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放課後な夜に

 屋上で昼飯を食うようになったのは、元々はピートが差し入れ攻撃から逃れる
ためだ。
 教室に届けられたそれを愛子がまとめて奴に届け。
 食費の足りないタイガーと俺が食品を求めて追いかける。
 そんな感じでいつの間にか集まる習慣が出来ていた。
 三年の夏休みを迎える頃にはピートへの差し入れの数も減り、俺の台所事情も
幾分マシになっていたから、教室を離れる理由はなくなっていたのだけれど。

「横島君、おべんと行こう?」

 嬉しそうに愛子に声をかけられれば断る理由は何も無い。
 二つ返事で登る階段。
 空は大概に青い。

「太陽を見るとあくびするのね?」

 いつの間にか俺が運ぶことになっていた本体の上にさくら色の包みを広げながら、
愛子は楽しそうにそんな事を言った。

「まあ、美神さんに寝てもいいって言われるのは大抵太陽を確認した後だしな」

 夜に活発に活動する存在を相手にしているのだから、当たり前といえば当たり前
だが、朝日が就寝の合図というのはざらにある事なのだ。

「吸血鬼みたいですね」

 突然の背後からの言葉にお前が言うなっ、という突っ込みを入れそびれたので、
とりあえず嫌な顔で振り向いておく。

「エミしゃんも朝は寝る物と言ってましたケンノー」

 従業員の社会的立場を鑑みない雇用者は世間には他にも居るようだ。

「大変なのね」

 ……この面子で最も人間らしい時間帯に生活を送っているであろう妖怪の言葉は、
結構深く突き刺さった。

「たいへんなんだっ、だからこの玉子焼きよこせ!!」

 とりあえず、八つ当たり気味に愛子の弁当箱を開けて、おかずを奪う。
 そもそも愛子のお弁当というのは色々な意味で謎だ。
 どこで作っているのか。
 材料はどうしてるのか。
 チェックの弁当箱はどこから調達したのか。
 そもそも、こいつは食う必要があるのか。
 まったく不明だ。
 だが、美味い。

「あ、勝手に取らないでよっ、もうっ」

「ふむ、うでを、んぐ。あげたな愛子。だしが効いててうめーぞ」

「隣のから揚げの方が自信作だったのに」

 頬を膨らませて、んなこと言いやがるから、奴の弁当箱からおかずはもう一品
消え去る事になった。

「つまりこれも食え、という事だな?」

「ちがうわよっ、あ」

 文句をつけてももう遅い。
 冷めているのにパリパリちょっと厚めの俺好みの衣。
 モモ肉は柔らかさを残したまま火が通り。
 スパイスの香ばしさが後味を演出する。

「うむ。すばらしかった」

 言ってくれればあげるのに、と唇を尖らせながら愛子は、羨ましそうに見ていた
タイガーにも弁当を差し出していた。
 やっぱ食っても良かったんじゃねーか。

「食った食った。ごっそさん」

 腹が膨らみゃ、まぶたが緩むのが世の常だ。
 愛子に笑われつつ再びあくびして、空を見上げる。
 むちゃくちゃ眩しい。

「日本は暑いですね」

 などと涼やかに美形様がおっしゃってるのはガン無視しておく。
 もう何度も日本の夏なんか過ごしてるだろーが。
 ……いや、二度目なのか?

「輝く汗の季節よ」

 柵に寄りかかってグラウンドを見ている愛子がまた定番の台詞を抜かしていた。

「すっぱい匂いだけどな」

 実際、運動部なんてのは遠くで見てれば爽やかっぽくても近くでやられると鬱陶
しいことこの上ない。

「いいの、それも青春なんだから」

「お前、結構変態やな」

「横島君には言われたくないわよ」

 俺は汗の匂いを好む習性などねーぞ、と言い返そうかと思ったが……

「まー、キレーなねーちゃんの汗なら悪くないな」

 という本音の方が口から出ていた。

「スケベ」

「……お前もナ」

 にやりと笑って言い返したら、自分の言動に気付いたのか愛子は頬を真っ赤に
染める。
 ……ちと可愛かった、というのは心の中だけに留めておこう。





「横島は、就職か」

 午後。
 期末試験も終わった授業の少ない学校で何が行われているかというと、これ。

「大学は……まあ一芸入試ぐらいでしか無理だろうが、逆に一芸入試ならいけるん
 じゃないか? そっちは考えないのか?」

 妖怪教師による進路指導という奴だった。
 本来は三者面談ということで親も呼ばれているのだが、さすがに家の親もナルニア
から来るつもりはなかったようだ。
 まあ、わざわざ来て話すほどのことも無いしな。

