女子更衣室。
そこは男子禁制の、禁断の花園である。
特にここ、バベルの女子更衣室はかなりの機能を完備しており、
着替える為の個別ロッカーを始め、シャワールームやサウナ、リフレッシュルームなどが作られていた。
もちろん、覗きが発生しないように万全な対策がバッチリとされている。
「でさー…」
「今日は何処に食べに行く〜?」
「ねぇねぇ、そのリップどこのやつ?」
さて、今日も今日とて訓練・就業が終わったバベルの女性陣たちが、きゃいきゃいと会話を弾ませながら帰り支度を行っていた。
秘密のJK談義
「あ〜腹減った〜」
「本当、お腹ぺこぺこや〜…」
「さっさと着替えて帰りましょ」
今日の任務を終え、自分のロッカーで着替えを行うチルドレンの3人。
疲れた表情を見せながら、制服を脱いでいく。
「お、初音じゃん」
いち早く下着姿になった薫が、こちらへ向かって来る初音を見つける。
「あ、姐さん」
「今から帰り?」
「うん」
「初音がバベルで着替えるなんて珍しいな。
訓練でも任務でも私服なのに」
確かに、薫の言う通りザ・ハウンドの明と初音には制服が無い。
とは言え、バベルの特務エスパーの制服は基本的にスカートなので、初音の能力に合っていない為に私服にしていると言う理由もあるが…。
「訓練中に破いちゃったから、予備の服に着替えようと思って」
そう言って、後ろを向いて薫に短パンを見せる初音。
なるほど、確かにお尻の部分が大きく穴が開いてしまい、下着が見えてしまっている。
よく見ればタンクトップも所々に穴が出来ており、素肌が露出してしまっていた。
さすがにこのままで帰ることは出来そうに無い。
初音は少し離れたところに置かれたベンチに腰掛け、持っていたカバンから予備の服を取り出して着替え始める。
「予備って…。
普通はそんなん持ってへんで…」
「多分、明さんが常に持ってるのよ…」
「ああ、なるほどなぁ…」
薫の背後でささやきあっている葵と紫穂。
明の苦労性に同情しているようだ。
「ふーん…。
そう言えば、初音っていつもその下着なのか?」
初音の着用している下着を指差しながら薫は言う。
今日初音が着用していたのは、黒いスポーツブラとスポーツショーツであった。
対する薫は薄いピンク色のブラジャーとショーツ。
こちらはスポーツタイプではなく、可愛くレースが使われたデザインの物である。
「そうだけど?」
薫の質問の意図がわからないのか、頭をひねりながら聞き返す初音。
「前にうちに来た時もそんな感じの着てたよな…。
他にスポーツタイプじゃない下着は持ってないのか?」
「無いよ?」
「…マジで?」
「うん」
「もっと可愛い下着とかは!?
もしくはここぞと言うときの勝負下着とかは!?」
「…下着姿で闘うの?」
勝負下着の意味がわからないらしく、初音は真顔で聞き返してくる。
「いや…あながち間違っちゃいないけどさ…」
初音の女性として(?)の知識の無さに薫は脱力する。
「初音はさ、下着はどうやって決めてるんだ?
動きやすいからそれにしてるのか?」
「明と一緒に買いに行って決めてるよ。
いつも同じお店に行って、色違いのセットのを買ってるの」
「…明と一緒に買いに行ってるのか…」
「うん」
「…それは明はん、可愛い下着なんて選べんわなぁ…」
買いに行くたびに顔を赤くしている明が安易に想像出来、苦笑いする葵。
「それに、そんなに値段が高くないって言うのもあるのかも知れないわね。
私たちがしてる下着だって結構な値段するし…」
主夫である明の考えを読む紫穂。
あながち間違ってはいないであろう。
「そうは言っても、いつまでもそんな下着を着けてちゃ駄目だぞ初音っ!
そんな地味な下着じゃ、いつまで経っても明は興奮しないっ!」
拳を握り締めて力強く言う薫。
「そ、そうかな」
薫の迫力に圧されて納得しかける初音。
「いや、地味だから興奮しないってわけじゃないと思うで…。
ってか話の論点ズレて来てへん?」
熱く語る薫に冷静にツッコミを入れる葵。
「でも、確かに普段と違う下着の初音さんを見たら、いくら明さんでもドキドキするかも知れないわね」
「そうよねぇ、若い男の子なんだし勝負下着なんか着けて迫っちゃったら、興奮して襲い掛かって着ちゃうかも知れないわねぇ」
突如として、背後から会話に参加して来る女性の声。
「うわっびっくりしたぁ…」
「おばーちゃん…」
ひょっこりと、葵と紫穂の間に顔を出して来たのは不二子であった。
「ばーちゃんもそう思うっ!?」
「ええ、思うわよぉ。
いくら主夫な明くんとは言え、一皮剥けば青い少年だもの。
あの年頃の男の子は色々と『したい』盛りだし、試してみる価値はあると思うわよぉ」
オホホホホ…と悪女な笑いをしながら不二子は言う。
「本当?」
「本当本当。
よし、それじゃ私が明くんが興奮しちゃうような下着を初音ちゃんにコーディネートしてあげましょう!
もちろん、薫ちゃんたちにもコーディネートしちゃうわよっ!!」
声高らかに4人へ言う不二子。
「おぉっマジで!?」
「ええっ…!?
そ、そんなんええんかな…」
「いい機会だからお言葉に甘えましょうよ」
「そ、そやな…」
遠慮していた葵であったが、やはり興味があったらしく紫穂の言葉に賛同する。
「よし、それじゃ今日は遅いから解散しましょう。
明日までに準備しておくから、明日またここで集合!」
「「「「おーっ!!」」」」
不二子の声に、4人は声を揃えて叫びを上げる。
「明…明が興奮する格好…」
「ふふふふふ…年貢の納め時だぞ皆本ぉ…」
「う、うちはやっぱり男の子と女の子1人ずつがええなぁ…」
「うふふ…サイコメトラーの能力をじっくり味あわせてあげるわ…」
「ふっふっふ…。
さっさと既成事実を作っちゃって、あんな未来ふっ飛ばしちゃいなさい皆本くんっ!」
五者五様で、それぞれの思惑を呟く5人。
その時、女子更衣室に居た他の女性たちは、そんな5人を遠巻きに見るしか出来ないのであった…。
「「…っくしっ!!」」
一方こちら男子更衣室。
そこでは、2人の人間がほぼ同時にくしゃみをしていた。
「なんだ、2人してくしゃみなんかしちまって…風邪か?」
「いや…別にそうじゃないんだが…」
「誰か噂でもしてるんですかね?」
賢木の言葉に、頭をひねりながら鼻をかむ皆本と明。
「そうだとしたら、薫たちが何か言ってるんだろう」
「じゃあ俺は初音が何か言ってるんですね」
「へーへー、羨ましいこって」
笑い合う2人に、呆れたように言う賢木。
2人はまだ知る由も無い…。
明日の自分たちに『甘美』と言う名の災厄が降りかかることを…。
(終われ)
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