5009

カルネアデスの板

 それが罠だと気付いたときには既に手遅れだった。
 急遽予知された極地観測船沈没を阻止すべく、観測船【しらせ】の甲板に降り立った皆本とザ・チルドレン。
 彼らに凄まじい衝撃が襲いかかったのは、予知された時刻―――23:00ジャストのことだった。





 ―――――― カルネアデスの板 ――――――





 『さあ、ゲームの時間よ・・・・・・』

 少女の声が暗闇に響いた瞬間、夜の海を進んでいた【しらせ】を強大な波のエネルギーが襲う。
 いや、波だけではない。叩きつけるような大粒の雨と横殴りの暴風。
 突如台風の中に放り込まれたかのような気象の激変は、自然現象である訳がなかった。
 波のうねりが【しらせ】を大きく傾がせる。
 急激な姿勢の変化にバランスを崩した皆本は、傾いた甲板を転がるように滑り落ちていった。

 「皆本ーッ!」

 「来るなッ! 薫ッ!!」

 自分を助けようと手を差し伸べた薫を、皆本は絶叫とも言える声で制止する。
 彼は己を掴む念動と邪悪な意志に気付いていた。

 『懸命な判断ね。ルール説明の前に余計な動きをしたらお仕置きするところだったわ・・・・・・』

 即座に杉花粉事件を連想した皆本の判断を、嘲笑含みの声が肯定する。
 薫に歪んだ愛情を持つ謎の少女は、彼女の意図する遊びに邪魔な要素はためらわず排除するだろう。
 自分を殺すことに何の躊躇いも持たない少女にそれをさせない為には、彼女の用意したルールに乗ってやるしかない。
 皆本が薫を止めたのは、単に己の命を惜しんだのではない。
 冷静さを失った薫が、ブラックファントムを名乗る少女の手に落ちるのを阻止するためだった。
 少なくとも彼女に自分を即死させる気が無いことを皆本は見抜いている。
 もしそうならば念動で己を掴んだ瞬間、頭蓋内部をほんの少しかき回すだけで良いはずだった。

『ルールは簡単。この星の光一つ無い荒れ狂う夜の海から、この男を捜し出すこと・・・・・・私とお人形の妨害をかいくぐってね!』

 ルールの宣言が終わると共に皆本の体が虚空に放り出される。
 彼女の狙いは自分という存在を人質に、あの時のように薫と勝負を楽しむこと・・・・・・それも命がけで。
 船外に消える一瞬、皆本は薫たちと合わせた視線で己の意志を伝えていた。


 ―――僕は絶対に生き延びる。冷静さを失うな! 僕を信じろ!


 皆本の視線には、最高のチームであるザ・チルドレンへの揺るぎない信頼が込められていた。 
 着水への備えに見せかけ咄嗟に脱ぎ捨てたジャケットには、トリプルブーストに必要な携帯が入っている。
 紫穂ならばその意図を察し、甲板からそれを回収するはずだった。
 そして、冷静さを失わなかった3人は敵の油断を誘い、後手に回った戦況を覆すことだろう。
 自分の役割はその時が来るまで、何が何でも生き残ることだった。
 皆本は水面に叩きつけられる衝撃にそなえ身を固くする。
 両腕で頭部を抱え、なるべく体を球体に近づけた姿勢をとる。華麗な飛び込みなどは必要としない。
 【しらせ】の照明が荒れ狂う水面を辛うじて照らしているものの、距離感などは無いに等しかった。

 「クッ!」

 海水に叩きつけられた衝撃に皆本は何とか耐えることが出来ていた。
 気絶を免れ、肺の中の空気が無くなる前に海面を目指す。絡みついた衣服が体の動きを妨げたが、皆本はパニックに陥ることなく海面に姿を現した。
 すぐに息を吸い込もうとはせず、波の状況を確認しようやく大きく息を吸い込む。
 海水を飲み込まない為の状況確認だったが、それでも多少は口の中に入って来てしまう。
 塩気に顔をしかめさせながらも、皆本の横隔膜はふいごの様に動き肺に新鮮な空気を送り続けた。

