青い海
白い砂浜
灼熱の太陽
ビーチで、海で、思い思いに楽しい時を過ごす男女。
周りを見渡しても、彼ら以外に人がいない、まさにプライベートビーチ。
毎日、額に汗して働いて、ストレスまみれになっている日本のサラリーマンが憧れるリゾートが広がっていた。
そして、砂浜に何本も立ったビーチパラソル。
手前に見える女性は、肌を日に焼いているのだろう。ビーチチェアの背を倒して、うとうとと眠っていた。
その左隣の少女も、同じように仰向けになっていた。
彼女の方は眠ってはおらず、顔を右側に向けて、さっきからそこにいるものをジーっと見ていた。
「・・・・あんたさぁ」
「・・・・・」
「家出のたびに、ここに来るのやめなさいよ」
彼女の視線の先にいる少女はうずくまっていた。体育座りの姿勢で、自分の膝の上にあごを乗せ、前方の海を見るとはなしにボーっと見ていた。
その鮮やかな赤い髪も、今の心情を表すように心なしかくすんで見える。
「どうせ、あのメガネのことなんでしょ?」
「・・・・・・」
「まぁ、わからなくはないけど・・・・仲直りは早い方がいいんじゃないの?」
「これは友達として」という言葉を少女は飲み込んだ。改めて言うとなんだか照れくさいと思ったからだ。
「うん、わかってるよ・・・・・ありがと、澪」
彼女・・・明石薫は、夏まっただ中の日、パンドラの夏休みに便乗していた。
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むかしといまとこれからと、私の大事なもの (前編)
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現在、日本国内には大小あわせて2000万人を超えるエスパーが存在している。人口比率から見たらまだ2割といったところだが、潜在的なエスパーを含めると5割を超えるとも言われている。その中で、特に強力な力を持つエスパーは、バベルによって管理されている。
能力の強さはレベル1〜7まで分類されるが、国内唯一のレベル7のチーム「ザ・チルドレン」に対しては、特に厳しく保護、管理体制が敷かれている。条文、規則、超法規的事項にいたるまで、さまざまな検討課題があるのだが、中でも彼女らの「健全な育成」については、その結果いかんによって、世界のバランスを変えかねない、最重要事項であった。そして、まさに世界の命運を握っているといえるのが、彼女らの担当主任、皆本光一である。
彼は任務上の指揮官というだけでなく、彼女らの私生活にも関与し、まさに親がわりのような立場で生活を共にしている。すなわち彼の行動次第で、未来が決まるといっても過言ではないのだ。
そして、そんな彼は今、
自宅の壁にめり込んでいた。
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学生には、中間テストと期末テストという、休み前の通過儀式がある。これを無事に終えなければ、せっかくの長期休暇が「追試」という形で塗りつぶされてしまうのだ。
日頃の成績が良い生徒は余裕の笑みを浮かべ、普通の生徒は試験2日前から必死になり、成績の悪い生徒は何もせずあきらめて遊んでいるという、そんな全国どこの学校でも見られる風景が、薫たちの通う中学校でも展開されていた。
彼女達は、学校の中では勉強している姿を見せず、家に帰って徹底的にやるタイプだった。
理由は2つ。
まず1つは、学生生活を楽しむこと。これは皆本の過去を知ったことによる影響が大きい。子供時代につらい思い出しかなかった自分だからこそ、彼女達には楽しい思い出を作って欲しいと願う彼の意思を尊重しているためだ。
そしてもう1つ。これが最も重要な事項で、「3人の中で成績優秀な者が、皆本を1日独り占めできる」ことである。
一年生の時から始まったこの決まりも、今度の夏でもう6回目。過去5回は全て葵と紫穂が独占していた。初めは彼女らにやる気を起こさせようという、皆本にとって半ば投げやりな決まりだったが、ほとんど年間行事と化してしまっていた。
