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タマモ・エボリューション

――今日こそ出来る気がする。


 目を閉じ、心を落ち着かせる。
体の力を抜き、精神を集中させ、全身の霊力をチャクラに集め、霊圧を高めてゆく。
 次第に上がる霊力。全身に力がみなぎり始めた。
 緊張を維持しつつ、胸の前で両手首を合わし、掌に作った空間に意識を向ける。
 高めた霊力を散らさないように注意し、腰を落として、両手の状態を維持たまま右脇腹に移動。
 限界まで高まった霊力をコントロールし、先ほど意識した空間に力を流し込む。
 掌に感じる力を押さえつけ、更に圧力を高める。
 暴れ出す力の奔流をなんとか制御して確信する。

――イケる……!

 後は呪文とともに力を解放するだけだ。
――いくわよ。



「か〜〜め〜〜は〜〜め〜〜〜……」



「タマモ、飯出来た…………ぞ…」


「はあぁッ!あぁぁぁぁ……………………」

蓄えられた力は、いつもの狐火として屋根裏部屋で解放された。


―――タマモ・エボリューション―――
    『新たなる力!の巻』


「いや、んな副題いらんだろ……」
全身黒こげでプスプスと煙を出す横島が、シロとおキヌからヒーリングを受けつつツッコんだ。

「確かに、結局いつもの狐火だったみたいだしねぇ……」
爆発音を聞きつけ「何事か」と集まった美神達も呆れながらウンウンと同意する。
状況説明は口を閉ざすタマモに代わり、横島が既に終えていた。

 残念な事実を皆に知られ、耳まで真っ赤にして黙っていたタマモだったが、
この時は心外とばかりに反論した。

「失礼なッ!横島に喰らわせたのはただの狐火じゃないわ!!

『羞恥の心を力に変えて、今!必殺の!フォックスファイア!』

って名前がちゃんとあるのよ!」
しかし、皆の目は冷たかった。
「……今、考えただろ」
「うっ……」
まさに図星。二の句を継げない。

「だいだいだな、顔から文字通り火を出して、
人を消し炭寸前にするほど燃やさんでもいいだろう」
二度もこの屋根裏部屋で、炎の目を見るとは思わなかったぜ。
とブチブチ文句を垂れ流す。

「よ、横島が悪いのよ!
え〜と、え〜と……そう!
ダイエット中に入ってくるから!」

「……一応聞いとこうか。ダイエットって?」

「き、決まってるじゃない!かめはめダイエットよ!」


――かめはめダイエット――
かつて魔王を封印した仙人が開発したとされる究極の減量法
ある一連の動作を一呼吸で約30分かけ呪文を唱えながら行う
当然ながらこれは超人的な体力と肺活量が必要な為
成功する者は殆どいない
しかし成功者は雲や霞に乗れるようになったり
頭から太陽光を発したり
栽培男と道連れになったりできると言われる

出典:玉藻書房『摩訶不思議アドベント』
「それでも私はやってない」より


「……よく今の瞬間に考えたな」

「うくっ……」
 恥を上乗せし、茹だったタマモは言い訳が更に自分を追い詰める事を悟り、またひとつ賢くなった。


「しっかし、『く〜る』ぶってるタマモがそんなアホな事してるとは、拙者も気付かなかったでござるよ」
ニヤニヤと見下した視線を投げかけるシロ。

「んなッ!?あんたにはそんな風に言われる筋合いないわよ!
いっつも『暴れん坊大名』とかゆー時代劇観た後、
立ち回りの真似ばかりか『カーン』って効果音の時の決めポーズまでトレースしてる
あんたなんかに!」
悟りを拓いても、さすがに自分以上にアホやってるシロに馬鹿にされるのは、我慢ならないらしい。
悪代官役ばかりやらされている鬱憤もある。
 しかしシロは冷静だった。

「ふん!拙者を巻き込んで仲間にしたいのだろうが、そうはいかんでござるよ。拙者には最終兵器がある」

「さ、最終兵器ですって……?」
たじろぐタマモ。

シロは胸を張って言い放つ。
「どんな責任や恥を無効にする魔法の言葉、そう

『修業』と云う言葉がな!」
わっはっはと高らかに笑う。

そんなシロを生暖かく黙って見守って行こうと決める面々。

「……って、『兵器じゃない』とか『なんじゃそりゃ』とかツッコんで欲しいのでござるが……」
「あー、ツッコミ待ちだったのか。てっきり素で言ってるのかと……」
心が通じ合っていると思っていた師の言葉に、ガーンとショックを受け、屈んで『の』の字を書くシロであった。