「これ以上学校通いたくねーしなー」

 これはちょっと嘘かもしれない。
 授業はかったるいし、テストなんざぞっとするが、仕事の合間の貴重な休息で
あり、ローコストで食事が取れる学校というものは、別に嫌いではない。

「愛子君は進学を目指すらしいぞ?」

「あいつは学校好きの代表じゃねえかよ」

 GS免許は例の事件の言い訳用に、あの渦中に正規発行されていた。
 実際、俺の選択肢は独立開業か就職かなわけだが。

「オカルトGメンからも名指しで案内が来てるぞ」

「あ、それはパス。あの野郎が上司なんて地獄に好きこのんで行くほどマゾじゃ
 ねーし」

 隊長からその話は聞いていた。
 後々の独立開業とか睨む腰掛けならナシな話ではないのはわかっているが。
 ……そもそも事務所の隣だしな。今の上司にくびり殺される方が早かろう。

「引く手あまただな、意外に」

「ふっ、有能な若者はつらいぜ」

「……この学校もう一年って話もあるわけだが」

 続けて絵の具の妖怪から、次の試験から成績の向上が見られなければ卒業が怪しい
という話、出席日数が低空飛行過ぎてやばいという話。授業態度が悪すぎなせいで
落としてる単位が少なくない話などを告げられる。

「うへえ」

「学校としてはもう一年残られても迷惑なだけだし、二学期は厳しく指導するから
 覚悟するように」

 くされ仕事が板についた担任にゲンナリしつつ。
 もうちょっとだけ続く高校生活の前途に軽く吐息。





 グラウンドから聞こえるだみ声がセミに混じる教室。
 親の都合ってものが存在しないせいで後回しにされていたから、面談を終えて
戻って来た時、教室に残っているのは愛子だけだった。

「お帰り、長かったわね」

「まったくだ、行く先決まってんのにな」

「やっぱり就職?」

 面談と同じような言葉に苦笑い。

「おう、もうGS以外ねーだろ」

「そっか、残念」

 愛子は推薦枠での進学を希望している。
 通るかどうかはまだ決まっていないらしいが。

「俺はお前みたいに推薦取れないしな」

「別に推薦じゃなくても横島君ならいけるんじゃない?……本気になればさ」

「本気ねぇ」

 真面目に勉強した記憶ってものがないので、本気になって俺がどんぐらいやれる
のかってのは、俺にはわからない。つーか、誰にもわからないだろう。

「パスだなー。今は受験勉強なんざやってる暇ねーし」

「そっか、残念」

 座っていた机を離れて。
 愛子は黒板の日直の名前を書き直す。
 『横島』『愛子』
 並んで書かれた名前はひとつの名前のようだった。

「明日、俺日直だっけ?」

「そうよ。……早めに来てよね」

 たしか前の日直も一緒だった。誰だか知らんが何か工作してやがる。
 ま、愛子に仕事を押し付けられるから俺は楽が出来ていいのだが。

「明日バイトだぜ?」

「ほんと、横島君はそればっかよね」

 愛子は吐息して俺の名前を消す。
 パスしていいものなのか、と内心喜んでいたらさっきより大きな字でもう一度。
 『横島』と書いていた。

「でも、クラスのルールはちゃんと守らないとダメよ。明日はわたしと一緒に
 日直だからね?」

「おう、起きれたらな」

 無理っぽいなー、と思いつつの返答。
 どうも内心は見透かされたらしい。

「ふふっ、起こしに行く?」

 寝坊しがちなクラスメイトを起こしに行く、というのは愛子にとってポイントの
高い青春的な行動らしい。
 いかにもな笑み。

「朝から妖怪に叩き起こされるのなんか、仕事だけで十分じゃ」

 とりあえず押し切られてはかなわんので、目を逸らしてシッシッ、と手を振る。

「ひっどーい。叩き起こしたりしないわよ」

 たぶん教室に別の奴が残っていたら、芝居がかって大泣き真似をしてただろう。
 周りに味方が居ないときはそういうことをしないってのは、なんつーか女どもの
めんどくせえ所だ。

