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冬の朝の夏の朝

   
 夏の夜明けは、冬よりも早い。
 まだ早朝なのに、すでに太陽は空高く上り、外ではミンミンゼミが鳴いている。
 そんな夏の朝。

「おはよう……!」

 眠い目をこすりながら、おキヌがドアを開けた。
 制服姿ではあるが、スカーフは結ばれていないし、胸元も大きくはだけている。谷間が少し、顔を覗かせているほどだった。
 それは、一見、着替えを終わらせぬまま急いでやって来たという恰好なのだが……。




       冬の朝の夏の朝




 おキヌを見て、シロが元気に応じる。
 
「おはようでござるっ!!
 ごはんできてるでござるよっ!」

 異常なくらいのハイテンション。
 しかし、これは、半ばカラ元気。
 おキヌの姿の意味を理解しているからこそ、シロは、元気に振る舞おうと思ってしまうのだ。

(おキヌどの……。
 拙者、ちゃんと知ってるでござるよ)

 おキヌの胸元が開いている理由。
 それは……。

「え……また!?
 今日はがんばって
 早起きしたつもりなんだけど……」

(せっかく早起きしたのに、
 今の今まで、先生と
 イチャイチャしてたのでござろう?)

 胸のスカーフを結ぶおキヌに対して、心の中で、シロは、そう問いかけた。
 しかし、口にするのは、全く別の言葉。
 
「拙者、
 居候でござるから当然でござるよ!」

 そして、テーブルの上に料理を並べる。
 ステーキやらミートローフやらトンカツやら骨付き肉やら。

「どんどん食べてください!
 動物性たんぱくと
 脂肪がたっぷりでござる!」

 シロ自身の肉食性ゆえではなく、これは、シロなりの気遣い。
 シロは、おキヌが朝から体力を浪費していると思って、それで、こうしたメニューを用意しているのだ。

「……朝から?」

 うぷっと鼻をつまむおキヌ。

(おキヌどの、大丈夫でござるか?
 今の『うぷっ』は……まさか、
 おキヌどののお腹には、
 既に先生との御子が……?)

 いや、さすがに、それは考え過ぎか。
 頭に浮かんだ可能性を頭の中で否定するシロ。
 シロがそんなことを考えているとはつゆ知らず、おキヌは、シロに頼み事をする。

「明日は私に作らせてね!?
 お願い!!」
「えんりょすることないのに」

 一言だけ返すシロだが、心の中では、

(皆に隠れて、自分だけ
 先生と結ばれておきながら……。
 今さら、遠慮も何もないでござる)

 と、つけ加えるのだった……。


___________


 ハッ。

 ここで、私は目が覚めました。
 あまりに突拍子もない夢だったので、ふと、カレンダーを確認してしまいます。

(今日は……一月二日だ)

 冬は日が短いためでしょうか。
 まだ外は暗いようです。

(今のが……私の初夢?)

 初夢の定義も、色々あります。
 大晦日から元旦にかけて見る夢だったり、元旦から一月二日にかけて見る夢だったり。
 江戸時代生まれの私には、前者よりも後者の方が相応しいかもしれません。
 そもそも今年の『大晦日から元旦にかけて見る夢』は、私の「美神さんと素敵な初夢見ようと思って」がアダになって、しっちゃかめっちゃかになりました。
 宝船が出てきて、最高の初夢だと思ったのですが、それも最初だけ。
 横島さんを拉致して、神様を脅して、宝船を乗っ取って……。
 初夢どころか『夢』ですらない感じでした。

(でも……今のも
 変な夢だったな)

 お正月なのに、夏の夢を見るなんて。
 冬の朝に、夏の朝の夢を見るなんて、なんだか季節外れです。
 しかも不思議なことに、私はシロちゃんの気持ちになって、私のことを見ていました。 
 だいたい、なんでシロちゃんが登場したんでしょうか。
 私が人間に戻った後、もうシロちゃんとは会っていないのに。

 そのシロちゃんが、事務所に居候してるとか。
 私と横島さんが、その……そーゆー関係になってるとか。

 おかしいですよね。

 どっちも同じくらい、有り得ないですよね。
 これが正夢になる可能性なんて……ないですよね?






(冬の朝の夏の朝・完)
  
   
 皆様、あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。

 ふとんに入ったのですが眠れなくて、何やら頭に浮かんできて、結局また、明け方までかけて突発的に一つ書いてしまいました。
 実は、GS美神の短編SSをGTY+に投稿するのは初めてだったりします。

 さて。
 『守ってあげたい!!(その1)』の最初のページの下のコマ。
 表情といい服装といい、私が一番好きなシーンです。
 このページ及び次のページの絵やセリフに、このようなトンデモナイ解釈を当てはめて……。でも、さすがに、そのままでは無理があるので、『わが青春の宝船!!』と繋げて、あらすじキミヒコ的お正月SSに仕上げてみました。
 いかがだったでしょうか。
   

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