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おとなりさん

20XX年

とある一軒家の寝室で初老に見える男性がいた。
「ふー、ついにこの時がきたか」

この初老の男性こと【横島忠夫】
アシュタロス事件、ハイジャック事件ともいわれた、若き日の事件によって人間の魂と魔族の魂を持つことになった男性。

本来ならば、魔族の魂と比べてか弱い人間の魂。
魔族の魂の人間の魂への侵食。
当初は50歳まで持たないかもしれないと言われていたが、魂を分け与えた魔族の意思と、黒竜扇の闇を制御する竜気によって、60歳を超えても生きていた。
その状態が今破綻した。

魔族の魂が、人間の部分の魂への侵食をしようとする痛みに耐えながら、
「人工幽霊壱号 きこえるか」
と、微塵も疑ってはいない声で、この屋敷を管理している人工幽霊に問いかける。
「何でしょうか」
「死神がくるはずだから通してくれないか」
「わかりました」


横島は痛みに耐え、ベッドの横になりながら考える。

<令子、今日はGS協会の理事会か。こういう時に限って、霊感が働かなかったんだな。そういえば、時々重要な件でも抜けていたこともあったよな。あと子どもも出来なかったし。。。いない間に悪いけど、先にあの世に逝ってくるな>
<母さんも、父さんの浮気に、未だに悩まされているよな。俺の方が先に逝くけど、すまない>
<お義母さんは相変わらず年齢がわかりづらいよな。お義父さんもなかなか会えなかったけど、令子の事、残していってすみません>


さらに思えば、GSの除霊助手からの知り合いを思い浮かべる。

<ひのめちゃんもGSになって、甥、姪もGSの素質はありそうか。そういえば、今日くるんだったかな。くるまでもちそうにないな>
<おキヌちゃんは、氷室神社へ戻って神主さんと結婚して未だにネクロマンサーの導師もしてたよな>
<シロは人狼の隠れ里で子ども、孫に囲まれて幸せそうだったな>
<タマモは時々こちらに顔をだすけど、真友君の子どもが一流のGSだからって、そっちについていったな>
<冥子ちゃんは大化けしたよな。小学校から大学まで霊能関係をひろめているし。相手は政樹さんか。よくあのぷっつんを治したよな>
<そういえば愛子は六道女学院で、まだ、青春って連呼してるのかな>
<エミさんもピートと結婚して可愛らしく歳をとっているよな>
<マリアもカオスの面倒見というか、あいかわらず安いアパートで四苦八苦してるみたいだし。あのじいさん成功するのかな>
<めぐみさんが、雪之丞とまさかの結婚をしたしな。雪之丞ってあの家の趣味の悪さを確かに気にする奴じゃなかったけど、あいつが除霊の失敗で死んだ時のめぐみさんの悲しそうな顔は忘れられないな>
<魔理さんとタイガーと結婚か。GSじゃなくて普通に料理屋はじめたもんな>
<ルシオラ……>


「横島忠夫、おまえを迎えに来た」
「ああ、死神か。悪いけど、ちょっとまってくれ、人工幽霊壱号に一言だけ伝えたい」
「手早くするのだぞ」
「どうも。人工幽霊壱号、令子に次の言葉を伝えてくれ【令子と一緒で幸せだった】って」
「【令子と一緒で幸せだった】ですね。伝えておきます」
「死神、待たせて悪かったな。魂の尾を狩ってくれ」

死神がその手にもっている鎌を一振りし、横島の魂の尾を狩った。

<これが魂の尾を狩られるって感じか。実感がわかないな>

「横島忠夫、魂の尾は狩りとったぞ。本来なら、このまま黄泉の国へ案内するのだが、今回は特別に神魔族の二柱が魂を引きうける。そちらの女神【今死にましたけど、生きていた頃から愛してましたー】」

いきなり、少年の姿になった横島の霊体が、眼に入った右側の女性の姿をした一柱にいきなりとびつこうとしていた。

「それはやめて下さいっていつも言ってますよね」
「小竜姫さま、なぐる前に言ってください」っと、なみだ目の横島がいた。

「霊体が必ずしも肉体と同じとは限らないけど、であった頃の姿とはね、兄さん」
「べスパも迎えにきてくれたのか。いや、すまない」
「私との契約っていう【呪(しゅ)】に縛られているのに、こっちにくるのではなくて、小竜姫に飛びかかれるなんて、本当に常識外だね」
「話中すまないが、次の仕事に向かう。横島忠夫の魂のこと、よろしくたのむ」
「「死神、お手数をかけました」」

