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If another story is exsited7

ベスパが、パピリオを連れて戦利品を見せに行った。

「負傷した私を助けた奇特な馬鹿さ。おい、お前。名前をなんという」
「名前っスか。えっと……」
「ポチ! ポチで決定でしゅ!」

嬉しいのだろう。パピリオが横島をなでなでする。

「コイツの事はあの蛇女には内緒な」
「了解でちゅ。さーて、どうやって遊ぼうかな〜〜」
「ひいい、い、一応助けたという事でお手柔らかに」

歴史を狂わせても他所で同じような事件が起こるという。
こうして横島は史実と同じく、しばらくの間下働きをするハメになった。

「パピリオ様。魚の骨は人間の主食じゃないんですが……」
「何を言うでちゅか。カルチウムがほーふってみまちたよ。
 おやつにばっちりでち」

横島の頭ががくっと下がった。


晴れ渡る空の下。
コダマの意思とは無関係に、空母イベントが発生した。

史実では、逆天号を大破させるイベントだ。
そして、横島がルシオラを助ける、恋愛のフラグが立つ……。

それを知らないシロメド。
ベスパの逆天号はダメになってしまった為、逆天号二鬼で迎え撃つことに。

指揮官は泣く子も黙る美神 美智恵。

多数の飛行機が逆天号の合間を縫って煙幕を放つ。
ただの煙幕ではない、霊気を帯びた特別な物で、相手の視界を完全に奪った。

同時に空母の上では美智恵が電気のエネルギーを蓄えている。

「いやあああああああああっ!!」

掛け声と共に、空母の電力を自らの身に宿した。


「くっ……こんな展開は聞いていないでござる」

シロメドが焦る。
横島は言えなかったのだ。弟子に恋人のきっかけとなった事件のことを。

「しかし逆天号の力ならば!」
「正面に我々と同じ飛行物体!! 高エネルギー反応! 撃ってくるわ!!」

痛烈な一撃が逆天号を掠めた。さらに。

「八時の方向! ダメです、避けきれません!」

横手からの砲撃が逆天号を抉った。

「やられた!! 異空間潜行装置大破! 
 オートコントロールしているもう一機の逆天号も損傷した模様!!」

「くっ、応戦後、被害の少ないもう一機の方に移るでござる!」
「アンタはそうしな! 私はあの空母を沈めに行くよ!」
「ベスパ!」

言うが早いか焦ったベスパが突撃した。
シロメドが止めるが間に合わない。

ベスパは飛行機を一機奪うと、空母へと突貫する。
そしてその飛行機を美智恵に投げつけた。

「これでもくらえーーっ!!」
「破ァッ!!」

美智恵の一閃が飛行機を真っ二つに切り裂いた。
残骸が海へと落ち、水飛沫があがる。

「上等だコノヤロー!! 罠を使った駆け引きより
 タイマンの方があたしゃ好きさ!! やってやろうじゃん!!」

しかし美智恵がにっこりと微笑む。

「あら、私はもう大人ですもの。
 子供相手にタイマンなんてしないのよ」
「何!?」

すると隠れていた兵の群れから、銀の銃弾を散々に浴びせられた。

そして。

「悪ガキにお仕置きするのにーー手段を選ぶつもりはないのよ!!」

美智恵の神通棍が迫りーー突如フラッシュが発生した。

「閃」!

「逃げるぞベスパ!」
「逃げるでちゅベスパちゃん!」
「パピリオ! ……ポチ……」
「横島君!?」

ベスパが俯く。

「パピリオ、先に帰れ。」
「何言ってるでちゅかベスパちゃん!」
「二度も命を救われて、おめおめあの蛇女の下に
 帰れるほど器用じゃないんだよ、あたしは」

帰らないということ。それは。

「う、裏切るんでちゅか!?」
「……そうだ」
「ベスパちゃんの馬鹿ぁぁぁーー!!」

パピリオが腹のそこから大声で怒鳴って、帰って行った。

「隊長、俺の事、奴らと一緒に始末しようとしたでしょー!!
 そんなアシュタロスみたいなやりかた、俺は認めませんからね!!」

「ふむ、いいねぇ。流石にメドーサが固執するだけはある」

突然、背後から声がかかった。

「ア、アシュタロス!?」
「くっ!」

美智恵が神通棍を振るう。しかし……

「弱く脆いな」

アシュタロスがまるで棒切れを扱うように握りつぶした。

「な、そんなっ……!」

美智恵が実力の差にへたりこむ。

「ベスパ……君もまた、私の作品だったというわけか」
「アシュ様! お止めください! アシュ様の本当の願いは!」
「今は目的ができた。ならば、勝つほうを選択しても悪くなかろう。
 そして今、私に必要なのは……魂の結晶だ!」

