「念動ぅぅぅ…………」
薫がサイコキネシスのエネルギーを圧縮、一気に解き放つ。
「居合い斬りっ!!」
刀のように、右腕を鋭く逆袈裟懸けに振り上げる。
と同時に、スパン、と目の前の巨大な岩が2つに割れる。
「よっし!!」
以前より遥かに鋭さを増した薫のサイコキネシスは、超度4までなら完全に無効化される程のECMを中に入れた岩さえ、いとも簡単に割ってしまった。
葵は、以前持っていた(非公式だが)テレポートの世界最高移動回数と移動距離を、またもや塗り替えてしまっていた。
このままいけば、あの局長がギネスに載せようとするな、と思いながら、ザ・チルドレン現場運用主任である皆本光一は、彼女達の訓練を見守っていた。
ちなみに紫穂は、皆本は彼女の限界を見たことがないため判断し難いので、特別思う事はなかった。
しばらく似たような基礎訓練をこなしたチルドレンのリミッターに、皆本から通信が入る。
『よし、訓練はそこまでだ。本部に帰るぞ』
『了解!』
チルドレン3人の声が重なり、葵のテレポートですぐさま戻ってくる。
「皆本はん。今日のお昼は何作ってくれるん?」
葵がどこかキラキラした目で皆本に訊いた。他の2人も、似たような感じの視線を皆本に送っている。
時刻は丁度12時を回った辺り。それに加え、基礎訓練を今までより大きめの力を使って行ったので、薫達は空腹の限界に達していた。
それを一瞬で悟り、しかし皆本は首を横に振った。
「悪い。僕はこの訓練の事を局長に報告しなきゃいけないから、君達は本部の食堂辺りで食べててくれないか?」
作ってやりたいのは山々だが、これも仕事の内。
しかし、いくら中学生になっただろうがまだ子供。そう簡単に納得する筈もなく、
「えー? そんなの後でいいじゃん。それよりお昼! そーだなー…………私うどんがいい!」
「えー? それならそばの方がええやん」
「私はパスタの方がいいなー」
と、各々所望するメニューを言い出す。どうやら彼女達の中では、皆本が報告を後回しにして昼食を作る事は、確定事項となっているらしい。
「おいおい、お前らいい加減に――――」
しろ、と言おうとした瞬間。
「っ!?」
空を、バリアのようなものが覆った。形はここから見る限り、ドームのような半球の形をしているようだ。
その端は、全く見えそうにもない。
「何や何や、○Tフィー○ド!?」
「え? 封○じゃないの?」
「マニアックなネタに走ってる場合か!!」
大体○絶なんて知ってる人いるのかよ、と言うのはさて置き、皆本は簡単にこのドームの正体を考察する。
ここはバベルが私有地としている広大な訓練所。都心からはかなり離れているが、このドームの端が分からない以上、ここだけ、限定的に覆っているのかは判断し辛い。
バベルではこういった機械などの実験などをする、との話は聞いていない。
と、なれば、何かが起きて、これは明らかに異常事態なのだろう。
ともかく、一刻も早く状況を把握するためにもバベルに戻った方がいい。
「葵! 本部に戻る。大至急だ!!」
「了解!」
葵のテレポートで、4人はバベル本部へと向かった。
「局長! これは一体何なんですか!?」
バベル局長室。
入ってからの皆本の第一声に、局長、桐壺帝三は強張った表情で振り返った。
「おぉ、皆本クン。それにザ・チルドレン。…………実は、君達に緊急任務に当たって欲しい」
局長のいつになく真剣な口調に、ザ・チルドレンの3人も真剣な態度に変わる。
「今回の任務は、“超度X”のエスパーの身柄の拘束だヨ」
「超度…………X?」
皆本は聞き慣れない言葉に眉をひそめる。
薫達も頭上に「?」を浮かべ、しかし何も言わなかった。
「私から補足します」
局長秘書の柏木朧が、巨大スクリーンに先程皆本が見たドームの映像を出す。
「先程、突如関東をほぼ全て覆うような形で現れたこのドームは、ある能力者が作り出した可能性が高いと分かりました」
「関東ほぼ全て!? そんな……有り得ない!」
日本最強の薫ですら、そこまで大きなバリアは張れない。強度を考えないにしても、相当な力――――少なくとも、現段階の超度7以上の力に違いない。
「これはサイコキネシスで張られたと見てまず間違いありません。そして、このドームの意味ですが――――」
と、朧が画面に別の映像を映し出す。
「な、何だこりゃ!?」
薫が素っ頓狂な声を上げる。他の2人も、皆本も同じように目を見張った。
そこには、まるで特撮やアニメを実体化させたような怪獣や様々なモンスターが、街や人々を襲っている様子が映し出されていた。周りの建物などと見比べると、モンスター達の大きさが半端ないものだと一目で分かる。
「これは一体…………」
「これは、このドーム内でのみ、起きている事のようです」
「調べた結果、サイコキネシスで張られたドーム内では、架空の生物…………ゲームやアニメ、映画などのモンスターや怪獣が、実体化し、各々の意思を持って行動出来るらしいのだヨ」
局長が続けて補足する。
「これはヒュプノやサイコメトリーなどの複数の能力から出来た、未知の複合能力のようです。タイプはティムのものと似ていますが…………」
「ティムの場合は、実際に存在するものにサイコキネシスと幻覚を併用して、イメージ通りに顕現化する…………」
「今回の場合は実在しないものを、ティムよりはっきりと実体化させてる…………相当な能力ね」
紫穂が画面を見つめながら、信じられないと溜め息をこぼす。
「ウム。これだけの能力は、もはや超度7にとどまらない。そこで我々は、未知数の意味からこの能力者を“超度X”と呼ぶことにした」
皆本の頬を冷や汗が伝う。全く未知の力に、かつてない不安と恐怖が彼を襲っていた。
「ねぇ皆本はん。これだけ強い力があるのに、何でバベルは気づけなかったん?」
「…………そうね。バベルも年々ESP検査の回数は増やしているし、機械も性能は上がってるはずだから、見逃すのはおかしいわ」
「そうだな……僕が今この場で考えた仮説……というか、可能性は3つ」
皆本は右手の人差し指を立てる。
「1つ目。兵部のような、何か特殊な状況下だったせいで、検査に能力が引っかからなかったケース」
続けて中指を立てる。
「2つ目。何かをきっかけに、前兆も無しに突然能力が覚醒したケース」
最後に、薬指。
「そして3つ目。これは一番あって欲しくないもの何だけど…………」
皆が、皆本の言葉を待つ。
「誰かに無理矢理、強力な超能力を植え付けられた、或いは無理矢理覚醒させられたケース」
場の空気が、一気に冷たくなる。
「どれもが有り得る話です。ただ、可能性としては1つ目が一番高い」
皆本の言葉に局長は頷いて、1つ咳払いをすると、すぐに再び口を開いた。
「ザ・チルドレン。さっきも言った通り、君達には“超度X”のエスパーの身柄を拘束して欲しい」
改めて告げられた任務に、ザ・チルドレンの3人と主任の皆本は、しっかりと頷く。
「今回は関東圏内と範囲が広いため、あまりうかうかしていると被害がどんどん酷くなる。迅速に頼むヨ」
「今回はバベルのトップクラスのエスパーも全員出動してもらい、バベル全体で執り行います。その場その場で、臨機応変に対応してください」
『了解!』
朧の説明を聞き終え、ザ・チルドレンが声を揃える。
そして出撃準備をするため、局長室を出た。
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