「ねぇねぇ、皆本」
就寝前、薫達3人は眠そうに目をこすりながら言った。
「初夢ってどんな夢見たら縁起ええんやっけ?」
葵は眼鏡を外している。どうやら、自力で縁起の良い初夢を見るため、眠いのを我慢して訊きに来たようだ。
「確か・・・・・・・1、2、3、だったわよね?」
「そう、一富士二鷹三茄子っていってね、富士山一つ、鷹が二羽、茄子が三つ夢に出てくると、縁起がいいって言われてるんだよ」
皆本自身はあまりその手のことを信じたりはしないので、正直詳しいことは知らない。それに似た夢は去年の初夢で見たのだが、縁起がいいといわれれば微妙な夢だった。
「ほら、もういいだろう?早く寝なさい」
今日は大晦日。先ほど紅白歌合戦で大フィーバーだった薫達3人(好きな歌手が出ていたらしい)は、興奮と馴れない夜更かしで眠気が限界まで来たようで、かなりお疲れのようだった。テレビでは紅白の後やっている毎年恒例のジャ○ーズのカウントダウンが迫っており、そのテレビの上の時計は11時55分あたりをさしていた。
はぁい、といって大きなあくびの薫を先頭に、3人は仲良く並んで部屋を出て行った。
「さてと」
皆本は振り返ると、テーブルに向かう。テーブルの上には、さっきまでテレビを見ていたときに食べていたお菓子等の袋が食い散らかされている。
皆本は一つ溜息をつくと、テーブル上の後片付けに取り掛かる。
(コレが終ったら、僕も寝よう)
連日の仕事の疲れと、先ほどまでのチルドレンのテンションに付き合わされた疲れがどっと出たせいだろう。片付けが終るや否や、皆本はベッドに倒れこむようにして寝てしまった。
―――――貴方の初夢どんな夢?――――――
薫編 甘い時間
薫は高校の授業が終ると、大急ぎで家へと帰った。
「急いで、帰らないと・・・・・・」
今日は皆本とデート。珍しく任務や皆本の仕事が重ならなかったので、夕方から出かけることになっている。もちろん、薫一人限定だ。
場所は最近出来た大型テーマパーク。エスパーも遊べる天国のような場所。チケットは、局長からもらっている。
今日は夕方に出て夜、思いっきり遊び、ホテルで一晩明かしてから帰ってくる。まさに夢のような時間。
薫は家に着くとすぐに着替える。皆本は先にテーマパークの入り口で待っている。用意を済ませると、窓を開けベランダに出て、そこからサイコキネシスで窓の鍵をロック。閉まっているのを確認すると、薫はすぐさま飛び出した。
正面玄関から出れば空を飛びにくいけれど、ベランダからならば人目を気にせずに空を飛べる。薫は高校生になりより一層パワーアップしたサイコキネシスを全開にして、皆本の待つテーマパークを目指す。
テーマパークまではすぐだった。薫は皆本と2人で並んで入り、様々なアトラクションを堪能した。
「ねぇ皆本、最後に観覧車に乗らない?」
「観覧車?でも、もうすぐ時間が・・・・・・・」
「えー。いいじゃん。お願い」
「はぁ。しょうがないな。それじゃあ早く行こう」
皆本と腕を組みながら、薫は観覧車に乗る。ゆっくりゆっくりと上昇を始めた二人だけの空間は、甘い空気に包まれているのは言うまでも無い。
「わぁ、凄い景色」
やがて観覧車も上のほうまで来ると、景色ががらりと変わり素晴らしい夜景が目に飛び込んできた。思わず見とれてしまう。
「ホントだ。まるで・・・薫みたいだよ」
少し間を空けて口から零れる様に放たれたその言葉に、薫は頬を紅くする。
「な、何だよ皆本、急にそんな・・・・・・」
しばらく、その空間を沈黙が支配する。
(今しか、無いよね・・・・・・・・)
薫は雰囲気せいか、はたまた違うのか。自分のうちに秘めていた思いを、伝えることを決心した。
「ねぇ皆本、私ね――――――――――」
fin
紫穂編 ディナーはいかが?
