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コンプレックスは電気羊の夢をみるか

 1999年
 新都庁地下
 一般には知られていない霊的防御の中枢施設に美神令子は招かれていた。
 税金の無駄遣いとしか思えない豪奢な応接セットの向こうには、彼女の母親である美神美智恵が銀縁眼鏡のスーツ男と共に座っている。
 男の差し出した名刺を一瞥した美神は、彼の正体にほんの少しだけ眉を動かした。

 「厚生省? 厚生省の役人がなんで私に?」

 医療・保健・社会保障を管轄する国家行政機関の役人が、直々に自分を指名してきている。
 ただならない事態に美智恵に視線を向けるが、美神は母親の表情から一片の情報も得ることが出来なかった。


 ―――と、いうことは国家レベルの依頼ね


 美神は鉄面皮を貫く母親から、ただならぬ事態が生じていることを理解する。
 そして彼女の推理は、すぐに男から肯定されるのだった。

 「勿論依頼ですよ・・・・・・それも、国家の趨勢を左右するほどの」

 男はブリーフケースから数枚の資料を取り出し、美神の前へと並べる。
 人口の推移を表した右肩下がりのグラフに、年金、社会保険等の資料が加わり、この国の行く末を如実に表していた。

 「これが何? 国家繁栄の祈祷なら専門の機関を抱えてるでしょうに・・・・・・」

 まるで興味が無いとでもいうように、美神は渡されたプリントに軽く目を通すと脇にのける。
 国家に頼らず自分の力のみで生きている美神にとって、年金は興味の対象外とも言えるものだった。

 「ええ、今回の依頼は、まさにその機関からの推薦があってこそのものです」

 苦労して作成した資料を簡単に脇に避けられたにも関わらず、男の目に不快の感情は現れていなかった。
 それどころか、彼は美神の姿をじっと見つめ、今回のプロジェクトに彼女を推薦した機関の慧眼に舌を巻いている。
 彼は今回の依頼を完遂できるのは美神しかいないと確信していた。

 「我々のプロジェクトチームは、当初、六道冥子氏にこの依頼をするつもりでした。貴女は、小笠原エミ氏と共に候補者の1人に過ぎなかった・・・・・・しかし、こうやって直接お会いした今、私は素直に機関の力を認めている・・・・・・」

 男はチラリと美智恵に目配せする。
 事前に何らかのやり取りが為されていたのか、彼女の肯きを待ってから、男は新たな一枚の資料を美神に提示する。
 そこに書かれていた未曾有の金額に、美神の目が鋭い光を放った。

 「国家レベルの事業というのは本当のようね・・・・・・一体、私に何をさせようと言うの?」

 身を僅かに乗り出した美神に、銀縁眼鏡の奥で男の目が鋭く光る。
 事前のプロファイルから、彼女がかなりの確率で今回の依頼を受けることは分かっていた。
 それに、オカルトGメン実働部隊の責任者であり、彼女の保護者でもある美神美智恵の了解は既にとっている。

 「国家機密に関わるため、詳細は契約後でないとお伝えできません。しかし、今回の依頼を一言でいえば・・・・・・・・・・・・」

 彼は少し間を置いてから、今回の依頼をたった一言で表すのだった。 

 「そう。一言でいえば退治です。コンプレックス・・・・・・それも国家規模の」










 ―――――― コンプレックスは電気羊の夢をみるか ――――――









 広い荒野で美神は何者かから逃げまどっていた。
 幾つもの人影が彼女に掴みかかろうとするが、時折振り返った美神の神通棍で薙ぎ払われる。
 一時はそれで沈黙するそれらだったが、四散した肉体の一部は再び集合を初め美神を追い始めた。
 ダメージを受けた部分を切り離し、粘菌の様に分離集合を繰り返す悪霊たち。
 いつ果てるとも分からない追跡劇は、確実に美神を消耗させていく。

 「!」

 ドーム型の建物の影に隠れ、息を整えていた美神にそれらの一体が襲いかかった。
 神通棍によってあっさり四散する人影。
 しかし、それは執拗に繰り返されてきた光景に過ぎない。
 列を成し襲いかかってくる人影に悪態をつきつつ、美神はドーム型の建物の中に逃げ道を求めた。

 「!!」

 それは痛恨のミスだった。
 広い展示スペースに駆け込んだ美神は、自分が逃げ道のない場所へ飛び込んだことを理解する。
 だが、時既に遅し。彼女の周囲には夥しい人影が押し寄せ、彼女の体にその手を伸ばす。
 神通棍がもぎ取られ、衣服が引き裂かれる。食い込んだ爪は彼女の柔肌から鮮血を吹き出させていた。
 人影に埋め尽くされた美神の抵抗が徐々に小さくなる。
 最後に小さく痙攣すると、恐怖に見開かれた彼女の瞳からは光が失われていった。
 