「横島さんに竜気で魔族の魂の侵食をとめますね」っと、小竜姫が横島の右腕と組んで竜気を送りこんできた。

「そうだね、私からもフォローするね」
べスパも反対側の腕を組んできて、横島の魔力の制御を行いだした。

「横島さん、もうこのまま妙神山に行っても良いかしら」
「どう、兄さん」
「す…すんません、タイム」
「「えっ!」」っと、声をつまらせる二柱。

だが、続けて横島はそのまま言葉を続ける。
「人工幽霊壱号、もうひとつだけお願いがある。今のシーンを消すか、できないなら、せめて、俺の身体の死体損壊だけは令子にさせないようにしておいてくれ」
「いつもなら一コマもすれば復活しますが、魂が抜けているからですね。わかりました。何とかいたします」
「よろしく人工幽霊壱号」
「忠夫さんも、良い旅立ちを」

「小竜姫さま、べスパ。妙神山までよろしくお願いします」
「「行きましょう」」

横島、小竜姫、べスパは、その場から消えた。


直後、今日くる予定だった姪が、寝室の中から聞こえてきた声を不思議に思いながら、ノックをした。
返答は無く「忠夫おじさん…?」と入ってきた。
寝ているだけかと思ったが、忠夫おじさんの雰囲気を感じない。
思わず駆け寄って、忠夫おじさんの顔を覗きこんで、説明しがたい感覚に襲われる。
携帯を取り出して「お母さん、忠夫おじさんが……」
外は、ちょうど陽が沈むところだった。




一方、妙神山。
横島、小竜姫、べスパが元の一軒家から転移してきた。

その場には、斉天大聖老師、ヒャクメ、パピリオ、ジークフリートがいた。

横島が各自に挨拶をしていく。
「老師、ここまで色々とありがとうございました」
「なに小僧、お前らにはアシュタロスの件で借りがあるからな。せめてもの罪滅ぼしじゃ」

「ヒャクメ、お前覗いていただろう」
「えっ、何のことかしら」
あきらかに挙動不振な態度をしめして、傍目からはばればれである。

苦笑を浮かべながら、高校生ぐらいの女性に
「パピリオ、美少女になったな。俺があと40年若かったら絶対ナンパしてるぞ」
「おにいちゃん、何いってるんですか」
とはいいつつ、うれしそうに笑っているパピリオだった。

「ジーク、お前はいいとしてワルキューレは?」
「お前はいいって、、、まあ横島さんだから仕方が無いですか。姉上は現在作戦行動中でこれませんよ」
「最後にあの、ええからだを見たかった」

一斉に脱力してた皆であった。

「ヒャクメ、妙神山で預かっていたルシオラの霊破片はもって取り出してあるか」
「老師、こちらにあります」
「うむ。小僧、お主の魂の分離は微妙だ。わかっているとは思うが、閻魔の方もまっておる。そろそろ閻魔の方へむかうぞ」
「名残おしいですけど、よろしくお願いします。老師」

「縁があったら、来世でも妙神山に修行に来てくださいね」
「今度こそ、人間と、神様の禁断の恋にっ」っと言った瞬間に、小竜姫の神剣が首筋に。
「あはっはっは、冗談ですよ」
「転生がわかったら見ててあげるのね〜」
「ヒャクメ、お前はそれしなくていいから」
「「ルシオラ(ちゃん)のことはまかせなさい」」
「うん。ルシオラのことよろしくな」
「戦友のことは決して忘れん…! たとえ来世でもな…!」
「甘いところは変わっていないな…」

「小僧、本当に行くぞ」
「はい」
横島と老師は、ルシオラの霊破片をもって、閻魔の元に向かっていった。




2099年

「あなた、おとなりの奥さん、実家から戻ってきたんですって、ちょっと、挨拶にいってくるわ」
「お子さんがうまれたばかりなんだから、あまり長話しないで戻ってくるんだぞ」
「そのあたりは、あなたよりわかっているわよ」


「△△さん、隣の◇◇ですけど」
「いらっしゃい、◇◇さん。家の赤ちゃんを見にきてくれたの」
「ええ、ちょっと、お邪魔させてもらうわ」

赤ちゃんが寝ているベッドに向かっていき、その家の女性が言った。
「令子ちゃん、蛍ちゃん、家の息子。忠夫って名前なんだけど、仲良くしてあげてね」
二人の母親のほがらかの雰囲気の中、忠夫に向かう二本の手が見えた。




時はもどって1999年

目の前に興味をもてないGSに日記帳を渡す。

本来ならその日記帳からは見えないはずの3人の子どものビジョン。

ちょっと前におとなりに入っていた二人のGSを思い出しながら、
「次の100年後に関係するのかな。予知不可能なことだな。この私が楽しみにさせられるなんて」
悪魔ラプラスがつぶやいた。

- Fin -
【おくりびと】アカデミー賞受賞おめでとうってわけでもないですが、死という題材で書かせてもらいました。

閻魔は閻魔大王のつもりですが、閻魔大王もしくはその部署が魂の分離ができるというのは、オリジナル設定です。
一部、銀河英雄伝説のフレデリカの想像シーンをアレンジして使っています。

まだまだ、稚拙な文章ですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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