高校からの帰り道。皆本の家を離れ、しばらく父親と一緒に暮らすことにした紫穂の携帯が、メール用着信音を鳴らした。
「・・・・・・?誰からかしら」
開いて見るのが面倒なので、紫穂は鞄の上から透視した。読み取ったメールの差出人は、なんと賢木だった。
『今日、俺と一緒にメシ食いに行かないか?』
何を企んでいるのやら。しかし、今日は父が仕事で遅くなるといっていた。たまにはいいかもしれない。
紫穂はすぐにOKの返事を出した。
「へぇ、中々いいお店じゃない」
「へっ。オレをなめるなよ?」
紫穂は賢木と共に、一軒の洋食屋に来ていた。見た目はそんなに悪くない。賢木の趣味にしてはかなり意外なレベルだ。
「お前、今ものすごく失礼なことを考えてたろ」
「べ、別に考えてないわよ?」
透視しなくてもなんとなく分かる。それがサイコメトラークオリティー。
「ほら、好きなの食えよ。今日はオレの奢りだ」
「え!?センセイが奢るの!?」
紫穂は驚愕の色を隠せない。
「まさかそれで恩を売っといて、後で脅すなんて事は・・・・・」
「しねぇよそんなこと!!!お前少しは人を信じることを覚えやがれ!」
「無理よ。センセイが薫ちゃんや葵ちゃん、皆本さんぐらい優しくないと」
「だから優しくしてんじゃん!!??なのに何この仕打ち!!?」
あはは、と紫穂が笑う。それを見て賢木がぼそりと呟いた。
「へっ。折角予定訊いて、それに合せて来たのに・・・・・」
「え?何か言った?」
「何も言ってねぇよ」
「うそつき」
と、紫穂が透視を始める。読み取ったのは、紫穂の日程や、それに合わせて自分の予定を合わせて、無駄遣いもやめていた賢木の姿だった。紫穂の胸が、ドキンと高鳴る。
「勝手に人の心を読むなよ」
そういう賢木も、あまり嫌そうな顔はしていない。
「・・・・・・・・・じゃあ、今日は思いっきり甘えちゃおうかな?」
「へ?あぁ、おう!食え食え!」
紫穂も賢木もにこりと笑う。さっきの微妙な空気は、もうそこには無い。
(たまには・・・・・・こういうのもいいかもね)
fin
葵編 ブルー・ブルー・スカイ
今日は珍しく任務が無い。完璧にフリーな日だ。
特に何もやあることが無いので、取り敢えず葵は外に出ることにした。
とにかく暇。何故だろう、普段なら何かやることがあるような気がするのに、今日は不思議と何もない気がした。
ぶらぶらとバベルにやってきた葵は、自分でも良く分からないまま屋上へと上った。
「たまにはこう言うのもええかも・・・・・・・」
誰もいない屋上で、葵はのびのびと寝転んだ。スカートが風で靡き少年誌的においしい状態だが、周りに人がいないので気にしない。
春物のブラウスが春の日差しでほんわかと暖かく、心地よい。そのまま珍しく寝入りそうだった、そのとき。
「あれ?葵ちゃん?」
聞き覚えのある声がして、葵はすぐさま起き上がり、身なりを正す。
「あ、やっぱり葵ちゃんだ」
「つ、翼はん!?」
そこにいたのは白の研究員用の白衣を着た、美ヶ速翼だった。(ブルーバード参照)
「久し振り。大きくなったなぁ。今は高校生だっけ?」
「うん。つ、翼はんこそ、北海道から帰ってきてたんや」
翼は、元特務エスパー「ブルーバード」だったが、とある事故でその能力―――――――超度6のテレポート、及びそれをベースとした合成能力、を失ってしまった。
だが、自分の力で世界を救ってみせる、と言う夢を諦めきれずに、バベルの研究員となった。その夢の第一歩として、北海道の未確認エスパーの調査及びその保護、として北海道に向かっていた。バベルの管理範囲でも、バベル本部から離れているほど管理の目が行き届きにくい。そのため、高超度エスパーの発見が遅くなる場合があるのだ。
元々翼もそんな人間の一人で、彼は自分と同じ目にはあわせたくないと自ら志願したらしい。
「ついこの間帰ってきたんだ。しばらくは結果報告とエスパーの管理についての話し合いでバベルにいるけど、それが終れば次は沖縄や九州の方のチームに合流しなきゃいけないんだ」