そのため、毎回テストにかける彼女らの意気込みはハンパではない。向かい合って勉強していても、初めこそおしゃべりをするが、だんだんと無口になり、集中のピークに達すると、紙とシャーペンが擦れる音以外は、一切無駄な音が無くなるくらいだ。
彼女らの成績を単純に比べると、葵、紫穂、薫の順番である。ただし、最下位の薫ですら、5教科平均75点と、比較的優秀な部類に属するのだが、いつも紙一重で負けてしまうのだ。
薫は、普段表に見せないが、内面ではいつもくやしがっていた。
薫にとって、皆本との一日デートは、ただのご褒美ではない。自分が身も心も捧げてもいいと思ってしまった、自覚してしまった、世界で一番大切な人との、大切な時間なのだ。
それが、いつも紙一重で負け、その度に心の中で黒い渦が巻き起こるのだ。
皆本と葵、または紫穂が今何をしているのか、どうしているのか、とても気になる。くだらない嫉妬かもしれない。でも薫にとってそれはとても大切な想いなのだ。
だから負けられない。今度こそ勝つ。そう意気込んで望んだ、二年生の中間テストだった。
そして・・・
「・・・や・・た・・・。 やったー!!勝った!勝ったよぉぉぉ!!!」
「うっそやん!なんで負けるんか〜。しもた〜、油断したわ。」
「うーん、ちょっとケアレスミスが多かったわね。」
結果発表で一喜一憂する3人。ついに薫がトップ当選を果たした。ついに念願の「皆本を一日好きにできる権」をゲットしたのだ。薫は勝利の美酒に浸りながらも、既に頭の中は皆本との甘いひとときで一杯になった。
・・・・・その思考は、既にかなりアブナイ領域まで達していたが。
実際は、皆本は良識ある大人なので、薫の考えているところまで行き着いたりはしないのだが、それでも、手をつないで歩くだけでも、薫にとっては十分だった。
好きというより憧れの気持ちが強かった小学校時代。男として彼を意識した去年の春。女としての自分の気持ちが強くなるのを感じたその年の夏。そしてそれから現在に至るまで満たされないこの想い。それが少しでも報われるのであれば、こんなに嬉しいことはない。
薫は結果発表の日の午後から、週末のデートに向けて、ファッション誌とにらめっこしながらデートコースの選定に、血眼になって没頭した。
そしてデート当日、事件は起こった。
さあこれから出かけようというときに、皆本の携帯にエマージェンシーコールが入ったのだ。バベル内のシステムトラブル。エスパー以外にも優秀なエンジニアを抱えるバベルではあるが、ある専門分野に特化したシステムでは、担当者本人にしかメンテナンスできない部分が何ヶ所か存在する。どうやら今回は皆本の担当する部分にウイルスが進入したらしく、しかもかなり悪性なものらしい。
皆本はすまなそうな顔で薫の方を見た。薫は「行っていいよ」と言った。せっかくのデートをキャンセルするのは心苦しいが、権利がなくなるわけではない。次の週に持ち越して、やり直せばいい。 その時は、「我ながら大人になったな」と思っていた。
薫は次の週末までがとても待ち遠しかった。授業など耳に入らず、ただただデートのことを夢想していた。授業中に突然顔を赤らめてブンブンブンと頭を左右に振ったり、壁に頭をガンガンと打ち付けたりと、親友のちさとちゃんが引くほど奇行が目立っていた。理由を知る葵と紫穂は呆れ顔のまま、生暖かい目で放っておいた。
そして、ついに来た次の週末。意気揚々とデートに挑もうとする薫。皆本の手を逆に引っ張って外に出ようとしたその時、またしても皆本の携帯にコールが入る。
ビクっと肩を震わせる薫と皆本。おそるおそる出てみると、またもやシステムトラブルらしい。皆本は電話口で抵抗したが、戦況は芳しくなく、どうやらバベルに行かなければいけなくなってしまったらしい。
「薫・・・・すまん。」
心底すまなそうにあやまる皆本に対して、薫は
「・・・・・やだ。 行くって言った。」
皆本が困ることを承知でダダをこねた。先週の今頃「大人になった」と思ったことなど嘘のようだ。
