1986

超度X U

「皆本!」


チルドレン達に昼食を食べさせていた皆本の元に、賢木がやって来た。


「どうした? 何かあったのか?」


「いや、俺も救護班として現場に行くんだが、もし何かあったら俺を使ってくれても構わないぜ、ってな」


チルドレンが中学生になってから、賢木とバベルの管理官、蕾見不二子は、皆本の指揮下についた。そのため、皆本は今やバベルの全権を握ってると言っても過言ではない。


「生憎星の戦士とか戦隊ヒーローはいないが、俺でも援護射撃ぐらいは出来るからな」


「ああ、すまないな賢木」


頼もしい友に礼を言う皆本は、ふともう1人の指揮下についたエスパーの事を思い出した。


「賢木、そう言えば管理官は? もしかしてまだ寝てるのか?」


「いや、さっき起きた。まあスタンバイに時間がかかるのはいつもの事だし、作戦までには間に合うさ」


「ああ、じゃないと困る」


だな、と賢木は頷いてから、どこかへ走って行った。恐らく医療チームに指示を出しに行ったのだろう。


賢木の背中を見送ると、賢木と入れ替えに1人の隊員がやって来た。


「皆本主任! ヘリの出撃準備が整いました」


「分かりました。お前達は?」


皆本が訊くと、薫が口元をティッシュで拭いながら答えた。


「こっちも丁度食べ終えた!」


「いつでもオッケーやで」


「行きましょう、皆本さん」


3人の答えに皆本は頷き、立ち上がる。


「よし、出撃だ!」














ヘリの中には、バベルではトップクラスのエスパーチーム、その主任達が揃っていた。


『では皆本クン、作戦の説明を頼む』


大きなディスプレイに映る局長の言葉に頷き、皆本は説明を始めた。


「今回の作戦は、超度Xのエスパーの確保、並びに、関東圏内に現れた怪物達の制圧です」


皆本の話に、誰一人口を挟まない。皆本は続けた。


「怪物達を具現化させているのは、関東を覆う巨大なドーム。これさえ壊せば問題はないのですが、頂上が分からない程高い所にある上、強度も分かりません。そのため、今回は直接、エスパーの場所を割り出したいと思います」


そこまで皆本が説明すると、超度6のサイコキノ、ワイルドキャットこと梅枝ナオミの主任である谷崎一郎が、手を挙げた。


「それならば、何故怪物達の制圧を同時にする? ザ・ハウンドの2人に賢木君、チルドレンの紫穂ちゃんがいるんだ、一気に調べた方がいいのでは?」


「いいえ、それはあまり得策とは言えません」


谷崎の質問に、皆本は首を横に振った。


「確かにそうすれば早いでしょうが、その間に怪物による被害は拡大してしまいます。それに、皆が固まっている所を攻撃されれば、トップクラスのエスパーが全滅、そんな事態も有り得ます」


皆本の言葉に、谷崎はむぅと唸りながら腰を下ろした。


「ですから、これから役割を分担します。まずはワイルドキャット」


「はい」


ナオミが返事をし、皆本がナオミと谷崎に向き直る。


「ワイルドキャットには、栃木、群馬方面を荒らしている『ヨジラ(仮名)』の相手をしてもらいたい」


皆本の説明に併せて、ディスプレイにヨジラ(仮名)の映像が現れる。


2人が頷いたのを確認し、皆本はザ・ハウンドに向き直る。


「次に、ザ・ハウンド。君たちには、神奈川、千葉など、東京湾を中心に暴れている、『ドザエモン(仮名)』を制圧して欲しい」


また、皆本の話に併せて、ディスプレイにどこかで見た蒼狸が暴れまわっている様子が映る。


「次に、シャドウ・オブ・チルドレン」


バレットとティムの背筋に、自然と力が入る。


「君達はチルドレンに実力が劣っている訳ではない。いきなりの実戦は厳しいだろうけど…………」


「だ、大丈夫です!!」


皆本が皆まで言う前に、バレットが力強く言う。


「そ、そうです! 今までの訓練が無駄でない事を示す、いい機会ですし!!」


ティムも、バレットに続き力強い言葉。


「そ、そうか。それじゃあ、頼むよ。君達は山梨、静岡方面の『モズラ(仮名)』だ」


『イエッサー!!』


2人揃って、やる気は十分なようだ。


「じゃあ、次にダブルフェイス。2人には、このヘリに残って情報の中継点をお願いしたい」


「はい、分かりました」


野分が答え、常盤も頷いた。


「それから、賢木と管理官。2人は常にペアとなり、管理官のテレポートで各チームのサポートに回って欲しい」


「えー……不二子辛いんですがー…………」


「この非常時にまで我が儘言わんでください!」


皆本に言われ、蕾見は渋々頷く。


「そして、最後にチルドレン!」


皆本の声に、薫達は待ってましたとにんまり笑う。


「君達は、このドームを張り、怪物を暴れさせている『レベルX』の確保だ。出来るな?」


「あったり前じゃん!」


「ウチらに任せとき!」


紫穂も自信に満ちた顔で頷き、これで全員に作戦の伝達が終わった。


「作戦は以上です。質問は?…………ないようですね。それじゃあ、作戦を開始します!」


『了解!!』


皆本の言葉に全員が頷き、同時に葵のテレポートが各自の場所へ皆を飛ばした。








PM1:17 作戦開始










「っし、着いたな」


葵のテレポートに飛ばされ、宿木明、犬神初音と、主任・小鹿圭子は、東京湾付近に来ていた。


「それにしても………………」


「えぇ。なんつーか、オリジナリティがない…………」


東京湾で暴れているドザエモン(仮名)を見て、小鹿と明はげんなりしてしまう。どっからどう見ても、金曜日の夜7時半くらいから10chを支配する、自称猫型ロボットにしか見えない。


