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その力、つきる時

   
「きょ、京介!?」
「え……何!?
 どーゆう事!?」

 宇宙(そら)での休戦協定は、突然、破られた。
 人工衛星を攻撃してから、兵部たちは消えていく。

「あんのヤロー!!
 裏切ったのよ!!
 こんなものが都市にでも落ちたら……」

 不二子が目の色を変えて大騒ぎする中。
 薫は遠い目をして、小さくつぶやいていた。

「京介……!!
 やっぱり京介は――あたしの敵……」




       その力、つきる時




 ゴゴゴゴゴゴ……。

「超度(レベル)たったの6。
 ゴミやな」
「あたしたち、おだやかな心で
 すっげー怒ってるよ?」
「なんだかワクワクしてきちゃった」

 洞窟へ着いた三人の態度は、兵部が冷や汗を流すほどである。
 そんな彼女たちに向かって、

「あたしも久しぶりの出番でワクワクしてるわ!
 少佐に手は出させないわよッ、女狐!!」

 戦線復帰したマッスルが、攻撃を仕掛けた。
 しかし。

「脇役はどいてなさい!」

 以前と同じく不二子に一蹴され、マッスルは、口から泡を吹いて倒れる。
 真木は岩壁に頭から埋まっているし、紅葉も弾き飛ばされて倒れたままだ。
 つまり、この場のパンドラメンバーのうち、早くも半数が脱落した形だった。
 一方、バベルの面々は、全員無傷。
 固められていた皆本は元に戻っており、傍らには賢木が。
 そして紫穂は、薫と葵のところへ駆け寄っていた。
 こうした状況の中。

「チルドレン三人娘の勢揃いかよ」

 腕をパティの背中に回したまま、葉が、言葉を吐き捨てる。
 もちろんパティは十分な戦力であり、今、葉が彼女をかばう必要などない。だが、まるでそれを失念したかのように、二人は動けなかった。それほどの気迫が、目の前のチルドレン――特に薫と葵――から発せられているのだ。

「ただのチルドレンやないで、ウチらは」
「おだやかな乙女心をもちながら
 激しい怒りによって目覚めた美女……   
 スーパーチルドレンだーッ!!

 薫の言葉と同時に、強烈な一撃が葉を襲う。

「くっ!」
「きゃっ!?」

 パティ共々、岩肌に叩き付けられる葉。
 あっさりノビてしまった二人には、
 
「そんな設定ないわよ、葵ちゃん、薫ちゃん」

 という紫穂の言葉も、もはや聞こえていなかった。


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「あとは兵部だけよ。
 ……やっておしまい!」
「『ザ・チルドレン』トリプルブースト!!
 完全解禁!!」

 管理官と指揮官の言葉を背に受けて。

「皆本さんを裏切る未来なんて……」
「……ウチらの力で変えてみせるで!」 
 
 三つの力を一つに合わせて、今。

「念動(サイキック)……
 京介のバカーッ!!

 裏切られた薫の怒りが――踏みにじられた乙女心が――、兵部へと向かう。
 それは、衝撃の破壊力と回避不能な光速とを伴った、禁断の一撃!


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(これが!!
 覚醒した女王(クイーン)の……いや、三人の力!)

 兵部少佐はダテじゃない。
 まるで落下する隕石を一人で支えるかのように、全力で受け止め、抵抗していた。
 しかし。

(くっ!)

 突然、苦痛に顔を歪め、自らの胸を鷲掴みにする。

(よりによって、こんな時に……!!)


