そこに触れた瞬間、体に電流が奔った気がした。
未経験の感覚。しいて言えば生乾きの傷口に触れた刺激に近い。
突如生じた感覚に犬塚シロは戸惑いを覚える。
行っていたのはごく普通の日常的な動作。
石鹸の泡を洗い流すという行為の最中、何気なく触れてしまった部分。
そこがそんなに敏感だとは知らなかった。
シロはもう一度その場所に、恐る恐る指先を近づけていく。
――――――――― はじめてのアク○ ―――――――――
胸の鼓動が聞こえそうだった。
シロはその部分へそっと指先を触れさせる。
生じた感覚に肌が一瞬だけ粟立った。
微かな痛みに混ざる、むず痒いような、くすぐったいような感覚。
それを我慢しながらシロは指先を少し動かしてみる。
――― 膨らんでる・・・・・・
指先が感じ取ったのはいつもと異なる感触。
いつの間にか己の体に起こっていた変化。
固く熱を持ったその部分を確認しようと、シロは蛇口を捻り水流を止めた。
瑞々しい肌に弾かれた水滴を、敏感になった部分に直接触れないようタオルで押さえていく。
覗き込むように鏡に近づき、邪魔なヘアーを手で押さえる。
充血したその部分は赤く色づいていた。
――― こんな風になってたのでござるか・・・・・・
指先が感じていたイメージよりも膨らみは小さかった。
まじまじと眺めながらもう一度触れてみる。
首筋の産毛が逆立つような感覚。
先ほどよりも痒み、くすぐったさの方が強い。
痛みにはもう慣れ始めていた。
シロは痛みが強まるのを我慢して指先に少しだけ力を込める。
痺れるような感覚が背筋を奔った。
「ん・・・・・・」
つい漏れてしまった声に我に返る。
頬を紅潮させた鏡の中の自分と目が合った。
「せ、拙者は何を!」
シロは慌てたように視線を外す。
自分のやっている行為の意味を彼女は知っていた。
――― 先生がいけないんでござる、先生のことばかり想っていたから拙者・・・・・・
何かにつけて自分を子供扱いする横島。
しかし、日々成長を続ける自分はいつまでも子供ではない。
横島に女として見られたい。他の女性にするように接して欲しい。
そんな想いがシロの中で日に日に大きくなってきている。
自分の体に起きた変化は、その想いによるものだとシロは思っていた。
「こんなこと・・・・・・いけないことなのに。でも・・・・・・」
シロは右手の指を舌先に触れさせた。
抗いがたい誘惑に身を委ねるように、指先を唾液で湿らせる。
直接触り続けるのは刺激が強すぎる。
敏感となったその部分は更に充血し、赤く腫れ上がっていた。
「ん・・・・・・さっき・・・・・・より、固くなってる」
唾液が摩擦を和らげ痛みはそれほど感じない。
強めに触ってみると、痺れるような感覚が広がり喉の奥が震えた。
胸に広がるむず痒さと誇らしさ。
自分はもう子供などでは無い。
この感覚を生み出しているのは横島への想いに他ならなかった。
彼を想う気持ちの証明だと考えることで、行為への罪悪感が薄まっていく。
肉の芽が生み出す感覚にシロは己を埋没させていった。
「せん・・・・・・せえ、拙者の・・・ここ、こんなに・・・・・・」
横島を想いながらその中に感じる芯を指先で軽くつまむ。
今までと比較にならない刺激に背筋が強張った。
「ッ!! 何? 今の・・・・・・」
痛みを感じた筈なのに鳥肌が立つ。
指先が唾液以外の液体に濡れていた。
初めて見る体液に、シロは戸惑いの表情を浮かべる。
しかし、指による刺激がそれをしみ出させたことは想像できた。
そしてこれ以上刺激を続ければ、自分の体にどの様な変化が起こるのかも―――
「だめ・・・・・・これ、以上は・・・・・・拙者」
何かが弾けそうな感覚に不安を覚えるが、指先を止めることは出来なかった。
横島を想うことで膨らんだその部分を、シロは触らずにはいられない。
染み出たぬるつきが、指の動きを更に強いものにしていく。
「せんせぇ・・・・・・」
無意識にその言葉が漏れる。
弾けそうな程圧迫された膨らみは、もう少しで絶頂を迎えようとしていた。
「ん? 呼んだか? シロ・・・・・・って、ナニやってんだ! お前ッ!!」
不意に声をかけられ覗き込んだドアの隙間。
その中で行われていたシロの行為に、横島は驚きの声をあげていた。
「ひゃうッ! せ、先生! な、何でもないでござる!!」
横島の接近にシロは文字通り跳び上がる。
慌てて弄っていた部分を手で隠すが、その部分はしっかりと横島に目撃されてしまっていた。
真っ赤な顔で狼狽えるシロに横島は急いで歩み寄る。
そして、必死に隠すシロの手を乱暴に引き離そうとした。
「何もないわけあるか! 見せるんだシロ!!」
「恥ずかしいでござる。先生の・・・・・・」
「いいから見せろって!」
恥ずかしさに身もだえするシロは、人狼の怪力を発揮することが出来ない。
腰が引け、その場にへたり込んだシロに馬乗りになる横島。
そして彼はパニック寸前のシロの手を、無理矢理引きはがしてしまうのだった。
「ほら見ろ! こんなにしやがって・・・・・・自分で弄ったのか?」
「!!!」
横島の顔が、息遣いを感じるまでの距離に近づいてくる。
その部分を間近に覗き込まれ、シロの頭が沸騰した。
「ったく、こういう所は弄っちゃダメな・・・・・・」
「先生のエッチーッ!!」
「グハッ!!」
全身のバネを爆発させ、横島をはね飛ばしたシロはもの凄い勢いでその場から走り去る。
洗面所の壁に突き刺さった横島は、走り去るシロの足音を聞きながら最期の言葉を口にした。
「お、おでこのニキビ見るのって・・・・・・そんなに、いけないコト・・・・・・なのか?」
意識を失った彼に答えを返す者はいない。
クレアラシルのCMは既に忘却の彼方だった。
―――――― はじめてのアクネ ――――――
終
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