「まぁ、タマモやシロが恥かいたその場所は、俺も十年前に通過した場所だよ。
どうしようもない言い訳する気持ちは良くわかる」
経験者横島は、視線を合わせないタマモとイジケるシロに、かつての自分を見て慰めの言葉をかける。
「今でも雪之丞とかと冗談で
『お前がNo.1だ』ごっこやったりするしな」
「そ、それはどうなんでしょうか横島さん……」
ちょっと引くおキヌ。
昔の人間である彼女には理解できないようだ。

「ま、まぁ、とにかく!若い内は良くある事なるんだから、
タマモもシロもそんなに気にしない!気にしない!」
『私も昔は……』と危うく同調しかけた美神だったが、おキヌの反応で慌ててフォローにまわった。

「ところでタマモ。ちょっと不思議に思ってたんだが」
「な、なに?」
2人のやさしさが身に染みたのか、ちょっと涙目で顔を上げ聞き返す。
「お前マネする程あの番組好きだったか?
確か、引き延ばしがダルいとか言って
再放送も偶にしか観てなかった気がするんだが……」
「う……それは……」
「それは?」
タマモは少し言うべきか迷った後、意を決し経緯を語り出した。


 ある日の事である。
いつもの様に美神達の除霊の手伝いで駆り出されたタマモとシロ。
 その時の仕事は、とある工場に現れる霊団の除霊であった。

 工場内は大きく、美神達は戦力を分散し、各個撃破となったのだが、
怨みが強いのか悪霊達はなかなかに手強かった。
もちろん日本No.1GSである美神除霊事務所メンバーが負ける程でもなかったが。

強力な武器道具を使う美神。
悪霊に抜群の効き目のあるおキヌの笛。
人狼の身体能力と霊波刀を駆使するシロ。
変幻自在の栄光の手と、あらゆる状況に臨機応変に対応する文珠を操る横島。
 しかしその中で、タマモはやや苦戦を強いられた。
相手の攻撃は幻術でカスらせもしなかったが、
攻撃手段が狐火しかなく、施設に極力被害を出さないように大量の敵と戦うのは辛かったのだ。

 結局、タマモの担当だった区域の除霊は他のメンバーの手を借りる事になった。
 その事を誰かに何か言われた訳でもなかったが、タマモ自身が
借りを作った――迷惑を掛けた
という気持ちになってしまったのだ。

――自分にもっと攻撃力が有れば……
 そんな鬱積した気分でテレビを観ていた時、例の再放送である。
そして思い出したのだ。その番組の中で、山を包む炎を一瞬で消した技を。


「これだ!って思ったのよ。早い話、狐火以外の必殺技が欲しがったの。
ここのお荷物になるのもゴメンだし……
新しい技があれば、その……事務所の……
い、いや自分にとって役に立つって思ったの!
んでコッソリ練習してたんだけど……」
「なるほどな」
ズズッと食後のお茶を飲み、美神達は感心した。

 ぶっきらぼうだが借りを作るのを嫌うタマモが、自分の為とは言いつつ、事務所の役に立つように考えていたのだ。
素直にそう言わないのはテレなのだろう。

「良い心掛けね。正直嬉しいわ」
「タマモちゃん偉いです!私感動しました!」
「感心なやっちゃなぁ……でも、パクリはイカンな。パクリは。
パピリオにも言ったが」
「そ、そうね。ヤバいもんね」
あははと笑い合い、にこやかにこの話は終わると思われた。

が、
「……タマモ。それだけではなかろう?」
今まで難しい顔をしていたシロが問うた。
「なにがよ……」
「おまえの話、何か引っかかるのでござる……」
なんだかんだ言ってもシロとタマモは仲がよい。
同じ犬神として、ルームメイトとして、仲間として、お互いの機微を知る友として、
シロは今のタマモの話に何かを感じたのだ。
特にシロは、タマモの毛更り事件から相棒の違和感には敏感に反応するようになっていた。

「どーゆー意味よ」
「では聞くが、何故コソコソ隠れて技の研究をしていたのでござるか?」
「そ、それは恥ずかしいから……」
「うむ……、では必殺技などおまえがよく観る他の番組や、よくやるゲームにもあるのに、
何故それまであまり観てなかったあの番組の、
しかも大分前のエピソードを思い出して、マネしようとしたのでござるか?」
「だ、だだから、そ、そ、それはたまたま……」
しどろもどろになるタマモに対し、考えがまとまり始めるシロ。

