今日はめずらしく一人家にいる。なぜならこの前彼女がトリプルブッキングしてしまったからだ。
「はぁ〜、この俺が休日に一人とはな・・・。」
エリートの道を進み、バベルの医者として働いている超度6のサイコメトラー賢木修二。一人愚痴りながら、ほっぺたにある引っかき傷や、その他もろもろの傷に絆創膏を貼っていた。もちろんその傷は元カノ達からもらった傷である。
「はぁ〜、いつもなら彼女とデートしているというのに・・・。しかも明日は・・。」
6月27日、午後11時53分。あと数分で一つ歳を重ねることになる。何か楽しいことないか、彼女を今からでも作りに行きたい、もしくはよりを戻したい。そんなことを考えているうちに、玄関が開く音がした。
「?」
もしや、俺の心の声を誰かが聞いて、かわいい女の子がやってきてくれたとでもいうのだろうか。そんな淡い期待を胸に部屋のドアのほうに視線を向けた。
「ウィ〜ス!」
だが入ってきたのは、黒髪のロン毛にサングラス、片手に紙袋、明らかに見覚えのない人だった。
「いやぁ、ゴメンゴメン、遅くなっちゃって。人身事故のせいで電車が遅れちゃっててさぁ〜。まぁ、歩いてきたから関係ないんですけどね、アハハハハハ!」
状況がうまく飲み込めなかった。とりあえず、誰?みたいな。賢木は唖然としてその男を見ていた。適当な椅子にその男は座り、もっていた紙袋を近くにおいた。そんな賢木を見て、その男は急に真面目な顔をして振り向いてきた。
「あれ?・・・あんた誰!?・・何、人ん家勝手に入ってきてんすか!?・・って顔してるね♪」
「誰っすか、あんた!?え、てかどっから入ってきたんすか?」
気付けば賢木は即答した。そんな賢木に対して、その不審者は堂々と、
「いや、玄関のカギ空いてたからさ・・。」
「やめてくださいよ!気持ち悪い!何、人んち勝手に入ってるんだよ。」
「ダメだよ?ちゃんとカギ閉めておかないと。東京は変な人たくさんいるからね♪」
「実感しているよ。ものすごく・・。」
賢木は徐に立ち上がり、電話機のほうへ向かおうとした。そしたらその不審者は急に止めてきた。
「ちょちょちょ、どこいくの?」
「警察呼びにいくんですよ!」
「やめてよ〜、知らない仲じゃないんだから〜。」
「いや、知らないっすよ。俺、知り合いにこんな、み○らじ○んみたいな奴いないから。」
急に馴れ馴れしく知り合い扱いされて少し戸惑う賢木。しかし不審者はそのまま話を続ける。
「ほら、ちょうど一カ月くらい前さ、すぐそこの居酒屋で合コンしたでしょ?」
「・・まぁ、確かに合コンしましたけど・・。」
「そんとき俺いたじゃん!!」
確かに一カ月前に合コンした記憶はある。しかしそれは皆本とであってそれ以外に誰もいなかったはずだ。てかこんな印象の濃い奴がいたら酔っていても忘れるわけがない。とりあえず注意深く訊くことにした。
「え?誰っすか?」
「隣の席で一人で飲んでいた鈴木です。」
「いや、知ってるわけないじゃないですか!全く知らないも同然だろ!?もう帰ってくださいよ。」
賢木は耐えかねてその鈴木と名乗る者を返そうと立ち上がった。しかし、そんな賢木の態度にも鈴木はまぁまぁとなだめる感じで制する。
「まぁ、勝手に上がりこんだのは悪かったよ。でもさ、お互い電話番号知らないわけじゃん。だから直接家に入るしかなかったんだよ〜。」
「なんで住所わかるんですか?もう、ホント気持ち悪いんで帰ってくださいよ!」
賢木はもう一度立ち上がって強引に返そうとするが、結局この鈴木は動こうとしない。
「まぁまぁ、座りなって。でもさ、これだけは信じて・・。」
「何すか?」
「怪しい者ではございません。」
「信じるわけないじゃないですか!」
賢木はコンマ数秒でつっこんだ。しかし、全く悪びれる様子もなく、鈴木は話を進めようとする。
「あっ!そっか!まだ来た理由をいってなかったね。ほらあの合コンの時さ、ちょうど一ヶ月後が誕生日だっていってたでしょ?」
