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レベル0

「ない…ない!」

「どうしたの?そんな慌てて」

「私の命ともいえる…アレがないんです!!」





ーーーーーーーーーーーーーレベル0ーーーーーーーーーーーーーーーーー


それは帰り道






パサッ


「いたっ」

薫の頭上に落ちてきたそれ≠ゥら始まった




「ん、どうしたの?」

「いや、なんか落ちてきたような…」



薫の足元を見れば、

「これって…」







「「「ノート?」」」


この状況、似たようなことが二年前に起きていたことを三人はほぼ同時に思い出した






(((まさか……あの……魔法のノート?)))


三人の中で、二年ぶりの全力活性脳細胞が働き出す

「ちょっ……私交番に届けてくる!」

「そうはいくか!抜け駆けするつもりやろ!」

「な、何言ってんの、カナ?」

「二人とも落ち着いて、とりあえずノートの確認が先よ
 それにこのノート、レベル0〜K・M〜って書いてるわ。もしかしたら何かESPの重要な資料かもしれない…」


事態の収拾を図るため、紫穂は透視を催促する
確かに状況は似ているが、このノートが本物と決まったわけではない




「そ、そうか、そうやな」

「わ、わかった。けど本物だったら、ちゃんと三人で分けろよ?」





事態の収拾が済み、紫穂は深呼吸をして手をかざす
もし、本物でも自分は偽物と言えばいいわけである

しかし、そんなことは薫はともかく、葵は承知であろう

頭脳戦はもう…始まっている!



だが…

(!!……こ、これは……)




このノートがもたらす戦いは頭脳ではないこと
それを紫穂は知る由もなかった



バタッ

「「紫穂?!」」


戦う相手を見誤っていた紫穂はそこに臥した
…戦うべきは……理性

彼女はそれを理解した














「ふぅん、つまり、アンタの妄想の大切な資料を無くしたってことなのね?パティ」


筋肉質の男がカマ口調で話している間
乙女は必死になって、自室の作業場をあさっていた


「えぇ!!黒巻先輩を黒歴史で脅しに脅して、やっとできた念写が…」

「しかし、何でレベル0って名前なのよ?」

「アレはレベル1〜レベル7までの連作を作る過程で、
 妄想では足りない面を補うために作ってもらいました。
 その流れに合わせてレベル0と命名したんです。
 試作品段階なんで、まだメガネの人しか作ってもらってませんけど…」



レベル1〜レベル7とは、パティ・クルー連載のちょっとアレ≠ネ内容のアレである
具体的に説明するならば、美男子が美男子を…
という代物の、大変、まぁアレ≠ネ内容なわけで……



「で、そのノート!どんな資料なの?見つかり次第、私にも見せてよ。すごいんでしょ?!」

「いえ、今日完成して持ち帰る際に落としましたから、中身は…
 でも、私の注文に忠実だというなら……それは、もう……」
















「破壊力が半端じゃないわ…」

「だな。これは、いやこれの方が、ってかもう全部…」

「アカンて、キャ…あぁでも……うん、アカン…これは反則やて」


皆本家では、もうその資料が惜しめもなく開封されていた
チルドレンは今まで味わったことのない興奮とアレ≠フ一歩手前な皆本にすっかり酔いしれていた


「透視した限り、黒巻の念写を使った合成画像ね。
 けど、そんじょそこらのコラージュとは違う…この完成度の高さ…永久保存版ね」


そんな紫穂のコメントも無視
ただ見るは目の前にある非日常の皆本

非日常であるが故に、新鮮で、おそろしく耽美…



「ねぇ、このビジュアル系の…セクシーすぎじゃね?」

「いや、うちはハーマイオニー皆本はんの方が…」

「私はやっぱり王子様スタイルねぇ…」


三者三様の好みの皆本はヨダレものだらけ
すっかりパティの妄想にはまっていた

だが、



「ただいま〜」



その妄想の種が帰ってきてしまった
こんな資料が彼のもとに渡れば、怒るどころではない



チルドレンの状況が急変する


「まずいわ、隠さなきゃ!」

「えぇ!何処に?!」

「やっぱベッド下が相場だろ!」



さすがに薫はこんな状況でも発想が中2の男子である


「とにかく隠しましょ!」



しかし、またしても理性という敵が立ちはだかる



「待って、ここ!袋とじの所が……よっぽど凄いのがあるって!!それだけは見して!!」


薫が息遣いを荒くして、袋とじに指をさす



「えっでも皆本はんが…」

「袋とじを見ないなんて、気持ち悪くて仕方ないよぉ!」

「どこのオヤジや?!一刻を争うんやで?!」

「けどぉぉぉ〜」


薫のダダのコネ方は小学生に戻ったようにしつこかった
このまま隠したところで、薫はきっとベッド下をチラ見して、その様子を皆本は勘付くであろう

そうなってしまっては、隠す意味がなくなる


そして、紫穂が賭けに出た




「仕方ないわ、開けるわよ」




しかし………………甘かった























「特に凄いのは、袋とじにしてもらってます。アレには私の妄想の集大成がありますから…」

「ふぅん…例えば?」


「半裸ですかね…それも全裸よりもっとこう…クるやつ……」




























ふたたび皆本家にて


「お〜い。プリン買ってきたんだけど、食べないか?」


何も知らない皆本はチルドレンの部屋の前で声をかける
しかし返事はおろか、物音一つ聞こえない


この時間帯、リビングにチルドレンがいない時は大抵、自室でこもっているはずだが
更に女の子の好物のデザートがあるものだ、扉を自ら開けて、黄色い声を出して飛び出すだろうに

皆本は不審に思って、ドアノブを回してみる







「?…入るぞ?」









その扉の向こうには




「っな……なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」



鼻血がベッドのシーツを染め上げ、理性に敗北したチルドレンがいた


















ノートの存在はそのあと当然ながら皆本にバレ、三十分の説教と1時間の説明を経て
時計が指し示す時間は23時


「何でこんなノートを黒巻が…」

「知らないよ!ってか返して!!」


薫が皆本の手に渡ってしまったノートに手をのばして叫ぶ
だが、そんな要求をのむ男ではない

「断る!!こんな気味の悪いノートはシュレッダーに入れた後に焼却処分だ!!!」

「「「ええーーー!!!???」」」


「えー?!もクソもない!!!即刻処分だ!!分かったか!!!」




「「「……っ…………………」」」





久方ぶりの純度100%の皆本の怒りに、さすがのチルドレンも黙っているほかになかった
あの時、もし、袋とじを後回しにしていたら、もし、理性を保っていたら


袋とじの最後の最後まで見ることができたであろうに……

12歳の春、改めて自分の未熟さを感じるチルドレンであった

























騒動が一通り収まり、ゴミ捨て場にて
影も形もなくなったノート、いや正確には灰を詰めた瓶を片手に皆本は立っていた

「しかし、本当に何でパンドラ側でこんなノートを…」


まず真っ先に思い浮かんだのはマッスル大鎌だったが、
あの真正の男好きが果たして、ハーマイオニーを希望するであろうか




深く熟考して、天才がたどり着いた答えは……


「まさか…兵部が?!あいつ、ロリコンだけじゃなく、こんな趣味まで……?」




兵部=やっぱり変態≠フ方程式がだったそうな…………




今までよりコメディ色が強いので、描写はあまりこだわってません
純粋に楽しんでいただけたら、嬉しく思います


※一部訂正をしましたが、物語全体は変わってませんので

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