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トクホンでのほほん  初音の場合

「うん、これは・・・見事な寝違えだ」

バベル 医務室。ESPドクターの賢木はそう言いながら、妙な角度に首をかしげる少女の首筋に湿布を貼ってやる。
少女の名は犬神 初音。彼女は首筋のひんやり感と湿布独特の臭いに顔をしかめた。

「それじゃ、別に大した事はないですね」

そう言ってほっとした表情を浮かべたのは、一応念を入れて医務室に初音を連れてきた宿木 明である。

「まぁ、でもしばらくは首を動かさないようにな」
「・・・わかった」
「明くんも、あんまり彼女を変な体勢で寝かしちゃだめだぞ」
「わかりました・・・って誤解を招くような言い方しないでください!」

赤い顔で反論する明に、初音はさらに首をかしげるのだった。



   トクホンでのほほん  初音の場合



さて訓練後、明は初音の首の状態をバベル内の控え室で確認していた。

「痛くないか?」
「うん、かなりへーきになった」
「そっか。まあ一日経ったら・・・ん?」
「どうしひゃんっ!?」

   さすさすさす

突然明が肩をさすり、初音は思わず上ずった声をあげてしまう。

「うーん、やっぱり」
「にゃあぁ・・・く、くすぐったい・・・な、何?」
「肩パンパンじゃないか。これはつらいだろ」
「はぁはぁ・・・そ、そういえば」

確かに、一日も首を変な角度で固定していれば肩の凝りは尋常ではない。
実際、初音の肩は何時間も机仕事をしたかの様に凝り固まっていた。
それを見て取った明はこう言った。

「よし、俺が揉んでやる」
「へっ!?い、いやどこを・・・」
「? 肩だけど」
「や、あのそうじゃなくて・・・ホントに大丈夫だから!」

(どうしよ・・・さっきみたいな声が出たら・・・)

頬を真っ赤にしてわかりやすくうろたえる初音だが、朴念仁の明はそれを見てしょんぼりしてしまう。

「俺はただ初音に少しでも楽になって欲しいだけなんだぞ・・・それとも、俺がやるのは嫌か?」
「やっ、そ、そんなことない!私だって明なら・・・」

しまった。そう初音が思ったときにはもう遅かった。

「じゃあほれ、背中向けろ」
「う・・・うん」

(明・・・そんなに嬉しそうな顔されたら、断れないって・・・)

初音は何故か早まる鼓動を抑えるため、大きく深呼吸をする。

(・・・・・・何で私緊張してるの?)

ふと、そんなことを考える。
そうだ、これは肩のマッサージ。何もやましい事はない。
そう、たかが肩揉みくらいでそんな

   きゅっ ぐっ

「はひゃあぁぁっ!!」

いきなりの衝撃に、健康的な肢体をビクンと硬直させてあられも無い声をあげてしまう。

(やあぁ・・・またヘンな声・・・)

初音は慌てて口元を手で覆う。
しかし、頬も覆う手も薔薇色に染まっている。

「あ、ごめん。強かったか?」
「はぁ・・・ふぅ、だ、大丈夫・・・」

(おち、お、落ち着くのよ・・・これは肩揉み!全然平気・・・)

「じゃ、もっと強くするぞ」

   ぎゅっ ぎゅっ ぎゅっ

「んふうぅっっ!・・・あっ、やっ・・・はぁぁ・・・・・・あっ、んんっ!」

(だ、めぇ・・・声・・・抑えられない・・・・・・私、変になっちゃう・・・)

整った眉をハの字に下げ、必死に荒い息を鎮めようとする。
しかし明に肩を揉まれる度に、全身の毛穴がぞわぞわと開く様な感触を覚え、初音は悩ましげに身体をくねらせる。

そして何よりこんな醜態を明にさらしている事が、初音の羞恥に拍車をかける。

(はぁはぁ・・・・・・やだぁ・・・明・・・絶対変に思ってるよ・・・)



(初音のやつ、さっきから変な声出して・・・あんまし気持ち良くねぇのかな?)