アシュタロスが消え、次の瞬間には美神令子の胸を貫く。
この場の誰も対応できない。

「っ? 魂と結晶が癒着していないだと?
 強欲が過ぎて数万人の魂、それら全てに拒絶されたのか……?」
「なんだかわかんないけど、失礼なこといわないで頂戴!」

美神令子が怒鳴った。

「ふむ、まあいい。さて、次の標的は……」

その時、アシュタロスの指輪が欠けた。

「ええい、時の女神の代行者か」

アシュタロスはそういい残すと姿を消した。


その頃コダマは、逆天号を奇襲していた。

パピリオとルシオラは、カオス特製の注射器で
プスッと刺されて虫かごに入れられている。

そして今、まさにシロメドを追い詰めていた。

「く、損傷率60%! お、おのれ何処までも邪魔をしおって!
 大体その武器は何でござるか!」
「霊波刀に「槍」をくっつけた」
「だああ、それを振り回すなでござる。逆天号が壊れるーー」

シロメドが悲鳴を上げた。
チャンス。

コダマが横薙ぎの一閃を繰り出した。
シロメドの髪が数筋舞いーー操縦席がずたずたになった。

「〜〜!? お主なんと言う事を」

全ての逆天号が壊れた事で、アシュタロスから授かった指輪が割れた。

「おのれ! しかしアシュタロス殿が直々に空母を奇襲しているでござる。
 最低限、時間稼ぎは達成したでござるよ!!」
「な、何だって!」

シロメドは最後にそういい残すと撤退した。


コダマが戻った時には、既にアシュタロスは撤退し、
魂の結晶を奪われていた。
念のため「分離」したおかげで、美神令子が無事だったのは不幸中の幸いだが。

聞けば横島がさらわれる寸前だったとか。
船を破壊した事も、どうにか意義があった。


コダマが皆の前で真剣な表情で語りかける。
身長が足りないのは痛いところだが。

「次が最後の戦いになると思います。
 だけど並みの方法じゃあアシュタロスは倒せません。
 ……俺に秘策があります。任せてください」
「わ、私も行くんだからね! 私は」

怯えながらも気丈に振舞うタマモ。
コダマはそんな彼女を優しく見つめる。

「今回ばかりは、ダメだ」
「何言ってんの! 今までだって、ずっと一緒に」

コダマは彼女の肩を丁寧に触り、「眠」らせた。

「アンタ……」
「俺、一人で行きます。どちらとも決着をつけないといけませんから」

瞳に強い意志をともすコダマ。
しかし横島が待ったをかけた。

「待てよ。メドーサは俺に任せてくれ」
「よこ……しま」
「初めから俺が決着をつけてればよかったんだ。
 俺も……行く。行かなきゃならないんだ!」

横島もまた、強い意志を点らせる。

「横島君……
 こんなシリアスな横島君は横島君じゃないわ!」
「ちょっと待て〜〜! 俺が何したって言うのよ!!
 弁護士を、弁護士を呼んでくれ〜〜!!」

横島は吊るされて鍋に入れられかけていた。


「ベスパ。」

決戦前の夕暮れ。川原で石を投げるベスパ。
彼女に横島が、後ろから話しかけた。

「お前か。今、話したい気分じゃないーーと言いたいが、
 あの蛇女と戦いに行くんだよな」
「ああ。……ところで本当に、よかったのか? 裏切って」

横島の問いにベスパが俯く。

「あたしは聞いたんだよ。アシュ様の本当の願いを。
 アシュ様は、本当はね、解放されたがってたんだよ。
 死んでも同じ場所に戻される魂の牢獄からね」
「それがどうして、ああなっちまったんだ」

横島が尋ねる。

「わかんないよ。唯一つ言えるのは、
 メドーサがアシュ様の側近になってからだ。
 あの蛇女が何をアシュ様に吹き込んだのか、
 そこまではわからないけどね」
「そうか……」

横島は何かを決めたように、目を瞑った。

「アンタじゃ物の役にもたちゃしないよ? それでも行くのかい」
「ああ。俺にしか出来ない事があるからな」
「もし無事に帰ってきたら……いや、なんでもないよ」
「帰ってくるさ。絶対にな」