「なんとかならないの? そりゃあ、皆本は天才かもしれないけどさ、他にも優秀な人、いるんでしょ? みんな皆本に頼りすぎだよ。」
「薫・・・本当にすまない。こればっかりは僕自身がいかないとダメなんだ。わかってくれ。必ず埋め合わせはするから。」
「それ、先週も聞いた。」
薫はジト目で皆本を睨みつけた。それにたじろぐ皆本。
「・・・・そっか、皆本はあたしとデートなんてしたくないんだ。」
下斜め45度を見ながら落ち込んだ表情でボソっとつぶやく薫。親譲りのムダな演技力がここで発揮された。
「そ、そんなことは、ないぞ」
若干ドモる皆本。いつものお仕置きに少々ビビリ気味だ。しかし、それを見た薫は、
「え・・・・・・ホントに、行きたくないの?」
そんな皆本の態度を勘違いし、驚きの表情で見た。
「バカ、違う。そんなこと言ってないだろ。」
なだめようとする皆本。その表情を見ながら、薫の心の中には、だんだんとわけのわからない怒りがこみ上げてきた。
そもそもこの男はモテすぎるのだ。バベルの中では柏木さんと、ダブルフェイスの2人。年上の友人ナオミも、憎からず思っているようだし、ハウンドの運用主任である小鹿一曹も最近では皆本を見ている時間が多い気がする。また、皆本は知らないが、オペレーターの中でも、皆本に本気で迫ろうとしているのを薫は何人か知っていた。
「そっか、皆本はあたしのことなんかより、仕事の方が大事だもんね。」
「だ・・・だからそういうこと言ってないだろ。」
「いいよ、ムリしなくて。あたしはこのまま独りで街を彷徨って、イケナイお兄さんとかに保護されて一日その人と過ごすんだ。そしてそのまま居ついちゃったりしちゃうんだ。」
「違うって言ってるだろ。だいたい仕事と比べられるわけないだろ。
もう、子供みたいなこと言うなって。」
皆本のその一言で、あやうい心の均衡を保っていた薫がついにキレた。
「なんだよ子供みたいって! そっちの都合で大人扱いしたり、子ども扱いしたり! 皆本だってフラフラしてさ! あたしと行きたくないならそういえばいいじゃんか! 葵と紫穂の方がいいって、そういえばいいじゃんか! 奈津子ちゃんとほたるちゃんとはデートするくせにっ! ひとの気も知らないで呑んで帰ってきたりしちゃってさ! あたしがどんな思いで毎晩待ってると思ってんだよ!!」
息をつかせず一気にまくしたて、
「皆本なんか、大っ嫌い!!!」
薫は家を飛び出してしまった。
後に残されたのは、
「な・・・・なんなん・・・・だ・・・・・・・・・・・・・・・・・ガクッ」
壁にめり込まれて身動きが取れなくなった皆本だった。
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真夏の太陽を浴びながら、澪は今の薫の話を聞いて、盛大なため息を吐いた。
「あんたさぁ・・・・・・それって、おもいっきし、あんたが悪いじゃん」
「・・・・・・・うん」
澪の言うとおりだ。バベルの事故はただの偶然なのに。そしてそれを皆本が見過ごせないことを知っているはずなのに、ワガママを言って、困らせて、自分ひとりで怒って、傷つけて、最後には決別の言葉まで言ってしまった。
薫は今、最悪な自己嫌悪に陥っていた。特に、勢いまかせとはいえ「嫌い」と言ってしまったことが、薫の心に深くのしかかっていた。
お仕置きという名目で、皆本を壁にめり込ませることはよくあったが、あの一言で、皆本の心と自分の心も傷つけてしまった。もしかしたら、もうあの場所には戻れないかもしれない。
(はぁ、当分だめね、こりゃあ)
澪がお手上げ状態で再びビーチチェアに横になろうとしたとき、
「やあ、薫。楽しんでるかい?」
兵部京介が歩いてきた。水着兼用の水色の短パンに、ストライプのサマーシャツ。さすがに海であの学ランは厳しいらしい。
「あ、少佐。」
澪は突然やってきた兵部に目を向けた。いつもと違うラフな格好に、能力と薬で身体を若く保っているとはいえ、引き締まった体が見え隠れしている。澪は何か喋ろうとしたが、言葉に詰まり、顔を少し赤らめ、そのまま見惚れてしまった。