「どーだかなー」

 授業中、愛子に教科書の角で殴られた回数は半端じゃない。

「優しく起こしても横島君、起きないじゃない」

「そか?」

「そうよ。叩くのは最後の手段なんだから」

 ……最後の手段ってのはあんなに連発するものではないと思うぞ。

「まあ、お前は遅刻だけは絶対無いからいいよな」

 学校に住み着いてる奴は寝坊も無い。
 お化けは死ななくて病気もなんにもないから、欠席も無いのか。

「しょうがないじゃない、学校妖怪なんだから」

 単純に羨んだだけなのだが、愛子はちょっと怒ってた。
 なんだなんだ?

「わたしだって、遅刻しそうになりながらパンをくわえて走って廊下の角で男の子と
 ぶつかってみたりしたいわよ。ちょっと校則違反だけど、青春のためだもの」

「そんなベタな展開、この世界にあり得んわい」

 なんつーか。
 そうやってぶつかってくる奴は某国のスパイ以外に考え難い。

「あるかも知れないわよ?だって、ここは『学校』だもの」

 無邪気な瞳にはちょっと同情した。
 ありえるとしたら、ぶつかった後、相手が血を吐いてぶっ倒れて逮捕されるとか。
 相手がアンドロイドで某コメディアンのように、落とした頭を探すとか。
 そういう展開だろう。

「学校ねえ」

 小学生の頃はそんなに嫌いじゃなかった。
 勉強はしたくなかったが、友達と遊ぶために毎日ワクワクしながら通っていた。

「そんな良いものかね」

 高学年で転校して。勉強っつーのが性に合わないままもやもや過ごした中学時代。
 友人に事欠くことは無かったが、ミニ四駆に夢中になっていた頃の熱はいつの間
にか無くなっていた。
 ……取り戻したのは、高校に入ってバイトをはじめた時だ。

「横島君だって判ってるはずだわ。だって青春だもの」

「何でも青春と言っときゃ通じると思ってるだろ」

 そう応えつつ、瞳を輝かせて告げる愛子の言葉が少し判ってしまって、なさけない
気分になる。
 愛子は本当に楽しいのだろう。
 学校での他愛も無い会話や、俺には退屈としか思えない授業。
 ……強制しなくてもちゃんと友達になっているクラスメイト達。