「だいたい、あの仕事で、狐火が思い切り使えなかった事で新たな技を作ろうと思い立ったと言ったが、
何故狐火よりも、絶対確実に被害が広がりそうな技をこれだ!などと思ったのでござるか?」
「あら、そう言えばそうね」
そういえば、と気が付く美神。
「う、う……」
「答えられんか……ふむ」
今までの情報を整理するシロ。

あの仕事の直後に観たあの番組……
あの時からのタマモの言動……
今の時期に練習……
そしてこの反応……
シロの頭の中でパズルのピースが嵌っていく。
うまく嵌らないとこは力ずく。


「……ようやく……わかったでござる」
頭の中の推理を確信とするシロ。
「一体どういうことなのシロちゃん?」
「教えてくれシロ。タマモの真意が俺にはサッパリわからないぞ?」
「……今、説明するでござる」
哀れむようなシロの目線の先には、押し黙り、
空の『真っ赤な狐』の容器を見続けるタマモの姿があった。


「まず、タマモが必殺技をパクろうとしたのはホントの事でござる」
「あぁ、それは俺が保証する」
ピクリと反応するタマモ。耳が赤みを帯び始める。

「しかしタマモが濁して言った様な事務所の為に、
と言う気持ちは無かった!」
「えぇ!?本当なのタマモちゃん?」
「……わ、私は……」
「確かに直接言ってないな。事務所の為にとは。
まぁ、そんな気持ちも少しはあったかも知れぬが、
大方は全力を出せなかったイライラでいっぱいだったのでござろう。
そんな中で観たあの番組の、えーと……名前忘れたでござる。
なんか3回変身する異星人の、
確か昔やってた教育番組のネズミの着ぐるみと同じ声で……」
「あぶないから!シロあぶないから!イイから話進めろ!」
「そうでござるか?
とにかく、そやつがナメ……タケ星?とかいう星にボールを打ち込んで破壊する場面でござった」
「シロ、あんたも観てたのね」
「今まで忘れてたのでござるが、あの仕事の後に観たってので思い出しました。
そして、その時のタマモの表情も……」
「表情……?」
「……所謂『けしからん!もっとやれ!』といった感じでござった。
悪役に心奪われていたのでござる」
「そ、それはまた……」

「でも、それならフリー・the・さんのマネするんじゃ……」
「所詮悪役でござるからな。最後にはやられるし。
やはり正義の味方の主人公の方が出番も多いし強い、
威力も高い技持ってるならそっちをマネるでござろう。
そして同じ金髪でござるしな」
「なるほど確かに同じ金髪だな」
妙なところで納得する。

「何より重要なのは、おそらくそれを機にハマった事でござる。
どうりで最近、拙者の前では決して開けないダンボールが増えて来たと思ってたのでござる」
タマモは空の容器に顔突っ込んで表情は見えないが、耳や首を見る限り、頭皮まで真っ赤であろうことが想像できた。

「おそらくタマモは思ったんでござろうな。『私も星を吹っ飛ばすくらいの必殺技を思いっ切り使いたい。
怒り心頭の私ならできる!いや、やる!
同じ金髪だし』と。
そして、その後しばらくしてからのCMが更にパクる事に拍車をかけたんでしょう」
「CM?」
「はい……
『実写版全世界劇場で絶賛公開中』
でござる……」

「ちょっ、ちょっと待ってくれシロ。あの映画は……」
美神と横島は青くなった。おキヌも話には聞いていたので冷や汗を流す。
「わかっています……拙者もタマモに誘われて観に行きました……
世の中何が幸いになるか、いや、不幸になるかわかりませんな。
あれはタマモには好印象だったのでござる『これなら私でも』と言ってました」
「ま、まさか……」

「そうです!つまりタマモは……


次の実写版続編の主役を狙ってたんでござるよッ!!」

「「「な、なんだってーーーーーッ!!!」」」


―――MMR(真っ赤な・女狐の・落涙)編―――
         完



「そ、壮大な計画だな……い、いや良い意味でッ!」
「ゆ、夢を見ることは大切ですよねッ!」
「に、人間社会に染まった、じゃなかった、溶け込んできてくれて、わ、私も嬉しいわッ!」
痛かった。そのやさしさが痛かった。
もはや、人目を忍んで霊力を高めていた日々が遠い昔に思える。
若かったあの頃は何も怖くなかったのに。