 「美神さんッ!」

 そう叫んだ横島は、己のアパートにいる自分にようやく気がついた。
 小玉電球の光が薄暗く周囲をてらしている。
 万年床のせんべい布団には、じっとりと寝汗の跡がついていた。

 「夢・・・・・・か、しかし、何であんな夢を・・・・・・」

 虫の知らせという言葉が脳裏に浮かぶ。
 枕元に置いた携帯に手を伸ばすと、時刻は午前4時をさそうとしていた。
 一瞬、美神事務所に電話をかけようと思った横島だったが、迷惑となる時間帯であることを考え携帯を折りたたむ。
 6時になればシロが起きるだろう・・・・・・そう考えた横島は、不愉快なまでに湿った下着を脱ぎ捨て新しいものと替える。
 乾いた肌触りと洗剤の香りが、最悪な目覚めを幾分マシにしてくれた。

 「6時までは多少時間があるか・・・・・・」

 シーツを替えて本格的に寝直す時間はないが、仮眠程度はとれるはずだった。
 横島は汗で湿った箇所にタオルケットをあてると、再び寝床に入る。
 陽が昇ったら布団を日に当てよう。そんなことを考えながら、睡眠の体勢に入るがなかなか寝付けない。
 彼の目には、先ほど夢で見た美神の断末魔が強く焼き付いてしまっていた。

 

 ――― クソッ! 何だってんだよ! 縁起でもない



 横島は脳裏に焼き付いたイメージを霧散させるようにきつく目を瞑る。
 しかし、その効果は全くと言っていいほど無かった。

 「やっぱり、昨日の別れ際、聞いておけば良かったな・・・・・・なんか心配事あるんスか?って」

 何度目かの寝返りの後、横島は最近様子が変だった美神の様子を思い出す。
 彼は美智恵に呼ばれてからの美神の変化に気がついていた。
 意を決したように何かを言いかけ、そしてまた黙り込む美神の姿を横島は何度も見ている。
 しかし、昨日の別れ際、美神は確かに彼を呼び止め、そしてすぐに何でもないと自分の部屋に籠もってしまっていた。

 「だーっ! 気になって眠れん!」

 横島は我慢できないように飛び起きると、一張羅のジーンズに足を通す。
 今から出れば着くのは6時チョイ前。彼はシロの散歩を口実に事務所に押しかけ、美神の様子を確認するつもりだった。
 靴下を履き、水で顔をざばざばと洗ってからバンダナを額に巻き始める。
 丁度彼が身支度を終わらせようとしたとき、携帯電話がけたたましく鳴った。

 「はい・・・・・・」

 発信者は美智恵だった。
 不安に心臓をわしづかみにされながら、横島は震える声で応対する。

 「横島君!? お願い! すぐに来て欲しいの!」

 「隊長さん、どうしたんスか! まさか美神さんの身に何かッ!?」

 携帯から聞こえてきた美智恵の声に、横島はただならぬ事態を感じていた。
 すぐに部屋を飛び出し、鉄階段を駆け下りる。

 「そう。令子が・・・・・・、令子が・・・・・・」

 「落ち着いて隊長さん! すぐに行きます! 何処に行けばいいんスかッ!!」

 「ありがとう・・・・・・・・・・・・もう、迎えをやったわ・・・・・・厚生省の千葉という人。その人の車で・・・・・・早く」

 「分かりましたッ! そして、その人に言って下さい。大通りを走っているバンダナが俺だと・・・・・・目的地は何処です?」

 美智恵から目的地を聞きながら、つっかけたスニーカーを横島は履き直す。
 つま先の位置を決め紐をしっかり締めると、何処までも走っていけそうな力が足に漲った。

 「すぐ行きます! 隊長さんは美神さんに付いていてやって下さい!!」

 会話を終わらせた横島は、大通りに向かい全力で走り出す。
 胸に湧き上がる不安を打ち消すには、そうするしかないとでも言うように・・・・・・









 厚生省の千葉とは、大通りにでて程なく出会えることが出来ていた。
 鳴らされたクラクションに振り返ると、銀縁眼鏡の男が運転席から手招いている。
 横島は荒い息を整えながら、急いで助手席のドアを開いた。

