2834

雪の中のコブラ

  
「バカだわ、私。
 よく考えたらこっちは東側だから、
 夕陽なんか見えないのに……」

 ハンドルを握りながら、ルシオラがつぶやく。
 左手に海が見える、崖沿いの道。
 そこで、俺たちはドライブしていた。

(ああ、これは……
 あの時の一場面だ。
 まだ俺が、アシュタロス陣営に
 スパイとして潜り込んでいた頃。
 二人で買い物に出かけて……。
 ……あれ?)

 ふと、違和感を覚える俺。
 なんで、道路が白いんだ?

「何言ってるのよ、ヨコシマ。
 お正月だから、雪くらい降るわ」

 え?
 確かに、ルシオラの向こう側に、雪景色が見えるけれど……。
 いやいや、それも変だぞ。
 どうも外の様子がよく見えると思ったら、俺たちが今乗ってるの、オープンカーだ!
 記憶では、そんな車ではないはず……。

「もう、ヨコシマったら。
 ドライブなんだから、
 コブラに決まってるでしょ!」

 え、コブラ?
 そんな、美神さんじゃあるまいし……。

「……でも美神さんと
 全く同じじゃ悔しいから、
 白いコブラにしたのよ。
 これが夕陽に照らされて、
 ヨコシマの好きな
 赤いコブラになる計算だったのに……。
 バカだわ、私。
 何やってるのかしらね」

 おいおい。
 美神さんの名前を出した俺が悪かったかもしれん。
 でも、そんなに美神さんへ対抗意識を燃やさなくても、ルシオラはルシオラなんだから……。

「くすくすくす……。
 ちゃんとわかってるんだから!
 ヨコシマは、私との思い出も
 美神さんに改竄しちゃうくらい、
 美神さんのことが好きなんでしょ?」

 ルシオラとの思い出を……改竄?
 いや、さすがにそんなひどいこと、俺はしないぞ?

「……でも、
 それがヨコシマの深層心理なのよ。
 大丈夫、ちゃんと言ったでしょ、
 『千年も待ってたひとにゆずってあげる』って。
 だから……。
 私はヨコシマの娘で満足しておくから、
 そろそろ……私を仕込んでね、パパ」




       雪の中のコブラ




 ガバッ!

 掛け布団をはねのけて、起き上がる。

「なんだ、夢か……」

 周囲を見渡す俺。
 うん、ここはアパートの部屋。
 もちろん、ルシオラなんていない。俺一人だ。

「正月早々、なんちゅー夢見てるんだ、俺は」

 そんな言葉が、口からこぼれた時。

 トン、トン……。ドンッ、ドンッ!

 ドアをノックする音が聞こえて来た。
 こんな叩き方をするのは、あのひとに決まっている。
 
 ガチャッ。

 扉を開けると、やはり、そこに立っていたのは美神さん。
 その向こう側、少し離れた下の方に見えるのは、アパートの前に停められた車。

「え?
 白い……コブラ?」

 そう言った途端、ポカッと頭を叩かれた。

「何言ってんの。
 コブラは赤に決まってるでしょ。
 ……まだ寝ぼけてんの?」

 ああ、そうだ。
 寝ぼけマナコをこすって見直してみたら、いつもどおりの赤だった。
 白いのは……その背景。

「まさか……今日の予定忘れて
 今の今まで寝てたんじゃないでしょうね?」
「大丈夫っス、忘れてません。
 これから、初詣に行くんスすよね」

 だんだん頭がハッキリしてきた。
 お正月ということで、おキヌちゃんもシロも、それぞれ氷室の家や人狼の里へ帰省中。
 タマモはタマモで、今日は人間の友達と、どこかへ遊びに行くらしい。年下の男のコが相手だそうだが……ま、相手の方はともかく、きっとタマモの方には恋愛感情もないんだろ。
 そんな状況だから、美神さんと二人で出かける約束になっていたのだ。

「でも……美神さんこそ大丈夫っスか?」
「……なんのこと?」

 俺は、黙って外の道を指さした。
 全体にうっすらと雪が積もっているのだ。
 これではスポーツカーの運転は難しいと思うのだが。

「……私を誰だと思ってんの。
 これくらい何ともないわ!
 それに……今日は車の方がいいでしょ。
 『せっかくだから遠くまで行きたい』
 って言ったのは横島クンじゃない」

 あれ?
 そんなこと言ったっけ?
 むしろ遠出を望んだのは美神さんだったような気が……。

「さあ、行くわよ!
 あんたも早く着替えなさい」

 ああ、そうだ。
 俺は寝起きの状態なんだ。
 でも、着替えと言えば……。

「美神さん……初詣なのに、
 そんな恰好なんスか?
 普通、お正月は晴れ着なんじゃ……」

 美神さんは、いつもの恰好。
 冬だから、露出度満点のボディコンじゃなくて、分厚いコートを羽織っている。
 中身がボディコンだとしても、これでは意味がない。トホホ……。

「バッカねー横島クン。
 さすがに私だって、
 着物じゃ運転しにくいじゃないの。
 それに……」

 機嫌を損ねるようなこと言ったかな、俺?
 ここで、美神さんはプイッと横を向いてしまった。
 しかも、その先は、とっても小声で。
 ほとんど聞こえないくらいの声で、彼女は、つぶやくのだった。

「……着物だと、
 一度脱いじゃったら
 着直すのが大変なんだ



(雪の中のコブラ・完)
   
 
 
「あらやだ、おじいちゃんボケちゃって。
 ミッション3なら、もう投稿したじゃありませんか。
 だいたい、この間も白コブラネタだったじゃないですか。
 それに、今日は長編の最終話を投稿する予定だったじゃないですか」

 と、そんな声も聞こえてきそうなので、一応。
 前回のを忘れたわけではなく、前回は絶チルだったので今回はGS美神にしました。
 前回はコブラの白さに着目していましたが、今回は背景の白さにも着目しています。
 長編は、この後すぐ投稿作業に取りかかります。

 なお「ミッションって何?」という方々は、こちらを御参照ください;
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/patio/read.cgi?mode=tree&no=109&l=all

 さて。
 突然、こんな物語が頭に浮かんでしまい、早く仕事終わらせて帰りたくて、今日一日、ウズウズしていました。
 ルシオラが上手く書けない私ですが、元旦から、「それじゃイカン!」と思ってしまう事態がありましたし、また、美神令子も苦手な部類に入るのですが、これも良い機会ですから。
 これも一種の『初夢SS』ですが、いかがだったでしょうか。
   

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]