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女帝万歳!

   
 暗い洞窟の中。
 先輩男性に手をひかれて、フラフラと立ち上がる美少女。
 胸元のリボンやヒラヒラした袖口が特徴の洋服、そして、頭にはカチューシャ。そうした恰好が、実によく似合っていた。 
 お嬢様っぽくも、ゴスロリ趣味にも見えるが、彼女は、普通の乙女ではない。
 自他共に認める腐女子エスパー、パティ・クルーであった。




       女帝万歳!




 今、少し離れたところでは、敵である賢木と紫穂が言葉を交わしている。
 小声ではあったが、しょせん狭い洞窟内。二人の会話は、パティの耳にも届いていた。

「あの鳥の巣頭だけでも
 殺(や)っといてくれれば……」

 この言葉が、パティの脳天を貫く。

(え?
 『やっといてくれれば』……?
 今、『ヤっといてくれれば』って言ったの!?)

 続く賢木の発言も、パティの想像を裏付けてしまう。

「お前な……。
 女の子がそういうこと言うな!」

 女の子が口にすべきでない、はしたない言葉。
 つまり。
 紫穂の言った『やる』は、物騒な『殺る』ではなく、下品な『ヤる』だったのだ。
 実はパティと同じく、紫穂も、そーゆー展開を望んでいたようだ!

(そうだったのね……)

 紫穂と賢木は、まだまだ、アブナイ会話を続けている。

「二度と逆らえないような
 精神的屈辱を与える方法を……!!」
「悪くねえな。
 具体的にどーする?」

 賢木にヤられてしまったら、葉にとっては、それこそ精神的屈辱だろう。
 それも『二度と逆らえないような』だなんて……。
 いったい紫穂は、どんなプレイを想定しているのだろうか?
 紫穂の想像力は自分以上だ。パティは、ワクワクしてしまう。
 そんな彼女に、葉が声をかける。

「……正直ヤベエな。
 能力はともかく、
 あいつらの腹黒さがヤベエ」
「反撃できるようになる
 5秒前くらいに殺られそうですね」

 と返すパティ。ただし『殺られる』のは自分だけで、葉は『ヤられる』に違いないと思っていた。

(本当に……『腹黒』ね)

 自分と同じ趣味でありながら、それを完全に隠していたとは、なんとも腹黒い! 紫穂、恐ろしい子……!!
 だが、それでも。
 彼女が同好の士であったというのは、喜ばしいことだ。
 特に、この紫穂は、将来パンドラを率いる三人のうちの一人なのだから。

(あなたがリーダーとなった暁には
 ……私は、どこまでも従います!!)
 
 心の中で、紫穂に忠誠を誓うパティ。
 また一人、女帝(エンプレス)の僕(しもべ)が誕生した瞬間であった。
   
   
  
 妄想だけで鼻血出すくらい、想像力たくましいパティ。時には、間違った想像から、大きな勘違いもするんじゃないかと思いまして……。   

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