 「君が美神令子氏の助手、横島忠夫GSか!? 私は・・・・・・」

 「厚生省の千葉さんッスね!? 話は隊長から聞いています! 一体、美神さんに何が・・・・・ッおう!!」

 ドアを閉めた瞬間、千葉はアクセルをベタ踏みする。
 官僚然とした外見とは裏腹に、かなり無茶な運転だった。

 「すまない・・・・・・だが事態は急を要する。許してくれ給え」

 今のは横島がシートベルトをする前に発進したことへの謝罪だった。
 千葉は体勢を崩した横島を一瞥もせず運転に集中する。
 しかし、彼の態度は決して横島を軽んじたものでは無かった。

 「君を一目見て、私は今回の依頼を美神令子氏1人に任せたことを後悔している。だが、それはもう過ぎたこと・・・・・・今は一刻も早く、君を美神令子氏の元へ届けて見せよう」

 こう語った千葉は既に片手では余る数の交通法規を無視していた。
 舌を噛まないようシートベルトを優先させた横島は、体の安定を手に入れてからようやく質問の続きを口にする。

 「教えて下さい! 一体、美神さんに何が!?」

 「・・・・・・美神令子氏は昨夜から中央区の空き地で除霊作業中だ。だが正直旗色が悪い・・・・・・」

 「一晩中!? それも1人で・・・・・・」

 横島は千葉から聞かされた美神の単独行に、信じられないという声を発した。
 雇われた当初は足を引っ張ることもあったが、今ではパートナーとして認めて貰っている。
 そんななけなしの自負を砕かれた横島は、足下がぐらつくような錯覚に見舞われていた。

 「みんなを・・・・・・特に君を巻き込みたくない。それが彼女の希望だった・・・・・・」

 「何故ッスか!? 俺らはずっとチームだった筈です!」

 横島はそう叫ぶと己の膝頭を叩く。
 痺れるような痛みで、信頼されなかった怒りを紛らわそうとするかのように。
 そんな彼の気持ちが分かったのか、千葉はなだめるような口調で横島に語りかけた。

 「そう・・・・・・今となってはその判断が間違っていたと心の底から思う。しかし、今回の除霊対象はかなり特殊でね。君を巻き込みたくなかったという美神令子氏の気持ちを怒らないでやってほしい・・・・・・・・コンプレックスという妖怪は知っているね?」

 「過去に退治したことが・・・・・・あんなヤツ美神さんなら楽勝でしょう! いや、今なら俺だって」

 男の口から出た妖怪の名前も、横島を納得させる事は出来なかった。
 人々のコンプレックスが集合した思念体。過去海で退治しただけにそれを脅威とはどうしても感じられなかった。

 「海水浴場に生じた小物ならばね・・・・・・だが、美神令子氏が現在相手にしているのは、国家の趨勢を左右するほどの存在なのだよ」

 「国家・・・・・・? 趨勢・・・・・・?」

 「年金や健康保険の仕組みは高校生の君には興味の対象外だろうね。簡単に言えば2つとも国民が安心して暮らせる制度と思ってくれればいい。だが、厚生省の役人としては本来言ってはならない事だが、そのどちらもが国の成長・・・・・・つまり人口が増え続けることを前提として作られているんだよ」

 突然飛躍した話題に横島は怪訝な表情を浮かべていた。
 だが、それに関しての疑問は千葉が浮かべた悲しげな笑顔に止めらる。

 「入庁してからの私は、ずっとそのことを誤魔化す資料を作らされていてね・・・・・・だが、現実はどうだい? 晩婚や少子化によって人口は減り続けている。年金のためや税金の為に子供を産めと言う能なしの政治家がいるが、そんなものの為に子供を産む親が何処の世界にいると思うんだ!? 子供は男と女が出会い、恋に落ちた末に生まれるものじゃないのかッ!!」

 横島は千葉の口にする内容を半分も理解していない。
 しかし、彼が熱く、行動力に溢れたロマンチストであることは理解出来ていた。
 
 「ひょっとして今回の依頼は・・・・・・」

 「そう。全ては人口を増やすため・・・・・・我々のプロジェクトチームは、出生率低下の原因がコンプレックスであることをとうとう突きとめたのだよ! 今向かっている場所では、美神令子氏が特殊な方法で集めたコンプレックスを除霊している。彼女が勝てば今後十年は人口の増加が見込めるだろう」

 「国家規模で集めたコンプレックス・・・・・・」

 辿り着いた埠頭入り口の物々しい警備に横島は愕然としていた。
 周囲には大規模な結界発生装置が置かれ、中に集められたコンプレックスを外に逃がさないよう力場を展開している。
 今朝方見た夢を思い出した横島は、その光景を打ち払おうと慌てて頭を振った。