なんの脈絡もなく、急に自分の誕生日のことについていってきた。とりあえず、話を進めたいという気持ちも少しはあるので合わせることにした。一応あと数分で誕生日になるわけだし。
「えぇ、まぁ、明日誕生日ですけど・・。」
「その誕生日があと数分で迫ってきているということでプレゼントを持ってきました〜!!!イェーイ!!!」
その鈴木という男は、さも古くからの友人であるかのように、紙袋を上に掲げながら異常なテンションで一人盛り上がっていた。とりあえずツッコミをいれとくことにした。
「いやいやいや、おかしいでしょ。」
「あ〜、そっかそっか。まだ誕生日きてないのに出すのはオカシイよね♪」
「そういうことじゃねーよ。誕生日プレゼントもらうような仲じゃないし、勝手に家にあがられる覚えないんですけど。」
「アッハッハハハハ・・・笑っちゃうよね♪」
「何がおもしろいんですか!気持ち悪いんで帰ってくださいよ。」
「まぁまぁまぁまぁ、座りなって。ほら、あと二分で十二時だから。あと二分おしゃべりしようよ。」
「いやですって。ホント帰ってくださいよ。」
何度帰れっていったか数えるのも面倒になってくる。しかし鈴木は相変わらずで
「十二時になったら一緒にジャンプしよ!ね!」
「いや、しませんから。するにしても正月ぐらいですから。」
いい加減問答無用で家から追い出したくなる。しかも、リミッターがかかっているとはいえ、触ってもほとんど心がよめない。普通の人々やパンドラの奴らなんじゃないかと少し警戒心を強めていた。
「ホントに帰ってくれませんか?迷惑なんですけど。」
「まぁまぁ、十二時まわれば君が主役だから。」
「なんであなたが今主役なんですか?」
何度帰れと言っても聞き入れる気はないのだろう。こうなったら気が済むようにやらせて、途中変な行動を起こし始めたら全力で阻止して、捕まえて、警察に連絡するしかないだろう。そう賢木は心に決めた。
「ところで彼女いるの?」
急に何を質問しているんだ?と思ったがここはあえて突っ込まないことにした。てかなんで人の心の傷口に塩を塗りこむようなことを訊くんだ?こいつは。
「いや、いませんけど。」
素直に言葉を返したからか。真面目な感じの表情になってくれた。
「そうかそうか。・・ん〜、やっぱね〜、普段はいいんだけどさ、こういう誕生日を迎える瞬間。こういう瞬間に男二人で過ごすのって・・なんか嫌だよね〜♪」
「ホントに嫌なんすよ!だからホント帰ってください!」
前言撤回!早く帰らせたい。一秒でも早く。賢木はマジギレ寸前だった。
「まぁ〜落ち着きなって。実をいうとさ〜、僕も彼女いないんだよね〜。ん〜、ずっと彼女がいないなんて時期なかったんだけどさ、たまたま今いないんだよね、うん。」
「へー、そうなんですか。」
「嘘だよ!!」
鈴木は賢木を平手で軽く押しながらヘラヘラ笑う。
「知らないっすよ。初対面なんですから。」
「ずっといないよ!!」
「いや、だから知らないですって・・。」
賢木はもうほとんど投げやりに答えていた。ホントに誕生日プレゼント渡して帰ってくれるのなら、とっとと終えてほしい。
「あっ!おしゃべりに夢中になっていたら十二時過ぎちゃったね。」
「なんで過ぎちゃうんですか!そこはちゃんと時計見とかなきゃだめでしょっ!?」
「ゴメンゴメン、ジャンプは改めて今度しよう。」
「いやですよ!」
賢木の拒絶を当たり前のように無視し、気をとりなおすかのように鈴木がまた声を張り上げた。
「さぁ!おまたせしました!誕生日会始めたいと思いま〜す!」
鈴木は紙袋から、きれいに包装された箱を取り出した。
「いや、やっぱり受け取れないですよ。」
賢木はこんな不審者から不審物を受け取りたくないといわんばかりに拒絶を示した。
「イヤイヤ、大丈夫だって。ちゃんとしたもんだから。」
「ホント大丈夫ですか?爆弾とか入ってるんじゃないですか?」