初音が思っているより、明は鈍感だった。
と言うかホントに気付いてないのか・・・この状況で。

(・・・あ、そーか。動きが単調だから効果ないのかも)

そして、勘違いな回答を即実行。

   ぎゅっ ぐぐぐっ  ぎゅっ ぐぐぐっ

「んみゃああぁぁっ!!なっ、何ぃ・・・あっ、はひっ・・・・・・」

明は肩を揉みつつ、親指の腹で肩甲骨のあたりを円を描くように刺激する。
その途端、背筋に電流が走り初音の脳内で白い何かがスパークする。

「やっ、あっ、はぁっ・・・そこ、そこだめぇ!」

(うーん、これは駄目か・・・じゃこうだ)

「あぁはぁ・・・・・・ちょ、ちょっと待っんきゅうぅぅっっ!!」

   くくくくぎゅ  くくくくぎゅ

今度はまるでピアノを弾くかのように指を波打たせる。
心臓がばくばくと跳ね上がり、視界に白いもやがかかる。
しかし、明は肩揉みのピッチを上げ始めた。

「ひゃやああぁぁぁっ!やだ、これ・・・・・・ひぐっ、や・・・こんなの切な・・・あっはぁ!」

最早初音は、明の指の動きに完全に翻弄されていた。
繊細に、時には力強く。緩急自在な動きが初音の肩を攻め立て、声を抑えるという理性でさえ陥落させる。

(ええー、これも嫌なのか。じゃあ今度は・・・)

「はぁ、はぁ・・・・・・ぜぇ、まって・・・少し休ませ、にゃああぁぁぁっっ!」



そして数十分後



「・・・もお、らめぇ・・・・・・からだに・・・ひからがはいんなひ・・・」

かなり呂律が妖しくなってきた初音。
目は潤み、身体をしどけなく明にもたれかけ、表情は恍惚としている。

「ん?おい、どーした初音? おーい・・・」

さすがに異変を感じ取り、明は初音に声をかける。

「あぁ・・・・・・はぁ・・・大丈夫・・・・・・大丈夫なんだから・・・」

何とか初志を貫徹しようと頑張るも、全身汗ばみ、くたっと寄り添った姿では説得力ゼロである。

「そうか。で、どうだった?気持ち良かった?」

どこまでも空気を読めない男、降臨。
・・・・・・わざとだろうか?

「 あぁ〜きぃ〜らぁ〜っ! いくらなんでも」
「どう?・・・楽になった? やってよかったか?」

明が不安そうに結果を尋ねてくる。

(うぅ・・・その子犬みたいな目はズルい・・・・・・)

「・・・・・・その・・・だいぶ楽になったし・・・すごく気持ちよかった」
「そっか。よかった」

ぱあぁと表情を明るくし、笑みを向ける明。
コレには、身体の火照りが冷めたら噛み付いてやろうかと思った初音の毒気も抜かれてしまう。

「・・・・・・まぁ、私も明なら構わないけど・・・」
「ん、なんか言った?」
「ううん、なんでも無い」
「? じゃ帰るか」


   ガラガラ        ドサッ


男が一人、転がり込んできた。

「・・・・・・何してるんすか?皆本さん」

「はっ!? い、いやっ、僕は断じて盗み聞きなど」


「それにザ・チルドレンの三人も」


三人の少女がいた。

一人は小鼻を膨らまし、鼻息も荒い。
一人は真っ赤な手で顔を覆っているが、指の間からしっかり状況確認。
一人はいつものシレッとした表情。


――さて訓練後、明は初音の首の状態を『バベル内の控え室で』確認していた。


初音が全てを悟った瞬間、初音の血管と凍った空気が爆発した。


「き、君達!!いったい中でナニをシテいたんだ!!」
「っかあぁぁ!!オフィスラブってか!熱いし激しいぞってか!!」
「フケツやーっ!良識派やと思ってたのに!」
「あら、幼なじみなんだからいいじゃない」
「姐さん!違う!違うんですっ!! って明アアァァァ!!!」
「え、おわっ!何すん、痛てぇぇぇっ!やめろ痛い痛い!!」


その日から、ザ・ハウンドがにゃんにゃんしちゃったという噂がしばらく絶えませんでした。

明の顔が噛み痕だらけだったのもその要因です。

そんな、ある夕方の物語。



「なぁ、初音・・・さっき賢木先生に『彼女、ちゃんと寝かせてやれよ』って言われたけどどういう」

   ガブッ

「痛てぇぇぇぇっ!」


(劇終)
・・・がま口です。
一言だけ、今作は前回の続編と言うことで感動路線のほんわかストーリーを楽しみにしてくださった皆様・・・

ごめんなさーーーーーい!(土下座)

今回はミッション企画に参加したく、また肩揉みはにゃんにゃんに最適のシチュエーションだっ!
と言う妄想に負け、このような形で投下しました。
どうか、寛大な目で見てください。

でも、やっぱりザ・ハウンドが形はどうあれいちゃいちゃラブラブしているのは
書いてて楽しいんですよねぇ(ニヤニヤ)

下書き段階では腰も揉む予定だった危ないがま口でした。

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