ドンドンドンッカカカッドドンッドドン!
会場の中心に備え付けられたやぐらから、力の篭った太鼓の音が聞こえて来る。
「あ、チョコバナナだっ!」
そんな太鼓の音に負けずと劣らぬ元気な声を出し、屋台へ走って行く少女。
カラフルなチョコスプレーをまき散らしたチョコバナナを手に、にこやかに少年のもとへと戻って来る。
「またお前は食い物を…」
「だってお祭でしか食べれないもん」
「とか言いながら焼きソバだの、お好み焼きだの食ってたのはどこの誰だよ。
あの値段だったら作ったほうが安いっての…」
「いいのっ!
屋台の食べ物は、明のご飯とは違った美味しさがあるのっ!」
ぷいっとチョコバナナを口にくわえながらふくれる初音。
「それはそれはありがとうございました」
苦笑しながら明は言う。
「うむ、よきにはからえ。
…あ、りんご飴だ」
屋台の定番、りんご飴を見つけ足を止める初音。
先ほど同様に走り出すのかと思えば、うぅぅぅぅ…と唸りだす。
「どうした?」
「…お小遣いが足りない…」
手にした巾着に残った硬貨を手に初音は呟く。
手の中にあるのは100円玉が1枚。
遠目に見えるりんご飴の価格は300円であった。
「…ったく、食い過ぎるからだ…」
「…明ぁ〜…」
ぷるぷると、小動物のような瞳で明を見つめる初音。
「駄目だ。
お前が考えて買ったんだからお前の責任だ」
明は手馴れた様子で初音のおねだりをかわす。
「うぅぅぅ…」
半分残ったチョコバナナを見つめながら唸る初音。
買ってしまった後悔をしているのであろうか。
「ったく、仕方ないな…。
ほれ、200円やるから…。
その代わり、その残ったチョコバナナと交換な」
そう言って財布から200円を取り出す明。
「えっ…」
「買取だよ買取。
チョコバナナが400円だったから半分で200円。
それでいいだろ」
「…いいの?」
「りんご飴食いたいんだろう?
ただし、これっきりだぞ」
「そうじゃなくて…」
何故かしつこく聞いてくる初音。
「嫌なのか?」
「ううん…それでいいよ。
それじゃ買ってくるね」
明に残ったチョコバナナを渡し、200円を受け取った初音はりんご飴の屋台へと走って行った。
「ったく、世話の焼ける…」
こちらを気にしているのか、ちらちらと見てくる初音に苦笑しつつ、明は受け取ったチョコバナナを口元へと持って行く。
「…あ〜…。
そうか、そういうことか…」
口に付ける前に、明はあることに気付いた。
買い取ったチョコバナナは初音の食い掛けの物であり、切断面には初音の歯型が付いていることを。
そしてその周りのチョコには、初音の唇の跡がくっきりと残っていることを。
「…どうっすっかなぁ…」
悩む明。
そんな明の悩みは初音が戻って来るまで続き、もうひと齧りしたチョコバナナを無理矢理食べさせられることによって解消されるのであった。
(終)
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