 「しかし、着衣泳の訓練が本当に役立つとは・・・・・・」

 皆本は立ち泳ぎの要領で姿勢を保ちつつ、着ていたYシャツとスラックスを脱ぎ捨てる。
 下着姿となってしまうが仕方がない。絡みつき体の動きを制限する衣類は、生存確率を下げる足かせでしか無かった。
 何とか泳ぎ続ける体勢を確保した皆本は、波のうねりに翻弄されつつも【しらせ】を視界に捉えるべく周囲を見回す。
 だが、振り返った先にあった光景は、彼を絶望の淵に叩き込むのに十分なものだった。

 「馬鹿な・・・・・・砕氷船の船体がひしゃげるだと・・・・・・」

 南極観測基地へ物資を運ぶため、南氷洋の氷を砕きながら進むことを前提に設計された【しらせ】は、通常の船よりも遙かに頑丈な構造となっている。
 その【しらせ】の船体が激しいPKの衝突によって歪む様は、独り救助を待つ皆本にとって悪夢としか言いようのないものだった。
 今回の敵が繰り出した台風は、薫の念動を翻弄するに十分な出力を備えているらしい。
 不可視の力のぶつかり合いによって【しらせ】の照明が一つ、また一つと破壊されていった。
 呆然とする皆本の目の前で【しらせ】の姿が闇に包まれていく。
 荒れ狂う暴風と念動のせめぎ合いによって、甲板のバベル1は飛び立つことが出来ない。
 やがて周囲は完全な闇に包まれ、皆本は叩きつける風と雨の轟音の中【しらせ】の姿を見失った。

 「なんてことだ・・・・・・だが諦める訳には」

 皆本は完全な闇の中、巨大な質量が遠ざかって行くのを感じる。
 必死に後を追おうとするが、波のうねりに翻弄され目指す方角に進んでいるのかも怪しい。
 しかし、皆本は諦めずに闇の中を泳ぎ続ける。
 彼は周囲が闇に閉ざされる瞬間、甲板から海に投棄された沢山の物資を目撃していた。

 「あれは恐らく葵がテレポートさせた救命物資。どれか一つでも手にすることができれば・・・・・・」

 救命ボートの投下を許す程、敵は甘くはないだろう。
 しかし、何か浮力を得られるものを掴むだけで生存確率は確実に上昇する。
 溺れないだけではない。海水に触れている面積を少なくすることで、奪われる体温はそれだけ少なくなる。
 もし、手に触れたものが食料や水を入れた救命キットだった場合、かなりの時間、体力の温存が可能となるだろう。
 皆本は薫たちによる救助を信じ、生存に向け最大限の努力をするつもりだった。




 「クソッ! せめて月でも・・・・・・」

 海に叩き込まれてから既に30分が経過していた。
 周囲を埋め尽くすタールのような闇に皆本は悪態をつく。
 そうしなければ恐怖に押しつぶされても仕方のない状況だった。
 彼は完全な暗闇の中、絶え間なく水をかき続けている。
 救命物資に触れられるよう意識して大きく水を掻くが、先程から指先が捉えるのは水の感覚ばかり。


 ――― 完全に閉ざされた視野の中、指先が偶然救命物資に触れる可能性は皆無に等しいのでは?


 蓄積した疲労が、考えないようにしていた事実を脳裏に浮かばせる。
 湧き上がる不安に彼は大声で助けを呼んだ。

 「薫ーッ! 早くしてくれーッ!!」

 体力温存のためには、無駄な大声は出さない方がよい。
 叫ぶのは、救助者の存在が近くにいることを確認してから。
 しかし、一度切れた精神の糸は容易くは繋がらなかった。

 「何をしている! 僕はここにいるぞッ! 葵ッ! 紫穂・・・・・・」

 恥も外聞もない叫び声をあげ続けた皆本の声がだんだん小さくなる。
 海水に焼かれた喉は既に限界に達しようとしていた。

 「薫・・・・・・ゴフッ!!」

 薫の名を叫ぶため大きく開けた口に叩きつけられた大波。
 気管に入った海水に、皆本は大きく咽せ混んでしまう。
 呼吸が乱れ、水を掻くリズムが崩れる。
 浮力を得られなくなった彼の体が、海中へと沈んでいった。