横島は後ろを向いて片手を挙げると、駆けていった。


夜。小雨の振る中、コスモプロセッサーが出現した。
美神の住まいから。

「ちょっとぉ! なんちゅうことしてくれるのよ!
 これじゃあもう、私に貸してくれる不動産屋がいなくなるじゃない!」
「美神さん、今はそー言うどころの問題じゃあ」
「つーワケで私も行く!」

既にコダマと横島は出発している。
止められる者は、誰一人としていなかった。


コダマと横島は、人っ子一人いない大通りを歩いていた。
そこに、シロメドが刺叉を持って舞い降りる。

「チビ狐! 一体何を考えているでござるか!
 先生をわざわざ連れてくるなど……」

コダマが口を開く前に、横島が話しかけた。

「コイツの意思じゃねぇ。俺の意思だ」

横島がしっかりとした声で言葉を紡ぐ。

「先生!? ようやく拙者の下に」
「俺はお前の先生じゃねえ!!
 俺、嬉しいよ。お前みたいなきれーな姉ちゃんが俺のこと好きだって……。
 でもさ、俺、悲しいよ。お前が見ている俺は俺じゃねえんだ。
 ヤるのヤらんのっつったらヤりてーよ。でもよ、それって、間違ってるよ。
 ……俺、お前の事、振るわ」
「そ、そ、んな」

メドーサの肩ががくんと落ちた。
瞳は焦点が定まっていない。

「これで、いいんだ、これで……」

横島は呆然としながら、来た道を帰っていった。

「横島君、ちょっとだけかっこよかったわよ」

その様子を見ていた美神がその背中に声をかける。

「みてたんですか……」
「でも、横島君の言うとおりだと思う。
 彼女は横島君と違う、いわばドッペルゲンガーを追いかけてた気がするの。
 やっぱ恋愛は相思相愛じゃないとね」
「ですよね美神さん! それなら一生俺の物に」
「図に乗るな、馬鹿横島!!」

肘鉄が横島の骨を叩いた。
気絶した横島をみて、美神が軽く溜息をつく。

「ま、そうしているほうが、アンタらしいけどね。
 ……今回は、特別なんだからね」

横島は美神に背負われて、もと来た道を帰っていった。


無言で固まっていたシロメドから、霊波刀が伸びる。
そしてそれを、己が腹に向かって振り下ろした。
慌てたコダマが放ったソーサーが、辛うじて刀を逸らした。

「武士の情けでござる。放ってって置いてくだされ。
 現世では適わず、この世界でも適わずとあれば拙者、生きがいがありませぬ」
「ええい! この、馬鹿犬がっ」

尽きた顔のシロメドの額に、小さな小さな、張り手を一発見舞った。

「え……えうっ? 馬鹿犬……?」

目をつんざいて何やら呟くシロメドを背に、コダマは「加速」の文珠で進んだ。
これで、いい。
残るか追ってくるかは、アイツに任せよう。


「コスモプロセッサー、試運転完了」

「させるかあああ! うわっ!?」
「待っていたよ。君が望もうと望むまいと、決着は必要だ。そうだろう?」

盛大に転んだコダマに、アシュタロスが話しかける。

「私としたことが迂闊だったよ。だが、最早ジャミングは完璧だ。
 君には勝ち目はない、そうだろう?」
「メドーサが横島に振られた今、これ以上やる必要があるのかよ」
「そうなったのは君の責任だぞ? 私が世界を創造した暁には、
 良い出会いと環境を与え、初めからやり直させてやるさ」

そんなの、本当の出会いじゃねぇとコダマが呻く。

「あいにくだが君と恋人論議をしても仕方ないのでね。
 ともあれ、これが最終楽章だ! 時の女神の代行者を、デリートだ!!」

アシュタロスの小指が、鍵盤のシ♭に伸びた。

「これで……終わりだっ!!」
「させるかぁぁ!」

地表から掘り下がった大地へと、コダマが駆ける。

しかし、間に合う距離ではない。

アシュタロスの指が、鍵盤に触れそうになって……止まった。
「奥手」と刻まれた文珠が鳴らそうとした、まさにその指を挟んだのだ。

「い、いてててっ!?」

アシュタロスは見落としていた。
もう一人、文珠を使える人間がいることを。その人物が、世界を救ったことを。
その隙に、コダマが抜ける!

