1973

If another story is exsited6

月に魔族が出たという情報が送られてきた。
本来、月は神魔の及ばない中立地帯で、
相互不干渉になっているはずなのだが。

相手は強く、警護隊が束になっても適わないとか。


こう言うと平坦な道のりに聞こえるが、コダマは奔走しまくっていた。
まず横島が霊波刀を使ってないため、コダマがこっそり襲って覚えさせたり。
これでかろうじて横島、シロの師匠になってたりする。

文珠を覚えさせるのも一苦労だった。何せぎりぎりだったのだ。
挙句に雪之丞が居ない。
小竜姫様の稽古を混ぜ、ようやく覚える事が出来た。

また、キヌが蘇生した後の、メドーサが裏で暗躍した事件。
これが待てども待てども、起こらなかったのである。

慌てたコダマは事務所を襲撃し、鍛錬の数を合わせていたりする。
勿論、後で鬼のような追求が来た。

老師の試練を受けたものは不定期に指導が入る。
コダマの苦しい言い訳に、法外な請求と言う形で返答が帰ってきた。


そんなこんなでようやく、月まで時間軸が来たのである。
コダマは美神の元に赴き、妙神山にある金塊で契約を交わした。

「ま、私はお金が入ればそれでいいんだけどさぁ。
 何でアンタが直々にやらないの?」
「メドーサ以外関与禁止なんですよ〜〜。一応ついていきますが、
 メドーサじゃなかったら置物だと思ってください」

歴史が大根とゴボウぐらいに違ってきている。
月の魔族がメドーサかどうか分からない為、狐姉妹も行く事になった。
天界の許しが出たとして、小さな猿の分身も参加。本体も近いうちに参戦するとか。


そして現在地は某国「星の町」。
カオス特製ロケットで月へいくことに相成った。
横島がごねにごねたが、金銭に取り付かれた美神に適うはずもなく。
そのまま半強制的にロケットへと搭乗させられた。

月の事件。
本来ならばメドーサが最後を迎えるところである。
月のエネルギーを地球に送ろうとしたが、横島と美神の活躍により辛うじて勝利。
ドクターカオスの相棒マリアと共に、横島が地球に生身でダイブした事件でもあった。

しかし、今回はどうなるか。
そもそもメドーサとコダマの対決になっているのだ。

勿論、美神と横島の援護は十分に役に立つ。
けれども、まさか仕留める訳にも行かないし、とコダマは心の中で付け加える。
今回も難しい舵取りを迫られそうだ。

そうこう考えている間にも事態は進展していた。

「切り離し成功。周回軌道に乗りました」
「了解、第二宇宙速度航行の準備!」
「イエス、ミス・美神」

マリアがナビゲーションをし、美神が指示を出す。
一行は着実に月へと向かっていた。


「このあと彼らは次の噴射を行い、現在は月へ向かう周回軌道上にあります。
 正確な位置を申し上げますと、地球から、えーー」
「結構、要点だけ分かればよろしい」

光り輝いて目視できない存在が言葉を遮った。

「一応うまい事月へはいけそうやな。しかし、アシュタロスの奴、
 なんちゅーふざけた事考えとんや」
「やはり彼は神族として定めてやるべきでしたかね」
「それを拒んだんはおたくらやろ? ま、ワイらも創造の力を持つ魔神が
 欲しかった、ちゅうのもあるけどな」

もう一人の存在がいたずらっぽく話しかけた。

「そこを突かれると弱いですね。しかし一神教の派閥が出張っていて、
 こちらも調整が大変だったんですよ」
「わかっとるわかっとる。とにかく今はエネルギー送電を阻止して、
 次の一手の前に、しばいて勢力を半減したるしかないわ」

光る存在が頷いた。

「ま、上手くいったらまた何ホールかまわりまひょ。
 ブッちゃんとアッちゃんにもあんじょう言うといて」
「こちらも老師の派遣を急ぎましょう。
 ……ごくろうでした。引き続き任務を遂行してください」

会話が終わった瞬間、神と魔の、最高指導者に面会した魔族の男が力尽きた。
小竜姫たちがいないのだが……気に止めるものは誰もいなかったりする。


一方の美神。
歴史どうり、いきなり某国から仕入れた核ミサイルを発射した。

(たしかこれ、帰ってくるんだけどなぁ……猿、打ち落としていい?)
(後の事を考えると、その方が安全じゃろう)
(らじゃ〜〜)

