見せていた。
 仲良く手をつないでいるカップル、仕事帰りのサラリーマン、おそらく2次会と思われる若者達の集団など、さまざまな人たちが歩いていた。
 そんな人たちの隙間を縫うように走る皆本。
 それはまるで何かから逃げているように見えた。
 自分を脅かす何かから。
 侵食する何かから。
 そして、時々立ち止まって、周囲を見渡し、脅威が迫ってきてないことを確認すると、再び人波の中に、その身を滑らせる。

 通常、追われる者は、人気の無い場所へ逃げるのが普通である。
 目撃される確率が低くなるからだ。
 だが、皆本は逆に人波を選んで、その中を走り抜けている。
 傍目には効率が悪い。
 だが、これには理由があった。

「み〜つけた! 逃げてもムダやで」

 人波が途切れ、ぽっかりと空いた空間に、少女が1人突然現れた。
 野上葵。
 レベル7のテレポーターだ。

「あ・・・や、やあ、葵」

 優れた空間認知能力を持つ彼女を相手にした場合、なんらかの空間ノイズを利用しないと逃れることが困難である。
 皆本はそれに「人間」というノイズを選んだ。
 平たく言えば、人波にまぎれるということだ。
 だからこそ、人通りの多い道を選んでいたのだが、逃れるのに夢中で、いつのまにか街の外れまで走ってきてしまった。

「ふっふーん♪ さあ、皆本は〜〜ん?」

 両手をワキワキとさせて、皆本ににじり寄る葵。
 顔は紅潮し、目は充血、息も荒い。
 明らかに興奮状態にある。
 まさに獲物を見つけた獅子のような状態であった。

「くっ!」

 とっさに反転する皆本。
 元いた道に引き返し、再び、人波に潜り込むつもりだ。

「させへん!」
「んな!!」

 一度射程圏内に収めた獲物を逃すまいと、葵は右手を皆本の方へ向けた。
 
 その瞬間、2人の姿がその場から忽然と消えた。


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 次の瞬間、2人が現れたのは、先ほどいた場所から、500mほど離れた倉庫街だった。
 右手には港。左手には幅5〜6mはあろうかという倉庫の壁。
 前方の彼方に見えるのは、ちらちらと瞬く街の光だ。
 だが、前に見えるのはそれだけではない。
 視線を少し下に向けると、そこにはメガネをかけた黒髪の獣がいた。

「んふっふっふ〜ん。 さあ皆本はん、いいかげんウチのモノになりいや」

 目を爛々と輝かせて皆本に迫る葵。
 既に彼の身体は、膝から下をコンクリートに埋められ、身動きが取れない状態になっていた。

「ほら、な? 悪いようにはせぇへんから。」
「い、いや、あのな? そういうのはまだ早いと思うんだけどな」
「早くなんかあれへんよ。ウチもう中学生や。恋人がいてもおかしくないで。」
「いや、だからって、その手段がおかしいって思わないか?」

 動きの取れない男に、襲い掛かる少女。
 性別が反対ならば、ただの犯罪行為である。

「こんなことやめよう。な? 今の君は普通の状態じゃ・・・・」
「もー、さっきからウジウジウジウジ、女の腐ったのみたいに! 
 男らしくあれへんなぁ〜! 問答無用や!!」

 業を煮やした葵が、右手を天にかざした。
 すると、その先の中空に、衣服が現れた。
 白いワイシャツ、ネクタイ、黒いジャケット。 皆本が着ていた衣服である。
 葵が目線を下げると、案の定、上半身裸の皆本がそこにいた。
 
「・・・・・・はっ! さ、さ〜て、どうしようか。どこをどうイジろうか〜」

 2秒ほど見とれてしまった葵が、先ほどより2割増しで興奮しながら、皆本にせまってきた。

(くそ! やっぱりやるしかないか。後でなに言われるかわからないが、もうこれしかない!)
 
 もうどうしようもないと悟った皆本は、覚悟を決めた。

「葵!」
「へ!?」





 “ちゅっ”





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 時が止まった。

 今まさに皆本に襲いかかろうとした葵。
 まるでどこかの世紀末覇者のような圧力を持ってせまっていた彼女から、オーラが消えた。
 顔はきょとんとして、今何をされたのか、頭で処理できていない状態だ。

「・・・・・・・・・・えと、あの・・・葵?」

 様子を見ていた皆本が声をかけた。
 仕方がないとはいえ、刺激が強すぎたのだろうか。

「・・・・・・・・・・いま」
「え?」
「今のって・・・・」
「え、あ、いや・・・その・・・・、ま、まあ、ほら、コメリカでは挨拶みたいなものだから、
 そんなに・・・・ほら、ねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・ふにゃぁ」

 耳まで真っ赤にし、顔から盛大な湯気を立て、葵はその場に崩れ落ちた。
 なんとか、進行を阻止できたようである。


 葵を食い止めた皆本は、そばにあったバールとトンカチを使って、コンクリートに埋まった足を取り出し、なんとか自由に動けるようになった。
 そして、葵に脱がされた上着のポケットから携帯電話を取り出し、電話をかけた。

「・・・・・・・賢木、僕だ」
『無事か?』
「なんとかな。まず、葵は阻止した。」
『葵ちゃんか。彼女はまあ、たやすいと思ったよ。』
「全然たやすくない。そうとう走ったぞ」
『いやいや、そうじゃなくて。3人の中で彼女はそういうことについては精神レベルが低いから』
「《そういうこと》って?」
『だから、《そういうこと》だよ。おまえどうやって止めたんだ?たとえばキスとか。』
「・・・・・・・」
『ホントにしたのか! いやー、とうとうやっちまったかぁ。こりゃあ局長に絞られるな〜♪』
「いっ、いやいやいや!違うぞ!ほっぺにだ、ほっぺ! それも軽く触れる程度だからな!」
『そんな誤魔化さなくてもいいって!黙っててやるから。口と口だろ? マウストゥマウス』
「だーかーらー!」
『はっはっはっ! まー、それはさておき』
「さておくのかよ・・・・」
『いやいや、真面目な話。次は厄介だぞ。 薫ちゃんが、その近辺に向かってる。』
「薫か・・・・」
『リミッターでの探知は、おまえの端末からしかできないが、多分、葵ちゃんの気配みたいなもの・・・・というか、彼女特有の感覚みたいなものじゃないか?』
「ああ。たしかに薫なら、あるかもな。」
『車をそっちにまわした。葵ちゃんはそれに乗せてくれ。 じゃあ、気をつけろよ。』

 皆本は電話を切り、葵の顔を見た。
 天使のような寝顔・・・・と言えなくもないが、ニヤニヤと、しまりのない笑顔で眠っている。  幸せな夢ではあるようだ。

 友人の言葉が頭によぎる。
 こういった事態になった場合、直接的な戦闘力を持つ薫が一番やっかいだ。
 全て力づくで処理されてしまったら、こちらに勝ち目はない。

 それに、最近の薫の行動。
 皆本を見る目がおかしいのだ。
 最近、特に良く見られている気がする。
 かといって、ベタベタとくっつくわけでもなく、離れるわけでもない。
 そこらへんは鈍感な皆本でも、なんとなく察していた。
 だが、その真意までたどり着いていないところが、まだまだ恋愛力不足である。

 
「薫・・・次はおまえだ。はやく元にもどしてやるからな。」

 星の瞬く夜空をみながら、皆本はつぶやいた。


to be continued .....

今回は、ショートショートでライトに読める感じで続けようかとおもいました。

果たして、順調にラストまで続けることができるのか?

生温かい目で見守りください。


・・・・・・続きはいつになるだろう・・・

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