2861

静止した洞窟の中で

「なんせ、未来のボスなんだからな」


実は密かに紫穂が目を覚ましているとも知らず、パンドラ幹部・藤浦葉の声が洞窟内に響き渡った。







――――― 静止した洞窟の中で  ―――――







「ふーん。ところでお前、能力戻ってきてる感じはあるか?」


バベル側にとってはそれなりに重大な発言だったはずなのだが、まるで興味無いかのように賢木は問い返す。


「いいや。ニイさんは?」


そんな賢木の態度に少々拍子抜けしつつも、葉は未だ能力が戻っていないことを告げる。


「こっちもダメだ。さっきから手札探ろうとやってみてるが全然わかりゃしねぇ」

「うわっヒデエ!?カードゲームでメトリーかますなんてイカサマじゃねぇか!」

「ま、結局出来てねぇんだから別にいいだろ?」


(そーいう問題じゃねぇ!)

賢木が拳銃を持っているためあまり強気にも出れず、心の中で激しくツッコむ葉であった。






(暴走してから結構時間経ってると思うが、能力が使えないのは暴走の影響ってだけじゃねーのか……?)

先程の葉とのやり取り、そして時間経過による能力変化が見られないことから、賢木はある仮説にたどり着く。

(もしかして……?)


「そうか……ここって、インパラヘンのどっかかもしれねーな」


手札からカードを捨てながら賢木が呟く。


「なんだってぇ?」

「資料で読んだ事があるだけだがな、インパラヘンじゃ超能力に干渉する事のできるレアメタルが産出されるって話だ。その中に“超能力を封じ込めるレアメタル”なんてのがあってもおかしかない」


そう、自身が出向いたわけではないが、皆本と不二子、そしてチルドレンをまきこんだインパラヘンの王室騒動については賢木も聞き及んでいる。
そしてインパラヘンのエスパー巫女・マサラとチルドレンによって行われた決闘で、特殊なレアメタルで出来た像が重要な役割を果たしたことも。
その時使われた像は思念波を記録して中に多くのエスパーの魂を宿らせ、サイコメトラーの巫女がそれら各種の能力を引き出して戦ったり、ソレとは別のトーテムポールのような形をした像はマサラの手駒としてチルドレンと戦ったりもした。
同じくその時チルドレンが使った“超能力を攻撃力に変換できる武器”にもレアメタルが使われていたのかもしれない。
確実なのはインパラヘンで産出されるレアメタルは何らかのカタチで超能力に影響を及ぼすということだ。
それこそ“無効化”や“増幅”のレアメタルもあるのかもしれない。


「マジかよ……。けどそれじゃなんでマッスル達は固まったままなんだ?」

「さぁな、詳しいところはわからねーが……こっちに来る前に固められた皆本と多分テレポート中に防御のために自ら硬質化させたマッスルがそのままって事は、“ここに入る前に起こった変化”に関してはノータッチなんじゃねーか?」

「もしそれが本当なら……救助は絶望的?」

「だろうな。電子機器は全部オシャカ、超能力は封じられ、実際暴走から結構な時間が経ってるのにパンドラ側からもバベル側からも何のコンタクトもないと来てる。こーいう時の頼みの綱も固まっちまってうんともすんとも言えねえし」


ずっと洞窟内で過ごしていた2人には知る由もないが、状況はまさに賢木の言うとおりであった。
バベル側はまだこの事実を把握していないが、兵部率いるパンドラは既に組織内の遠隔透視や精神感応の能力者たちが総動員で彼らを探していた。
だがそれでも彼らを見つけられず、やむを得ず薫と葵に応援を頼み、そこに突如として現れた不二子までが手を貸すという異例の切迫した状況にまで発展している。
この洞窟には内部だけでなく、外部からの超能力による干渉を打ち消す力も備わっているのかもしれない。



「……頼みの綱ってアイツの事か?」

「ああ。アイツが固まってなきゃこの状況でも多分何かしらアイディアをひねり出して何とかするんだろうけどな」

「へぇ……、頼りにされてんね。ところでここ来る前から聞きたかったんだけどさぁ」


すると皆本の事を内心快く思っていないのか、手札からカードを捨てながら葉が皮肉げに切り出した。
発する言葉にも隠しきれない怒りがにじみ出ている。


「なんだよ?」

「あんたら、何しに来たワケ?パティも言ってたが容疑者宅前で痴話喧嘩はするわ、仮にもパンドラメンバーの家に押し入るってのに少人数な上に軽装備だわ……オマケにその内訳はノーマル1人に戦闘には向かないメトラー2人だぜ?何をしようってんだ。まぁ、女帝エンブレス を甘く見た結果こんなになっちまった俺が言うのもなんだがよー……」


葉の疑念ももっともな事である。
賢木ら3人がマッスル宅に突入しようとしたとき、手持ちの武器は紫穂の持っていたニセ手榴弾に拳銃一丁、賢木が持っていた拳銃一丁、皆本が持っていた熱線銃ブラスター 一丁のみだった。
一応熱線銃ブラスターはエスパーさえ殺傷できる装備だとは言え、明らかに火力不足だ。
これまでパンドラとの戦闘は、犯罪の予知を防ぎに言った先で出くわしたり、パンドラ側から奇襲をかけてきたりとバベル側が後手に回る遭遇戦が多かった。
それに比べ、今回は賢木の情報から先手を取ることが出来たのだ。
ところが実際動いていたのは皆本(ノーマル)1人・賢木と紫穂(サイコメトラー)2人だけで、お見合い騒動の時には出張っていたAチームも、(葉は知らない事だが)今回から皆本の指揮下に入った蕾見不二子も、他の戦闘系エスパーチームもつれてきていない。
その事が葉にとっては不思議で仕方なく、また憤りを隠せなかったのだ。
自分達はそんなに下に見られていたのか、と。
今回の結果だけを見れば、蕾見不二子を同行させなかったのは正解だったと言えるが。


「俺も詳しくは聞いてないがあいつのこった、多分説得するつもりだったんだろうよ。んで極力最小限の戦力で来たのはそれだけ本気だって事を見せるため…かな」

「説得だぁ?正気かよ?」

「さぁな、詳しく聞いたわけじゃないからホントにやるつもりだったのかはわかんねーよ。ただあいつが本気ならならそれくらいのことはやるだろうよ。なんせ自分を拉致監禁したやつらの健康を気遣ってメシ作って洗濯して風呂入れてやって……なんて世話してたようなヤツだぜ?メンバー全員説得してパンドラ空中分解!くらいのこと考えてても俺ぁ驚かないね。…おっと来たぜ、こいつでアガリだ」

「澪のことか……。あいつは何でかそのメガネのこと気に入ってるみたいだからな。あんなやつのどこがいいんだか」

「お前にゃ皆本の良さはわかんねーよ」


こいつとは分かり合えそうも無いな……そんな事を思いながら、いつ来るかもわからない救助のことを考えると賢木は小さなため息をついた。



「ところでよーニイさん、洞窟で野郎2人でババ抜きって空しすぎねぇか?」

「……言うな」








多分ギリギリセーフ。10号既に読んでる人の方が少数派だろうし、大丈夫だよねきっと。

というわけでえらく久しぶりの復帰作は王道っぽい展開予測でした。
個人的には“賢木たちはどこにいるのか”って謎より“どうして皆本たちはあんな軽装備で応援も頼まず突入したのか”って事の方が気になりまして。
作中で一応理由も推察してみましたが、あんまりしっくりきません。ほんとになんでなんだろ……。

ではここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見御感想等お待ちしています。
B-1でした。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]