1938

罪の絆

 ヤミの中私はただ漆黒を見上げる。
 ヤミが広がる。
 貴方のいない世界に私は生きていたくないの。
 だから私を許さないで。
 だから私を許さないで。
 贖罪を求めるつもりもなく。
 許しを求めるつもりなんてなく。
 
 私は貴方のいない世界に生きていたくない。
 そんなくらいなら、私は貴方に……。

 一生消えない心の傷をつけてみよう。

 多分私は貴方に愛されたい。
 私は貴方に永遠を求めてる。
 罪という絆によって。

「お願いだから……」
 もしもの世界があるのなら、あの時に戻りたい。
 貴方はとめた。
 でも私は自分を止められなかった。
「思い出せないよ。もう泣き顔だけしか」
 お願いだから微笑んで、と思う。
 ヤミをただ見上げていた。
 ああとても綺麗だ、星空のないヤミ色は。
 私のそばで、白い人がただ黙って私を見ている。
 悲しく彼は笑うんだ。
 あの時からいつもいつも。
「……女王、そろそろ決心はついたかい?」
「なんの?」
「こちら側の人間なんだ、キミは」
 私は多分、彼に害なす人は許せない。
 だからあの時に戻っても、私は多分同じことをするだろう。
 もしもは多分ないんだ。
 こちら側とはなにか? それは多分。
「キミは大切な人のためなら、人殺しもいとわない子だ」
 それは間違いない。
 でも私はあの人の敵になりたくない。
 でも私は多分。
 白い人は私の横に座っている。
 硬いアスファルトに直に座るととても冷たいけど。
 でも私は捨てられた猫のようにちょこん、とただ冷たいそこに座っていた。
「彼は多分私を許す」
「それは間違いないね」
 お願いだから許さないでほしい。
 でも彼は私を許すでしょう。
 だから私は……。
「決心はついたかい?」
「もう少しだけ……」
 彼は私を許すでしょう。
 だから私は多分彼を裏切る。
 でも彼を私は消せないから。
 彼に私を消してもらおうとするでしょう。
 それは多分間違っているんでしょう。
 でも……。
「葵や紫穂は知らないんだ」
「そうだろうね」
「皆本は優しすぎるよ」
 私はヒトゴロシ、それは間違いない。
 皆本を殺そうとしたあの人を私は殺した。
 とめるにはそれしかなかったと、局長も言うけれど。
 お願いだからそれを許さないで。
 罪が私を追い詰めるから。許されるという一言に。
「……私は多分……」
「ゆっくりと待つんだよ。今はね」
 多分私を彼は許すでしょう。
 そして私は彼を多分裏切る。
 夜の闇が私を包み込む。マンションの屋上はとても寒いけど。
 でも少しでも彼の近くにいたいから。
 私はただ座る。
 そして……彼を感じる為に目を瞑る。
 もう思い出せないよあの微笑も。
 思い出すのはただ彼の泣き顔だけ。
 彼は優しすぎる。
 人のためなら、自分の生命をも犠牲にしようとするのだろう。
 だから彼は私をとめた。
 でも私は迷わなかった。
 この違いが、多分私たちの決裂をうむのだ。
 彼が私を許したら。
 多分私は彼を裏切る。
 多分、多分、多分。
オリジナル要素がかなりあります。薫の独白のようなくだりはきにしないでください・・・

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]