 「それを1人で? 無茶苦茶も良いところだ」

 「1人じゃない。君がいる・・・・・・」

 千葉が口にした言葉に、横島は驚いたように彼を見つめた。
 真っ直ぐ前を見つめる千葉の口元には、除霊の成功を信じる不敵な笑みが浮かんでいる。

 「どうやら間に合ったようだぞ! 横島氏、後は任せたッ!!」

 そう叫んだ千葉は、大きくリアを滑らせつつ車を停止させた。
 埠頭内部は完全に避難が済んでいるのか、千葉と横島を乗せた車が辿り着いた場所には美智恵の姿以外は見えなかった。

 「隊長ッ! 美神さんは・・・・・・ッ!!」

 停車した車から飛び出した横島は、周囲に漂う濃密な空気に顔をしかめた。
 湿気と熱気。臭いさえ感じとれそうな霊気が辺りには充満している。
 目眩すら感じた彼だったが、全身に気を張り巡らせまとわりつきそうになった霊気を打ち払う。

 「令子は無事よ・・・・・・でも、限界が近づいている。良かった。横島君が間に合ってくれて」

 横島に駆け寄った美智恵は、心の底から安堵の表情を浮かべていた。

 「こんなに淀んだ空気の中で、美神さんは一晩中除霊を?」

 「そう。今のところ敵から逃れられてはいるけど、このままでは・・・・・・横島君。お願い。令子を」

 「分かりましたッ! 美神さんは何処にッ!?」

 「来たわッ! 向こうッ!!」

 美智恵の指さした方向から、凄まじい霊気が吹きつけた。
 慌ててその方向を向いた横島は、朝日の眩しさに目を細めながら必死に美神の姿を求める。
 そして、夥しいコンプレックスの集団から逃げ回る令子の姿を認めたとき、横島の顎の落ちる音が晴海国際見本市跡に響き渡った。














  

 











 「な、何じゃありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 虎皮ビキニの美神が目の前を走り抜けて10秒後、ようやく意識のブレーカーが回復した横島は激しいツッコミを炸裂させる。
 そんな彼のツッコミに、車から降りた千葉が何処までも真面目な口調で答えた。

 「何って、コンプレックスを集める特殊な方法じゃないか・・・・・・」

 「特殊すぎるわッ! 虎皮のビキニ着て鬼ごっこなんて!! 一体何の為にあんな真似をッ!?」

 「え? だって出生率が上昇するでしょ? あのコンプレックスが消滅すれば、ホラ、宇宙そらから女の子がやってくるのを待つあまり、婚期を逃す男が・・・・・・・・・・・・」

 「わーっ! おっきな友だちが致命傷を負ったらどうするッ!!」

 致死量を遙かに超える痛いネタを横島は慌てて止めた。
 しかし時既に遅し、どこぞのヨゴレは書くのを・・・・・・さて、コンビニに酒を買いに行ってこよう。
 そんな危機的状況が伝わったのか、美智恵がさり気なく話をまとめに入った。

 「でも、モタモタしてると本当に誰かと令子が結婚しちゃうわよ!」

 「ええっ! な、何でまた!?」

 驚いた横島に、美智恵は意地悪く笑いかける。
 まるで彼をこの場に招いたのは、最初から計画通りだとでも言うように。

 「今回のギャラ、成功報酬だけど半端じゃなく良かったのよ。今後10年間に増えた子供の数に比例してね・・・・・・・・・」

 増えた子供の数にかけられる金額。 
 その金額に驚いた横島は大きく目を見開く。
 そして、すぐにその目から一筋の涙を滴らせた。

 「美神さん・・・・・・いくらギャラがいいからって、あんな格好までして」

 「大丈夫。パンツじゃないから恥ずかしく・・・・・・」

 「もうお前は喋るなッ! 思い付いたネタ脊髄反射で使いやがってッ!!」

 その激しいツッコミは千葉に言ったものか、はたまたどこぞのヨゴレに言ったものか。
 ゼーゼーと肩で息をした横島は、心からこの話の終わりを望んでいた。
 
 「んで、何で美神さんが結婚しちゃうんすか? あの人、いまわの際までダーリンとか言いそうにないんですけど・・・・・・」

 「あの子、最初に宣言しちゃったのよ・・・・・・・・・・・・最初に捕まえた者にこのからだ」



 ―――最初に捕まえた者にこの体を与える。


 美智恵が口にしかかった言葉を、横島は最後まで聞いてはいない。
 彼の視線の先では、疲れを見せた美神の背にコンプレックスが肉薄する。
 その手を辛うじてかわした美神だったが、ビキニの紐を掴まれてしまっていた。 