 空だった容器はいつの間にか液体で満たされ、そのまま溺れ死んでしまいたかった。
だが、顔全体を覆うほど容器は大きくなく、口は生きるために呼吸を続ける。

「タマモ。過ぎた日々は帰って来ないでござる。しかしおまえは努力した。
曲がりなりにも霊力を上げる特訓をしたのだから、嘘から出た誠。新技を作ればよかろう」
シロは両手でタマモの顔を優しく上げた。
真っ直ぐな瞳でタマモを見据え、微笑む。
 筆舌し難い顔のタマモは、相棒の暖かさに胸を締め付けられた。

「さすがは俺の弟子!エエこと言うな!タマモ、そうしろよ」
「やっぱりシロちゃんは良い子ね。タマモちゃんも答えてあげて」
「シロの言う通りね。私も協力は惜しまないわよ」
「シロ……みんな……ありがとう……
でも、私には新技のアイデアが……無い……」

「拙者に任せるでござる!
拙者とて日々を安寧に過ごしていた訳ではござらん。
日々精進し、新たな技を開発していたのでござる。
そのひとつをおまえにやろう!」
おぉ、と歓声か上がった。

「シロ、いつの間に!俺は全く気付かんかったぞ!」
「ご飯食べる事、散歩する事、遊ぶ事しか考えてないと思ってたわ!」
「ただの穀潰しじゃなかったのね!」
「ヒ、ヒドい言われようでござるな……」
誰ともなくゴホン、と咳払いして脱線しかけた空気を戻す。

「新技の数々を開発出来たのは、まさに天啓でござった。
先生達が『でーぶぃでーぼっくす』のぷれみあ何とかに出かけた時の事でござる」
「あー、おキヌちゃんが幽体離脱で出かけた時の事ね。
私達は留守番頼まれてたわね」
あー、あの時か。と引きつった笑みを浮かべる美神横島おキヌの三人。
あの時、カオスと厄珍のおかげでエラい目にあったのを思い出す。

「実はあの時、拙者コッソリついて行こうとしたのでござるが、
何をどう間違ったか、幕○メッセとか云うとこに行ってしまったのでござる」
「近いようで遠い間違いだな。そりゃ」
呆れるやら感心するやら。シロの事なのでおそらく徒歩で行って来たのだろう。

「当然先生達も居ないので、帰ろうとした時に、
何やら頭の中でイメージがムクムクと湧き上がって来たのでござるよ」
何だかちょっと危ない気がしてきた。
「その内のひとつ、『シロカッター』をタマモ、おまえに授けよう!」
予想以上に危険な香りがする。
「どんな技よそれ」
タマモもさすがに胡散臭げだ。
「うむ。拙者の赤い前髪の部分を分離させ相手に投げつける技でござる!
タマモの場合は、その無駄に沢山あるオサゲを投げつけて『タマモミサイル』とでも名付けるがよかろう!」
「イヤよ!そんな技!」
速攻で拒否権発動である。やっぱり碌でもない技だった。
「ワガママの駄々っ子は駄目でござるよ」ギャーギャーと二人が騒ぎ出す。

 その頃、おキヌの後ろの方で、美神と横島が何やら「準備は良いか?」とか相談していた。
おキヌが上手くガードしその様子を悟らせず、シロとタマモは気付かない。
かくして準備は整った。

「あー、シロ。一応、一応な、念の為に聞くが……新必殺技の中で最大の技はなんて云うんだ?」
「おお、先生、よくぞ聞いてくださいました!
真っ先に○張の神からイメージを受け取った最大の技!
名付けて――


『シロづくし』!!!」



「とりあえずシロには、文珠で深い深ーい眠りに就いて貰いました。後は『忘』を作用させるだけです」
「いいから直ぐやんなさい」
「了解です」


―――DATTEやってらんねーよ編―――
        完



「でも、必殺技なんて考えてみたら簡単ですよね」
おキヌが意外な事を言い出した。最もそっち方面に疎いと思われているからだ。

「おキヌちゃんにも何か必殺技が?」
「技って程でもないですよ……
こうゆうのは難しく考えないで良いと思います」
「悪びれせず、正々堂々とそのままパクるとか?」
「ちがいますよ!必殺って言葉の通りにってことです」
「おキヌちゃんどういうこと?」
「いいタマモちゃん。『必殺』って謂うのはつまり、
『必ず』『殺す』ってことでしょ。
だから……

彼のアパートの部屋の中で待ち伏せして、

刃を上にした包丁で背後からブスッと――」


―――愛、覚えてますか編―――
       完



「彼として、意見はなんかないの横島?」
「や、止めろよタマモ。マジこえーんだから……」
部屋に帰ると押し入れから這い出てくるおキヌを想像し、身震いをする横島。
 おキヌは何故かシメサバ丸を取りに出て行った。

