さて、この中から何にしよう?
1.ゼリーの詰め合わせ
2.ハム
3.今、隣にいる人の意見を参考にする
まぁ、もちろん3だ。
そう思って隣の女性に声をかける。
「なぁ、紫穂。何を買えばいいと思う?」
「皆本さん、結局決められなかったのね」
「…すまない、でも下手をすると後が怖い気がするんだ。色々と」
頭に数人の顔が浮かんで僕に怒鳴ってる姿が目に浮かんだ。
とくに局長のプレッシャーが半端ない。
あ、朧さんが包丁を研いでる・・・。
妄想のはずなのに背筋がひやっとする。
何で普通の公務員のはずなのにこんなに毎日が肉体労働なんだろうな、僕は。
そもそも何故贈り物を買いに来たのか?
それはほんの1時間前までさかのぼる必要がある。
-1時間前-
「ふぅ、御苦労さま。そろそろ帰ろうか、紫穂」
「皆本さんもお疲れ様。あーあ、葵ちゃんがいればテレポートで一瞬で帰れるのに…」
「まぁそういうなよ。葵は薫と一緒に別任務についてるんだからさ」
「確かにね〜だからこそ皆本さんが私の物になったんだから文句は言えないわよね〜」
「…おい、僕は君の私物になった覚えはないぞ」
まったく。
中学生になったチルドレンはますます生意気になった・・・というより更にませた、とでもいうのだろうか?
歳不相応に体は成長するし、知識や素振りを覚えているように感じる。
おそらくは管理官が無駄にいらん知識でも与えているんだろう。
ここぞ、というときは頼りになるけれど本当に無駄に思える事が大好きだからな、あの人は。
「さて、僕は車をまわしてくるからそこの自販機で飲み物を買っといてくれないか?」
「…え〜女の子をパシらせる?」
「やかましい!車をここまで持ってくるのに少し時間がかかるんだよ。あと、僕はコーヒーで頼む」
「最近はまってるやつ?」
「そう」
「なかったから?」
「紫穂とおなじやつで」
「…いいの?」
「やっぱお茶で頼むよ」
車のカギをあけ、エンジンをかける。
そして今日の出来事を思い出す。
今回の報告書は・・・簡単そうだ。
要点をまとめてみると、
・誘拐事件が発生
・現場と思われる場所でサイコメトリーで透る
・監禁場所へ到着
・人質の解放及び、犯人の逃走場所の透視を試みる
・警察の裏をかこうとした犯人がすぐ近くにいる事が判明
・ともに行動していた警察と共に犯人の確保
こんな感じ。
いたってシンプルな内容だなぁ、と思う。
しかしこういう事件程サイコメトリーの力は実に発揮される。
超能力による攻撃手段を持たないために普段は目立たないがこういう補助に関しては他の追随を許さない。
しいて欠点をあげるならば、直接攻撃力が低い事・レベル差によって透視できる範囲が大きく違う事がある。
測定不能レベル-レベル7-の紫穂にはもしかしたら当てはまらなくなるかもしれないけれど。
「おまたせ」
「遅〜い〜!」
文句を言いつつ車に乗る紫穂を僕は苦笑とともに迎える。
「なんか3人でいるときは大人っぽいのに2人がいないとまだまだ子供っぽいな」
しまった!
子供、というキーワードはチルドレン達には禁句なのに・・・!
まぁチルドレンという単語も子供達って意味なんだけど。
“子供達!解禁”みたいに。
うわぁ、なんて間抜けな・・・
ってなんだか静かだな?
「うん。まぁ、ね。」
「…気味が悪いな」
「(怒)なにか?」
「…イエ、ナンデモアリマセン」
「そうそう、一つお願いがあるんだけど」
「何だい?今日の夕飯のおかずはまだ決めてないから聞くよ」
「じゃあ、それもで。でね、これから直接実家にいってほしいの」
「わかった、送ってくよ」
「…ん?皆本さんも一緒のはずよ?局長とかから聞いてないの?」
「え?」
「電話して確認してあげる」
トゥルルル…トゥルルル…
「あ、ママ?これから皆本さんと一緒に行くから。パパにもよろしく伝えといてね」
ピッ♪
「ピッ♪じゃねーよ!え、何?!今きまったの!?」
「じゃーお土産でも買いに行かなきゃー(棒読み)」
「電話貸せ!直接断る。まだ間に合う!」
「運転中はダメよー?」
「停めればいいだけだ!」
「何?嫌、なの?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
チャカッ☆
「ど、どこで買いに行こうかな?」
「あ、じゃあね〜あの店に行きたいな」
「了解しました」
「うむ、よろしい♪」
そして
冒頭に戻る。
結果として紫穂のオススメを買った。
うちのパパはこれがすきなのよ〜ってやつ。
そんなこんなで僕は紫穂と一緒に三宮家に行くのであった。
実はこっそり局長に確認したらいいんじゃないか!と承諾された。
あれ?もしかしていらないことしたのか?僕は。
チャイムを鳴らすためにはボタンを押さなければならない。
しかし手が動かない・・・
今すぐにでも逃げ出したい。
しかし後ろにいる(自称)可憐な女の子はそれを許さないだろう。
「仕方ない…押すぞ」
「ん〜」
「どちら様でしょうか?」
涼しい声で返答がきた。
「皆本です。本日は突然で申し訳ありません」
「ママ、ただいま〜」
「あら、もう来たの。早めに連絡してくれれば迎えを出させたのに…。少々お待ちくださいね、皆本さん」
「こんばんわ、皆本さん。お帰りなさい、紫穂」
卒業式の時に会って・・・あとは何回あったかな?