「戻ってくる」
「え!?」

ポツリと呟いたコダマに、美神と横島が驚いた。

「ああ、コイツ予知能力があるのよ。で、どうするの?」
「こうする」

コダマはハッチを空けると、サイキックソーサーを放り投げた。
紹介もされなかったハエの魔族は、
ミサイルをくわえたまま、爆破、炎上した。

その余波が美神の乗る船をも襲う。

「ア、アンタ、さっきと話が違うじゃないの」
「いや、今のは正当防衛ということで……
 だってあんなん喰らったらこっちまで死ぬじゃないですか!」
「いや、まあそうだけど……」

コダマが必死に弁解した。


ハエの魔族の消滅はシロメドにも伝わった。

「っ! コダマでござるな! 先生から聞いた話と違うではござらんか」

親指に歯を立てるメドーサ。
その足元に、美神の船が急落下した。
土煙が巻き起こる。

「メドーサ! アンタに言いたくてたまらなかった台詞があるのよ!
 極楽に、逝かせてあげるわ!」
「冗談ではござらん。先生を娶らずして死ぬなどっ!」
「まだそんなこと言っとんかい」
「当然でござる!」

美神が魔族製のライフルを放つ。
ところが、メドーサもいの一番から超加速に入った。
負けじと美神も竜神の武具で超加速。しかし…

「月と拙者とは相性がいいのでござるよ」
「っ!」

メドーサの動きが一段と早くなる。
美神は魔族軍のライフルを撃つが、へろへろとしか飛ばない。
その隙に背後を取られた美神の、間に横島が入る。

「く、先生までも超加速を」
「や〜ら〜せ〜る〜か〜〜」

シロメドは攻撃が出来ない。
そこに。死角からやってきたコダマがシロメドの胴を薙いだ。

「ぎゃん!? そんな、拙者が反応できないなんて!」
「つぅぅ、そこまでだ! メドーサ!」

コダマが吠える。光る文字は「石」。
しかし、投げたはずの文珠は煙となって、指と指の間から抜けていった。

「うそっ! こんな文字まで封じてやがるのか」
「も、文珠は全て投げた瞬間にジャミングされるでござるよ」
「こらこらこら! 「三つの制限」意味ないやないか!」
(こちとら痛い思いをしてまで、攻撃したのに!)

コダマがメドーサに噛み付いた。

(しかし「模」の文珠は使えたよな?)
(投げる動作がジャミングの対象になっておるようじゃのう)

「なんとでも言えでござる。拙者は先生を手に入れるためなら……」
「だぁぁ! その為に香港を魔界にしたり、
 月のエネルギー奪ったりするんじゃねぇ!
 俺まで悪人にされるやないか!」

今度は横島が怒った。

「心配無用。なぜなら……」
「これからは私が世界を紡ぐのだからね」
「アシュタロス殿!? これは一体!」

老師の問いに答えず、アシュタロスは強い衝撃波を放った。
皆が散り散りに吹き散る。

「時間稼ぎご苦労、メドーサ」
「いえいえ、御身のためならば……はっ!」

超加速で突っ込んだコダマを、メドーサが霊波刀で応戦した。
その間にアシュタロスが反転してエネルギー転送装置、ヒドラにはいる。

「お前は! これがどういうことを起こすか分かっているのか!」
「適わぬものの気持ち、おぬしには分かるまい!
 これからはアシュタロス殿が、魔族がコインの表になるのでござるよ!」

斬撃の応酬が続くが、「模」の文珠を使っているコダマでは、突破する事が出来ない。

「血迷ってんじゃねぇ! 世界が滅ぶかもしれないんだぞ!」
「魔族が神になって何が悪いでござるか!
 拙者が恋をして何が悪いでござるかぁぁ!!」

シロの攻撃が激しく、コダマは突破口を見出せない。
そうしているうちにも、ヒドラにエネルギーが充満していく。

(コダマ! このままではアシュタロスにエネルギーを持っていかれるぞ!)
(わかってる! だけどこれじゃ動きようがねーじゃねーか!)


他の面子も遊んでいるわけではない。
しかし、ヒドラの自己防衛システムで近づく事すら出来ずにいた。

「これ、ライフルで遠距離から狙撃できないっスかね」
「私は全部撃っちゃったから……アンタに任せた!」
「よ、よ〜し」

しかし横島、構える物の中々撃てない。

「はっ!! そ……そうだ!! 目に頼るからいかんのだ!!
 心の目でーー」
「持ってもいないフォースに頼るなバカタレッ!!」

勢いで発射した弾は、関係ない地平線の彼方に飛んでいった。

「何もったいない事してんのよ!」
「美、美神さんがどつくからーー」

二人が揉めている間に突如、土煙が辺りを覆った。
重力の軽い月では、粉塵が長く落ちない。

次に晴れたときには、既にシロメドの姿はなく、アシュタロスと共にヒドラに乗っていた。

「く、あわよくば先生を回収したかったでゴザルが」
「焦るなメドーサ。月の力を浴びて、お前は更に強くなった。
 次こそが……最終楽章だ!」
「先生! 拙者は絶対先生のこと……ううん、待っているでござるよ〜!」