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___________


「待て、薫!
 もう十分だ」

 皆本に制止され、薫は、ハッと自分を取り戻した。
 既に兵部は地に倒れており、意識も失っているようだった。
 いや、それだけではない。

(どうしちゃったんだ、京介……)

 薫が抱いた違和感。
 それは戦いの最中に生まれたものだったが、我に返った今になって、ようやくハッキリしたのだった。

(まるで……エスパーじゃなくて、
 皆本を壁に押し付ける時のような感じだった)

 その皆本は、兵部に向かって走り出そうとしている。
 今こそ、兵部を捕まえる好機!
 だが、足を踏み出した途端、体が突然、動かなくなった。

「空間固定よ。
 ……って、さっきも説明したわね」

 いつのまにか復活していた、紅葉である。
 そして、もう一人、

「これ以上は……困るのでな」

 兵部のもとへ歩み寄る真木。
 彼は紅葉に向かって、首を横に振ってみせる。

『キョースケ死ンジャッタノカ!?』

 二人のやりとりを見て、桃太郎が驚いている。
 その頭を、

「そんなわけねーだろ。
 少佐は、ただ……」

 意識を取り戻した葉が、右手で小突いた。
 左腕ではパティを抱えているが、彼女は、まだグッタリしているようだ。

「あーら、
 三つのしもべの復活ね。
 主人をやられて、
 そのリベンジってとこかしら」
「……ババアッ!!」
「熱くなるな、葉。
 状況を考えろ」

 不二子の挑発を、真木が受け流す。
 彼は、意識のない兵部を腕で――炭素結晶繊維ではなく彼自身の腕で――抱きかかえていた。
 さらに、倒れている仲間を炭素繊維の手で拾って、紅葉や葉と共に退却していく。
 去り際に、

「これでパンドラは……」

 何かボソッと、つぶやきながら。


___________


「逃げられてもーたな。
 ま、でも、
 ボスを倒したようなもんやから……」
「……これでパンドラも
 おとなしくなるわね」

 兵部のやられ方は、尋常ではなかった。
 子供心にも理解できたようで、葵と紫穂が、そんな会話を交わしている。
 一方、少し離れたところでは、不二子が複雑な表情を浮かべていた。

(兵部京介……)

 不二子も兵部も、同じ時代に生まれ、同じ時代を生きる者。二人とも若い外見を保っているが、その仕組みは全く別だ。
 彼女の老化停止現象は、他人のエネルギーを吸収する際の副作用。それ故『他人の若さを吸い取る』と評されるのだ。
 しかし兵部の場合は、彼自身の遺伝子を超能力で発現制御している。老化遺伝子(テロメア)のコントロールだと言われているが……。

(しょせん私たちの知識では、
 遺伝子制御なんて無理なのよ)

 テロメアがどう機能しているのか。
 それを正確に知らなければ、テロメアの働きをコントロールすることなど難しい。
 もちろん、人間が幾つかの筋肉を意識せずに動かしているように、兵部だって、意識してテロメアに干渉していたわけではないだろう。ピンポイントでテロメアを狙っていたのではなく、漠然と老化を止めようという意図で能力を使い、結果的に作用していた対象がテロメアだっただけだ。
 だが、そんな形で超能力を使い続けては、無理がたたるのも当然である。

(もしかすると、あいつは、もう……)


___________


「さあ、僕たちも帰ろう」
「……うん」

 皆本にポンと肩を叩かれた薫。
 彼女もまた、不二子とは違った意味で、複雑な気持ちになっていた。
 一番前で戦っていたせいだろうか。薫だけは、真木が立ち去る際の発言を、完全な形で耳にしていたのだった。

  「これでパンドラは、
   リーダー不在となってしまった。
   ……責任をとって欲しいものだな」

 明らかに、チルドレンへ――特に薫へ――向けられた言葉だ。
 それが、彼女の頭の中でリフレインする。
 そして薫は、兵部から聞いた『未来』の話――兵部ではなく自分たちがパンドラを率いるのだという話――を、あらためて思い出すのであった。






(『その力、つきる時』 完)
   
   
    
 こちらのサイトが『コミュニケーションを行う為のツール』とも記されている以上、感想で『無茶振り』された場合には、可能なかぎり応じる必要があると思いまして。
 ……こんなSSが出来上がりました。
 ややズレた内容かもしれませんが、ともかく、きっかけを下さったUGさんに感謝します。
   

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