当の兵部はそんな澪の様子を見つつ、薫の状態を観察した。心ここにあらずといった表情の薫を見て、やれやれと、心の中でため息をつく。
「せっかくの海なんだけど、お気に召さなかったかな?息抜きにちょうどいいと思ったんだけど」
「・・・・・・え? あ、京介。」
薫は、声をかけられて、近くに兵部が来ているのに、今気づいた。
兵部は、そんな様子の薫を、何とかしてあげたいと思う反面、こんなことになった原因のあの男に軽い嫉妬を覚えた。自分では手に入れることのできないものを持っているあいつを考え、それが無いものねだりとわかっていても、兵部は憎まざるをえないのだ。
「うーん、どうしようかな。そしたらあっちの方が・・・」
と、薫を元気にさせる手段は何か無いかと思案したその時、兵部のポケットの携帯が鳴った。(ちなみに着信音は加山雄三の「君といつまでも」だ)
相手はどうやらいつも兵部の傍らにいる黒髪の男性、真木のようだ。
「放っとけよ、そんなの・・・・・・ん、たぶん可能性は無いよ。あいつらはもっと狡猾だし・・・・・んん、いくら仲間が欲しくても、信念も何もないやつは要らないよ・・・・・ん、じゃそういう・・・・・・・」
会話を終えて、電話を切りかけたその時、兵部は薫を見た。
そして2〜3秒の後、何か面白いことを思いついたらしい。子供のような笑みを浮かべた。
「真木、やっぱり行こう。気が変わった。・・・・・ああ、そうだ。手出しはするなよ。監視だけ続けてくれ。」
会話を終え、電話を切ると、兵部は薫の方を向いた。
「薫、気分転換にうさばらしでもしないか?」
「え?」
「ここから程近い街で、エスパーによる銀行強盗騒ぎがあったらしい。それを叩いてくればいい。簡単だろ?」
「え、いや、うん。それは・・・たぶん大丈夫だと思うけど・・・」
薫は返答に詰まった。エスパーが何よりも大事と公言する兵部が、同じエスパーを捕まえろと言っている。
「で・・・・でも、エスパーなのに、いいの?」
「いいさ。たとえエスパーでも、己の欲望のためだけに動く小悪党は、仲間にはなれない。そういうヤツは大きな目的を見失うからね。だから本来はどうでもいいんだけど、まあこれなら薫も動けるだろ?うさばらしにはちょうどいいかと思ってね。」
確かに兵部の言うとおりかもしれない。じっとしてると思考が悪い方にばかり傾いてしまう。身体を動かしていれば少しは気がまぎれるかもしれない。ここがどこだかわからないが、日本ではないのは確かなようだ。ならばバベルにもバレたりはしないだろう。
あの夜、勢い任せで家を飛び出した薫。当然行くあてなどなく、どうしようかとふらふら夜空を漂っていた時に、ちょうど夜の空中散歩をしている兵部に出くわした。
挨拶をしようと近づいた兵部は、薫の悲しそうな顔に何かを悟ったのか、理由も聞かず、例のアパートの一室から、遠距離テレポートでここまで薫を連れて来た。
まあ、にこやかな顔で女子中学生を問答無用で連れて行くなんて、はたから見ると未成年者略取に見えなくもない行動なのだが。
そして冷静に考えれば、この広い空で特定の人間と偶然出会うなど、ほとんどありえないはずだ。しかし頭に血がのぼっていた薫は、それ以上深く考えることができなかった。
「わかった、行くよ。」
「そうこなくちゃ。」
何か彼なりの企みはあるかもしれないと思う。ただ、同じエスパーのことは絶対に裏切らないという点については、信頼がおける。そう判断した薫は、兵部の誘いに乗ることにした。
「じゃあ、澪、それと紅葉。一緒についていってくれ」
それを聞いて、澪の反対隣の女性がむくっと起き上がった。
「え〜、いいんじゃないの? たかだか銀行強盗くらい、2人で十分でしょ。」
サングラスをかけたグラマラスな美女、紅葉は、兵部の命令にとりあえず反論してみた。
“行ってもいいけど、めんどくさい”。
気持ちとしてはそんなところだった。
当然、そんなことで覆るわけもなく、
