「不二子の言うことが聞けないの?」
「不二子さんなんて大嫌いだ!」
泣き叫ぶ京介を私は冷たい目で見た。
海といえば水着じゃないの。どうして水着がいやなのよ。と私は京介を強い目でにらみつけた。
「不二子さんの水着なんて着るのいやだよ!」
「可愛いと思ったのに、そのセーラーもかわいいけど」
ちっと私は舌打ちする。泣き叫ぶ京介をみるのは意外と楽しいのだ。
海を前にして私たちは漣に耳をすませていた。
ワンピースを脱いだら下は水着だけど、京介が水着を着ないなら意味がないなあとかは思う。
でも伊号のおじいちゃんも早く遊ぼうっていってるしこのままでもいっかなとは思う。
大好きよと二人ともと心の中だけでつぶやく。
「見て見て、きらきらして水が綺麗よ」
「そうだね、不二子さんとても綺麗」
とても水が冷たいね。といって水を掛け合って笑う、おじいちゃんも笑っている。
幸せだと思う。
とても幸せだと。
顔は可愛いのに、態度が最近生意気になってきた京介を私は見た。
男の子の顔をしてきてる。
幸せだった。とても幸せだった。
……幸せは失ってそれとしるのかもしれない。
きゃあきゃあという声が聞こえてくる。
ああそうだ、私達はずっとずっとずっと漣を聞きながら、冷たい水を感じ取りながら遊んでいたんだと思う。
目を閉じるとほら見えてくるのはあの日の三人。
「不二子さん、ほらみてみてあのジャンプ!」
「うわあああああ、すごいすごいすごい!」
おじいちゃんのジャンプはとても軽やかだ。
私はそれをみて歓声をあげる。京介は楽しそうに笑って手を叩いている。
幸せは失ってそれと知る。
そうかもしれないなと私は再確認する。
「しかし暑いわね」
「……そうだよね。今日は特に」
とても暑い日差し、それを感じ取りながら私達は走る。水の中を走る。
柔らかい貴方の声を聞く。
とても幸せだと思う。
……この後私たちは、そう私たちは。
……幸せなんてもういらない。
でも幸せを感じ取りたい。
私は矛盾してる。
貴方の微笑をもう一度みたいだけ。
京介とまたあの海で遊びたい。
おじいちゃんと三人で。
「不二子さん大丈夫?」
「……疲れた。京介おんぶしてよ!」
「えええええええ!」
夕焼けの空、私は早く別荘までつれて帰ってよね。と京介に迫る。
砂浜にべったと座った私をおじいちゃんも呆れ顔? で見ている。
京介は泣きそうな顔で私を見ている。
「……僕が不二子さんをおぶるの? 無理だよ。だって不二子さん僕よりおも……」
「京介、おしおきされたいのね?」
「ごめん、ごめん、ごめんなさい!」
恐怖に満ちた顔で京介は私を見る。目には涙が浮かんでいる。
ああとても楽しいわ京介をいじめるのは。
わかったよ、わかったよ。とうなずいて京介は私を背負うべく後ろを向いた。
「よっこいしょっと」
「その掛け声は余計よ!」
なんとか京介の上に私はおぶさる。
よろよろと京介がなんとか立ち上がる。
あら持ち上がるじゃない。さすが男の子と思う。
……とても幸せだった。その背の温かさを感じていると。
……とても幸せだった。このときはとても。
京介も男の子なんだなあ。と背に揺られて思う。
目を閉じる。そして体の温かさを感じ取る。
漣が聞こえてくる、目をあけると見えるのはただの海。
「……京介、また来たわよ」
あの時の海と、今の海は違う。
不二子さん、と柔らかく優しく囁いたあの声も聞こえない。
「私達、これから……」
きっと私たちは出会うたびに反発する。
そして多分……。
「さようなら、という言葉はまだいえないわ」
追憶にひたるのは全ておわってからのほうがいい。
漣だけが聞こえてくる。
目を開けても見えるのは、ゆれる漣だけ。
「……京介、愛してる」
囁く言葉は今は誰にも聞こえない。
ただあるのは漣だけ。
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