ざざ〜ん…
「…暑い…」
「そりゃぁ夏だからなぁ…」
寄せては返す波を眺めつつ、浜辺に座る明と初音。
真夏の太陽光は2人を容赦なく襲っていた。
ざざぁん…
「あぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅぅぅいぃぃぃぃぃぃぃ…」
「えぇぃ鬱陶しいっ!!」
まるで明のせいだと言わんばかりに言ってくる初音を、明は一蹴する。
「だって暑いよぉ…」
「んなもん俺も一緒だ」
「せっかくの海なんだから泳ぎたいよぉ…」
「水着が無いから無理だ」
「なんで水着持ってきてないのぉぉぉぉぉ…」
「予定外の緊急出動だったからだ」
「うぅぅぅぅ…。
じゃあ早く帰ろうよぉぉぉぉ…」
「所轄の警察署への引継ぎが終わるまでは無理だ」
「いつ終わるのぉぉぉぉ…」
「さぁなぁ。
ああ言うお役所仕事は手続きに時間が掛かるからな」
「むぅぅぅぅ…」
「暑いなら警察署の中で待ってりゃ良かったじゃないか。
あそこならクーラー効いてたのに。
お前が暇だからって散歩に来たんだぞ」
「だって…海に来たかったんだもん…」
膝を抱えながら言う初音。
「そう言うから、人気の無いとこを探したんだろ…。
夏休み中に1回くらい連れてってやるから、今日は我慢しろよ」
「は〜い…」
ぶすりとふくれつつ、気の無い返事を返す初音。
『…わ〜らび〜餅〜…つめた〜くて…おいし〜っよ…』
初音がそう言ったのとほぼ同時に、遠くからわらび餅屋の販売車の放送が聞こえて来た。
「わらび餅屋か…喰うか?
喰うなら買って来てやるぞ」
「喰べる」
「…即答かよ…。
わかったわかった、買って来てやるからちょっと待ってろ」
腰を上げ、道路へと歩いていく明。
わらび餅屋は『早く〜来ないと〜行っちゃう〜よ〜』などと、間の抜けた放送を流しつつ遠ざかって行く。
「ちょ…待て、わらび餅屋〜!」
明は焦りつつ、遠ざかるわらび餅屋を追って行った。
「…行っちゃった…」
走って行く明の背中から視線を海へと戻し、じぃっと眺める初音。
「暑いなぁ…。
泳ぎたいなぁ…」
諦めていないのか、初音は再度呟いた。
「あ、いたいた。
初音ちゃん、おまたせ〜」
名前を呼ばれ声の方を振り向く初音。
その先には、小走りで近づいてくる小鹿の姿があった。
「遅くなってごめんね〜。
引き継ぎ終わったから、もう帰れるよ」
「本当!?」
「うん。
そこで明くんにも会ったから、明くんが戻ってきたら帰ろっか」
「うん。
あ、そうだ…ねぇ小鹿?」
ふと、初音は何かを思いついたかのように小鹿へ声をかけた。
「なに?」
「タオル持って来てたよね?」
「うん、持って来てるよ?」
小脇に抱えたバッグの中を見せつつ言う小鹿。
バッグの中には、ニョモのプリントがされたスポーツタオルが折り畳んだ状態で入っていた。
「そっか」
小鹿の返答に、おもむろに服に手を掛け始める初音。
タンクトップを脱いでショートパンツも脱ぎ出していく。
「ふぇ!?
は、初音ちゃんっ!?」
初音の行動に驚く小鹿をよそに、初音は下着だけの格好になって手を止める。
「…濡れちゃうからこれもいいや」
そう言ってブラジャーを外し、パンツに手を掛ける。
「ちょ、ちょっと待って初音ちゃん!
何をしようとしているの!?」
そこでようやく小鹿が初音を止めに入る。
「泳ぐの」
「えぇ!?
その格好で!?」
「うん。
水着持って来てないし」
「い、いくら暑いからってそんな格好で泳いじゃ駄目よ!
せ、せめて下着姿でとか…」
「乾かさなくちゃいけないからいらない。
裸だったら身体拭いて服着て、髪にタオル巻いてればいいし」
「確かにそうだけど…って待っ…」
ばさっ……どっぱぁんっ!
小鹿の制止を無視して鳥へ変化し、10メートルほどの高さから海へと初音は飛び込んで行った。
(海は広いな〜大きいな〜)
海中を進みながらそんなことを考える初音。
そんな初音の横を、小さな魚たちが通り過ぎていく。
ざぱぁっ!
1分ほどして、初音は海面へ勢い良く浮き上がって来た。
「ぷはぁっ!
きっもちいぃ〜!!」
ぷるぷると首を振り、海水を撒き散らしながら浜辺へ戻っていく初音。
浜辺では小鹿がタオルを持ちながら初音を待っていた。
「もう…。
暑いのはわかるけど、そんな格好で1人で泳いでたら危ないからもうしちゃ駄目よ?」
初音の身体を拭きつつ遠回しに叱る小鹿。
「でも裸で泳ぐと気持ちいいよ」
しかし、初音にはまったく効いていない様子。
「それはそうだけど…」
「そうだ、小鹿も一緒に泳ぐ?」
「…ふぇ?」
「裸で泳ぐと気持ちいいよ?」
「…だ、駄目駄目駄目っ!
裸で泳ぐなんてっ…!!
ほ、ほら、人目についたらいけないし…」
「大丈夫だよ、地元の人でもあまり来ない場所だって警察の人も言ってたし」
「そ、それでも駄目よ…って、いやぁぁっやめてぇぇぇっ!!」
「良いではないか〜良いではないか〜」
「やめてぇぇぇぇ〜〜」
腕力の差で初音に勝てず、なすがままに剥かれてしまう小鹿。
「よし、それじゃれっつごー!」
「たかっ…たかっ…高いぃぃぃぃっっ…!!」
どっぱぁぁんっ!
そしてそのまま初音に抱えられ、海へと飛び込まされていくのであった…。
「やれやれ、ようやくわらび餅買えたぜ…。
1km近く追っちまったよ…」
汗だくになった明が小鹿同様、引ん剥かれて海へと入らせられるのはまた別のお話…。
(終)
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