「俺が思うに、やっぱ、いきなりオリジナリティを出すのは難しいんじゃないか、と」
「ここまで話引っ張って諦めろっての?」
「いや、違うよ。色んなとこからアイデア借りるんだよ」
「パクリじゃん」
「だから違くて、ひとつから借りるとパクリって言われるんだから、
あっちこっちからヒント貰って組み合わせてオリジナルにするんですよ」
「なるほど」
確かにそれもひとつの答えだろう。
完全な独創性を作り上げるのはかなり難しいし、そうゆうやり方はありだろう。
 しかしタマモはイマイチ納得出来てないようだ。
「あんたが言うと、ものすごーく胡散臭いのよね。
例えばどんなの?」
「例えばか……う〜ん……
そうだ、
ある電気屋ソングと、あるエリート戦士の技名を組み合わせて――


ビーック♪ビック♪ビック♪ビッグバンフラッシュ!!」
「重複させてどうするッ!?」
「ぐはッ!被ったかーーッ!?」
今日も事務所に人型の血痕ができた。


―――インスパイアかリスペクトか編―――
         完



「最後の頼みは美神さんだけど……」
もう半ば諦めるているタマモである。
正解かもしれない。
 しかし美神もこの事務所の最年長者で大黒柱である。大人として何か助言しなければならない。
大人として……大人として……
そうだ。

「いいことタマモ。あんたは人間社会の勉強をしに来てるのよ」
「何を今更」
「でもまだ、人間のことを完璧に理解してる訳じゃないのはわかるわね?」
「え、えぇ……」
「私達人間だってそうよ。自分のことすら完璧理解してる奴なんていないの」
「は、はぁ……」
「人も妖怪も毎日学び、間違えながら進んで行くのものなのよ」
「う、うん……」
「だから……」
「つまり……」
これから2時間程美神のお話しが続きます。

「ってことなの。わかった?」
「さっぱりわからないけど、よく理解できたわ」
美神は満足そうに笑って
「今はそれで良いの。これからもしっかりやんなさい」
「はい」
スタスタと事務所を出て行く美神。

「……うん。とりあえず寝よう」
タマモも屋根裏の自室に戻って行った。



「ねぇ、人工幽霊一号?」
「なんでしょう鈴女さん?」
「結局、どういうこと?」
「……オーナーは時間が解決してくれると、身をもって教えたみたいです」
「えーと、それってつまり……」
「ハッキリ言うと誤魔化したんですね」


―――汚いさすが大人きたない編―――
        完


おしまい


―――おまけ―――

ある番組を観たタマモに衝撃が走った。
「そ、そうか……!新技とか個性とか元ネタとか……私達みんな馬鹿だったわ」


次の日。除霊現場で

「タマモマシンガン!」

の叫びと共に妖怪にイングラムM11(銀の銃弾入り)を乱射し、
「カ・イ・カ・ン」と曰うタマモの姿があった。


問い詰めたところ
イタリアンスパイダーマ○と云う、マカロニウェスタンならぬ、マカロニマーヴェルを観て、
その原作関係無しっぷりに惚れ込み、
九尾の狐だからとか、元ネタ有りの技だとか、細かいしがらみがバカバカしくなり、

『技がなければ、何にでも「タマモ○○」って付ければ良いじゃない』

というトンデモ理論に至ったのだと語った。

反則技を信条とする美神は、それについては何も言わなかった。
もはや何も言えなかったのかもしれないが。

しかし、白昼の街中で銃乱射はいただけなかった。
隠蔽費と云う名の莫大な制作費が、自主制作映画に費やされた。

図らずも、自主制作映画
『ボディコン服と機関銃少女』
で銀幕デビューしたタマモであったが、
与えられた罰が現実にのしかかり涙にくれるのだった。


因みに、
映画はそこそこ好評で制作費に少しは還元されたのだが、
タマモのお揚げ禁止令は、今なお続いている。


おわり
あぁ誰がこんな酷いことを…
前回もコメントありがとうございました。
でも、またこんなのです。すいません。
読んで戴ければ分かるでしょうが、勢いのみで書いてます。
相変わらずオチが弱いのも健在です。
本当は別の話のプロットが有ったのですが、情緒ある文章が書けず、
憂さ晴らしで勢いに任せ作った結果がこれです。
鼻で笑って貰えれば幸いです。

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