魔神とシロメドはそういい残すと、紅いオーラを帯びて地球へと飛び立った。

「最悪の展開じゃ! ここで仕掛けてこようとは」
「は、反則だ……反則じゃねぇかよおおおおお!!」

コダマの長い遠吠えが月に響き渡った。

(い、いかん! 神族の拠点が次々と破壊されておる!)
「何なの? 何が起こったの?」

事態を把握できない美神が疑問符を並べた。

「アシュタロスが……全世界を相手に反乱を起こしました!」

コダマから、一筋の冷や汗が流れ落ちた。


アシュタロスは神界、魔界の干渉を封じる為、冬眠することになった。
既に神界、魔界とのチャンネルは遮断済みだ。

「君に三鬼の逆天号と部下の指揮を任そう」

アシュタロスはそういうと指輪をシロメドに手渡す。

「蛍の化身、長女ルシオラ。蜂の化身、次女ベスパ。蝶の化身、末女パピリオ。
 私の親衛隊だ。寿命を一年に設定してあるがゆえ、高い戦闘能力を持つ。
 有効に使いたまえ」
「承知でござる!」


対するコダマ。

老師から金環を外してもらい、全力で挑むことに相成った。
そしてアシュタロスの目的を美神たちに説明する。

「おそらくアシュタロスは神族、魔族との干渉を抑える為、眠っているだろう。
 となると、当面の敵はメドーサ。となると……
 第一の狙いは横島だろう。だが、敢えて皆と一緒に事務所に待機させる」
「えー。私たちまで狙われるじゃない」
「この期に及んで、部下を見捨てんでください美神さん!」

横島が鼻水交じりに抗議した。

「大丈夫だ。奴の向かう先に心当たりがある。そこで……仕留める!」

コダマが気迫のこもった声で、語気を強めた。

「オカルトGメンは周辺住民の退去を。美神さん達は万が一のときは地下から……」
「待ちなさい。これからは私の指示に従ってもらいます」

美神の母、美智恵がバイクに乗って颯爽と現れ、待ったをかけた。

「そうしたいところですが、奴は都庁の地下を知っていますよ。それも詳細に」
「なっ……あそこは人類の最後の砦なのにぃぃ!
 というか、何で貴方はそれを」
「そこで戦う姿が見えました」
(シロのやつ、あそこで何回もトレーニングしてたからなぁ)

コダマが寂しそうに想いをはせる。

「と、言うわけで俺は都庁に行きます」
「待って! 私も行く!」

タマモが身を乗り出した。
それにコダマが溜息をつく。

「何よそれは」
「いや、ダメって言っても来るんだろうなぁ、と」
「私は貴方の姉なのよ。おねーちゃんの言う事は聞きなさい」
「はいはい……」


一方の逆天号、シロメドの拠点では。

「まずは先生を確保、それから魂の結晶を探すでござる」
「ちょいと待った!」

これに、ベスパが噛み付いた。

「先生とやらがなんだか知らないけどね、アシュ様の望みは魂の結晶なんだよ。
 アンタの私用を優先してどうすんのさ」
「そのアシュタロス殿に指揮を任されたのはそれがしでござる!
 なんならベスパだけ待機しててもいいんでござるよ」
「何っ!」

ここでルシオラが双方を宥める。

「味方同士で喧嘩してどうするんですか。ベスパ。
 神族、魔族が壊滅した今、焦る事はないでしょう」

これにパピリオが茶化す。

「ルシオラちゃん、おっとな〜〜。
 それにひきかえベスパちゃんたら、恋する乙女心が分からないなんて
 胸だけ発達して頭の中は子供といっしょふぎゃっ!?」
「ええい! アンタにだけは言われたくないよ!」

ベスパの硬い拳骨が、パピリオに突き刺さった。

「ならば、参るでござるぞ。目的地、日本の都心!」


雲ひとつない夕暮れの空に、小さな影が伸びる。
三鬼の逆天号が都心に向かってきたのだ。

逆天号は都心手前で止まると、ハッチを空けた。
そして中から四体の魔族が躍り出る!