 「コラーッ! そのチチは俺のやぞ―――ッ!!」

 ポロリとこぼれ出た美神のバストに、横島の意識は沸騰する。
 霊波刀を振りかざし、鬼ごっこに乱入する横島。
 そんな彼の姿を見た美智恵は、勝利を確信した笑みを浮かべるのだった。



















 エピローグ
 すっかりもとの姿を取り戻した晴海埠頭。
 熱狂的とも言える一夜は既に消え去り、朝日に照らされた広大な空き地は物寂しさすら感じさせた。
 美智恵の確信通りコンプレックスは横島の乱入後、すぐにその姿を消していた。

 「令子、寝ちゃった?」

 オカルトGメンの公用車を運転しつつ、美智恵は後部座席の横島に話しかける。
 もろもろの後始末を千葉に任せ、彼女は横島と美神を送り届けるため早々に現場を後にしている。

 「相当疲れたみたいッスからね。金額が金額とはいえ、無茶しますよ・・・・・・本当、金に弱いんだから」

 言葉とは裏腹に横島の声は優しさに溢れていた。
 後部座席では疲れ果てた美神が彼に寄りかかりスースーと寝息をたてている。

 「しっかし、コンプレックスのヤツあっさり消えましたね。何でだろ?」

 「あー、そりゃねえ・・・・・・」

 呆気ない結末に首を捻った横島に、美智恵は何とも言えない笑顔を浮かべる。
 彼女は先ほどの光景を思い出していた。





 『コラーッ! そのチチは俺のやぞ―――ッ!!』

 霊波刀を振りかざし、美神のビキニを奪ったコンプレックスを撃破した横島は、そのまま美神を抱き抱え逃走の体勢に入っていた。
 胸をカバーするため両手が使えない美神は、大した抵抗ができないままお姫様だっこをされている。
 呆然と見開いた目からは、彼女が自分が置かれた状況を理解していないことが窺えた。

 『むひゃっすよ(無茶ッスよ)みひゃみひゃん(美神さん)』

 しっかり口でビキニを回収していた横島は、聞き取り不可能な言葉で美神に説教を始める。
 ようやく状況を理解した美神は、顔を赤らめこう言い放つのだった。

 『フ、フン! なによ! アンタになんか助けられたくなかったんだからッ!! ・・・・・・・・・・・・でも、一応、感謝しておいてあげるわよ』

 その口調に何を感じたのか、コンプレックスは一斉に昇天しはじめる。
 天に昇っていく彼らは、皆一様にニヤニヤと口元を緩めていた・・・・・・ 







 「まあ、良いものを見て満足したんじゃない? また新たなコンプレックスが生まれただけかも知れないけれど・・・・・・」

 「どういう意味っスか、そりゃ?」

 美智恵は横島の疑問には答えない。
 彼女は千葉の計画が徒労に終わることを最初から見抜いていた。



 ――― 令子。かわいそうだけど今回はただ働きよ。コンプレックスはそう簡単には退治できない・・・・・・



 こう呟いた視線の先には有明の地が広がっている。
 だが、この時の美智恵は想像もしていなかった。
 年末のその地で、成功報酬を諦めきれない令子が再びコンプレックスを退治しようとすることを・・・・・・
 とりあえず衣装はプラグスーツだったらしい。
   




 ―――――― コンプレックスは電撃羊の夢をみるか ――――――







                終 
カヤマさんとの合作を書き上げてから、実質2日半で書きました(ノ∀`)
ことの起こりはGemini69さんからこの絵とは別な水着のイラストを見せられ、「水着どんな色がいい?」と聞かれたのが切っ掛けでして・・・・・・
「虎皮のビキニ(*゚∀゚)ノ」と答えたら、数日後、この絵の元が出来上がってきたとw
とりあえず無理矢理【ミッション5】に使ってみました。
書く方も突貫工事でしたが、絵の方も相当だったらしく、彩色などではっかい。さん、m:saさんに手伝って貰ったとのことでした。

Gemini69さんを始め、お二人の協力には心から感謝しています。
ありがとうございます。ハードなスケジュールの中本当にご苦労をおかけしました。

因みにGemini69さんたっての希望で、塗り作業中のお二人の様子を・・・・・・

д◎)<頬を紅く塗るとエロさが増すのです
m・)<流石はお師匠さま!

楽しんでるΣ(゚ロ゚ノ)ノ

でも、合作の作業は本当に楽しかったですw
夏企画でも盛り上がりたいですね(*゚∀゚)ノ

さて【ミッション5】の〆切も残り1時間。
果たして目標の20泊は行くのでしょうか。
駆け込みに期待しています(*゚∀゚)ノ

|д゚).oO遅刻でもいいから書いた人は投稿してくださいねw

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