「本当にね。感謝してるの。美神さんと横島君には」

 彼女はまぶたを伏せる。
 強く結ばれる口元。
 そして、深い呼吸。

「俺はとっつかまってじたばたしただけだし、美神さんは退治するより楽だから
 学校に置いておいただけだと思うぞ」

 少し嘘だ。うちの所長はアレでも『退治するべき相手なのか否か』をきちんと
考えている。当然銭勘定や怠け癖まで考慮に入れてだろうけれど。

「結局お前が、学校妖怪で青春妖怪だっただけだろ」

「意味わからないわよ、それ」

 愛子に笑みが戻る。
 俺は少しだけほっとする。





 進路の話とか、謎の弁当についての話とか、夏休みの予定とか。
 そんな話が少し続いた。
 一周した会話の中で、日直の話が再び挙がり。
 ……今に至る。

「このクラスは……残っているのは愛子君だけか」

「はい、戸締りも済ませてます」

「わかった、じゃわたしも帰るから」

 完全下校のチャイムの五分後。
 見回りに来た絵の具の妖怪は、入り口からざっと見渡しただけで教室を出て行く。
 なんつーか。いい加減なもんだ。

「ね?大丈夫だったでしょ?」

 足音が遠ざかっていったのを確認してから、俺が隠れていた掃除用のロッカーを
愛子が開けてくれる。

「あんなんで済むんだな」

 朝起きる自信の無い俺に愛子は『学校に泊まる?』などという提案をしてきたのだ。

『保健室にベッドはあるし。晩御飯は家庭科室で作るわよ?』

 ……バイトが休みで、夕飯はインスタントラーメンのつもりだった俺にはそれは、
なかなか魅力的な提案だった。

「いつもの事だしね。真夜中の人間以外の訪問者は除霊委員のお仕事だし」

「お前まだその委員会続けてるのかよ」

「あら、横島君も委員の一人よ」

 確かに三年になってから、委員会とかクラスの係を割り振られた記憶が無い。
 つまりそういう事なのだろう。





 いつの間にか日が落ちて。
 窓から夜が訪れる。
 続く他愛の無い会話は照明の事をすっかり忘れさせていた。

「だから、それは俺のせいかっつーの」

 去年の修学旅行の思い出はちょっと気恥ずかしかった。
 俺が見事に道を間違えたせいで、二人きりで歩いた京の町並み。

「せいだなんて言わないわよ、おかげで舞妓さんの格好も出来たんだし」

 迷った先で愛子は舞妓の仮装をしていた。
 舞妓のお姉さんたちにかなり真剣に入門を薦められるほどに、艶やかな着物姿は
似合っていた。

「男の子ってああいう着物とか好きよね」

「まあ、特別な感じがするしなー」

 白粉で強調された赤い唇をやけに鮮明に思い出して、視線を集中させてしまう。
 窓からの微かな光に映える輪郭と微笑む口元。

「わたしもそれは思ったわ、あれは特別な時間だったんだなって」

 視線がまっすぐに俺に向く。
 笑みなのかさみしさなのか。
 軽く目を細めて。

「ま、楽しかったっちゃー楽しかった。……もう一回は勘弁してほしいが」

 かばんの中からシロが飛び出してきたり。
 銀ちゃんの撮影とかち合って手伝わされたり。
 女子の部屋に遊びに行ったのがバレテ三日目は半日正座させられたり。
 色々ドタバタしすぎな旅行だった。

「そういうのが青春の修学旅行って感じよね」

 言葉はいつもの主張より少しテンションが低かった。
 かみしめるような、柔らかな言葉。
 彼女が感じる『特別さ』は俺とは別物なのかもしれない。

「まあ、そうだなー。風呂を覗けなかった事だけが心残りだ」

 シロがいなけりゃ敢行されたであろう計画。
 あそこで泣くってのはどう考えても反則だ。

「迎撃計画は万全だったのよ?」

 今だから話せるけど、と愛子が続けて告げた風呂覗きの来襲に備えての女子ども
の計画は、できれば聞きたくないレベルの恐ろしい物だった。





 尽きない話題の中でいつの間にか昇った月が彼女を照らしていた。
 開けた窓からの緩やかな風でなびく髪。
 何がそんなに楽しいのか、ころころと変わる表情。
 見つめすぎて、俺は言葉を止めてしまったようだ。

「……横島君?」

 途切れた会話に戸惑って、彼女は不思議そうな視線を向けてくる。
 心臓が鳴って。
 俺は慌てて目を逸らす。
 ……あかん。
 これは俺のペースじゃねえ。
 らしくないぞ。
 ……とりあえず、息を大きく吸う。

「いや、腹へってな」

 にへらと笑いつつ、誤魔化す台詞を選んでみた。
 まあ、嘘ではないのだし。

「あ、そうね、もうこんな時間だわ、ごめんなさい、話に夢中になってたみたい」

 黒板の上の時計に向けられる視線。
 授業中に見慣れた横顔に、また無駄に鼓動が速くなる。
 ……あかんっつーの。
 三年になって、俺の出席日数は格段に増えた。
 多少なりとも腕が上がり除霊にかかる時間が減ったことやシロやタマモが戦力に
数えられるようになったことなんかが直接の理由だが、俺自身がサボらず来る様に
なったというのも勿論理由の一つだ。

(やっぱこいつのせいだよな)