 「しまっ・・・・・・」

 必死に体を動かそうとするが、飲み込んだ海水が呼吸を妨げ彼から力を奪っていく。
 溺死への恐怖が皆本の体を絡め取り、暗い海の底に引きずり込もうとしていた。

 『慌てるな! 僕に掴まれ』

 「!!」 

 皆本を恐慌状態から救ったのは、彼のすぐ近くで聞こえた声だった。
 真っ暗な闇の中、彼は最後の力を振り絞り声の方へと手を伸ばす。
 柔らかな感触が指先に触れ、彼は必死にそれにしがみついた。

 「・・・・・・ゴフッ。ありが・・・・・・とう。助かった・・・・・・」

 浮力を生じさせている物体に体を預けた皆本は、飲み込んだ海水を吐き出しながらやっとの思いで呼吸を整える。
 暗闇のため体を乗り上げた物体の姿は良く分からない。
 しかし、それ程大きな物体でないことはしがみついた時の感覚で理解していた。

 「本当にありがとう。君に声をかけられなければ・・・・・・あれ? 君、何処にいるんだい?」

 周囲を埋め尽くす暗闇の中、皆本は救助者の存在を求めていた。
 声の主を捜し恐る恐る手を伸ばす。しかし、しがみついた物体には自分しか触れていなかった。

 「まさか僕を助けるため自分は海に・・・・・・おい、君! 返事をしてくれッ!!」

 救いの主がいないという事実に、皆本は慌てたように声を発する。
 彼の脳裏には【カルネアデスの板】という言葉が浮かんでいた。
 2人の漂流者が1人しか掴まれない板を同時に見つけた際、もう一人を突き放し溺れさせるのは殺人になるのかという、古代ギリシャの緊急避難に関する命題。
 皆本は自分の存在が、名も知らぬ漂流者を海に沈めてしまった可能性を考える。

 「一体何処に行ったんだッ! 頼むッ! 返事をしてくれッ!!」

 『大声を出さなくても聞こえる・・・・・・無駄な体力を使うのはやめたまえ。皆本クン』

 必死に叫ぶ皆本の声に応えたのは意外な所からの声だった。
 何処か聞き覚えのある声は、しがみついている物体から聞こえてくる。
 闇の中、自分が捉まっている物体を手探りした皆本は、それが人間をかたどったものであることを理解した。

 「人形? そしてその声・・・・・・お、お前は九具津ッ!!」

 『手を離すなッ! 死ぬぞッ!!』

 皆本の動きを察知した九具津が鋭い声を発する。
 その声に含まれていた死という言葉に、皆本は九具津が操る人形から離れるのを寸前の所で思いとどまった。

 『そうだ。それでいい・・・・・・』

 九具津の声に敵意は感じなかった。
 それどころか皆本と接触できたことに安堵している様にも感じられる。
 皆本の混乱を解消しようとしているのか、九具津は落ち着いた声で語りかける。

 『安心しろ。僕は君を助けるよう少佐から命令されている・・・・・・あの時のようにね』

 「あの時・・・・・・」

 皆本の脳裏に燃えさかる炎のイメージがよぎる。
 ザ・チルドレンとの最初のミッションになった石油基地での火災。
 桐壺に無理矢理つれられ、灼熱の現場に飛び込んだ皆本を助けたのは九具津が操る人形だった。

