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トクホンでのほほん  明の場合

(ふーっ、今日は疲れたな・・・)

自室の後姿に中年サラリーマンばりの哀愁を漂わせているのは、ザ・ハウンドの宿木 明である。
いつもこれほど疲れている訳ではないが、今日は初音の能力が暴走し、後始末におわれていたので無理も無い。

(最近、初音のやつ暴走しなかったからな・・・久しぶりに食われたし)

明は間接的に噛み砕かれた首をさする。そしてついでに肩も揉む。

(うーん、がちがちだな)

すると明は部屋の隅っこから孫の手を取り出す。そしてゴルフボールが付いた柄で肩を叩き始めた。

とんとんとんとん

(はーっ・・・・・・ってオヤジ臭くなっちゃったな〜)

最早、オヤジを通り越しておじいちゃん並みであることに明は気付く気配も無いのだった。



    トクホンでのほほん  明の場合



しばらくとんとんしていると、後ろに人の気配を感じて振り返る。

「どうした初音。お腹空いたのか」
「そんなんじゃないわよ」

若干むくれた顔で立っていたのは、同居人であり相棒の犬神 初音。
いつもハツラツとした彼女だが、隣に座るとシュンとした表情になるる。
耳が頭の上にあったら、ぱたんと萎れているだろう。

「・・・どうした?」
「ただ・・・今日は、その・・・ゴメン」

そう言うと、初音は視線をそらしうつむいてしまう。
初音自身も、最近は能力が安定していたためつい油断してしまった。
それで明を随分な目に遭わせてしまったことがよっぽどこたえたらしい。

だが明は手をぱたぱたと振ると、殊更明るくこう言った。

「ああ、別に気にしてないぞ。俺も不注意だったしな。ただしょっちゅうは困るけど」
「でも、かなり大変そうだった・・・」
「なに、どーってことないぞ。たまには俺も働かないとな」

明は軽くはははと笑うと、とんとんを再開する。

初音はその様子をじっと眺めていたが、ふと口を開く。

「・・・明」
「ん、なに?」

「肩揉みしてあげる」
「   へ?」



ぎゅっぎゅっぎゅっ

「痛くない?」
「ああ、もっと強くていい」

ぎゅぎゅぎゅ

「痛くない?」
「うん大丈夫。そのくらいで」

胡坐をかく明の後ろで、初音が真剣な表情で肩揉みをしていた。
大雑把なイメージの彼女だが、繊細な指遣いに明は凝り固まった筋肉と心がほぐれて行くのを感じた。

(はあぁ〜・・・コレ本当に極楽だなぁ)

「こーゆーのも、たまにはいいなぁ・・・」
「そんな、これくらいでオーバーじゃない」

二人で小さく笑い合う。

「それに嬉しいぞ」
「え?」

「初音も今日は憔悴してただろ。なのに俺のこと気遣ってくれて、その気持ちが嬉しいぞ」

初音は大きく目を見開くと、何かを堪えるように二度息を大きく吸って吐いた。

「・・・明・・・・・・どうしてそんなに・・・優しいの・・・」

初音の小さな呟きは明には聞こえなかったようだった。


ぎゅ ぎゅ ぎゅ


「明」
「ん、どうした?」

明が肩越しに初音を見やる。
初音は頬を紅潮させ、少しそっぽを向きながらこう言った。

「あの、いつも・・・私のことフォローしてくれて・・・
特に今日なんか私のせいで色々大変だったのに、夕ご飯たくさん作ってくれて・・・・・・
ホントにいつもありがとうって思ってる。
だから・・・その・・・肩揉みならいつでもできるし、してあげられるから・・・もう一人でやらないで欲しい。
一人で・・・無理しないで欲しい」

そう言い終わると、止まっていた手を動かし肩揉みを続ける。

明は前に向き直る。
そして、熱くなった目頭を手でぐにぐにと揉んで平常に戻した。

「・・・わかった。でも一つだけ訂正させてくれ」
「・・・何?」

「俺は別に無理はしていない。
だって、一番大切なものを守ることを無理するって言わないだろ。
だから無理なんてしてないし、そのことを気に病む必要も無いぞ」

「・・・・・・うん・・・ありがと」

その後二人は黙っていたが、明の真っ赤な耳たぶと、初音の真っ赤な手が二人の心境を雄弁に語っていた。


さすさすさす  ぽんぽんっ

「ハイ、おしまい」
「・・・ありがとう。すごく良かった」
「へへ、そうでしょ。じゃ、私もう寝るね」
「あ、待って」
「?」

「これ、本当に気持ちいいから・・・これからもちょくちょくやってもらってもいいか?」

「・・・うん、もちろん」


その後、ゴルフボール付孫の手の出番は減りました

でも、たくさんの安らぎは増えました

そんなある夜の物語

(終)
はじめまして、がま口と申します。
実は長らく投稿していなかったのですが、今回その溜まったフラストレーションが弾けた格好です。
心理描写がいまいちだったりなど苦戦しましたが、一時の癒しとなってくれればこれ幸いです。

お気づきの方、初音の場合編も構想中です。是非お楽しみに。
これからもよろしくお願いします。

家のマッサージ器はブルブル震えるタイプのがま口でした。

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