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届け、この想い

「はぁ〜…」

誰も居ない事務所に私のため息が小さく消える。
誰も…そう。美神さんや横島さん、シロちゃんとタマモちゃん。
みんな除霊に行ってしまって、私一人のお留守番。

「うぅ…渡せずに終わっちゃうのかなぁ…」

毎年横島さんにチョコは渡しているけど、想いまで渡せていないのだ。
時計を見ればもう10時を回っている。
『みんな、まだ帰ってこないのかな』と
私はもう一度、小さなため息を漏らしていた。


GS美神短編「届け、この想い」


「横島さぁん…」

客用のソファに座り、テーブルに突っ伏したまま
私は昨日『あれこれ』と考えながら作ったチョコレートを弄ぶ。

自分なりに可愛く出来た、小さなラッピングのチョコレート。
『今年こそは』と、毎年ながら思い…結局伝えることが出来ないでいる。

いや、怖いから…だ。
拒まれる? ううん、横島さんはきっと拒まない。
多分『好き』って言ってくれると思う。

でもそれは、『私』が一番なのだろうか。
結局、美神さんが一番で、シロちゃんとタマモちゃんがきて…そして、その次なのではないか。
そう思えてならなかった。




「…ふぇあ?」

誰かが向かいのソファに座った音。
ドアが開く音はしたのだろうか、と逡巡してみるが…考え事の所為だろうか
それとも、頭がぼやけているのか…

「あっ…」

『かさかさ』という乾いた紙のすれる音。
その音に意識が一気に覚醒してくる。

その音、それは…
私が作ったチョコレートを開く音。

「そ、それは…っ!」
「え? あ、俺用じゃなかった? ゴメン、寝てたみたいだからさ…黙って開けちまって」

『いえ』と小さく返事を返し、何時の間に寝てしまったのだろうかと頭をかしげる。

って、その前にっ!


「そ、それ…よ、よよっ横島…っさんに作ったものですからっ!」
「…? じゃ、食って良いんだよな。 よっしゃ! チョコ一個ゲットだぜっ!!」

残念そうにラッピングを戻そうとしていた…そう、横島さんに慌てて言い繕う。
心底嬉しそうな顔でチョコを頬張る横島さんの顔。

もしかして…他の人は誰も渡してない?
…美神さんも?


「いやー。おキヌちゃんにチョコ貰えなかったら、今年はゼロになる所だったなー」
「えぇぇぇっ!! わ、わわっ…私っ…だけ!?」

『どきっ』と大きく心臓が跳ね、一瞬…口から出てしまうのではないかと勘違いしてしまうほどに。
みるみる顔が熱くなっていくのを感じる。
嬉しさと、恥かしさ…両方が混ざって…そう、何時もはここで何も言えなくなってしまうのだ。

でも、今年は違う。
横島さんは今年で20歳。
今年横島さんと…彼女になれなければ、多分私が横島さんの彼女になることは無いだろう。


だから、私は…全ての勇気を込めて…!


「あ、あのっ…わ、私の…」
「…ん?」

『きょとん』とした顔。きっと、横島さんは私の想いには気付いていない。
だから、口に出さないといけないのだ。
頑張れ、私…!

「私…私の……チョコレート、美味しいです…か?」
「…へ?」

この瞬間、涙を流してしまった。
勿論、顔ではない。心で。

今目の前に横島さんが居なければ、恐らく私は自分で自分の頬を思い切り殴っていたかもしれない。

『あ、あははは』と、誤魔化す様に笑う自分を罵倒したかった。


自分で、恋路を放棄したのだ。



「よ、横島…さん?」

普段なら『ウマい!』とか何とかすぐに言うのに
目の前の横島さんは、暫く唸ったかと思うとチョコを一つ口に入れ

『ちょいちょい』と私を手招きしていた。

横島さんの意図が掴めず、私はゆっくりと立ち上がり横島さんの方へと向かった。
…とはいえ、向かいに座っているのだけれど。


「え?…あの…っ!」

一瞬何が起きているのか、私には判らなかった。
ただ、腕を引っ張られ

視界一杯に天井が映って
それが横島さんになって


口一杯に、チョコレートの甘い味が広がって


「…ぷぁ…はぁ…はぁ…」

ソファに押し倒され、覆い被され
そして…キス…してくれたと気付いたのは

『こんな味だよ』と、唇を離した横島さんが微笑んでからだった。

「わ、わた…わたっ…わたし…っ」

今、今しかない…頑張って…全身全霊を込めて…抱きつきながらっ!




「あなたの事が好きですーっ!!」
「わ、私にそんな趣味はありませんわーっ!!」

拒絶の言葉。
抱きつこうとする私を引き剥がそうと、私の顔が変形するほどに掌で押しやってくる。


なんで…?
今、私にキスしてくれたのに…?

それに…わ…たくし?


「…はれ? 何で弓さんになってるんですか?」
「私は最初から『弓かおり』ですわっ! 氷室さん、寝ぼけてないでいい加減離れて下さいませ!」

『あれ?あれ?』と混乱する頭の中に、『くすくす』と笑む声が聞こえてくる。

目に入る眩しい日の光。
弓さんの顔。そして…

ここは、教室。


「おい氷室。暖房つけてんやから眠いのは判らんでもないんやけどな。流石に寝ぼけて抱きつくのはやめた方がえぇぞ」
「き、鬼道先生!」

堪える様な笑みが、先生の一言で爆笑に変わる。
今のは…夢…だったんだ。

それはそうだ。
鈍感で、私の想いなんかにちっとも気付かない横島さんが
いきなり私の腕を引っ張って、強引にキスを…

「ひだいっ!?」
「立ったまま寝ようとすんな。全く…さっさと席に座らんと、もう一発シバくで?」

目の前に星が飛ぶほどに強烈な教科書の一撃を受けてしまった頭を抱えつつ
私はゆっくりと席に座った。

今の夢を夢で終わらせないように、そう心に強く思いながら…
きっと、今年のチョコは…私の想いは届くと信じて。
お久しぶりでござります。ゆめりあんでございます。
VDSSですねー。ギリ間に合ったっ!?
実は、ウチ用に書いてたのですが…エ○味が微妙だったので、そこを削って投…(撲殺

ジョウダンデスヨ?

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