「秘密道具とか出してきたらどうしましょうか…………?」


「管理官を呼びましょう。うん」


「おい明、どうすればいい?」


やや戦意を喪失しかけていた明に、初音が訊く。


「うーん…………正直どうすればいいかさっぱりだ。あそこまでデカいと、逆に俺らみたいな合成能力者は厳しいな…………」


どうします と明が小鹿に視線を送る。


「そうね…………とにかく、今は少しでも被害を食い止めなきゃ。初音ちゃんは鳥に変身トランス、明君は魚にアクセスして、あれの注意を引きつけて、攪乱させるわよ」


「了解!」


すぐさま、初音は鳥の姿をイメージ、変身トランスする。


明も、東京湾にいる魚達を複数操り、ドザエモン(仮名)へと向かう。




















「着きました、谷崎主任!」


「うむ! 早速作戦開始だ、ナオミ!」


ワイルドキャット、梅枝ナオミは、自慢のサイコキネシスをヨジラ(仮名)に叩き込む。


念動サイキック――――超・衝撃波メガ・インパクト!!」


「グガゴォォォォォッ!!」


ナオミの一撃を浴び、ヨジラ(仮名)がふらつく。


「よし、効いている! ナオミ、このまま人気のない山中まで誘導するぞ!!」


「了解!」


谷崎の指示通り、ナオミは弱い攻撃を休み休み撃ちながら、ヨジラ(仮名)を山の方へと誘導していく。


















「よし、着いたぞバレット!」


「了解。オレはサイコキネシスで浮いているから、お前も早いとこ起動しろ!」


シャドウ・オブ・チルドレンも、無事現場に到着。


「うお!? 蛾か!? 巨大な蛾か!?」


「いや、違うだろ! あれはオオムラサキだ! 蝶だよ!」


「…………やっぱツッコミ不在だったか」


「来て正解ね…………」


続いて、蕾見、賢木組も到着。モズラ(仮名)に対してくだらない討論を繰り広げる2人に、賢木と蕾見は深い溜め息を吐く。


「仕方がない……バレット! あなたは賢木君と一緒に援護して。ティム! あなたのシャドウ・オブ・チルドレンと私で、あの腐った蛾をぶっ潰すわよ!」


『り、了解!!』


蕾見の指示に返事をした2人は、すぐさま戦闘体制に入る。


いつもの如くライフルを構えるバレットの横で、賢木が冗談半分に笑いながら言う。


「おいバレット。間違って味方を撃つなよ?」


賢木の言葉を皆まで聞かず、バレットは早速一発、弾丸を放つ。


そして、それは真っ直ぐティムの頭部へ―――――――



「心配はいりません」



行きかけて、軌道を変える。


「自分は弾丸を操れますから」


「そうだったな――――んじゃ、ぶっ放すとしますか!」


賢木も、皆本と同じ型のブラスターを構え、モズラ(仮名)の頭部を撃ち抜く。


「私達も行くわよぉ!っ!」


蕾見と、シャドウ・薫がそろって、サイコキネシスを叩き込む。


「はぁっ!!」


強烈な一撃を浴び、モズラ(仮名)は派手にぶっ飛んだ。














「でも皆本はん。探すって言っても、紫穂のサイコメトリーにも限界はあんねんで? どっか見当つけとんの?」


「ああ」


心配そうな葵の言葉に、皆本は力強く頷く。


「実は、大体の目星はついてるんだ。紫穂は、僕の予想が外れた時の保険、みたいなものかな」


「酷いわね、その言い方」


ムスッとして紫穂が呟く。


「それで、皆本さんが予想した場所って、一体どこなの?」


4人並んで、都心の大通りを歩く。


この辺りはバベルから非難勧告が出ているため、人っ子1人いない。


ちなみに、薫のサイコキネシスや葵のテレポートを使わないのは、力の使いすぎを防ぐためだ。


「まず、関東は首都である東京を中心としている。で、怪物達も東京を中心として、3方向に分散してる」


「千葉方面と、群馬方面、それから山梨方面…………本当だ。三角形になってる」


薫が思い出しながら指を折る。皆本は頷いてから続けた。


「で、3方向に分散させたって事は、ドームの中心、つまりは超度Xのエスパーがいるのは、この辺りって訳だ」


「周りを怪物達で囲んで注意を引かせて、自分は裏で操りながら各地を襲わせてるのね?」


紫穂の言葉にも頷いて、更に皆本は続ける。


「そう。向こうは、怪物達に僕らの意識が完全に向かうと考えていたんだと思う」


「なる程ー。じゃあ、ウチらは相手のウラをかいたんやな?」


葵が感嘆の言葉を漏らす。


「そう。そして、3方向の状況を確認するのに、最も相応しい場所――――クレヤボヤンスやテレパスが使いやすい、都内で最も見晴らしがいい高い場所――――――」


いつの間にか、4人の前に巨大な赤い鉄塔が現れていた。


東京のシンボルにして、富士山と並ぶ日本のシンボル――――




「東京、タワー………………!」






to be continude....
えー、無事続きが書けました。何とか。


今回はバベルのトップクラスの特務エスパーをみんな引っ張り出してみました。

一番扱いやすいのはザ・ハウンドですかねー。キャラが個性的っていうか。

細々したツッコミは各自でして頂くとして、ひとまず読んで頂けたら、と。

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