「ええい、ギャグはもう沢山だっ!!」

アシュタロスが両手から魔力の塊を放出する。
山をも砕くその一撃は、彼女をすり抜け大地を抉った。
「影」!

「っ!?」
「チェックメイトだ、アシュタロス!!」
「背後だとっ!?」

慌てて振り向くも、コダマの小さな掌は、鍵盤を叩きつけた。

「コスモプロセッサーに大穴を開けろ! 魂を飲み込む穴を!
 俺がいた世界に向かって、吸い込めぇぇぇ!!」
「な、なん、だとっ!?」

戸惑うアシュタロスの胴体に、小さな体が抱きついた。

「てめえも来るんだ、アシュタロス!
 もっとも、俺の世界にはお前の体なんざ、消滅してるがなぁ!」
「ええい、お前もか! 本来存在してはならない魂は、
 一つではなかったのか!!」
「生憎だったな! そのとおりさ!」


「コダマ!」
「タマモ!? 来るな、タマモ! お前まで魂を吸い取られるぞ!!」
「そん、な。私は! 私も一緒に……っ!」

老師の分身がタマモを気絶させた。

「やれやれ、ここからでも魂が吸い取られるのを感じるわい」
「世話になったな、老師!」
「お互い様じゃ! 成功を祈るぞ!」


「まだだ……」

アシュタロスの気が膨れ上がる。

「私にはココに存在する意味がある。理由がある! このまま終わるわけには!」
「せんせーい!!」


その背後から、シロメドが飛びついてきた。

「せんせせんせせんせーーー!! ひどいでござる! あんまりでござるよ!」

コダマはシロメドとアシュタロスに挟まれ、息が出来なくなった。

「ぐえっ! だ、だってお前アシュタロスに組していたじゃねーか」
「一言教えてくれれば、拙者すぐに飛んで来たのにぃぃぃ!!」
「ちょ、ちょっとは体格を考えろ! 
 おっぱいと筋肉の狭間は美しくもなんともないぞ!!」

アシュタロスが目を瞑る。

(そういうことか、やれやれ。私はクピド(キューピッド)ではないのだがね)

そして肩の力を、足の力をふっと抜いた。
三つ姿の体躯は、開いた虚空へと消えていった。


「やれやれ、こうなりましたか」
「ったく、最後まで後始末を考えんやっちゃな」

二人の光る存在はそう言い残すと、片手を挙げた。
コスモプロセッサーが根元から折れ、
魂を吸い込む穴が破裂音と共に閉じた。


「結局、どうなったんですか?」
 
小竜姫が老師に問いかける。

「コダマがアシュタロスを出し抜いて、
 メドーサとアシュタロスの魂を異次元に飛ばしたのじゃ。
 己の身を犠牲にしてな」
「そんな……っ」

タマモは目を腫らしたまま動かない。

「タマモや」
「ほっといて頂戴」

ぐしぐしと、涙声でタマモが返した。

「ここにコダマの使っていた金冠がある。
 これには契約の際、僅かだが魂で結ばれたーー絆が残っておる」
「!!」

タマモの体がびくんと跳ねた。
「ちょうだい! それちょうだい!!」
「待て待て待て! 焦ると上手く行く物も
 上手くいかんようなるぞ」
「何をしようというの」

老師がキセルから煙を吹いた。

「嬢ちゃんをもう一度封印する。この冠と一緒にな。
 上手く行くかは博打じゃが、成功すれば嬢ちゃんの成熟と共に、
 コダマの魂が補われる……どうするかのぅ?」
「やるわ!」
「いつ復活できるか分からないのじゃぞ」
「それでも……やる。私から逃げようなんて、
 そうはいかないんだから、コダマ……」

タマモは金冠をぎゅっと抱きしめた。

老師はそのままの姿勢のタマモを、石へと変えていく。
妙神山に新たなオブジェが一つ、出来た。

疲れた修行者の心を癒すとも言われているが、その程は定かではない。
ただ、石像はうっすらと笑みを浮かべて、
大事そうに輪を抱きしめているのだった。


一方虫姉妹の二人。

「ねえ、わたち達の扱いあんまりじゃありまちぇんか」
「虫の一生は短いのよ〜〜!!」

虫かごに入れられ、完全に忘れられていた。


美神事務所にベスパが参入して、横島の恋路に一悶着あるのだが、
それはまた別の話である。
後は短いエピローグです。
沢山スペースを取りました、埋めてしまった方、申し訳ありません。
一箇所でも楽しんでいただければ幸いです。

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