「だめだ。一緒に行ってくれ」
3人一緒に現場へ向かうことになった。
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「・・・・・ completely・・・ encircled!」
「Surrender obediently!」
「Your ESP was disempowered by ECM!」
「There will not be refuge any longer!!」
現場近くまで飛んできた、薫、澪、紅葉の3人。彼女達の100mほど前方に、人だかりができていた。なにやらイロイロと叫んでいるらしい。
西欧建築を思わせるバロック様式で、かつ頂上まで20mくらいはあろうかという大きな建物。
おそらくあれが銀行なのだろう。その周りを30名を超える、警察らしき男達が盾と銃を構えて囲んでいる。ここからは良く見えないがおそらく銀行の反対側にも、同じくらいの人員がいるのだろう。
そして、その周りを大勢の野次馬が取り囲んでいた。
「なんか・・・・大変な騒ぎになってるんだけど」
「まあ、銀行強盗って、ポピュラーかつ手っ取り早く、最も目立つ手段だからねぇ。」
予想を超える人だかりに、若干ヒイてしまった薫と、ますますやる気をなくす紅葉。このままノコノコと出て行くわけにもいかない。一応、自分達はおたずね者の一味なのだ。あまり自覚は無いが。
「犯人は中にいるんでしょ? だったらあたしの出番だね。」
澪が右手をワキワキとさせた。たしかに建物内で全部終わらせれば、目立たなくて済む。
「じゃあ、澪、よろしく。あと2人とも、はいこれ。」
といって、紅葉は、薫と澪に、3cm四方の四角いプラスチックの塊を手渡した。白くて固い、サイコロのようなプラスチックの立方体で、見かけの割には重量がある。そして、のっぺりとした6面のうち、1面だけ丸いボタンのようなものが付いていた。
「なにこれ?」
「小型ECCMよ。どうやらあそこでECM使ってるみたいね。まあ出力は低いけど、3人で作動させれば、フロア一帯はカバーできるでしょ。」
「ふーん、オッケ。それじゃ、いくよ!」
薫はこれまでのことをグッと胸にしまいこみ、気持ちを切り替えて先頭を切った。
こうして、パンドラ初の「悪者退治」がスタートした。
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同時刻。日本。バベル局長室。
「皆本ぉぉぉぉぉ!!! はやくっ! はやく探し出せぇぇぇぇぇ!!!!」
「大至急探してますから。ちょっと待ってくださいよ。」
「それじゃ足りんのだぁぁぁぁ!! 草の根分けてでも!はってでも探して来ぉぉぉい!! ええぇい!手錠を外せっ! くぬおぉぉぉぉ!!!」
桐壺局長が両手両足を特別性の手錠で拘束されていた。
薫がいなくなり、最初に冷静さを失ったのが局長だった。皆本はその押さえ役になり、逆に冷静になってしまった。
それに、皆本は薫の行くあてがなんとなく読めていた。
“兵部京介”
リミッターの通信機能が効かないところに連れて行くなんて、まずあいつにしかできない。
兵部の行動を認めるわけにはいかないが、薫の身の安全については保障できるだろう。その点については安心できるが、ただそれ以上に兵部の狙いが読めないことに不安を覚えていた。
(兵部・・・・今度は何をたくらんでいる?)
狙いがわからない以上、うかつに動くことはできない。
だがそれよりも、今、皆本は現実的な危機に直面していた。
(パンドラの捜索結果はまだなのか? でないと・・・・)
皆本は局長を羽交い絞めにしながら、捜索結果を待っていたが、
(・・・でないと僕の身がもう持たない!)
人並み外れた怪力を持つ局長を完全に抑えられるわけも無く、あちこちに身体をぶつけて、グロッキー寸前だった。
・・・・・to be Continued.
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