 「兵部はあの時から・・・・・・」

 手のひらの上で踊らされているような屈辱感に、九具津の人形を掴む手に力が入る。
 無機質な感触が皆本の手の中で歪んだ。

 『あまり手荒に扱わないでくれ。いつものモガちゃんと違い出来が良くないんだ』

 「いつものモガと違う?」

 『ギミックを満載したチタンフレームの体では水に浮かばないからね。この体は海面に落ちた君を助けるため、咄嗟に海に放り込んだ間に合わせの一つ・・・・・・』

 「ッ! 何をした九具津ッ!!」

 腕の中に感じた変化に皆本は驚きの表情を浮かべた。
 先程まで無機質に感じられた腕の中の物体は、柔らかな肉の触感を有するようになっている。

 『真っ暗闇の中、海に落ちた君を捜すのは大変だったけど、もう必要が無くなったからね。いくつもに分散していたコントロールをこの子に集中させただけだよ・・・・・・こうやってコントロールする体を絞り込めば、それなりに強度を高めることが出来るというわけさ』

 「・・・・・・・・・・・・」

 腕の中に感じる感触は女体そのものだった。
 その感触に安らぎを覚えている自分に気づき、皆本は情けない表情を浮かべる。
 暗闇で己の顔が見られずに済むのがありがたかった。

 『これでこの嵐にだって一晩くらいなら耐えられる。君にとっては呉越同舟の状態だろうが、カルネアデスの板よりはマシだと思ってくれ』

 「・・・・・・兵部の指示だと言ったな」

 『ああ、君が死ぬと少佐の大切な人が悲しむ・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・今、ヤツは何を?」

 『僕に君を助けるよう命じた後、あの三人の助太刀にまわったよ。彼女たちだけだと流石に分が悪い・・・・・・』

 「教えてくれッ! 薫たちは無事なのかッ!」

 『慌てるな。少佐がついていれば彼女たちは安全だ・・・・・・』

  薫たちの身を按じ再び取り乱しそうになった皆本を、九具津は以前と同じ茫洋な物言いでなだめた。

 『それより君は自分が生き延びる事に意識を集中するんだ。彼女たちが全力で戦えるようにね・・・・・・』

 「・・・・・・・・・・・・戦いはどうなっている?」

 『さあ、君を捜索するために本体の感覚は遮断しているからね。僕は忍び込んでいた【しらせ】の船室で、少佐と彼女たちに命をあずけてゆっくりと睡眠中さ』

 「命を・・・・・・」

 『そう。全くの無防備状態。本来ならやっと網にかかったあの人形の敵を、痛い目にあわせてやりたかったんだけどね』

 「兵部の命令だから仕方なくという訳か」

 『感謝しろとは言わないけど、別に僕は殺人狂じゃないよ。目の前で溺れ死にそうな人がいたら手を差し伸べる。まあ、今回は少佐の指示が的確だったってこともあるけど・・・・・・』

 「・・・・・・・・・・・・それならば何故あの時に賢木を撃った」

 皆本は強張る声で九具津を問いつめる。
 命を救われたことは感謝しているが、それだけに賢木を撃ったこととのギャップが理解出来ない。
 皆本の脳裏には、九具津がバベルを裏切る際に起こした破壊活動が生々しく思い出されていた。

 『まいったな。言い訳にしかならないが僕は射撃が下手でね。最初からあの女ったらしを殺すつもりは無かった・・・・・・もちろん君たちも』

 「そんなこと信じられ・・・・・・」

 『殺すつもりなら料理に毒をいれたさ。サイコメトラーは無力化してたしね』

 「クッ・・・・・・」

 『それにあの女ったらしを殺すつもりなら、なぜ僕はトドメの弾丸を打ち込まなかった?』

 「そんな詭弁を信じろというのか・・・・・・」

 『君は頭がいいのだろう? 僕が少佐のシナリオ通りにバベルを裏切ったことを理解できるはずだ』

 「うるさい黙れッ!!」

 パンドラのメンバーが、自分たちに決定的なダメージを与えないよう行動しているのは、皆本自身薄々感づいてはいた。
 しかし、その事実をこんな逃げ道の無い状況で語られた彼は、感情をむき出しでそれを否定してしまう。

 『やれやれ・・・・・・そんな様子じゃ、僕がバベルでの生活を気に入っていたなんて到底信じては貰えないだろうな』

 「なん・・・・・・だと?」

 『愛すべきボンクラ・・・・・・エスパーとノーマルの融和を信じている、愚かしいまでの善人たちに囲まれた生活は新鮮だったよ。もっと早く桐壺局長に出会えてたら、僕もその一員になれたかも知れない』