 待っててね、すぐ作ってくるから。と、机を抱えて教室を出る愛子に軽く手を
振っておく。
 手伝うべきかとも一瞬思ったが、まあ、やめておく。
 机ごとぽっかりと空いた隣席。
 殆ど経験の無いその視界は、さっきから感じる『何か』を強調させていった。

(特別、か)

 学校に泊まるなんてのは紛れもなく滅多に無い経験。
 真夜中にクラスメイトと二人きりでいるなんてのも間違いなく珍しい状態。

(エロい事にはもってこいな状態なわけだが)

 机の上に体を倒して、口付けをしたりするわけだ。
 たぶん、愛子は拒まない。
 ……まあそれは妄想かも知れんが。
 奴の胸は意外と小ぶりだ。脱がせると恥ずかしがる気がする。
 それから、細いウエスト。
 セーラー服から時々、ちらちら見えたりする。
 元々露出は少ないから、妙にドキドキするのだ、あの腹は。
 指摘すると頬を染めて恥らう視線はちとヤバイ。

(月明かりってのもムードあるしなー)

 闇に聞こえる声と音。
 視界の白い肌は微かに桃色を添えつつ。

(いいんじゃねーか?)

 学校でって言うのも青春よね。
 目を逸らして、頬を染めながらお決まりの台詞を言うわけだ。

「なにをためらう理由があるというのだ?」

 二人きりの教室。
 見詰め合う二人はやがて。

「げへへ、ここが良いのか、いいのんかっ」

 一糸纏わぬ肢体に指が……あ、よだれ出た。
 俺を止めるものはもう何も無い。
 少年誌って言ったって、朝になって雀が鳴けば良いだけの話だ。
 ついに、ついに新しい俺になる時が来たのだ。
 さっき感じていた『何か』とはこの予感だった!!
 そう確信した瞬間だった。
 パチ、と音がして、教室の蛍光灯が一斉に点灯したのは。

「横島君?そんなによだれ垂らすほどお腹へってたの?」

 消える幻想。その代わりに現れる本物。
 机の上に二人分の飯を載せて、微妙にミスマッチ感のあるピンクフリルのエプロン
なぞ身につけて。

「いや、あの、んな」

 とりあえずよだれを拭いて。
 ……さっきの確信が、一瞬で、消える。
 そこに居る愛子は妄想の中のエロい状態よりも『鮮明』だったのだ。

「むちゃくちゃ腹ペコだ」

 眩し過ぎる明かり。
 そして、それ以上に眩しいのは困ったようなそれでいて嬉しそうな愛子の表情。

「はよ食わせろ」

 妄想の通りに動けない情け無い自分に泣きそうになりつつ。
 平静を装ってそう告げたが、

「泣くほどお腹すいてたの?」

 実際は泣いていたらしい。





 結局、泊まってまで備えた日直はきちんとやれなかった。
 どころか、愛子まで巻き添えに寝坊してしまったわけだが。
 飯の後、夜の見回りで学校の七不思議の見物をしたり、教室で夜通しダベリ続けた
のが敗因だろう。

「コレもちょっと青春よね」

 一緒に廊下に立たされながら。愛子は笑う。

「お前、実は青春って言いたいだけじゃねーのか?」

 苦笑して応えつつ、心の中で賛同を。

「ま、ちょっと楽しかったけどな」

 あのとき感じた『何か』はなんつか、こっちの気持ちなのだろう。
 『いつもどおり』の延長だけが作りだす『特別』
 愛子の繰り返す言葉でしか表現できない大切な物なのだと、思う。

「次の日直の時はちゃんと起きましょうね」

 などと告げる愛子の中では、俺がまた泊まるのは決定事項らしい。

「……次は我慢できるとはかぎらねーぞ」

 思わず漏れた呟きは愛子に聞こえなかったのか、聞こえない振りなのか。
 小首を傾げて俺の顔を覗き込んでくる彼女の仕草がまた、ちと可愛かったせいで、
キスぐらいは『いつもどおり』のうちにしちまっててもいいんじゃないか?などと
思うのだった。
約束破ってごめんなさいごめんなさい。
ミッション5目指したのです。
間に合わなかったどころじゃねえです。
もっとがんばります。

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