コダマとタマモはその様子を見て威嚇した。

「抵抗するだけ無駄でござるぞ!
 拙者にアシュタロス殿の親衛隊が全員。
 文珠のジャミングされたお前では相手になるまい」

暢気に喋るメドーサを尻目に、コダマが動いた。
「超加速」でルシオラとパピリオを「痺」れさせ、
霊波刀に「剣」を内蔵してベスパを吹き飛ばした。

「な、なんとっ!? ジャミングが効いてないのでござるか!?」

効いてないのではなく体内まで届いていないだけなのだが、言う義理はない。

「これ以上邪魔をするなら、いくらお前と言えど!」
「くっ! これがおぬしの本気っ……! かくなる上は!」

メドーサはそう言うと、霞を残して消えた。
同時に三人の部下たちを回収する。

「ルシオラ、パピリオ大丈夫でござるか」
「ええ、私も麻痺を扱えますから。パピリオの痺れも取っておきました」
「ベスパ!」
「こ、これくらい、たいしたこっちゃないよ!」

シロメドが目を瞑り、大きく目を見開く。

「よし! それなら奥の手を使うでござる!
 逆天号、三・鬼・合・体!!」

「いっけぇ。今週のびっくりもごもご……」
「今そのネタはダメー!」

ルシオラがパピリオの口を慌てて塞いだ。
これが危険なネタになろうとは誰が思おうか。

しかし、ベスパの動かすパーツの動きが鈍い。

「ベスパ! 何をやっているでござるか!」
「うるさいね!こっちも必死で操縦してるんだよ!」

一方のコダマは盛大にこけていた。
合体といえば聞こえはいいが、実態は頭のないヤジロベーである。
シロの考えそうな事だが、わざわざ機動性を損ねて合体もクソもない。

「いけええええ! トライアングルビーム!」

左腕、右腕、中央からコダマに向けて断末魔砲が放たれた。
しかし中央の断末魔砲は地面の下。

不恰好に浮遊した逆天号があられもない方向に標準をあわせる。
そして焦点の定まらないビームが二筋、地球の外、大気圏外へと抜けていった。

「……」
「……」

どこの世界のコメディだろうか。

「もしかして私達、あんな阿呆と今まで戦ってきたの?」
「タマモ。現実を受け入れるんだ。俺も挫けそう……」

狐二人が涙した。

「こ、こら! 聞こえているでござるぞ!!
 こうなったらベスパ! おぬしが単独で断末魔砲を発射するでござる」
「やれやれ」
「お、おい! 固定してそんなことしたら」

コダマの制止も空しく。

ドッキングしたままの腕でビームを放とうとしたベスパは、
小爆発を起こして吹き飛ばされた。
同時にヤジロベーの右腕の付け根がもげる。

落下先は……美神事務所!

「ってちょっとおおおおおおお!!」
「馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

衝撃を受け、落下するベスパ。
潰された事務所からなんとか這い出た横島。

「くっ、くそっ! ……ダメだ、見殺しに出来ねぇ!
 敵を回復させるなんて……っ! しかし……」

瀕死のベスパを見て、横島が躊躇しながらも「蘇」の文珠を使う。

起き上がったベスパが、即座に横島の胸座を掴む。

「どういうつもりだい! 敵に情けを見せるなんて!
 ……フン、面白い小僧だね」

ベスパはそう言うと、横島をさらって飛び立った。


シロメドは悩んでいた。
この状況では分が悪い。しかし、べスパを見殺しには出来ない。

こうして難しい選択を迫られ悩む間に、ベスパが着艦した。

「お前はそこにいな」
「ひゃ、ひゃい!」

そしてハッチを開ける。

「ベスパ、ただいま帰りました」
「よ、よかったでござる。直ちに異空間へワープするでござる」

シロメドはそう言うと、直立噴射して異次元へと入り込んだ。

「ベスパ! 無理なら無理と最初から言えばいいものを!」
「ハン! 部下を切り捨てる上司か」
「いえ、今のは物理的に不可能だったんですが……」
「この……っ!」

シロが獲物を取り出そうとしたその時。

「まーまー、お互い無事だったんだからいいじゃないですか。
 その怒りは敵にむけましょ? ね」

ルシオラがまたしても、懸命に宥めていた。


一方の小竜姫達。

「ヒャクメ。本当に横島さんはこのビデオを借りるんでしょうね」
「間、間違いないのね〜〜」
「なんだ、そのどもりは」

ふー。ふー。

「ヒャヒャヒャヒャクメ! 何やら怪しげな物体が此方に接近してきますよ!」
「え、えーとあの物体のスリーサイズは」
「聞きたくありません! それより何とかしなさい、キャー持ち上げられたーー」

難儀していた。
長編の難しさをこの辺りからつくづく思い知らされました。
定期的に書いてる方には頭が下がる思いです。
一箇所でも楽しんでいただければ幸いです。

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