ともかく久し振りにあった人はとても美しかった。
あと余談だが最近はサイコメトリーをされそうだな〜とかわかるようになってきた。
これもチルドレンと長い間暮らしてきた成果の賜物だろう、きっと。
そして今お尻をつねられているのも、きっとそのせい。
しつこくつねってくる紫穂の手を払いながら家にあがらせてもらう。
そんな姿をみてか奥さんが「 あらあら 」と笑う。
きっと良くない勘違いをしてるんだろうと思いつつもリビングに通させてもらう。
流石、お偉いさんの家だ。
家の中の配置はシンプルだが一つ一つの出来がとても良かった。
ソファに座ったときなんか声が出るかと思った。
どうやら紫穂の父親・三宮長官は帰りが遅れるとのこと。
そして帰りを待つその間、僕は連絡し忘れていた薫と葵に電話をかけることにした。
「もしもし、薫か?・・・あーやっぱりそうだったか、すまない今日の夕飯はなんとかしてくれないか?」
-三宮家視点-
「皆本さん、苦戦してるなー」
「そう思うなら助けてくればいいじゃない」
「いーの。たまには優遇されたいの」
「そんな事より最後に皆本さんの心をグッとつかめばいいのよ。男はみんなロリコンなんだから大丈夫よ」
「ママ、違うわ!皆本さんにはロリコンだから、じゃなくて私だから、にしたいの」
いま、私とママはパパが帰るまえの最後の準備をしている。
いわゆる料理の飾り付けってやつ。
女らしさをここぞ!って時にはみせる。
きっと皆本さんもいつもとは違うギャップに萌え〜ってなるはず!
脅すのは簡単だけど、ワガママを言うのも簡単だけど。
でも、きっとそれじゃ、あの人には届かない。
だから私は少しずつ頑張らなくてはいけないんだ。
きっと、何事にも。
-皆本視点-
電話していたらいつの間にか外にいた。
ぎゃーぎゃーうるさい薫と葵にはなんとか要件を伝えられた。
帰ったら覚えてろよ!という声と共に電話を切られて溜息をついた時、三宮長官-つまり紫穂の父親-が帰ってきた。
「ご無沙汰しています。バベルの皆本です」
「うむ、久し振りだ。今日は楽にしていってくれ」
「ありがとうございます、長官」
「よしてくれ、私も帰ったらただの父親だ」
「はい、それでは…」
「お義父さん以外で頼む」
・・・これは三宮長官なりのユーモアっていうやつなのだろうか?とても、笑えない。
「では失礼して…三宮さん」
僕が長官と再び家にあがらせてもらったときにはもう夕飯の支度がすんでいた。
どうやら自慢げにも見える笑顔の持ち主もいくらか手伝ったのだろう。
家ではまったく手伝わない癖に・・・
ん?いや、もしかしたらあの3人の中では一番動いているのかもしれない。
どんぐりの背比べだけど。
その後、ゆっくりとした時間の中で食事をした。
綺麗でおとなしそうな見た目とは裏腹に、ズバズバと竹を割ったような口調で話す奥さんには驚かされた。
元々は普通だったのだがサイコメトラーである娘に隠し事はできない、との事で性格が変わったのだという。
また、長官と話す機会があったのも良かった。
バベルでの保護者として僕はチルドレンの両親には愛をもって接してほしいと思っている。
おそらくこれから先、エスパーへの風当たりはもっと厳しくなると思う。
しかし、それでも家族からの愛情だけは変わらないでいてほしいと思うからだ。
女性陣が片付けを始めた頃、僕は長官と日本酒を飲み始めていた。
食卓では言えなかったお互いの仕事やら何やらについて話し合っていた(僕は主に聞く側)
そして、ふと。
長官がつぶやいた。
「紫穂は…どうだね?」
「良くやってくれていますよ。レベル7のサイコメトラーとして自分の…」
「いや、私は君の意見が聞きたい」
「……とても良い子だと思います。仲間想いですし、頭の回転も早い。例えば僕に何かあったら紫穂さんにまとめて欲しい、と思ってます。」
「中々嫌な事を言う」
「それは…?」
「両方の意味で、だ」
「…自分はチルドレンの現場主任です。エスパーとの戦いの中でノーマルの僕はかなり危険です」
「それをサポートするためにバベルがある。警察も協力はしている。やはりこの程度では…という事か?」
