「今だ!!
やっちまえ、パティ!!」
洞窟内の一時休戦も終了。
パンドラの先輩である葉の言葉に従い、パティが、二人のサイコメトラーへ攻撃を仕掛ける。
「いわゆるひとつの『攻め』ですね!?」
当然パティは、葉の『やっちまえ』という言葉を、パティなりの意味に受け止めていた。
だから、賢木(男)の相手は葉(男)に任せて、自分は紫穂へと向かう。
自身の体そのものを粒子化させて、そのカラダ全体で、紫穂のカラダに絡み付くのだ。
これが、パティの『攻め』!
「ぐ……」
拘束されて、呻き声をもらす紫穂。
その様子は、まるで……。
(……触手プレイね。
触手に巻き付かれたヒロインだわ)
ややズレた感想を持ってしまうパティ。
パンドラには本当にカラダを触手化できる能力者が居るし、また、有明・池袋の世界にも触手のプロが居る。だが、どちらの意味でも専門家ではないだけに、パティには、触手が触手でなければいけない重要性なぞ分かっていなかった。
そんなパティに対して紫穂が反撃を試みるが、
「しょーがないわ……!!
もう一度暴走させて――」
「そうはいくかよ!!
いったん下がれパティ!!」
再び、先輩の指示が飛ぶ。
葉に言われるがまま、紫穂のカラダから離れるパティであったが……。
戦場で生まれる恋?「葉、どういうことだ、これは?」
今。
パティの目の前で、葉は拘束されていた。
(おお!
これこそ本物の触手ですね!!)
葉の四肢と胴体に絡み付いているのは、真木の炭素結晶繊維。厳密には触手ではないのだが、ビジュアル的には、触手の本家カズラ以上に『触手』である。
だから、パティにとっては、これは『真木 x 葉』の触手プレイにしか見えなかった。
「少佐の許可なく、
ヤツらを傷つけていいと思ってるのか!?」
真木が『触手』を巧みに操り、グイッと葉のカラダを引き寄せる。
その様子は、まさに王道! 男の、男による、男のための触手!
しかも、これは二人だけの世界ではない。触手とは違う形で、さらに、もう一人。兵部少佐が関わってくるのだ。
今、少佐にジロッと睨まれ、
「す……すんません」
葉はシュンとなっていた。
いつも彼は『……って真木さんが言ってました』という言い方で少佐に悪口を投じているが、もちろん、それは好きだからこその『悪口』。好きなコに意地悪しちゃう小学生と同じレベル。
その証拠に、ついさっき賢木とのカラみの最中だって、葉は、
「あのバカをからかっていいのは俺らだけだ」
と宣言していたくらいだった。
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これまでの洞窟内での言動が、目の前の光景と重なって……。
「ぶっ、ぷぷっ」
思わず声が漏れてしまう赤面パティ。
それを少佐に聞き咎められ、
「あっ、いえ。
なんでも」
と、顔を横に向ける。
だが、あらぬ方向を見つつも、彼女の妄想は止まらなかった……。
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敵である賢木とカラんで。
真木には、触手プレイで拘束されて。
少佐には、あからさまな好意を示して。
ああ、葉先輩は、なんとオールマイティなキャラなのだろうか。
(……本当にステキな先輩!)
パティの心の中で、葉の占めるウエイトが大きくなっていく。
だから。
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「あ……危ない、少佐!!」
「みんな伏せて!!」
洞窟に人工衛星が撃ち込まれた時。
少佐にでも、真木にでも、マッスルにでもなく。
パティは迷わず、葉にしがみついていた。
胸に飛び込んだような形。正確には、腰の上あたりで、彼の上着をギュッとつかむ恰好になっていた。
一方、葉の方も、
「紅葉!!」
弾き飛ばされた同僚に声をかけながらも、そちらには、手を伸ばしすらしなかった。彼の腕は、自分に抱きついてきた少女に――その背中から肩に――回されている。
(……!)
しかし少女は、男の腕を強く意識していたわけではない。
葉が『ステキな先輩』なのは、恋愛の対象としてではなく、あくまでも『掛け算』の対象としてなのだから。
……それが、パティ自身の認識。
そう。
今は、まだ。
自分自身の気持ちに気付かぬ、少女であった。
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