「大変やなぁ。辛くないん?」
「そりゃぁ、もちろん自分で言い出したことだし。それに―――――――」
翼は、青空を仰ぐ。
「それに、嬉しいんだ。自分が役に立てていることが。自分と同じような境遇の人たちを救えることが、ね」
なんだろう、葵の胸がキュン、と締め付けられるような気がした。不思議と嫌な気がしない。むしろ、嬉しくなった。
「そうなんや・・・・・・・でも、何で屋上に来るん?会議とかあるんやろ?」
「ああ、今会議が終ったところでね。休憩さ」
再び翼は空を仰ぐ。
葵も、まねして仰ぐ。
2人の上には、果ての無い青空が広がっている。
「ねぇ、翼はん」
葵が、翼に問いかける。その顔はまだ青空を見上げている。
「翼はん、前にこの世に幸せをもたらせる
青い鳥になりたいってゆうてたよね?」
「うん、そうだよ。それが僕の夢であり目標さ」
「うちもね、その『青い鳥』になりたい。翼はんの助けになりたい」
「・・・・・ありがとう。でも、葵ちゃんはチルドレンの仕事が―――――――」
「せやから!!!!」
葵は翼の声を遮る様に大声で言った。
「せやから、ウチが大人になったら・・・・・・翼はんと一緒に―――――――」
強い風が、吹き抜ける。
2人の間を吹き抜けて行く風の反対側で、翼はにっこりと笑った。一方の葵の顔は、ほんのり赤い。
「うん。約束だ、葵ちゃん――――――――――」
fin
「こんなところで何をやってるのかしら、兵部京介」
ドラ○もんの四次元ポケットのような空間の中、三つの石を覗いていた兵部が振り向くと、そこにはかつての戦友、蕾見不二子がいた。
「なにをやっていようと勝手だろう?それより、不二子さんのほうこそ、どうやってここに来たのさ」
「それは残念ながら企業秘密よ。それよりもあなた、薫ちゃん達の夢を見ているんでしょう?まさか、貴方が見せているんじゃないでしょうね」
兵部は振り向くと、うっすらと笑いを浮かべる。
「そんなことはしないさ。僕はただ、クイーンたちの夢を見ていただけだよ」
「それはそれでずいぶんと悪趣味ね」
兵部はさらに笑う。
「残念なことにこの空間は夢の世界だ。いかに僕だろうと不二子さんだろうと、互いに手を出すことは出来ない」
ふん、と不二子は鼻で笑う。
「そうね。私も貴方を捕まえられなくて酷く残念だわ」
しばらく沈黙が続く。二人は互いににらみ合ったまま動かない。
「ねぇ・・・・・・・どうして分かり合えないの?貴方だって分かっているでしょう?あの男と皆本君は違うの!!きっと未来は―――――」
「おいおい、もしかして力が駄目だからせめて言葉で落とす気かい?まったく――――」
「私の話を聞きなさいっ!!!!」
不二子が叫ぶ。ピクリと顔が動いたが、すぐに兵部は飄々とした顔つきで不二子を見る。
「あの男はね、勝手な理由で貴方を撃ったの。でも皆本君は違う!彼は最後の最後まで、薫ちゃんを助けようとした!でも・・・・・でも仕方が無く撃ってしまったの!!あの男とは違うのよ!!?」
不二子の頬には一筋の涙が伝っている。
「・・・・・それでも」
兵部は何処か悲しげに笑っている。まるで悲しいことを思い出して、それを誤魔化して笑っているように。
「それでも僕は、この傷が癒えるまでは力はエスパーのためにしか使わないと決めたんだ」
兵部はそういうと、空間から消えて言った。残された不二子は、溜めていたものを吐き出すように、涙を流していた。
「あのばか・・・・・・わからずやぁぁぁぁぁっ!!!!」
不二子の声が、虚しく空間に響き渡った。
翌朝、皆本は何時までも起きてこない3人を起こすため、部屋へと入った。
「おーい、お前ら起き・・・・・」
と、そこで言うのをやめる。
ベッドの上では、3人が凄く幸せそうな笑顔を浮かべていたから。
fin
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