 「・・・・・・・・・・・・」

 『だが僕は、この世界を取り巻く残酷な真実を知ってしまった。カルネアデスの板―――そう、この荒れ狂う世界に浮かぶ板は、エスパーとノーマルのどちらかしか掴むことはできない・・・・・・それならば僕は虐げられているエスパーの為に、少佐に付いていこうと決めたんだ』

 「決めるのはまだ早いんじゃないかな・・・・・・」

 『えっ?』

 驚くほど柔らかな皆本の口調に、九具津は思わず疑問の声をあげていた。
 皆本の声からは、先程までの猜疑心に凝り固まった響きは感じられない。

 「この世界がカルネアデスの板じゃないと僕は信じる。そう・・・・・・君が兵部や薫に命をあずけてまで僕を捜してくれたこの人形が、カルネアデスの板である訳がない・・・・・・エスパーとノーマルは共存できるんだ」

 『このお人好しめ・・・・・・だが、ますます君を助けたくなっ・・・・・・ッ!!』

 「何があった九具津ッ! まさか【しらせ】がッ!!」

 急に小声になった九具津を皆本は心から心配していた。
 彼もこの極限状態での出会いを好もしいものと思っている。
 そんな彼の心が分かったのか、九具津は照れたように笑った。

 『大丈夫だよ・・・・・・多分。【しらせ】と君の距離が離れたから・・・・・・コントロールが難しくなってね。声の伝達よりも姿勢制御に力を集中する・・・・・・』

 途切れ途切れの声と同時に生じたのは、体をあずけている人形が自分を抱きしめる感覚。
 皆本は九具津が己の能力全てを使い、自分を守ろうとしていることを理解した。

 『これで大丈夫・・・・・・少佐や彼女たちが君を見つけるまで保たせて見せる。僕も・・・・・・その未来が見たくなったよ』

 「借りが出来たな。君と兵部には・・・・・・・・・・・・・・・九具津?」

 返事は返ってこなかった。
 再び暗闇に取り残された皆本だったが不安は感じていない。
 九具津の人形から感じられる不思議な安らぎは、疲労の限界に達した皆本に深い眠りを与えていった。










 

 朝焼けの光の中、皆本は己を呼ぶ声に瞼を開いた。
 見上げた雲一つ無い空には台風の痕跡すら見あたらない。
 真っ青なその空を見た皆本は、薫たちがブラックファントムを撃退したことを確信した。

 「ミナモトーッ!」

 遠くの空には薫たち3人と兵部の姿。
 自分を見つけ満面の笑顔で近づいてくる彼らに、皆本も心底ほっとしたように口元を緩める。

 「良かった・・・・・・無事だったんだな」

 薫たちを安心させようと、皆本は笑顔で手を振る。
 エスパーとノーマルが協力し無事に困難を乗り越えた昨夜。
 皆本の胸には、この世がカルネアデスの板でないという想いが一層強まっている。
 最高の気分だった――――――腹を抱え爆笑する兵部の姿を見るまでは

 「ん? 変なヤツだな・・・・・・九具津。ヤツは一体・・・・・・ッ!!」

 兵部の様子を訪ねようと、人形に目を向けた皆本は絶句する。
 彼は初めて己の命を救った人形の姿を目にしていた。

 「は、計ったな九具津ッ!! く、来るなーッ 薫ーッ!!」

 血相を変えた皆本は、ブラックファントムの襲撃を受けたとき以上の真剣さで近寄る薫たちを制止する。
 そんな皆本の姿を、彼の命を救った人形がパッチリとした目で見上げている。
 南極越冬隊御用達とまことしやかに囁かれるその人形は、大きく口をあけ笑っているように見えた。


 

 ―――――― カルネアデスの痛 ――――――



            終

 



えーっとこれも海上一泊ということでw
正直すみませんでしたm(_ _)m

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