「アハハハハハ・・・僕がそういうことしそうな人に見える?」
「いや、見えますよ〜。」
「大丈夫だって、絶対君が喜ぶものだから。」
「ホントですか?」
「うん、絶対君に必要なものだから・・開けてごらん!」
しぶしぶ賢木は言われた通りに箱を開けようとした。その瞬間鈴木は両耳を指でふさぎ、顔をふせた。
「ちょっと、やめてくださいよぉ〜!持って帰ってください、コレ〜!!」
「冗談!冗談!そんな爆発するようなもんだったら、僕一人で逃げてるでしょ?」
「まぁ・・そりゃそうっすけど・・。」
「ね!・・まぁ、君と一緒に死ぬのも、悪くはないけどね♪あっははははは!・・・冗談冗談♪」
「さっきから冗談が一つも面白くないんですけど・・。」
「冗談じゃないよ〜!!!!」
突然、鈴木が壊れた人形のように声を張り上げた。唖然と見る賢木。
「なんで大して仲良くもない君と、一緒に死ななきゃいけないんだよっ!!!」
「・・・大丈夫っすか、アンタ・・。」
賢木も今のはさすがに怖かったのか冷や汗をかいている。そんな賢木の様子をみてなのかそうでないのかはわからないが、またあのフランクな感じにもどって、鈴木は箱を開けるようにうながしてきた。
「さぁ、開けてごらん。」
さっきの発狂がまだ気にはなるが、とりあえず言われた通りに箱の中身を確かめることにした。
「今まさに、プレゼントを・・オープン!!」
急に顔に水がかかってきた。視線を少し鈴木のほうに向けると水鉄砲を発射してきている。しかも幼稚園児が使いそうな、黄色いプラスチック製のやつだ。
「いや、やめてくださいー!!なにしてんすか?」
「イェーイ!!!おめでとおぉおおおおお!!!!ハッピーバースデイー!!イエーイ!」
いくら抗議しても全くやめる気配がない。やめるどころか、しまいには水の注ぎ口を開いて直接頭の上にかけてきた。信じられないほど異常なテンションで。すべて水を出し切り終えたあと、
「びしょびしょなんですけどぉおおおお!!!何やってんすか!?」
賢木がものすごいシャウトするが、さきほどまでのテンションが嘘のように、鈴木はスッと真顔にもどり立ち上がった。
「じゃあ・・・帰るから。」
「イヤイヤイヤ、おかしいでしょ?」
「箱の中身みてごらん。君に必要なものが入っているから。」
そう最後に言い残して、鈴木と名乗る者はでていった。
「なんなんだ?あいつ。」
鈴木と名乗る者は賢木宅をでて、しばらく歩くとふと姿を変えた。いや、正確には元の姿に戻ったといったほうが正しいのだろうか。ちょっとアレな髪形の茶髪に、眼鏡、そして片手には愛用のフィギュア。
「まったく、ヒュプノで姿を変えてくれなんて、何かと思ったら・・・何やってるんだ?」
そのフィギュアを持った男のとなりにふと銀髪のおかっぱ頭がやってきた。
「まぁ、いうに及ばないことですよ。単なる個人的な恨みの発散ですから、ねぇ〜モガちゃん。」
「君のすることは、ときどき理解しかねるよ。九具津クン。」
ちなみに、賢木の元カノ達がトリプルブッキングしたのも裏で九具津が工作したのはいうまでもない。
「ナンダカナー。」
一緒についてきた桃太郎が兵部と冷ややかな視線を送りながらつぶやいた。九具津はそんな視線をもろともせず、モガちゃんと勝利の余韻に浸っていた。
ところで、賢木はというと髪はもちろんびしょ濡れで、シャツも肩の部分はかなり濡れていた。
「まったく、なんだったんだよ。あれは・・・。一応明日バベルに報告しておくか。」
そういいながら、賢木はなんやかんやで気になっていた、箱の中身を確かめることにした。
「・・・・。」
立派に包装された箱の中には、きれいで真っ白なタオルが一枚入っていた。
2012年6月28日の不思議な夜の出来事であった。
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