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ホワイトキス

「むぅ…」

事務所の一室。私はテーブルに置かれた、小洒落たラッピングのされたチョコレートの箱を弄んでいた。
誰がくれたなど、言わずとも判る話ではあるが…

「横島君って、こういう洒落た物には無頓着だと思ってたんだけど…」

勿論、西条さんがくれたチョコと比べるなら凡庸とした物であるのは確かではある。
だけど…万年一張羅の横島君が、私に渡す為にこのチョコレートを必死に探してたとするなら…

「今年からはちょっとだけ、優しくしてあげようかな」

そう思って、私は『くすり』と笑みを浮かべた。


GS美神短編 UGさんミッション4企画「ホワイトキス」


「あれ、美神さんまだ食べてなかったんスか?」
「ひぃっ!? よ、横島くん…お、おおっ…驚かさないでよっ!」

心臓が口から出るかと思ってしまった。
まさか、横島君がくれたチョコレートを手にとって幸せに浸っていたなど気付かれた日には…


『俺にラヴって事ッスかーっ!!』


等と言いながら私に突っ込んでくることは想像に難しくはない。


「出来れば早めに食べて欲しいんスけど」
「へ? あぁ、はいはい」

勤めて冷静に横島君に返事をして、機械的にラッピングを剥がして…
ふと気付く。

ラッピングが意外に雑なのだ。


か、顔は赤くなってない?大丈夫、クールに。落ち着け。さりげなく、オブラートに包んで…

「よ、よこっ…よこひまくんっ! これ、アンタが作ったの?」
「そうッスよ?」

って、全然クールじゃないしカミカミだし、ストレートすぎるわぁぁっ!
しかし、私の変化に気付いていないのか、普通に返事を…

これって、横島君が作ったんだ…


何か、胸の辺りが『じぃん』と暖かくなる。
確かに横島君の自給は安い。高めにすると色々余計なものを買おうとするだろうし
恐ら仕事以外で事務所に来ることが無くなるだろうと懸念しているからなのだが…

よくよく考えれば、そう洒落たチョコレートを買う余裕など大して無いのである。
そうすれば…慣れてない手つきで、このチョコレートを…


「美神さん、大丈夫ッスか?」
「…へ? きゃぁっ!?」

あまりにチョコレートに集中しすぎて、横島君の接近に全く気付いていなかった。
『きゃぁっ』って私は10台の小娘かと言いたくなるが、思わず出てしまった言葉である。
取り消せるはずも無い。

頬が熱くなるのを誤魔化すことも出来ず、ずり落ちそうになった椅子を座りなおすのだが
横島君はこちらを見ながら、嬉しそうに『にこにこ』と笑みを浮かべていた。

恥かしい…

誤魔化し気味に睨み付けてやっても、一向にひるむ気配が無い。
私は憮然としながら、チョコを一口食べ…


あ、美味しい…


意外だった。料理などほぼしない(タマモやおキヌちゃんから家に居る時はカップラーメンばかりと聞いている)から、これだけの味を出すのにどれだけ苦労したのだろうかと考える。
恐らくはおキヌちゃん辺りに聞いたのだろうけれど…

『美神さんに手作りチョコレートを渡したいんだっ!』

とか言いながら、おキヌちゃんに教えて貰ってたのかな。


「どうッスか?」
「んー、そうねぇ…」

ここで単に『美味しい』と言っても芸が無い。
そもそもこのバカはさっきから私を見ながら『にやにや』と笑っていたのだ。

私のほうが年上。ここは年上としての余裕を見せないといけない。
さて、どうやろうか…


『ワイとしては、口移しで味を教えてやるのがエェと思うんや』

突然私に天恵が降りてきた。
どことなく聞いたことがあるような気がするが、今事務所に居るのは私と横島君だけである。
横島君には聞こえていないだろう。

まぁ、小隆起…じゃない、小竜姫様やハヌマンと言った神が実在するわけだしね。


「お、教えてくださいよ。やっぱ不味かったりー!?」

一人暴走する横島君を他所に、私は椅子から立ち上がってデスクに座りチョコを一口。
ある程度口の中で解けるのを見計らって…

「ん、んむっ!?…み、美神さんぐっ!!」
「…こんな味よ?」

一気に横島君の腕を引っ張って、強く抱きしめながら唇を奪ったのだ。
今一チョコが横島君の口に入りづらかったので、一番チョコが絡んでいた舌を突っ込んでしまったけれど…

予想通り…いや、予想以上に横島君の顔が赤くなり
『勝った!』と確信した瞬間。

「み、美神さんっ!」
「え、ちょ…まっ…んむ…んんーっ!!」

今度は横島君が…






「って、しまったぁぁぁっ!!」

『後の祭り』とはよく言ったものである。
隣で寝息を立てている横島…もとい、た…忠夫は私の叫びにも気付いた様子は無い。

しまった…状況に流されてしまった…
一番危険なのが状況に流されることだと雑誌に書かれていたのにっ!
横島君が成人した日に最高ランクのホテルのロイヤルスイートを予約していたのにっ!!


「んん…美神さ…くぅ…」
「んもう…」

夢の中でも私と会っているのか、この愛しい人(バカ)は。
ゆっくりと、彼を起こさないように手を伸ばして文珠を一つ手に取る。

入れる文字は『忘』。
こうやって、私は状況に流される度に使っているのだ…と、思う。
気付かぬうちに2個づつ減っていたりするし…それに、初めての割に…

「じゃ、『前の私』と同じく…忘れないとね」

優しく忠夫の頭を撫で、ベッドに潜り込み、抱きしめながら文珠を発動させた。




「この馬鹿丁稚がぁぁぁっ!!」
「ふんぎゃーっ!?」

寒さの残る早朝。まさか素っ裸になった横島君が隣に寝ているとは思っても居なくて
問答無用の全力で蹴り飛ばしてしまっていた。

普段なら、『これ位は』とある程度手加減するのだが…
流石に告白もせずに私と添い寝するなん…て…


…あれ?


なんで、涙が出るんだろう。
うん、きっとこの馬鹿の所為だ。

「お、俺も知らなかっ…痛っ! 本気で痛いッスよっ!!」
「問答無用!!」

言い訳がましく叫ぶ横島君を、思い切りシバき続ける。
そんな私の顔に、何時しか笑みが浮かんでいた。
うーん、何か見たことある設定・・・と思ったら、VDの時におキヌちゃんでちゅーしてるじゃんと思ってしまいました。
ってことで、秘技(?)『突然場面が朝にっ!』を使わせt(撲殺

微EROは難しいのですヽ(´ー`)ノ

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