「残念な事にノーマルが10人束になっても高レベルエスパーには勝てないでしょう。そしてそんなエスパー犯罪者と戦うのがバベル-チルドレンチーム-です」
「…もし、君に何かあった時。紫穂はどうなると思う?」
「答えにくい質問ですね。おそらくチームとしてチルドレンの指揮が麻痺すると思います。しかし慌てるメンバーを見て、逆に冷静に動くでしょう。そう思います」
「それだけだと思うかね?」
「………すみません。今はこれで許してもらえないでしょうか?」
「そうか。今日は泊っていくといい。部屋を準備しよう」
「あ、いえ、今日はご家族でゆっくりなさってください。自分はタクシーで帰りますから」
左足に力が入らない。
動こうとすると目のピントが少しズレてる気がする。
おかしいな?あんまり飲んでないんだけどなぁ
「無理はするな、皆本君」
「…すみません。ではお言葉に甘えて」
「遠慮はいらない。ただ、これからも紫穂を頼む」
「はい。必ず紫穂さんをお守りします」
パタパタと歩く音がする。
ひょいっと顔をのぞかせる顔が一つ。
紫穂だ。
「皆本さん、大丈夫?お布団準備できたわよ」
「あぁ、すまないな紫穂」
「では、私はこれで」
「…パパと何を話してたの?」
「サイコメトリーは駄目だぞ。仕事の事も話してたからな」
「しないわ。弱ってる時にしても楽しくないでしょう?」
「さぁね、僕にはわからない世界だよ」
翌日。
僕はチュンチュンと小鳥さえずる朝に起きた。
もう6時30分か。
ヤバイッ、朝ごはん作らなきゃ
って、ココどこ?!
ゴンッ
ん?
「ううんn…んんんん〜」
………腕枕していたらしい。
左腕の感覚が無い。
ジワジワとくる冷や汗と腕のシビレを感じながらも動けないでいた。
「皆本さん?起きていらっしゃいますか?」
あ、と思った時にはもう目が合っていた。
「朝ごはんはもういらないですか?」
「…いえ、普通にお願いできますか?」
終わった。
なんかもう駄目だ。
っていうかせめて少しぐらい動じてほしかった。
ええぃ、しょうがない。
こうなったらもう、知るか。
ツンツンと紫穂の頬をつく。
いつも生意気言うからこんなあどけない顔についつい目じりが下がってしまう。
「すみません、コーヒーは………アメリカンでいいですか?」
「………お願いします」
もう、起きよう。
三宮夫妻に感謝と別れを告げてから僕と紫穂はタクシーで家に向かっていた。
しかし朝のラッシュと重なり少々時間がかかってしまった。
家の前でタクシーに待ってもらう事にして家の中に入った。
普段の登校時間を過ぎてしまっていたのでもう薫と葵の姿は見えなかった。
とりあえず、キッチンの惨状と机の上のメモ帳を見ない振りして出勤準備をはじめた。
シャワーだけ浴びて出てきた紫穂が浴室が空いた事を告げる。
僕がシャワーを終え、浴室から出てきた頃には鼻血が出ていた。
たぶん昨日の疲れのせいだ。
・・・いや、昨日は何もしていないぞっ!でなくて昨日“も”だっ!
たまたまでただけだ。
絶対。
決して残り香とかの影響ではアリマセン。
鼻血がとまる頃には紫穂の準備が終わったらしい。
タクシー料金とおにぎりを紫穂に渡すと、僕は見送りのために一緒に玄関に向かった。
「あ、皆本さん。昨日はありがとう」
「ん?あぁ、あまり親御さんと話せないから僕も楽しかったよ」
「そうじゃなくて…コレ」
カチッ
≪はい。必ず紫穂さんをお守りします≫
「これって私のルート突入と思っても?」
「えっ?!ちょ、これ作為的にこの部分にしただろ!前におんなじ事されたから知ってるんだぞ(詳しくは14巻でね)」
「じゃぁいってきまーす♪大丈夫よ、ちゃんと2人にも聞かせてくるから〜」
「・・・っあ」
一瞬反応が遅れてとめる事が出来なかった。
だって仕方ないじゃないか。
腹黒でマセガキで勝手にサイコメトリーするような手のかかる子だけど、あの一瞬は…。あの一瞬だけは見惚れる程の笑顔だったのだから
Please don't use this texts&images without permission of snowP.