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約束の地 2

「……ブラックファントムにあったときから、キミはそういえば変だった」
「目覚めたくなかったのに……」
 時々は実は目覚めたりはしてた、と皆本は両手を上にあげた。
 どうしてもどうしても、同じ能力者の悲哀などを見たときは、俺が時々顔をだしていたと。
 ソファに深く座り、彼は悲しげに笑う。皆本クンにはできない笑い方だ。と兵部は思う。
 ブラックファントムに操られていた金髪の少女、そして……彼女を見たときの皆本の悲しそうな顔。それはいつもとどこか違っていた。と兵部は思う。
「……とりあえずさ、お前に頼みたいことがあって、俺はわざわざ、敵の領地までやってきたわけだよ。変態ロリコン若作り爺」
「……話はきいてやるが、しかしほんと口悪いな君」
「ほうっておけ」
 茶くらいだせよ。と悪態をつきながら、皆本は語りだす。
 どうして俺がお前のところにやってきたのか、と。
 


 唄が聞こえてくる。
 とても切ない唄だ。
 貴方のいない世界なんて……イラナイ。という歌声が聞こえてきた。
 まるでセイレーンのようだ。と思う。
『貴方は私を忘れられない』という声が蘇る。
 闇の中でただ泣いている幼子のように。
 ただ聞こえてくるメロディ。
『……私は永遠を手に入れた』
 それだけがただ切ない。
 とても切なかったんだ。

「……唄……」
「月曜日に自殺する、という内容の唄が昔あっただろ? それ聞いた人間が本当に自殺したって逸話、あれの日本バージョンだよ。コメリカではあったらしいけど、日本ではきかねえだろ?」
「それがどうしたんだい?」
「……あんたならどうにかできると思って」
 眼鏡をかけた青年が、ため息まじりに白髪の少年を見ている。
 どうしようもない日常、お前しか頼るものがないなんてなんて俺は不幸なんだ。というため息が聞こえてきて、ちょっとだけ兵部は不快になる。
「……ボクにどうしろって?」
「今流行りの『自殺唄』あの唄をとめてほしいんだよ。こんなことバベルの奴らには頼めないだろ!」
 ああもう、どうしてこう俺はあの『まじめ皆本』をほうっておけないんだよ。と大声で焦ったように彼は怒鳴った。
 いつもと違うどこか乱暴な口調。
 この子は見てると楽しいなあ、と兵部は愉快げに笑った。
「……俺だってこんな敵の所に好き好んでくるほど暇じゃねえんだ!」
「キミもヒュプノ能力者だろう? といたらどうだい? あの唄は多分洗脳系だろう?」
 洗脳、という力を持ったヒュプノは珍しくない。
 だからそれを唄という力で発揮できる能力者も稀にだがいる。
 巷で密かに流れる「自殺ソング」「自殺唄」とやらは、聞くだけで自殺してしまうという噂があるものだった。
 兵部もその噂を聞いていた。
 だがどうしてそれを彼がとめようとするのかが、不思議だった。
「……俺じゃああの唄の洗脳はとけないんだよ、ボケ!」
 ロリコン爺、俺の頼みはきけねえってのか、お前一応超能力者の長みたいなやつだろ。と生意気な口を彼は聞く。
「……でもキミみたいな人格が皆本クンの中にいるとしったら、不二子さんや女王たちはどうするだろうね?」
「は、俺はそれほど馬鹿じぇねえ。あいつらの前でも完璧に『皆本光一』を演じられるさ。それに、俺は普段『眠っている』状態だから、表にはでてこないぜ」
「ボクの前以外は?」
「一言多い、ロリコン!」
 今は彼らしくない表情、言動をしているが、間違いなく彼だった。
「……しかしキミは面白いね」
「……お前超能力者には優しいってきいたぜ?」
「でもノーマルだと思っていた君がね」
「キャリーみたいなもんだよ。能力とともに別人格があらわれてもオリジナルは知らないってやつだ」
 俺は能力者だ。そしてノーマルである皆本がそれは知らない。と皆本は語る。
 彼はとても悲しげに寂しげに笑った。
 とても綺麗で透明で悲しい蒼、どこか……壊れそうな硝子のように儚い笑みだった。

 人はどうして超能力者を恐れるのか? それは自分と違う力を持つから。
「……人は恐れる、エスパーを」
「へえ、キミは彼とは違う考えかい?」
「……ノーマルとエスパーはわかりあえはしない。普通の人は俺たちを恐れるよ」
 恐れ、忌み嫌い、そして迫害する。何度も何度もそんな場面を俺は見てきた。と皆本は寂しげに笑う。
「……普通の人間は超能力者を恐れる。ただたんに特別な力をもってしまった。ただの人間なのに、俺たちも」
 あいつは信じてるんだ。絶対にわかりあえるって。
 俺は違うんだ。とゆっくりと首を否定の形に皆本はふった。
「……あの予知は現実になると思うか?」
「そうだね。なるだろうね」
「やっぱりな」
 皆本は嘆息する。いつもノーマルのせいで俺たちは追い詰められていくんだな。とうわごとのように囁く。
「キミは僕たちの仲間だろう。なら、バベルをやめてパンドラにこないか? キミなら皆多分大歓迎するよ」
 同じ超能力者なら、多分わかりあえる。と兵部は手を差し出す。
「ありえない、俺はパンドラも大嫌いだからな」
 お前のやりかたはぬるすぎるんだよ。とけっと舌打ちする皆本。
 だから、俺たちへの迫害は止まらないと。
「どうやってバベルをごまかしたんだい?」
「あー、まあちょっと知り合いに頼んでさ。俺の能力とそいつの能力をあわせて、後まあ裏の世界に知り合いもいるから」
 へえ、同じヒュプノかい? と尋ねる兵部。まあそうだ、と苦虫を噛み潰したような顔で皆本は答える。
「……レベルなどは?」
「お前案外そういうこと知らないんだな。レベルは6、俺の昔の知り合いで、今はこの近くに住んでるぜ?」
 ヒュプノ自体珍しいのに、こんなにたくさんいたなんて。と兵部は素直に驚く。
「へえ」
「そいつをパンドラにスカウトしようたって無駄だぜ、あいつは多分こないし」
 裏の世界の知り合いもお前は多分嫌いだな。とにやにやと皆本は笑う。
 人をある意味馬鹿にしたような笑いは彼の顔にはあまり合わないな、と兵部は思う。


 
約束の地というタイトルの片鱗がちょっとでてきました。
1の続きですが、どうもオリジナル設定が強いですね。
いかせるように頑張ります

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